プロローグ
私、近所の喫茶店「珈琲・登記坂」に通い始めて、ついに丸10年になったんです!
毎週土曜日の朝、ホットコーヒーとトーストのモーニング。
10年間、一度も浮気せず通い続けたんですよ!
それはなかなかの常連やな。
窓際の一番いい席が、私の指定席になったんです!
長く通うと、ええことあるもんやな。
マスターに「あの席、私の席ですよね?」って言ったら、「ごめん、口約束だっただけで、まだプレートとか作ってないから」って!
10年通った私の特別席が、まだ正式じゃなかったんですよ!
形に残してこそや。
そのとき、事務所のドアが軽くノックされた。入ってきたのは敷地倫太郎さんだった。スーツの胸ポケットに新調したらしい万年筆が光っている。
今日は事件のご相談ではなく、勉強会で出てきた論点で気になるところがありまして、整理にお付き合いいただけないかと思いまして。
開業準備の方は順調か?
先週、独立開業を目指す若手不動産業者の勉強会に出てきまして、講師の先生が「取得時効と登記」の話をされていたんです。
私自身、開業後はベテランの大家さんや昔から土地を持っているお客さんを相手にすることが多くなると思いますので、避けて通れないテーマでして。
どんな話やったんや。
東部市の郊外に新堀町(しんぼりちょう)の畑という200坪ほどの農地があって、もともとの所有者は地積権三郎(ちせき ごんざぶろう)さんというご老人。
ところが実際には換地新一(かんち しんいち)さんという隣の集落の方が、自分の土地だと思い込んで何十年も耕作している、という設定です。
そこに、後から路線徹(ろせん とおる)さんとか、抵当権者の公図信夫(こうず のぶお)さんとかが絡んでくる、という複雑なケースなんです。
占有を続けている換地さんが、いつ・誰に・どのタイミングで現れた相手なら、登記なしで土地を取り戻せるのか。
逆にどんなときには登記がないと負けるのか。
時効が完成する前か後か、そして相手が登記を備えているかどうかで、結論がガラッと変わると聞きました。
実務でこの整理を間違えると、お客さんに大変な損害を与えてしまう論点なので、今日きちんと固めておきたいんです。
それ、さっきの私の喫茶店の特別席の話と似てません!?
10年通って常連になっても、口約束だけだと別の人に座られちゃうって、まさに長く占有してるだけじゃダメで、形に残さないと取られちゃうって話じゃないですか!
喫茶店の席と土地でスケールがえらい違うけど、長期間の事実状態をどう法的に守るか、形に残すタイミングはいつかっちゅう話や。
前に第28話で、占有期間とか善意無過失とか、取得時効そのものの基本はやった。
今日はその先や。時効が完成する前と後で、第三者との関係がどう変わるか。
これは令和5年の宅建試験 問6でも出題された頻出論点や。
順番に整理していこう。
推理①:時効完成「前」の第三者──登記がなくても勝てる(最判昭41.11.22)
土地は新堀町の畑。
元の所有者が地積権三郎さん。
長年新堀町の畑を占有して耕作しとるんが換地新一さんや。
換地さんは「これは自分の土地や」と信じ込んで、所有の意思をもって、平穏かつ公然と占有を続けとる。
地積さんから新堀町の畑を買い取って、所有権移転登記まで済ませた。
接道さんは普通に登記も備えとる正規の買主や。
接道さんが買って登記を備えた後で、換地さんの取得時効が完成した。
さて、換地さんは登記を備えていなくても、接道さんに「この土地はワシのもんや」と主張できるか。
前に二重譲渡のときに「不動産は登記したもん勝ち」って習いましたよね?
接道さんは登記してるんだから、勝つんじゃないんですか?
せやけど、ここがひっかけのポイントや。
結論から言うと、換地さんが勝つ。
登記がなくても、換地さんは接道さんに対して時効による所有権の取得を主張できる。
登記してる方が負けるんですか!?
理由を説明するで。
民法177条の対抗関係っちゅうのは、同じ売主から二重に譲渡されたような関係で問題になる。
たとえば地積さんが接道さんと路線さんの両方に新堀町の畑を売ったら、接道さんと路線さんは対抗関係に立って、登記の先後で勝負する。
時系列を見てみ。
②地積さんが接道さんに売却して登記移転
③その後、換地さんの取得時効が完成し、所有権が接道さんから換地さんに移る
これは二重譲渡やなくて、ただの順次譲渡。
換地さんから見ると、接道さんは前所有者にすぎへん。
換地さんと接道さんは、同じ売主から取得した者同士ではない、ということですね。
換地さんと接道さんの関係は、二重譲渡みたいな対抗関係やのうて、当事者類似の関係や。
当事者間の所有権移転は、登記がなくても主張できる。
これは前にやった売主と買主の関係と同じや。
条文には書いてないけど、判例で固まっとる。試験では超頻出やから、絶対に押さえとき。
それでも換地さんが勝つんですか?
結論は変わらん。
接道さんが善意でも悪意でも、登記があってもなくても、時効完成前の第三者である以上、換地さんが勝つ。
なんでかというと、そもそも対抗関係に立ってへんから、善意悪意も登記の先後も関係ないんや。
令和5年 問6 肢ア AがCに対して甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた後にBの取得時効が完成した場合には、Bは登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。
Aが地積さん、Cが接道さん、Bが換地さん。
Cが登記を備えた後にBの取得時効が完成しとるから、Cは時効完成前の第三者。
Bは登記を備えていなくても対抗できる。
この肢は正しい。
同じ売主から二重に取得した者同士ではないから、対抗関係にならない。
腑に落ちました。
該当する例: 元の所有者から土地を買った第三者が登記を備えた後で、占有者の取得時効が完成した場合、占有者は登記を備えていなくても、第三者に対して時効による所有権の取得を主張できる(最判昭41.11.22)。第三者の善意・悪意は関係ない。
該当しない例: 「時効完成前にすでに登記を備えていた第三者には、占有者は時効取得を対抗できない」は誤り。所有権は元の所有者→第三者→占有者と順次移転する関係であり、対抗関係に立たないため、登記の先後は問題にならない。
推理②:時効完成「後」の第三者──登記の先後で勝負(最判昭33.8.28)+再度の時効取得(最判昭36.7.20)
今度はタイミングが逆になる。
土地は同じ新堀町の畑、占有者は同じ換地さん。今度は換地さんの取得時効が完成した後で、地積さんが路線徹さんに新堀町の畑を売却して、路線さんが先に所有権移転登記を備えた、っちゅうケースや。
②換地さんが長年占有して取得時効が完成(所有権が換地さんに移る)
③その後、地積さんが路線さんに新堀町の畑を売却
④路線さんが所有権移転登記を備える
実は時効っちゅうのは、援用してはじめて効果が確定するし、登記簿上は換地さんに所有権が移ったことが反映されとらん。
せやから登記簿上は地積さんが所有者のままで、地積さんが路線さんに売却することは事実上できてしまう。
換地さんと路線さん、どっちが新堀町の畑の所有者か。
まさにそこや。
これは地積さんを起点とした二重譲渡類似の関係になる。
地積さんから換地さん(時効取得)、地積さんから路線さん(売買)と、二つの所有権移転が同じ起点から発生しとる。
民法177条の対抗関係や。
先に登記を備えた方が勝つ。
これは最判昭和33年8月28日で確立された判例や。
換地さんは登記を備えてへん。
せやからこの段階では路線さんの勝ち、換地さんの負けや。
換地さんは時効取得したのに、土地を取り戻せへん。
これが対抗関係の世界の冷たさや。
時効完成後の第三者の善意悪意は関係ない。
路線さんが換地さんの占有を知っていても、登記を先に備えれば勝つのが原則や。
取消し後・時効完成後は、いずれも177条の対抗関係。
詐欺・強迫の取消し後でも、解除後でも、時効完成後でも、第三者との関係は全部177条の対抗関係になる。
これは民法を貫く一本の柱や。
復帰的物権変動・遡及的物権変動は、すべて二重譲渡類似の構造で処理される。
それが背信的悪意者や。
路線さんが換地さんの長年の占有を知っていて、しかもその登記がないことをいいことに、換地さんを害する目的で割り込んできたような、自由競争の範囲を超えた悪質な相手やったら、177条の「第三者」から除外される。
最判平成18年1月17日で、時効取得の場面でも背信的悪意者の例外が認められとる。
立証も難しい。
原則は「登記の先後で勝負」と覚えとき。
再度の時効取得──さらに占有を続ければ逆転できる
換地さんは負けてしもうたけど、そこからさらに時効取得期間にあたる年数、占有を続けたらどうなるか。
今、土地の所有者は路線さんになっとる。
路線さんが登記を備えたのが、たとえば令和2年1月1日やとしよう。換地さんはそのまま占有を続けて、令和22年1月1日まで20年間、占有を継続したと。
今度は路線さんを所有者として、その路線さんに対して取得時効が完成する。
換地さんは再度、所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を続けたわけやから、民法162条の要件を満たす。
今度の関係は路線さんと換地さんの間の当事者類似の関係や。
地積さんはもう登場せえへん。
路線さんが所有者で、換地さんが時効取得する、シンプルな順次関係や。
これが最判昭和36年7月20日で確立された判例や。
一度負けても、占有を続けていれば、もう一度時効取得のチャンスが来る。
占有者にとっては、占有を続ける限り希望がある、ちゅうことや。
令和5年 問6 肢イ Bの取得時効が完成した後に、AがDに対して甲土地を売却しDが所有権移転登記を備え、Bが、Dの登記の日から所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合、所有権移転登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をDに対抗することができる。
Aが地積さん、Dが路線さん、Bが換地さん。第1ラウンドではDが勝つ。
せやけど、BがDの登記の日から再度時効取得期間占有を継続したら、第2ラウンドで逆転や。
今度はDとBが当事者類似の関係になるから、Bは登記なくしてDに対抗できる。
この肢は正しい。
第28話でやった取得時効の本体の要件、覚えとるか?
所有の意思、平穏、公然、20年(善意無過失なら10年)でしたよね!
漫然と放置しとったら、時効は完成せえへん。
起算点は時効の基礎たる事実が開始した時で、占有者が任意に選択することはできん。
これは最判昭和35年7月27日で確定しとる。
「ワシは路線さんが登場した時から起算するんや」と都合よく決められるわけやないで。
じゃあなんで肢イでは「Dの登記の日から」と書いてあるかというと、Dが登記を備えた時点でBの占有は新しい局面に入っとる、という事実の整理やからや。
占有者が任意に起算点を動かしとるわけやない。
該当する例: 取得時効完成後に第三者が現れて登記を備えた場合、時効取得者と第三者は対抗関係に立ち、登記を先に備えた方が所有権を取得する(最判昭33.8.28)。ただし、その後さらに占有者が時効取得期間にあたる年数、所有の意思をもって占有を継続すれば、再度の時効取得が完成し、登記なくして第三者に対抗できる(最判昭36.7.20)。
該当しない例: 「時効完成後の第三者には、第三者が悪意であれば、時効取得者は登記なくして対抗できる」は誤り。単なる悪意では足りず、背信的悪意者でなければ第三者は保護される。原則として、時効取得者は先に登記を備える必要がある。
推理③:時効完成後の抵当権──再度の時効で抵当権も消滅する(最判平24.3.16・民法397条)
今度は土地が売られるんやのうて、抵当権が設定されたケースを考える。
土地は新堀町の畑、占有者は換地さん。地積さんが借金をして、債権者の公図信夫さんに対して新堀町の畑に抵当権を設定した。
公図さんは抵当権設定登記を済ませた。
タイミングは換地さんの取得時効が完成した後や。
②換地さんの取得時効が完成(換地さんへの所有権移転登記はなされず)
③地積さんが公図さんに借金して、新堀町の畑に抵当権を設定し、公図さんが抵当権設定登記
第三者と言っても、所有権を取得する人ではなく、抵当権者ですが。
考え方は同じや。
抵当権も物権の一つやから、177条の世界で動く。
換地さんと公図さんの関係は、地積さんを起点とした二重譲渡類似の関係になる。
換地さんは時効取得で所有権、公図さんは抵当権設定。
両方とも地積さんから出とる物権や。
せやから第1ラウンドでは公図さんの勝ち。
換地さんは公図さんの抵当権が付いた状態で、新堀町の畑の所有権を取得することになる。
所有権はあるけど、抵当権の重しが乗っとる土地や。
お金返さないと競売にかけられちゃうやつ……。
換地さんは何も悪いことをしてへんのに、地積さんが借金を返さんかったら、競売で土地を持っていかれる可能性がある。
気の毒な話や。
再度の時効で抵当権も消滅する
推理②と同じ理屈や。
換地さんが、抵当権が設定された後さらに時効取得期間占有を続けたらどうなるか。
普通に考えると、再度の時効取得は所有権の話やから、抵当権はそのまま残りそうな気がする。
せやけど、判例は違う結論を出した。
根拠は民法397条や。
条文を見るで。
民法397条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅) 債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
そのうえで、抵当権が設定された後にさらに取得時効に必要な要件を具備する占有を続けた。
これで条文の要件を満たす。
抵当権は消滅する。
さっきは「先に登記したもん勝ち」だったのに、なんで抵当権だけ消えちゃうんですか?
理屈はこうや。
推理②で見たとおり、再度の時効が完成すれば、換地さんは登記なくして所有権を主張できる。
その所有権は、当然、地積さんが設定したかつての抵当権の影響を受けへん新しい所有権として取得する、ちゅう発想や。
所有権を時効で守るなら、それに付着する抵当権も同じ理屈で外してやらんと、時効制度の趣旨が貫徹せん。
せやから民法397条と再度の時効取得を組み合わせて、抵当権も消滅する、ちゅう結論になる。
令和5年 問6 肢ウ Bの取得時効完成後、Bへの所有権移転登記がなされないままEがAを債務者として甲土地にAから抵当権の設定を受けて抵当権設定登記をした場合において、Bがその後引き続き所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合、特段の事情がない限り、再度の時効取得により、Bは甲土地の所有権を取得し、Eの抵当権は消滅する。
Aが地積さん、Eが公図さん、Bが換地さん。再度の時効取得が完成すれば、Bは所有権を取得し、Eの抵当権は消滅する。
この肢は正しい。
私が抵当権を取得する側のお客さんを担当していた場合、「占有者がいる土地に抵当権を設定するときは、その占有者の状況をしっかり調べておかないと、後で抵当権が消されることがある」ということになります。
抵当権者に立ったときも、占有状況を見落としたら大変なことになる。
逆に占有者の側に立ったときは、長年の占有が法的にどう保護されるか、希望がある話や。
該当する例: 取得時効完成後に第三者が抵当権設定登記を備えた場合、占有者は抵当権付きで所有権を取得する。ただし、その後さらに占有者が時効取得期間にあたる年数、所有の意思をもって占有を継続すれば、再度の時効取得により所有権を取得し、抵当権も消滅する(最判平24.3.16、民法397条)。
該当しない例: 「再度の時効取得により所有権は取得できるが、すでに設定された抵当権は消滅しない」は誤り。民法397条により、債務者・抵当権設定者でない占有者が取得時効の要件を具備すれば、抵当権は消滅する。
事件の結論
今日の話を令和5年問6の3つの肢で確認していこう。
所有権が元の所有者→第三者→占有者と順次移転する関係であり、対抗関係に立たないからや。
正しい。
せやけど、その後さらに時効取得期間占有を続ければ、再度の時効取得が完成し、登記なくして第三者に対抗できる(最判昭36.7.20)。
正しい。
占有者は抵当権付きで所有権を取得するが、さらに占有を続けて再度の時効取得が完成すれば、抵当権も消滅する(最判平24.3.16、民法397条)。
正しい。
せやから令和5年問6の正解は3(三つ)や。
3つの肢を順を追って整理していただいて、ようやく頭の中で構造がつながりました。
実務的には、占有者がいる土地を扱うときは、時効完成のタイミングと登記のタイミングを必ず確認することが必須ですね。
お客さんに「この土地は安全ですよ」と言うときは、登記簿だけやのうて、現地の占有状況まで踏まえて判断せなあかん。
逆にお客さんが長年土地を占有しとるなら、時効取得という選択肢があることを示してあげられる。
占有者の側が時効取得を主張するなら、援用と同時に登記を備える手続きを進めること。
次に第三者が現れたら177条の対抗関係になるから、登記が遅れるとまた負ける。
前回の詐欺取消しの話と同じ鉄則や。[/st-kaiwa7] [st-kaiwa7 r]承知しました。
開業後はこの整理を頭に入れて、お客さんと向き合います。[/st-kaiwa7]
敷地さんが帰った後、こむぎちゃんは手元の手帳を見つめながら何やら書き込んでいた。
[st-kaiwa1]登記田さん、結局のところ、長く占有してれば希望がある、っていうのが救いですね……。[/st-kaiwa1] [st-kaiwa3 r]せやな。法律は登記を信頼した第三者を守りつつも、長年の事実状態にも一定の保護を与える。
両方を両立させようとするから、こういう細かいルールができとる。
冷たいように見えて、ちゃんと筋は通っとる。
試験のひっかけメモ
- 時効完成「前」の第三者には登記不要: 占有者は登記なくして対抗できる(最判昭41.11.22)。第三者の善意悪意・登記の有無は関係ない。所有権が順次移転する当事者類似の関係だから。「第三者が登記を備えていれば占有者は負ける」は誤り
- 時効完成「後」の第三者には登記必要: 占有者と第三者は対抗関係に立ち、登記の先後で勝負(最判昭33.8.28)。第三者の善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)。「時効完成後の第三者でも悪意なら占有者が勝つ」は誤り
- 起算点は任意選択不可: 時効期間は時効の基礎たる事実が開始した時を起算点とする。占有者が都合よく起算点を動かすことはできない(最判昭35.7.27)
- 再度の時効取得: 時効完成後の第三者に登記で負けても、その後さらに時効取得期間占有を続ければ、登記なくして対抗可能(最判昭36.7.20)
- 再度の時効+抵当権消滅: 時効完成後に設定された抵当権も、再度の時効取得が完成すれば民法397条により消滅する(最判平24.3.16)。所有権だけ取れて抵当権が残るのはバランスが悪いという発想
- 背信的悪意者の例外: 時効完成後の第三者でも、自由競争の範囲を超えた背信的悪意者は177条の「第三者」から除外され、登記なしでも占有者が勝つ(最判平18.1.17)。ただの悪意では足りない
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり、長く居続ければ何でも自分のものになるってことですね!
ということは、これからの私はこうします。
喫茶店の特別席を確実に自分のものにするため、毎日朝から晩まで10年間、いや20年間居座って、店主が他のお客さんに席を譲ろうとしたら「私、所有の意思をもって平穏かつ公然と占有してました!
時効完成してます!
登記しなくても対抗できます!」って宣言します!
しかもマスターが他のお客さんに「この席はあなたに譲るよ」って約束したあとも、私はそのまま居座り続けて、もう一回20年経ったら、再度の時効取得で抵当権ごと吹き飛ばします!
もうマスターの借金まで私が消し去ります!
コーヒーチェーン店化してるカフェの席だって、長く座ってれば私のもの!世界中のカフェの特別席を時効取得して回ります!
ずっと座って勝つ!
抵当権吹き飛ばすって、マスターは借金しとらんわ!正確に言うで!!
取得時効と登記の関係は、完成「前」か完成「後」かで真逆になる!完成前の第三者には民法177条の対抗関係に立たへん——所有権が元所有者→第三者→占有者と順次移転する当事者類似の関係やから、占有者は登記なくして対抗できる(最判昭41.11.22)!
第三者の善意悪意も登記の有無も関係ない!
一方完成後の第三者とは民法177条の対抗関係——もとの所有者を起点とした二重譲渡類似の関係やから、登記を先に備えた方が勝つ(最判昭33.8.28)!
第三者の善意悪意は関係ない、背信的悪意者を除く(最判平18.1.17)!
せやけど、第三者の登記後さらに時効取得期間占有を続ければ再度の時効取得が完成して、登記なくして対抗できる(最判昭36.7.20)!
しかも時効完成後に設定された抵当権も民法397条により消滅する(最判平24.3.16)!
起算点は時効の基礎たる事実が開始した時で、任意選択は不可(最判昭35.7.27)!
令和5年問6は肢ア・イ・ウすべて正しいから正解は3!
今回のまとめ
取得時効と登記の関係は、第三者が登場したタイミングによって適用ルールと結論がまったく異なる。時効完成前に登場した第三者については、占有者と第三者は対抗関係に立たず、占有者は登記なくして時効取得を対抗できる(最判昭41.11.22)。時効完成後に登場した第三者については、民法177条の対抗関係になり、登記を先に備えた方が所有権を取得する(最判昭33.8.28)。ただし、時効完成後の第三者に登記で負けても、その後さらに時効取得期間占有を続ければ、再度の時効取得により登記なくして対抗できる(最判昭36.7.20)。さらに、時効完成後に設定された抵当権も、再度の時効取得が完成すれば民法397条により消滅する(最判平24.3.16)。
①民法162条(取得時効): 所有の意思をもって平穏かつ公然と20年間(善意無過失なら10年間)他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
②時効完成「前」の第三者: 占有者と第三者は対抗関係に立たず、当事者類似の関係。占有者は登記なくして時効取得を対抗できる。第三者の善意悪意・登記の有無は結論に影響しない(最判昭41.11.22)。
③時効完成「後」の第三者: 元所有者を起点とした二重譲渡類似の関係。民法177条の対抗関係になり、登記を先に備えた方が勝つ。第三者の善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)(最判昭33.8.28)。
④背信的悪意者の例外: 時効完成後の第三者でも、自由競争の範囲を超えた背信的悪意者は177条の「第三者」から除外され、登記なしでも占有者が勝つ(最判平18.1.17)。
⑤再度の時効取得: 時効完成後の第三者に登記で負けても、その第三者の登記後さらに時効取得期間占有を続ければ、再度の時効取得が完成し、登記なくして第三者に対抗できる(最判昭36.7.20)。
⑥再度の時効+抵当権消滅: 時効完成後に設定された抵当権についても、債務者でも抵当権設定者でもない占有者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をすれば、抵当権は消滅する(民法397条、最判平24.3.16)。
⑦起算点の任意選択不可: 時効期間は時効の基礎たる事実が開始した時を起算点とする。占有者が起算点を選択して時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない(最判昭35.7.27)。
⑧実務上の鉄則: 時効取得を主張するなら、援用と同時に登記を備える手続きを進める。次の第三者が現れたら177条の対抗関係になるため、登記が遅れると負ける可能性がある。
| 項目 | 時効完成「前」の第三者 | 時効完成「後」の第三者 |
|---|---|---|
| 適用条文 | 民法177条の対抗関係に立たない | 民法177条の対抗関係 |
| 登記の要否 | 不要 | 必要 |
| 第三者の善意悪意 | 関係ない | 関係ない(背信的悪意者を除く) |
| 関係性 | 当事者類似(順次譲渡) | 二重譲渡類似(元所有者起点) |
| 主要判例 | 最判昭41.11.22 | 最判昭33.8.28 |
| 原因 | 完成・取消し前の第三者 | 完成・取消し後の第三者 |
|---|---|---|
| 詐欺取消し | 96条3項(善意無過失で保護) | 177条の対抗関係 |
| 強迫取消し | 第三者は保護されない | 177条の対抗関係 |
| 取得時効 | 当事者類似で対抗関係なし | 177条の対抗関係 |
| ケース | 結論 |
|---|---|
| 時効完成前の第三者(登記あり) | 時効取得者が勝つ(登記なくても対抗可) |
| 時効完成後の第三者(登記あり) | 第三者が勝つ |
| 時効完成後の第三者+再度の時効完成 | 時効取得者が勝つ(最判昭36.7.20) |
| 時効完成後の抵当権+再度の時効完成 | 抵当権消滅(最判平24.3.16、民法397条) |
| 時効完成後の背信的悪意者 | 時効取得者が勝つ(最判平18.1.17) |
| 令和5年問6 各肢 | 正誤 | 根拠判例 |
|---|---|---|
| 肢ア(時効完成前の第三者には登記不要) | ◯ | 最判昭41.11.22 |
| 肢イ(時効完成後+再度の時効) | ◯ | 最判昭33.8.28+最判昭36.7.20 |
| 肢ウ(時効完成後の抵当権も再度の時効で消滅) | ◯ | 最判平24.3.16、民法397条 |
| 正解:3(三つ) |
