プロローグ
ネットオークションでブランドバッグを買ったんです!
色がちょっと珍しいだけかなと思って即決しました!
開け閉めできません!
出品者に連絡したら「訳ありって書いてたでしょ?返品不可です」って!
商品説明にはなんて書いてあったんや。
知ってたなら書いてよ!
って思いません!?
そのとき、事務所のドアがノックされた。入ってきたのは敷地倫太郎だった。いつもの落ち着いた雰囲気だが、眉間にわずかにしわが寄っている。
ちょっと相談に乗っていただきたいことがあるんですが。
どうぞ、座って。
敷地は軽く頭を下げてソファに腰を下ろした。
1年ほど前に中古の一戸建てを購入したんですが、最近になって深刻な問題が見つかったんです。
構造耐力上主要な部分の不適合です。
専門業者に見てもらったところ、かなり以前からあった劣化だと。
それと、売買契約には「売主は引渡しから3か月に限り契約不適合責任を負う」という特約が付いていました。
引渡しからもう1年経っているので、抵当さんは「もう何もできないんじゃないか」と……。
それで、売主の地目さんはこの亀裂のことを知っとったんか。
この売買は公図不動産という宅建業者が媒介していました。
抵当さんは「仲介してくれた不動産屋にもちゃんと調べてもらっていれば見つかったはずだ。不動産屋にも責任を取ってもらえないのか」とも言っていて……。
僕もこれから独立して媒介業務をやる立場なので、この辺りの線引きをちゃんと理解しておきたいんです。
これってさっきの私のオークションの話と似てませんか!?
「返品不可」って書いてあったのに、不具合を知ってて黙ってたっていう……!
「免責の特約があっても、知りながら告げなかった事実は免責されるのか」という問題。
バッグと住宅じゃスケールはだいぶ違うけどな。
前回整理した4つの権利の続きとして、順番に見ていこか。
推理①:免責特約の効力と限界——知りながら告げなかった事実は免責されない(民法572条)
つまり、当事者間の合意で免除したり制限したりできる。
「引渡しから3か月に限り責任を負う」という特約も、「一切の担保責任を負わない」という特約さえも、原則として有効なんや。
宅建業者が自ら売主で買主が業者でない場合は、民法より買主に不利な特約は原則無効(宅建業法40条)やけど、今回は個人間売買やから、その制限はかからん。
条文の趣旨はこうや。
売主は、担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
これは572条の「知りながら告げなかった事実」にぴったり当てはまる。
せやから、3か月の特約はこの亀裂については効力を持たない。
地目さんは民法の原則どおりの担保責任を負うことになる。
免責特約を認めながらも、「知ってて黙ってた売主」を保護するのは信義に反する——それが572条の趣旨なんや。
……あのオークションの出品者にも教えてあげたい。
該当する例: 売主が契約不適合責任を免除する特約をした場合でも、売主が知りながら告げなかった不適合については、免責特約の効力は及ばず、売主は担保責任を免れない(民法572条)。
該当しない例: 「免責特約がある場合、売主はいかなる場合にも契約不適合責任を負わない」は誤り。知りながら告げなかった事実については免責されない(民法572条)。
推理②:期間制限のルール——民法566条の通知義務と、売主悪意の場合の例外
ここが試験で最も問われるポイントの一つやで。
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除のいずれも行使できなくなる。
「請求」ではなく?
旧法では1年以内に「請求」が必要やったけど、改正民法では1年以内に「通知」すればええ。
不適合の種類と範囲を売主に伝えればよくて、具体的に「修繕してほしい」「いくら払え」という請求まで1年以内にする必要はない。
通知さえしておけば、具体的な請求は1年経過後でも構わん。
……ただ、抵当さんのケースでは、そもそも「1年以内の通知」は必要なんですか?
地目さんは亀裂を知ってたわけですよね。
民法566条にはただし書がある。
売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、1年以内の通知義務は適用されない。
566条ただし書により、抵当さんは1年以内に通知しなくても権利を失わない。
消滅時効の期間は2つの基準がある。
①権利を行使することができることを知った時から5年(主観的起算点)
②権利を行使することができる時から10年(客観的起算点)
いずれか早い方で時効が完成する。
抵当さんが亀裂を知ったのは引渡しから約1年後。知った時から5年以内、かつ引渡しから10年以内に権利を行使すればええ。
今すぐ動けば、十分間に合う。
抵当さんに「もう諦めなくていい」と伝えられます。
566条の通知義務が適用されるのは種類又は品質の不適合だけや。
数量の不適合には566条は適用されない。
数量が足りない場合は、最初から消滅時効だけで処理される。
試験でたまに聞かれるから覚えておき。
該当する例: 売主が引渡しの時に不適合を知っていた場合、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しなくても、消滅時効が完成するまでの間は担保責任を追及できる(民法566条ただし書、166条1項)。
該当しない例: 「契約不適合を理由とする権利は、買主が不適合を知った時から1年を経過すれば、いかなる場合にも行使できなくなる」は誤り。売主が悪意又は重過失の場合、1年の期間制限は適用されない(民法566条ただし書)。
推理③:媒介業者に担保責任を追及できるか——責任を負うのは誰か
抵当さんが気にしていた、公図不動産に対する責任追及の話なんですが。
「仲介がちゃんと調べてくれていれば見つかったはずだ」と言っているんです。
媒介業者に対して、契約不適合担保責任を追及することはできない。
公図不動産は売買を仲介しただけで、売買契約の当事者やない。
買主の抵当さんとの間に売買契約は存在せえへん。
やから、担保責任を追及する相手は売主の地目さんであって、公図不動産ではない。
それでも責任なしなんですか?
「契約不適合担保責任」と「媒介業者の調査義務違反」は別の問題。
担保責任は売主にしか追及できんけど、媒介業者が重要事項説明で調査義務を怠っとった場合には、媒介契約上の債務不履行や不法行為に基づく損害賠償の問題が別途ありえる。
ただし、それはあくまで担保責任とは違う法的根拠の話や。
ここをしっかり押さえておき。
自分が媒介する立場になったとき、調査をしっかりやることの大事さが改めてわかりました。
媒介業者として担保責任は負わんでも、調査義務を怠れば別の形で責任を問われる。
そこは肝に銘じておいたほうがええな。
該当する例: 売買契約の媒介をした宅建業者に対して、買主が契約不適合担保責任を追及することはできない。担保責任を負うのは売買契約の当事者である売主のみである。
該当しない例: 「売買を媒介した宅建業者は、売主と連帯して契約不適合担保責任を負う」は誤り。媒介業者は売買契約の当事者ではなく、担保責任の主体にはならない。
推理④:危険の移転——引渡し後のリスクは誰が負う?(民法567条)
あれは引渡し前の滅失でした。
あのときは引渡し前に目的物が滅失した場合の話やった(民法536条・危険負担)。
今回は引渡し後にどうなるかという話、つまり危険の移転(民法567条)や。
売主が買主に目的物を引き渡した後に、当事者双方の帰責事由なく目的物が滅失・損傷したときは、買主は追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除のいずれも行使できない。
さらに、買主は代金の支払を拒むこともできない。
たとえば抵当さんが引渡しを受けた後に、台風で屋根が吹き飛んだ場合。
これは双方の帰責事由がないから、567条により抵当さんのリスク。
地目さんに責任追及はできへんし、代金も払わなあかん。
売主が契約に適合する目的物を提供したのに、買主が受領を拒んだ、又は受領できなかった場合も同じや。
受領遅滞の間に偶発的な滅失・損傷が生じたら、それも買主のリスクになる。
整理するとこうなる。
引渡し後の滅失(双方帰責なし)→ 危険の移転(民法567条1項)→ 買主は代金支払を拒めない。
567条は引渡し後に偶然生じた滅失・損傷の話や。引渡し前から存在していた不適合は、契約不適合責任(562条以下)の問題であって、567条の問題やない。
抵当さんの基礎の亀裂は、引渡し前から存在していたもの。
やから契約不適合責任の問題として処理される。
試験ではこの区別がよう聞かれるから気をつけとき。
該当する例: 引渡し後に双方の帰責事由なく建物が損傷した場合、買主はその損傷を理由として追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除のいずれも行使できず、代金の支払を拒むこともできない(民法567条1項)。
該当しない例: 「引渡し後に生じた滅失・損傷のすべてについて、買主は権利行使できない」は誤り。567条は当事者双方の帰責事由がない場合の規定であり、売主の帰責事由による場合は別途責任追及が可能。
事件の結論
抵当さんは特約に拘束されることはない。
消滅時効が完成するまで責任追及できる。
抵当さんが今から動けば十分間に合う。
担保責任は売主の地目さんに対してのみ追及できる。
ただし、媒介業者の調査義務違反があれば別途の責任追及の余地はある。
抵当さんには「まだ諦める必要はない。すぐに弁護士に相談して動いたほうがいい」と伝えます。
担保責任の相手は地目さんであること、公図不動産への担保責任追及はできないことも、きちんと説明しますね。
抵当さんには権利がある。
大事なのは、それを知ったうえで早く動くことや。
敷地は立ち上がり、「ありがとうございます。勉強になりました」と丁寧に頭を下げた。ドアの手前で少し立ち止まり、振り返った。
調査を怠らないこと、売主にも買主にも誠実であること。
がんばりや。
敷地が事務所を出た後、登記田がふっと息をついた。
独立しても大丈夫やろ。
試験のひっかけメモ
- 免責特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実は免責されない(民法572条): 「免責特約がある→一切責任を負わない」と早合点しないこと。知りながら告げなかった事実と、自ら設定・譲渡した権利は572条で保護されない
- 566条の期間制限は「通知」であり「請求」ではない: 旧法では1年以内に「請求」が必要だったが、改正民法では1年以内に「通知」すればよい。通知後の具体的な請求は1年経過後でも可能
- 売主が悪意又は重過失なら566条の1年期間制限は適用されない(566条ただし書): この場合は一般の消滅時効(知った時から5年 or 権利行使可能時から10年)が期限になる
- 566条は種類・品質の不適合にのみ適用される: 数量の不適合には566条の通知義務は適用されず、一般の消滅時効のみで処理される
- 媒介業者に契約不適合担保責任は追及できない: 担保責任を負うのは売買契約の当事者である売主のみ。媒介した宅建業者は売買契約の当事者ではない
- 危険の移転時期は「引渡し時」(民法567条): 引渡し前の滅失は危険負担(536条)で買主は代金支払拒絶可能、引渡し後の滅失は危険の移転(567条)で買主は代金支払拒絶不可
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり、「知ってて黙ってたら免責されない」ってことですね!
ということは……さっきのオークションの出品者も、金具が壊れてるのを知ってて「訳あり」で誤魔化したんだから、民法572条で免責特約は無効!
さらに566条ただし書で通知期間も無制限!
しかもオークションサイトが媒介してるから、サイト運営会社にも担保責任を追及して……出品者からバッグ代+慰謝料+送料、サイトからもお見舞い金をもらって、ついでに追完請求で新品バッグも送らせます!
法律を味方につけた最強の買い物術です!!
正確に言うで!!
契約不適合責任の免責特約は原則として有効やが、売主が知りながら告げなかった事実については免責されない(民法572条)!
期間制限は買主が不適合を知った時から1年以内に売主に通知が必要(民法566条本文)!
ただし売主が悪意又は重過失の場合は1年の通知義務は適用されない(同条ただし書)!
その場合は消滅時効(知った時から5年 or 権利行使可能時から10年)が期限になる!
媒介業者に契約不適合担保責任は追及できない——担保責任を負うのは売主のみ!
引渡し後の偶発的な滅失・損傷は危険の移転(民法567条)で買主のリスク!
今回のまとめ
契約不適合責任の免責特約は原則として有効だが、売主が知りながら告げなかった事実については免責されない(民法572条)。買主は不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ権利を失うが(民法566条本文)、売主が悪意又は重過失の場合はこの期間制限は適用されない(同条ただし書)。媒介業者に対して契約不適合担保責任を追及することはできない。引渡し後に当事者双方の帰責事由なく目的物が滅失・損傷した場合、買主は権利行使も代金支払拒絶もできない(民法567条)。
①免責特約の効力(民法572条): 原則有効。ただし、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定・譲渡した権利については免責不可。
②期間制限・通知義務(民法566条本文): 種類・品質の不適合について、買主が不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ権利を失う。「通知」であり「請求」ではない。
③566条ただし書の例外: 売主が引渡しの時に不適合を知っていた、又は重大な過失によって知らなかった場合、1年の通知義務は適用されない。消滅時効(166条1項)が期限。
④消滅時効(民法166条1項): 権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年。
⑤媒介業者の担保責任: 媒介業者に契約不適合担保責任は追及不可。担保責任を負うのは売主のみ。
⑥危険の移転(民法567条1項): 引渡し後に双方の帰責事由なく滅失・損傷した場合、買主は権利行使不可+代金支払拒絶不可。
⑦受領遅滞と危険の移転(民法567条2項): 売主が適合品を提供したのに買主が受領拒否した場合も、買主のリスク。
| 項目 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 免責特約の効力 | 原則有効(任意規定) | 民法572条 |
| 免責が認められない場合① | 知りながら告げなかった事実 | 民法572条 |
| 免責が認められない場合② | 自ら第三者のために設定・譲渡した権利 | 民法572条 |
| 宅建業者が売主の場合 | 民法より買主に不利な特約は原則無効(引渡しから2年以上の通知期間特約は有効) | 宅建業法40条 |
| 項目 | 原則 | 売主が悪意・重過失の場合 |
|---|---|---|
| 期間制限(566条) | 知った時から1年以内に通知 | 適用されない(566条ただし書) |
| 消滅時効(166条1項) | 知った時から5年 or 権利行使可能時から10年 | 同左(消滅時効が期限となる) |
| 場面 | 適用条文 | リスク負担者 |
|---|---|---|
| 引渡し前の滅失(双方帰責なし) | 危険負担(民法536条1項) | 売主(買主は代金支払拒絶可能) |
| 引渡し後の滅失(双方帰責なし) | 危険の移転(民法567条1項) | 買主(権利行使不可+代金支払拒絶不可) |
| 買主の受領拒否後の滅失(双方帰責なし) | 民法567条2項 | 買主 |
| 引渡し前から存在した不適合 | 契約不適合責任(民法562条〜) | 売主(担保責任を負う) |
| 責任の相手 | 担保責任の追及 | 根拠 |
|---|---|---|
| 売主 | 可能 | 民法562条〜 |
| 媒介業者(宅建業者) | 不可 | 売買契約の当事者ではない |
| 媒介業者の調査義務違反 | 別途、債務不履行・不法行為で追及の余地あり | 媒介契約上の義務・民法709条等 |
