プロローグ
ひどい目に遭いました!
レビューも良かったし、これでお風呂で動画が見られる!って思って。
でも「完全防水」なのに「水没不可」っておかしくないですか!?
完全ってなんですか!?
まあ、メーカーに問い合わせてみたらどうや。
「完全」の意味を問いただしてやります!
そのとき、事務所のドアがノックされた。入ってきたのは南向壱星だった。前回の相談のときより表情に余裕があり、手には紙袋を持っている。
先日は棟上さんの件で本当にお世話になりました。
これ、ほんの気持ちですけど。
壱星が紙袋を差し出す。中には焼き菓子の詰め合わせが入っていた。
ありがとうな。
いらっしゃい!
わあ、おいしそう!
壱星の表情がふっとやわらいだが、すぐに少し困った顔になった。
棟上さんの件で。
前回の火事の件はどうなった?
築15年の中古の一戸建てで、今度は無事に引渡しも済んで、先週から住み始めていました。
それで、今度は何があったんや。
調べてもらったところ、屋根の防水層に経年劣化の亀裂があったらしくて。
契約のときには外構さんも棟上さんも、この不具合は知りませんでした。
外構さんはどう言うとる?
ただ、棟上さんから「具体的にどこまで売主に求めていいんですか?」と聞かれて……。
僕も宅建の勉強で契約不適合責任は見た気がするんですけど、4つの権利がどう違うのか、正確に説明する自信がなくて。
これって、さっきの私のスマホケースと同じじゃないですか!
買ったものが説明と違ってたっていう……!
「約束された品質と実際が違う」という問題。
スマホケースと中古住宅じゃ規模がだいぶ違うけどな。
売買契約の重要テーマで、試験でもよく出る。
棟上さんのケースを使って、買主にどんな権利があるのかを整理していこか。
メモ取ります!
推理①:「契約不適合」とは何か——売主の義務と契約不適合の意味
売買契約で売主はどんな義務を負っとると思う?
売主は、契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負っとる。
つまり、ただ渡せばいいんやなくて、約束した通りの品質・種類・数量のものを渡さなあかん。
棟上さんのケースに当てはめると、築15年の中古住宅として通常期待される品質——つまり雨漏りがしない程度の防水性能——を備えていなかった。
これは品質に関する契約不適合に当たる。
契約不適合かどうかは、契約の内容に照らして判断する。
築年数、代金額、当事者間の合意、取引慣行なんかを総合的に見る。
「中古だから何でもアリ」ではないし、逆に「経年劣化はすべて契約不適合」でもない。
今回の雨漏りは、築15年の物件で通常想定される品質を明らかに下回っとるから、契約不適合に当たるということや。
テキストで見たことがあります。
令和2年の改正民法で、旧法の「隠れた瑕疵」という概念から、「契約の内容に適合しない」という基準に変わった。
判断の物差しが「一般的な欠陥があるかどうか」から「この契約で約束した内容に合っているかどうか」に変わったということや。
試験でも「瑕疵担保責任」ではなく「契約不適合責任」として出題される。
該当する例: 中古住宅の売買で、引渡し後に屋根の防水層の劣化による雨漏りが判明した場合、当該建物は品質に関して契約の内容に適合しないものに当たる。
該当しない例: 「中古住宅の売買では、建物の経年劣化はすべて契約不適合に当たる」は誤り。契約不適合かどうかは、契約の内容(築年数・代金額・当事者間の合意等)に照らして判断される。
推理②:買主の4つの権利——追完請求権と代金減額請求権
追完請求権、代金減額請求権、解除権、損害賠償請求権の4つや(民法562条・563条・564条・415条・541条・542条)。
まずは最初の2つから見ていくで。
引き渡された目的物が契約不適合の場合、買主は売主に対して修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求できる。
棟上さんのケースなら、「屋根を修繕してください」と外構さんに求めること、これが追完請求や。
建物の場合は代替物というわけにはいかんから、修補が中心になるな。
売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法で追完できる(民法562条1項ただし書)。
たとえば棟上さんが「屋根全体を葺き替えてほしい」と言ったとしても、外構さんは「亀裂部分の補修で雨漏りは止まるから、そちらで対応させてほしい」と別の方法で追完することもできるということや。
買主の希望通りの方法でなくても、合理的なら売主にも選択の余地があるんですね。
これは、追完を催告しても相当期間内に追完がなされない場合に、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できるというもの。
いきなり代金減額を請求できるわけやない。
まずは追完の催告をして、それでも売主が対応してくれなかった場合に初めて代金減額を請求できる。これが原則(民法563条1項)。
ただし例外もある。
催告なしで直ちに代金減額を請求できる場合が4つ定められとる(民法563条2項)。
追完が不能な場合、売主が追完を拒絶する意思を明確にした場合、特定の日時・期間内の履行がなければ契約目的を達成できない場合で追完なく期間が経過した場合、催告しても追完の見込みがないことが明らかな場合。この4つや。
すごく前向きに対応してくださっています。
外構さんが修繕に応じてくれるなら、それで解決する話やからな。
代金減額の話は、修繕してもらえなかった場合の次のカードとして覚えておけばええ。
該当する例: 中古住宅の引渡し後に雨漏りが判明した場合、買主は売主に対して屋根の修繕(追完)を請求できる(民法562条1項)。売主に帰責事由がなくても追完請求は可能。
該当しない例: 「契約不適合の場合、買主は追完請求をせずに、直ちに代金減額請求をすることができる」は原則として誤り。代金減額請求は、原則として追完の催告をし、相当期間内に追完がない場合に行使できる(民法563条1項)。ただし追完不能等の例外あり(同条2項)。
推理③:解除権・損害賠償請求権と帰責事由——行使できる権利・できない権利
残りの2つ——解除権と損害賠償請求権を見ていくで。
そして4つの権利が帰責事由の有無でどう変わるかを整理する。
契約不適合を理由に契約の解除もできる。
催告して相当期間が経過しても追完がなければ催告解除(民法541条)、追完が不能な場合などは催告なしで無催告解除(民法542条)ができる。
契約不適合によって生じた損害の賠償を請求できる。
雨漏りで家財が濡れた損害や、修繕期間中の仮住まい費用なんかが典型や。
壱星くん、ここからよう聞いとき。
屋根の劣化は経年によるもので、外構さんにも棟上さんにも帰責事由がない。
この場合、4つの権利のうち損害賠償請求権だけは行使できない。
他の3つは使えるんですか?
理由はこうや。
損害賠償請求は民法415条に基づくが、同条1項ただし書に「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」とある。
つまり、損害賠償請求だけは売主の帰責事由が必要なんや。
条文を見ても、これらの権利には「売主の帰責事由が必要」とは書かれとらん。
これが令和6年の本試験でも出題されとる。
「双方に帰責事由がない場合、買主が行使できない権利はどれか」——答えは損害賠償請求権のみ。
追完・減額・解除は「契約をあるべき姿に戻す」ための権利やけど、損害賠償は「被った損害を金銭で埋め合わせる」権利。
損害を填補させるには、それ相応の理由——つまり帰責事由が必要ということや。
買主に帰責事由がある場合——たとえば棟上さんの不注意で建物を損傷させたような場合、追完請求権(民法562条2項)、代金減額請求権(民法563条3項)、解除権(民法543条)のいずれも行使できない。
自分のせいで不適合が生じたのに、売主に責任追及はできへんということや。
前回の危険負担のときと同じ構造だ。
4つの権利を整理すると、こうなる。
買主に帰責事由があれば不可。
買主に帰責事由があれば不可。
買主に帰責事由があれば不可。
売主に帰責事由がなければ請求できない。
該当する例: 売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由による契約不適合の場合、買主は追完請求・代金減額請求・解除はできるが、損害賠償請求はできない(民法415条1項ただし書)。
該当しない例: 「契約不適合が売主の責めに帰すことができない事由による場合、買主は追完請求もできない」は誤り。追完請求権の行使に売主の帰責事由は不要(民法562条)。
事件の結論
売主に帰責事由がなくても追完請求は可能や。
外構さんが誠実に対応してくれとるなら、まずはこれで解決を目指すのがええ。
雨漏りで家財が損傷した場合の損害は、残念やけど外構さんには請求できないということ。
棟上さんには「まず外構さんに修繕をお願いしましょう。
外構さんも誠実に対応してくださっていますし、それで解決できるはずです」と伝えます。
損害賠償はできないこと、でもそれ以外の手段があることも説明しますね。
外構さんも悪意があったわけやないし、双方にとって一番いい形で解決できたらええな。
壱星は立ち上がり、メモ帳を丁寧にしまいながら、こむぎちゃんのほうを向いた。
さっきのスマホケースの件ですけど、「完全防水」と書いてあったのに水が入ったなら、それも品質に関する契約不適合かもしれませんよ。
メーカーに追完請求……というか、交換をお願いしてみたらどうですか。
壱星さん、さっそく覚えたての知識を使ってる!
ありがとうございます!
壱星は少し照れたように「それじゃ失礼します」と言って事務所を出ていった。ドアが閉まった後、登記田が小さく息をついた。
あいつ、ちゃんと伸びとるな。
試験のひっかけメモ
- 損害賠償請求のみ売主の帰責事由が必要: 4つの権利のうち、損害賠償請求だけは売主の帰責事由がないと行使できない(民法415条1項ただし書)。他の3つは帰責事由不要
- 代金減額請求には原則として追完の催告が必要: いきなり代金減額を請求できるわけではない。追完の催告→相当期間経過→減額請求が原則(民法563条1項)。ただし追完不能等の4つの例外あり(同条2項)
- 買主に帰責事由がある場合は追完請求・代金減額請求・解除いずれも不可: 自分のせいで不適合が生じた場合、売主に責任追及はできない(民法562条2項・563条3項・543条)
- 「契約不適合」は契約内容を基準に判断する: 旧法の「隠れた瑕疵」とは判断基準が異なる。契約の趣旨(目的物の種類・品質・数量・代金・取引慣行等)に照らして適合しているかどうかで判断
- 追完の方法について売主に選択の余地がある: 買主が修補を請求しても、売主は「買主に不相当な負担を課するものでないとき」は代替物の引渡し等の別の方法で追完できる(民法562条1項ただし書)
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり、買ったものが説明と違ってたら4つの権利が使えるってことですね!
ということは、私のスマホケースも品質に関する契約不適合だから……まず追完請求でメーカーに新品交換させて、次に代金減額で半額にしてもらって、さらに解除で全額返金させて、最後に損害賠償でスマホ代も請求!
全部やれば新品ケースと現金とスマホ代が全部手に入る!実質プラスです!!
正確に言うで!!
契約不適合の場合、買主は追完請求(民法562条)・代金減額請求(民法563条)・解除(民法541条・542条)・損害賠償請求(民法415条)の4つの権利を行使できる!
ただし損害賠償請求だけは売主の帰責事由が必要(民法415条1項ただし書)!
追完請求・代金減額請求・解除は売主の帰責事由不要!
買主に帰責事由があれば追完請求(562条2項)・代金減額請求(563条3項)・解除(543条)いずれも不可!
代金減額請求は原則として追完の催告が必要(563条1項)!
今回のまとめ
契約不適合責任とは、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主が負う責任である。買主には追完請求権(民法562条)、代金減額請求権(民法563条)、解除権(民法541条・542条)、損害賠償請求権(民法415条)の4つの権利が認められている。このうち損害賠償請求権のみ売主の帰責事由が必要であり、他の3つは帰責事由不要で行使できる。買主に帰責事由がある場合は、追完請求・代金減額請求・解除のいずれも行使できない。
①契約不適合の意味: 引き渡された目的物が、種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないこと。契約の趣旨に照らして判断する。
②追完請求権(民法562条): 買主は売主に対し、修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しを請求できる。売主の帰責事由は不要。売主は買主に不相当な負担を課さない限り、別の方法で追完可能。
③代金減額請求権(民法563条): 追完の催告後、相当期間内に追完がない場合に行使可能(原則)。追完不能等の場合は催告不要(例外)。売主の帰責事由は不要。
④解除権(民法541条・542条): 催告解除・無催告解除いずれも可能。売主の帰責事由は不要。
⑤損害賠償請求権(民法415条): 売主の帰責事由が必要。帰責事由がなければ請求できない。4つの権利で唯一の例外。
| 権利 | 売主の帰責事由 | 買主に帰責事由がある場合 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 追完請求権 | 不要 | 行使不可 | 民法562条(2項) |
| 代金減額請求権 | 不要 | 行使不可 | 民法563条(3項) |
| 解除権 | 不要 | 行使不可 | 民法541条・542条・543条 |
| 損害賠償請求権 | 必要 | 行使不可 | 民法415条1項ただし書 |
| 代金減額請求の原則と例外 | 内容 |
|---|---|
| 原則(563条1項) | 追完の催告→相当期間経過→減額請求 |
| 例外①(563条2項) | 追完が不能 |
| 例外②(563条2項) | 売主が追完拒絶の意思を明確にした |
| 例外③(563条2項) | 特定日時の履行がなければ契約目的不達成で期間経過 |
| 例外④(563条2項) | 催告しても追完の見込みがないことが明らか |
