プロローグ
午後の宅建探偵事務所。窓際の机の上に、見慣れない鉢植えがひとつ増えていた。つやつやした細長い葉を茂らせた、なかなか立派なオリーブの木である。
なんやその木。
朝来たときには無かったやろ。
日曜日にフリーマーケットで運命の出会いをしたんです。
このオリーブさん、ひとめぼれでした!
「この鉢ごとください」って言ったら、お店の人が「鉢はディスプレイ用なので、木だけの販売です」って言うんです。
根っこを新聞紙でぐるぐる巻きにして渡そうとするんですよ!
どないして持って帰る想定やったんや、その店は。
うちには庭もないし、植え替える鉢もないし。
木だけもらっても、植える場所がないと、オリーブさんは生きていけないんです
。だから粘り強く交渉して、結局、鉢ごとセットで買いました。
ちょっと高くつきましたけど!
ええ落としどころとちゃうか。
こむぎちゃんが満足げにオリーブへ霧吹きをかけていると、事務所のドアがノックされた。顔をのぞかせたのは、不動産業者の敷地倫太郎さんである。
今日は、競売物件のことで相談に乗っていただきたいんですが。
今日の事件:平成30年 問6
敷地さんの相談はこうだった。
競売物件の情報を眺めていたところ、条件のよさそうな一戸建てとその敷地を見つけた。土地を甲土地、建物を丙建物と呼ぶことにしよう。所有者は笠木豊(かさぎ ゆたか)さん。事業の資金繰りに行き詰まり、ひだまり銀行の抵当権が実行されて、競売手続が進んでいるという。
ただ、登記を調べてみると、気になる経緯があった。甲土地にはもともと、外構正二(がいこう しょうじ)さんという人が建てて所有していた古い建物(乙建物)があり、笠木さんはこれを土地ごと取得していた。ところが笠木さんは乙建物を取り壊して更地にし、その更地の状態でひだまり銀行のために抵当権を設定・登記。いま建っている丙建物は、そのあとで新築されたものだった。
ひとつ、建物付きの土地を競売で取得すると、建物のために「法定地上権」という土地を使う権利が付いてくる場合があると聞きます。
この物件はどうなんでしょうか。
ふたつ、抵当権が付いたのは更地のときでした。
それでも建物のための権利は成立するんでしょうか。
これはどういう仕組みなんですか。
よっつ、もし落札できたら、売却代金の配当はどうなるんでしょう。
建物の代金もひだまり銀行が優先的に取るんでしょうか。
わかりました!
建物だけあっても土地が使えないと困るのって、さっきのオリーブの木と同じじゃないですか?
木だけもらっても、植える鉢がないと生きていけないっていう……!
建物は、土地という「鉢」がないと立っとられへん。
ほんで、敷地さんの相談にどんぴしゃの過去問があるんや。
平成30年の問6。
まずはこれを見てもらおか。
Aが所有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地にCのために抵当権を設定し登記した。この場合の法定地上権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- Aが乙建物の登記をA名義に移転する前に甲土地に抵当権を設定登記していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、乙建物のために法定地上権は成立しない。
- Aが乙建物を取り壊して更地にしてから甲土地に抵当権を設定登記し、その後にAが甲土地上に丙建物を建築していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、丙建物のために法定地上権は成立しない。
- Aが甲土地に抵当権を設定登記するのと同時に乙建物にもCのために共同抵当権を設定登記した後、乙建物を取り壊して丙建物を建築し、丙建物にCのために抵当権を設定しないまま甲土地の抵当権が実行された場合、丙建物のために法定地上権は成立しない。
- Aが甲土地に抵当権を設定登記した後、乙建物をDに譲渡した場合、甲土地の抵当権が実行されると、乙建物のために法定地上権が成立する。
Aが笠木さん、Bが外構さん、Cがひだまり銀行や。
今日のテーマは「法定地上権」と「一括競売」。
この問題は4つの設問ぜんぶが「法定地上権が成立するか、せえへんか」を聞いとる。
順番に推理していこか。
推理①:法定地上権とは何か──競売で土地と建物の持ち主が別れたとき、建物を守る仕組み
笠木さんの甲土地と丙建物も、登記簿が別々にある、独立した2つの財産なんや。
自分の土地に自分の建物が建っているうちは、なんの問題もない。
自分の土地を自分に貸すことはできないから、借地権のような「土地を使う権利」をわざわざ設定することもできないし、する必要もない。
ところが、土地だけが競売にかけられて、土地と建物の持ち主が別々になったらどうなるか。
建物には、他人の土地の上に立ち続けるための権利が何もない。
理屈のうえでは、建物は収去──つまり取り壊して、土地を明け渡すしかなくなる。
建物を壊すんは、持ち主だけやのうて世の中全体の損失や。
そこで民法が用意したんが今日の主役。
競売で土地と建物の持ち主が別々になったとき、法律が建物のために自動でつけてくれる土地利用権。
やさしく言うとそういう仕組みで、試験用語では法定地上権(民法388条)と呼ぶんや。
「自動でつく」といっても、タダで土地を使えるわけではない。
地代は、当事者の請求により裁判所が定める(民法388条後段)。
建物の持ち主は、地代を払いながら土地を使い続けることになる。
該当する例: 笠木さんのように、同じ人が所有していた土地と建物のうち土地が競売され、持ち主が別々になったケース。法定地上権が登場する場面である(実際に成立するかどうかは、次の要件次第)。
該当しない例: 最初から土地は地主のもの、建物は借地人のもの、というケース。これは契約で結んだ借地権の問題であり、法定地上権の出番はない。
推理②:成立の4要件──すべて「抵当権設定当時」で判断する
要件は4つや。
- 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
- 抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に属すること
- 土地・建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと
- 競売により、土地と建物の所有者が別々になったこと
ここで絶対に押さえたいのは、要件①と②が「抵当権設定当時」を基準に判断されることだ。
なぜか。抵当権者は、お金を貸すとき、設定時点の土地の状態を見て担保価値を評価しているからである。あとから事情が変わるたびに結論がひっくり返っては、安心してお金を貸せない。だから判断の基準時は、設定当時に固定する。この一本の軸で、今日の4つの設問はぜんぶ説明がつく。
さっそく設問4を見てみよう。
- Aが甲土地に抵当権を設定登記した後、乙建物をDに譲渡した場合、甲土地の抵当権が実行されると、乙建物のために法定地上権が成立する。
仮に、最初から建物の建っている土地に抵当権が設定され、設定当時に4つの要件を満たしていたとする。
そのあとで建物だけが第三者に売られたら、法定地上権はどうなるか。
抵当権者は設定のときに「この土地は、競売になったら法定地上権つきになるかもしれん」っちゅう前提で担保価値を見積もっとる。
あとで建物の持ち主が代わったからって、その見積もりが変わるわけやないやろ。
要件は設定当時で判断する。
せやから設問4は正しい記述や。
そっちは話が深いから、また今度ゆっくりやろか。
該当する例: 設定当時に4要件を満たし、そのあとで建物が第三者に譲渡されたケース。法定地上権は成立する(設問4)。
該当しない例: 設定当時に、土地の上に建物がまだ存在しないケース。法定地上権は成立しない。──これが次の推理であり、笠木さんの物件の核心である。
推理③:更地に抵当権が付いていたら──建築を承認されていても成立しない(最判昭36.2.10)
軸になる設問2を見てみよう。
- Aが乙建物を取り壊して更地にしてから甲土地に抵当権を設定登記し、その後にAが甲土地上に丙建物を建築していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、丙建物のために法定地上権は成立しない。
乙建物を壊して更地にして、抵当権を付けて、それから丙建物を建てた。
さて、丙建物のために法定地上権は成立するか。
答えは「成立しない」。
抵当権設定当時、甲土地は更地だった。
要件①「設定当時、土地の上に建物が存在すること」を満たさない以上、あとから建物が建っても法定地上権は成立しない(最判昭36.2.10)。
設問2は正しい記述だ。
理屈はこうだ。
更地は、利用の制限がないぶん担保価値が高い。
法定地上権がつくと、土地の価値は大きく下がる。
ひだまり銀行は「更地としての高い価値」を見込んでお金を貸したのだから、あとから建った建物のために法定地上権を認めてしまうと、銀行の見積もりが裏切られてしまう。
しかも、ここには有名なひっかけがある。
抵当権者が「建ててもいいですよ」と建築を承認していた場合でも、結論は変わらない。
判例は、承認があっても法定地上権の成立を認めなかった(同判例)。
建築への承認は、あくまで「建てること」への承認であって、「担保価値が下がってもかまわない」という同意ではないからだ。
本来なら丙建物は収去や。
建ててまだ数年の家でも、理屈の上では取り壊して、土地を明け渡すしかない。
じゃあ、笠木さんのおうちは壊されちゃうんですか?
実はな、民法はここにちゃんと出口を用意しとる。
それが次の推理や。
該当する例: 抵当権設定当時、土地の上に建物が現に建っていたケース。要件①をクリアする。
該当しない例: 更地に抵当権を設定したあとで建てられた建物。抵当権者の承認を得て建てた場合であっても、法定地上権は成立しない(設問2)。
推理④:成立しない建物は壊すしかない?──一括競売という出口(民法389条)
敷地さんの3つめの疑問。「丙建物には抵当権が付いていないのに、なぜ土地と建物がセットで競売に出ているのか」。その答えがここにある。
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。(民法389条1項)
やさしく言えば、「抵当権を付けたあとに建った建物は、土地とまとめて競売に出せる」という制度。試験用語では一括競売(民法389条)と呼ぶ。
法定地上権が成立しない建物をそのままにしておくと、買受人と建物所有者のあいだで収去をめぐるトラブルになるし、建物が建ったままの土地は買い手もつきにくい。それなら最初から土地と建物をセットで売ってしまえば、建物は壊されずに済み、土地も売りやすくなる。誰にとっても損の少ない出口というわけだ。
急所は3つある。
- 一括競売は「できる」。つまり任意であって、義務ではない。抵当権者は土地だけの競売を選んでもよい
- 優先弁済を受けられるのは、土地の代価についてのみ。建物の代価は、建物所有者のものになる
- 建物の所有者が、抵当地の占有について抵当権者に対抗できる権利を持っている場合には、一括競売はできない(民法389条2項)
カプセルトイのカプセルみたいな!
建物の代金は、ちゃーんと建物の持ち主である笠木さんに渡るんや。
ひだまり銀行が優先的に取れるんは、抵当権を付けとった土地の代価だけ。
ここ、めちゃくちゃ試験に出るで。
なお、かつての一括競売は、抵当権設定者本人が建てた建物に限られていたが、現在は第三者が築造した建物でも対象になる(平成15年改正)。一言、頭の片隅に置いておこう。
敷地さんの目線で整理すると、一括競売の物件は買受人にとって扱いやすい。落札すれば土地と建物の両方を取得できるので、法定地上権の負担も、収去をめぐるトラブルも心配しなくていい。笠木さんにとっても、家を手放すことにはなるが、取り壊されるより、建物の代価が手元に入るぶんだけ救いがある。
該当する例: 抵当権設定後に築造された丙建物。ひだまり銀行は、甲土地とともに丙建物を一括競売できる(優先弁済は土地の代価のみ)。
該当しない例: 抵当権設定登記より前に対抗力を備えた借地権者が、その土地の上に建てた建物。建物所有者が土地の占有について抵当権者に対抗できるため、一括競売はできない(民法389条2項)。
推理⑤:登記名義のひっかけと建て替えのひっかけ──実質所有(設問1)と共同抵当後の再築(設問3)
残るは設問1と設問3。どちらも、推理②の「設定当時」基準を土台にした応用問題だ。
まず設問1。
- Aが乙建物の登記をA名義に移転する前に甲土地に抵当権を設定登記していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、乙建物のために法定地上権は成立しない。
もし笠木さんが乙建物を取り壊さず、外構さんから買い取ったまま──ただし建物の登記名義は外構さんのまま──甲土地に抵当権を付けていたら、どうなっていたか。
要件②「土地と建物が同一の所有者に属すること」は、登記名義ではなく、実質で判断する(最判昭48.9.18)。買い取った時点で、乙建物の実質的な持ち主は笠木さんだ。つまり設定当時、甲土地も乙建物も、実質はどちらも笠木さんのもの。要件②は満たされており、法定地上権は成立する。
法定地上権の世界では、中身で見る。
せやから「成立しない」と言い切っとる設問1は誤り。
──ほんで今日の事件は「誤っているものはどれか」やから、これが正解の設問っちゅうわけや。
次に設問3。
- Aが甲土地に抵当権を設定登記するのと同時に乙建物にもCのために共同抵当権を設定登記した後、乙建物を取り壊して丙建物を建築し、丙建物にCのために抵当権を設定しないまま甲土地の抵当権が実行された場合、丙建物のために法定地上権は成立しない。
こちらは、土地と建物の双方に共同抵当権を付けたあとで、建物を取り壊して建て替えたケース。設定当時には建物(乙建物)が存在していたのだから、要件①は満たしそうに見える。ところが判例は、新しい丙建物のための法定地上権を、原則として認めない(最判平9.2.14)。設問3は正しい記述だ。
理屈はこうだ。土地と建物の両方に抵当権を付けた銀行は、土地と建物をあわせた全体の担保価値を把握していた。それなのに、抵当権の付いていない新築建物に法定地上権を認めてしまうと、土地の価値だけが大きく削られ、銀行の見込みが根こそぎ崩れてしまう。なお、新しい建物に土地と同順位の共同抵当権が設定されたなどの特段の事情があれば、例外的に成立する余地はある。
該当する例: 実質的に同一人の所有で、建物の登記名義だけが前主のままのケース。法定地上権は成立する(設問1)。
該当しない例: 土地建物の共同抵当のあとに建物を取り壊して再築し、新建物に同順位の抵当権を設定していないケース。法定地上権は原則として成立しない(設問3)。
推理⑥:平成30年問6をあてはめる
設問1から順番に判定していこか。
設問1──建物の登記名義が前主のままでも、同一所有者かどうかは実質で判断する。実質は同一人の所有だから、法定地上権は成立する。「成立しない」とする本設問は誤り=本問の正解。
設問2──抵当権設定当時、甲土地は更地。要件①を欠くため、あとから建てた丙建物のために法定地上権は成立しない。記述のとおりで正しい。
設問3──土地建物の共同抵当のあと、建物を取り壊して再築し、新建物に抵当権を設定していない。全体の担保価値を把握していた抵当権者を保護するため、法定地上権は原則不成立。記述のとおりで正しい。
設問4──設定当時に要件を満たしていれば、その後に建物が譲渡されても法定地上権は成立する。要件はすべて設定当時で判断するからだ。記述のとおりで正しい。
事件の結論
疑問1「この物件に法定地上権は付いてくるのか」──付かない。抵当権設定当時、甲土地は更地で、成立要件①(設定当時の建物の存在)を欠くからだ。
疑問2「更地のときの抵当権でも、建物のための権利は成立するのか」──成立しない。たとえひだまり銀行が丙建物の建築を承認していたとしても、結論は変わらない(最判昭36.2.10)。
疑問3「建物に抵当権がないのに、なぜ土地とセットで競売に出ているのか」──一括競売(民法389条)だ。抵当権設定後に築造された建物は、抵当権者の選択で、土地とまとめて競売にかけられる。
疑問4「配当はどうなるのか」──ひだまり銀行が優先弁済を受けられるのは土地の代価のみ。丙建物の代価は、建物所有者である笠木さんのものになる。
法定地上権の負担も収去トラブルも心配せずに、土地と建物をまとめて取得できる物件、と整理できますね。
あとは価格次第です。
落ち着いて入札を判断します。
競売は権利関係を読み違えたら大火傷やからな。
ほんで今日の事件の正解は設問1。
「誤っているものはどれか」やから、実質所有の判断を見落として「成立しない」と言い切った設問1が答えや。
敷地さんは丁寧に頭を下げて、事務所をあとにした。競売がらみの相談は、これからもぼちぼち持ち込まれてくるのだろう。
試験のひっかけメモ
- 更地に抵当権を設定→あとから建物を建てても法定地上権は不成立。抵当権者が建築を承認していても結論は変わらない(最判昭36.2.10)
- 土地と建物が同一所有者かどうかは実質で判断する。建物の登記名義が前所有者のままでも成立する(最判昭48.9.18)
- 要件①②は「抵当権設定当時」が基準。設定後に建物を譲渡しても成立する/設定後に建物を建てても成立しない
- 一括競売は「できる」=任意。「しなければならない」と書いてきたら誤り。そして優先弁済は土地の代価のみ
- 土地建物の共同抵当のあとに建物を取り壊して再築→新建物に同順位の共同抵当を設定しない限り、法定地上権は原則不成立(最判平9.2.14)
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
「木と鉢はセット販売が法律の義務!
売上はぜんぶお店のもの!」
──つまり、銀行は土地と建物を必ずセットで競売しなきゃいけなくて、建物の代金もぜんぶ銀行がもらえるってことですね!
優先弁済は土地の代価だけで、建物の代金は笠木さんのもんや!
そもそも法定地上権の要件は4つ、設定当時の建物の存在、設定当時の同一所有、抵当権の設定、競売で持ち主が別々になること!
判断はぜんぶ設定当時が基準!
同一所有者かどうかは登記名義やのうて実質で見る!
更地に抵当権を付けたら、あとから建てても、承認があっても法定地上権は不成立!
共同抵当のあとの建て替えも原則不成立や!
ええか、「更地・承認・名義・建て替え」、この4つのひっかけを試験会場で思い出すんやで!
今回のまとめ
- 法定地上権(民法388条)は、競売で土地と建物の所有者が別々になったとき、建物のために法律上当然に成立する土地利用権。地代は当事者の請求により裁判所が定める
- 成立要件は4つ。①設定当時の建物の存在、②設定当時の同一所有、③土地・建物の一方または双方への抵当権設定、④競売による所有者の分離
- 要件①②は抵当権設定当時を基準に判断する。設定後の建物譲渡は成立を妨げず、設定後の建物築造は成立をもたらさない
- 同一所有者かどうかは、登記名義ではなく実質で判断する
- 更地に設定された抵当権の場合、あとから建物が建っても法定地上権は成立しない。抵当権者の承認があっても同じ
- 法定地上権が成立しない建物でも、抵当権設定後に築造されたものなら、**一括競売(民法389条)**で土地とともに売却できる。一括競売は任意で、優先弁済は土地の代価のみ。対抗できる占有権原を持つ建物所有者には使えない
- 土地建物の共同抵当のあとに建物を再築した場合、新建物に同順位の共同抵当を設定しない限り、法定地上権は原則不成立
法定地上権の成立4要件
| 要件 | 内容 | 判断時点 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| ① | 土地の上に建物が存在すること | 抵当権設定当時 | 民法388条・最判昭36.2.10 |
| ② | 土地と建物が同一の所有者に属すること(実質で判断) | 抵当権設定当時 | 民法388条・最判昭48.9.18 |
| ③ | 土地・建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと | ─ | 民法388条 |
| ④ | 競売により土地と建物の所有者が別々になったこと | 競売時 | 民法388条 |
成立する?しない?ケース対比表
| ケース | 法定地上権 | 理由 |
|---|---|---|
| 実質は同一人の所有・建物の登記名義は前主のまま(設問1) | 成立する | 同一所有者かは実質で判断する |
| 更地に抵当権設定→その後建物を築造(設問2。抵当権者の承認があっても) | 成立しない | 設定当時に建物が存在しない |
| 土地建物の共同抵当→建物を取壊し・再築、新建物に抵当権なし(設問3) | 原則成立しない | 土地建物全体の担保価値を把握した抵当権者を保護 |
| 設定当時に要件充足→その後建物を第三者に譲渡(設問4) | 成立する | 要件は設定当時を基準に判断する |
法定地上権と一括競売の整理
| 法定地上権(民法388条) | 一括競売(民法389条) | |
|---|---|---|
| 場面 | 設定当時に建物があり、要件を満たす | 抵当権設定後に建物が築造された |
| 建物の運命 | 法定地上権つきで存続できる | 土地とともに競売で売却できる(抵当権者の任意) |
| 買受人が取得するもの | 土地(法定地上権の負担つき) | 土地と建物の両方 |
| 配当 | 土地の代価から抵当権者へ | 優先弁済は土地の代価のみ。建物の代価は建物所有者へ |
| 使えない場合 | 要件を欠く場合 | 建物所有者が抵当地の占有について対抗できる権利を持つ場合(2項) |
平成30年問6 正誤表(誤っているものはどれか)
| 設問 | 論点 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 | 登記名義と実質所有(移転登記未了) | ×=誤り(正解)。実質で判断するため法定地上権は成立する | 民法388条・最判昭48.9.18 |
| 2 | 更地への抵当権設定後の建物築造 | ◯(成立しない、で正しい) | 民法388条・最判昭36.2.10 |
| 3 | 土地建物共同抵当後の取壊し・再築 | ◯(原則成立しない、で正しい) | 最判平9.2.14 |
| 4 | 抵当権設定後の建物譲渡 | ◯(成立する、で正しい)。要件は設定当時を基準に判断 | 民法388条・判例 |
