宅建探偵 第67話 賃貸の保証人、極度額がないと無効です|個人根保証契約と書面・公正証書|民法465条の2|

プロローグ

夕方の宅建探偵事務所。こむぎちゃんが、ノートに何やら線を引きながら、難しい顔をしていた。

こむぎちゃん
登記田さん、聞いてください。
わたし、サブスクの使いすぎを反省して「上限ルール」を作ったんです。
毎月、使っていいお金は最大5,000円まで!
って、ノートにでっかく書きました。
ほう。
えらいやんか。
で、効果は出とるんか。
登記田探偵
こむぎちゃん
それがですね、上限を決めたら、すごく安心したんですよ。
だって、どんなに油断しても5,000円より上には絶対いかないって分かってるから。
青天井で「いくら使っちゃうか分からない」のが、いちばん怖かったんだなあって。
なるほどな。
天井がないと不安、天井があると安心、か。
まあ、それはそうやろな。
登記田探偵
こむぎちゃん
そうなんです!
「ここまで」っていう線が引いてあるだけで、こんなに気持ちが楽になるなんて。
上限って、未来の自分を守る命綱ですね。
ええこと言うやんか。
……まあ、その命綱を守れるかどうかは、また別の話やけどな。
登記田探偵

そこへ、丸山ハウジングの若手営業・南向壱星が入ってきた。こむぎちゃんに迎えられると、壱星の表情がふっとほころんだ。

登記田さん、こむぎちゃん、こんにちは。
この前、軒高さんの保証人の件で相談に乗ってもらったじゃないですか。
あのあと、もう少し具体的なことが知りたくなって、また来ちゃいました。
南向壱星(みなみ いっせい)

今日の事件:軒高さんの件と、もう一つの「一切の債務」

この前は保証の「全体地図」を教えてもらって、すごく頭が整理されたんです。
それで今日は、いざ僕が実際に保証人になるとしたら、具体的にどういう手続きや書面が要るのか、そこをちゃんと知っておきたくて。
南向壱星(みなみ いっせい)

壱星さんはノートを開きながら、続けた。

軒高さんのほうは、事業の運転資金を金融機関から1,000万円借りる、っていう話でした。
僕がその保証人になる場合ですよね。
それともう一つ、実は最近うちの会社で、賃貸物件の管理も絡む案件があって。
お客さんが居住目的でアパートを借りるときに、その人の「一切の債務」を保証する人がいる、っていうケースを見たんです。
南向壱星(みなみ いっせい)
同じ「保証」でも、事業資金の借金を保証するのと、賃貸借の一切の債務を保証するのとで、成立のルールが違ったりするんですか?
あと、賃貸の保証だと「極度額」がどうとか聞いたことがあって。
これ、この前ちらっと出てきた根抵当権の極度額と関係あるんですか?
南向壱星(みなみ いっせい)

ちょうど壱星さんが持ち込んだ二つのケースは、過去の宅建試験でもそっくりそのまま問われていた。
令和2年10月の問2である。
登記田はホワイトボードに、その問題を書き写した。

令和2年10月1日に下記ケース①及びケース②の保証契約を締結した場合に関する次の1から4までの記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

(ケース①) 個人Aが金融機関Bから事業資金として1,000万円を借り入れ、CがBとの間で当該債務に係る保証契約を締結した場合

(ケース②) 個人Aが建物所有者Dと居住目的の建物賃貸借契約を締結し、EがDとの間で当該賃貸借契約に基づくAの一切の債務に係る保証契約を締結した場合

  1. ケース①の保証契約は、口頭による合意でも有効であるが、ケース②の保証契約は、書面でしなければ効力を生じない。
  2. ケース①の保証契約は、Cが個人でも法人でも極度額を定める必要はないが、ケース②の保証契約は、Eが個人でも法人でも極度額を定めなければ効力を生じない。
  3. ケース①及びケース②の保証契約がいずれも連帯保証契約である場合、BがCに債務の履行を請求したときはCは催告の抗弁を主張することができるが、DがEに債務の履行を請求したときはEは催告の抗弁を主張することができない。
  4. 保証人が保証契約締結の日前1箇月以内に公正証書で保証債務を履行する意思を表示していない場合、ケース①のCがAの事業に関与しない個人であるときはケース①の保証契約は効力を生じないが、ケース②の保証契約は有効である。
壱星さん、ええ持ち込みや。
これ、まさに壱星さんが今気にしとる二つのケースが、そのまま問題になっとる。
軒高さんの事業資金がケース①、賃貸の一切の債務がケース②や。
今日はこの中でも、いっちゃん大事で間違えやすい「賃貸の保証=個人根保証と極度額」を軸に、保証がどうやって成立するんかを腹に落としていこか。
登記田探偵
こむぎちゃん
あっ……
「極度額」って、わたしのサブスクの上限ルールと同じじゃないですか?
「ここまで」って線を引いておく、っていう。
お、こむぎちゃん、ええとこに気づいたな。
構造はまさにそれや。保証人が背負う上限の天井──それが極度額や。
今日の主役やで。
登記田探偵

推理①:保証は「書面」がないと成立しない──要式契約という大原則

まず、設問1が引っかかってます。
「ケース①は口頭でも有効、ケース②は書面が必要」って。
事業の借金は口約束でいいんですか?
南向壱星(みなみ いっせい)
  1. ケース①の保証契約は、口頭による合意でも有効であるが、ケース②の保証契約は、書面でしなければ効力を生じない。
ここはこの前も入口だけ触れたな。
結論から言うで。
保証契約は、どんな保証であれ、書面(電磁的記録を含む)でなければ効力を生じひん(民法446条2項3項)。
これは保証の世界の大前提や。
登記田探偵

まず、やさしく言い直そう。保証契約は「ちゃんと書いた紙(またはメールやデータなどの電磁的記録)」がなければ、そもそも効力が生まれない。口で「ええよ、保証人になったるわ」と言っただけでは、保証人にはなっていない。

これを試験用語で要式契約という。一定の方式(ここでは書面)を備えなければ成立しない契約のことだ。世の中の契約はたいてい口約束でも成立する(諾成契約)が、保証はその例外として、わざわざ書面を必須にしている。

なんでこんな厳しいルールにしとるか。
保証は、人の人生をひっくり返すくらい重い責任を背負う契約やからや。
酒の席で「ええよ任しとき」と気軽に口約束して、後で何百万も背負わされたら、たまったもんやない。
せやから「ほんまにその覚悟があるんか、紙に残せ」と、法律がブレーキをかけとるんや。
登記田探偵
じゃあ、設問1の「ケース①は口頭でも有効」っていうのは……
南向壱星(みなみ いっせい)
誤りや。
事業資金やろうが賃貸やろうが、保証はぜんぶ書面が要る。
ケース①の事業資金の保証(軒高さんの件)も、口頭だけなら効力ゼロ。
ケース②の賃貸の保証も、もちろん書面が要る。
設問1は前半が間違うとるから、×や。
登記田探偵

該当する例: 軒高さんの事業資金1,000万円について、壱星さんが口頭で「保証人になる」と言っただけのケース。書面(電磁的記録を含む)がない以上、保証契約は効力を生じず、壱星さんはまだ保証人になっていない。

該当しない例: 同じ軒高さんの件で、壱星さんと金融機関が保証契約書をきちんと取り交わしたケース。これは書面の要件を満たすので、保証契約として効力を生じる。


推理②:賃貸の「一切の債務」保証は個人根保証──極度額がなければ無効【本日の山場】

いよいよ極度額ですね。
ケース②の、賃貸の「一切の債務」を保証するやつ。
南向壱星(みなみ いっせい)
  1. ……ケース②の保証契約は、Eが個人でも法人でも極度額を定めなければ効力を生じない。
ここが今日いちばん大事なとこや。
じっくりいくで。
まず、ケース②の保証がなんで特別なんか、そこからや。
登記田探偵

登記田は、ケース②の文言を指でなぞった。「当該賃貸借契約に基づくAの一切の債務に係る保証契約」──ここがポイントだという。

普通の保証は「この1,000万円の借金」みたいに、保証する債務がカチッと一個に決まっとる。
ところが賃貸の保証は違う。
家賃の滞納、部屋を壊したときの修理代、出ていくときの原状回復費用……いつ、いくら発生するか分からん債務を、ぜんぶまとめて保証するんや。
これを根保証(ねほしょう)っちゅう。
登記田探偵

やさしく言えば、根保証とは「これから増えたり減ったりする、不特定の債務をまとめて引き受ける保証」のことだ。賃貸借の保証はその典型で、契約が続く限り、家賃滞納や原状回復義務などがどんどん積み上がる可能性がある。

こむぎちゃん
あっ、それって……天井のないサブスク課金みたいなものですか?
いつの間にか、とんでもない金額になってるかもしれない、っていう。
こむぎちゃん、ど真ん中や。
まさにそれや。
何年も家賃を滞納されたら、保証人は青天井で背負わされかねん。
それはあんまりに酷やろ。
せやから法律はこう決めとる。
──個人が保証人になる根保証契約(個人根保証契約)は、極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2)。
登記田探偵

ここで試験用語を二段階で押さえておく。個人根保証契約とは、不特定の債務をまとめて保証する根保証のうち、保証人が個人(法人でない)であるものをいう。そして極度額とは、その保証人が背負う責任の上限額のことだ。「あなたが負担するのは最大でもここまで」という、こむぎちゃんの言う"天井"である。

この極度額も、書面(電磁的記録を含む)で定めなあかん。
口約束で「上限は適当に」では効力を生じひん。
つまり個人根保証は、①書面で、②極度額を決めて、初めて成立する。
どっちが欠けてもアウトや。
登記田探偵
ちょっと待ってください。
設問2は「Eが個人でも法人でも極度額を定めなければ効力を生じない」って書いてあります。
法人でも要るんですか?
南向壱星(みなみ いっせい)
そこがこの設問のひっかけや。
極度額が要るのは、保証人が個人のときだけ。
保証人が法人(保証会社など)のときは、この保護ルールは働かへん。
極度額を定めんでも効力を生じる。
法人は自分でリスク管理できるプロやから、過保護にせんでええっちゅう発想や。
登記田探偵
じゃあ「個人でも法人でも」と並べてる時点で……
南向壱星(みなみ いっせい)
誤りや。
正しくは「個人なら極度額が要る、法人なら要らん」。
設問2は法人まで巻き込んどるから×や。
──ほんで壱星さん、さっき気にしとった根抵当権の極度額な。
あれは"モノ"を担保に取る抵当の世界で、いくらまでなら担保するっちゅう上限やった。
今日の根保証の極度額は、"人"を担保に取る保証の世界で、保証人がいくらまで背負うかの上限や。
同じ「極度額」でも舞台が物的担保か人的担保かで別物。
けど"上限の天井"っちゅう発想はそっくりや。
セットで覚えとくと忘れへんで。
登記田探偵

該当する例: ケース②で、保証人Eが個人の場合。賃貸借の一切の債務を保証する個人根保証なので、極度額(たとえば「100万円まで」)を書面で定めなければ効力を生じない。

該当しない例: 同じケース②でも、保証人が家賃保証会社などの法人の場合。個人根保証ではないので、極度額を定めなくても保証契約は効力を生じる。


推理③:事業の借金を個人が保証するなら公正証書が要る──保証意思宣明公正証書

最後の設問4が、いちばん見慣れない言葉でした。「公正証書で保証債務を履行する意思を表示」って。
南向壱星(みなみ いっせい)
  1. 保証人が保証契約締結の日前1箇月以内に公正証書で保証債務を履行する意思を表示していない場合、ケース①のCがAの事業に関与しない個人であるときはケース①の保証契約は効力を生じないが、ケース②の保証契約は有効である。
これは、軒高さんの件=ケース①にズバリ関わる話や。落ち着いて聞き。
登記田探偵

民法は、保証の中でもとりわけ危険なものに、もう一段重いブレーキをかけている。それが事業のために負担した貸金等債務を、個人が保証する場合だ。

事業の借金っちゅうのは、額がでかい上に、事業がコケたら一気に焦げ付く。
それを事情をよう知らん個人が軽い気持ちで保証して、人生を棒に振る悲劇が後を絶たんかった。
せやから法律はこう決めた。
──事業用の貸金等債務を個人が保証するときは、契約の締結前1か月以内に、公証人の前で「私は確かに保証する意思があります」と表明し、それを公正証書(保証意思宣明公正証書)に残さなあかん(民法465条の6)。
これがないと、保証契約は効力を生じひん。
登記田探偵

やさしく言えば、こうだ。事業の借金を個人が保証するという重い決断には、「契約する前に、わざわざ公証役場へ出向いて、プロ(公証人)の前で本気度を確かめてもらう」という関門を一つ追加した。軽率な保証で人生を壊さないための、最後の砦である。

ということは、軒高さんの事業資金1,000万円を、事業に関係ない僕が保証するなら……
南向壱星(みなみ いっせい)
そや。
壱星さんが軒高さんの事業に関与しとらん個人なら、契約前1か月以内の保証意思宣明公正証書がないかぎり、その保証は効力を生じひん。
ケース①のC(=壱星さんの立場)が、まさにそれや。
──ただし、これには例外もあって、主たる債務者の取締役とか、事業と一体の経営者みたいな人は、この公正証書が要らん。
事情を分かっとる人にまで関門は要らんっちゅうわけや。
そこは細かいから、今日は「事業に関与しない個人なら公正証書が要る」っちゅう話だけ持って帰り。
登記田探偵
じゃあケース②の賃貸の保証は?
南向壱星(みなみ いっせい)
ケース②は「居住目的の賃貸借」の保証や。
事業のための貸金等債務やない。せやから保証意思宣明公正証書は要らん
。設問4は「ケース①は公正証書なしなら効力を生じない/ケース②は有効」と言うとる。
これは両方ともそのとおりや。
設問4は○、正しい。
登記田探偵

該当する例: ケース①で、軒高さんの事業資金1,000万円を、事業に関与しない個人の壱星さんが保証する場合。契約前1か月以内の保証意思宣明公正証書がなければ、保証契約は効力を生じない。

該当しない例: ケース②の居住目的の賃貸借の保証。事業のための貸金等債務ではないので、公正証書がなくても保証契約は有効になりうる(書面と、個人なら極度額は別途必要)。


推理④:連帯保証なら催告の抗弁は使えない──ケースを問わず

残った設問3は、連帯保証の話ですね。
「ケース①のCは催告の抗弁を主張できるが、ケース②のEは主張できない」って。
南向壱星(みなみ いっせい)
  1. ケース①及びケース②の保証契約がいずれも連帯保証契約である場合、BがCに債務の履行を請求したときはCは催告の抗弁を主張することができるが、DがEに債務の履行を請求したときはEは催告の抗弁を主張することができない。
ここは前回の総論でやった催告の抗弁が、そのまま効いてくるとこや。
まず大前提を思い出そか。
催告の抗弁っちゅうのは、「まず先に本人(主たる債務者)へ請求してくれ」と言える、普通の保証人の権利やったな。
保証人は控えやから、先に本人へ行ってくれ、と。
登記田探偵
ところが──連帯保証人には、催告の抗弁も検索の抗弁もない(民法454条)。
連帯保証人は控えやのうて、本人とほぼ同列に最前列へ立たされとる。
せやから「先に本人へ行け」とは言えん。
これも前回やった連帯保証の重さや。
登記田探偵

ここが設問3の急所だ。設問は「ケース①もケース②もいずれも連帯保証契約である場合」と前提を置いている。つまり、CもEも連帯保証人だ。

両方とも連帯保証なんやから、CもEも、催告の抗弁は使えん。
これが正しい結論や。
ところが設問3は「ケース①のCは催告の抗弁を主張できる」と書いとる。連帯保証人のCが催告の抗弁を使える、っちゅうことになってまう。
登記田探偵
あっ……
Cも連帯保証人なのに「主張できる」になってる。
そこが間違いなんですね。
南向壱星(みなみ いっせい)
そのとおりや。
連帯保証人は、ケースが事業資金やろうが賃貸やろうが関係なく、催告の抗弁を主張でけへん。
CもEも「できない」が正解。
設問3は、Cだけ「できる」にしとるさかい、誤りや。
後半のEが「できない」とする部分は正しいんやけど、前半のCで転んどる。
登記田探偵

該当する例: ケース②でEが連帯保証人の場合。DがEに履行を請求しても、Eは「先に本人Aへ請求してくれ」という催告の抗弁を主張できない(民法454条)。

該当しない例: もしEが連帯でない普通の保証人だったら。その場合は催告の抗弁を主張でき、「まず本人Aに催告してくれ」と言える。連帯かどうかで結論が正反対になる。


事件の結論

ほな、4つの設問を順番に裁いていこか。
今日の問題は「正しいものはどれか」やから、○が正解肢やで。
登記田探偵

設問1(誤り)──「ケース①は口頭でも有効」が×。保証契約は事業資金でも賃貸でも、書面(電磁的記録を含む)でなければ効力を生じない(民法446条2項3項)。ケース②が書面必要とする後半は正しいが、前半が誤りなので設問全体は誤り。

設問2(誤り)──「Eが個人でも法人でも極度額を定めなければ効力を生じない」が×。極度額が必要なのは保証人が個人の根保証(個人根保証契約)の場合だけ。法人が保証人なら極度額を定めなくても効力を生じる(民法465条の2)。

設問3(誤り)──設問は「両ケースとも連帯保証契約である場合、ケース①のCは催告の抗弁を主張できるが、ケース②のEは主張できない」とする。だが連帯保証人には催告の抗弁がない(民法454条)。CもEも連帯保証人なのだから、両者とも催告の抗弁を主張できない。「ケース①のCは主張できる」とした前半が誤りなので、設問全体は誤り。

設問4(正しい)──事業のための貸金等債務を、事業に関与しない個人が保証するには、契約前1か月以内の保証意思宣明公正証書が必要(民法465条の6)。ケース①はこれを欠けば効力を生じず、ケース②は事業性がないので公正証書不要。記述のとおりで正しく、本問の正解肢

正解は設問4。
事業の借金を個人が保証するときの公正証書の話や。
けどな、今日壱星さんにいちばん持って帰ってほしいのは、設問2の「個人根保証は極度額がないと効力を生じひん」と、設問4の「事業の借金を個人が保証するには公正証書が要る」──この二つや。
どっちも、軽い気持ちで保証人になって人生を壊さんように、っちゅう法律のやさしさの裏返しなんや。
登記田探偵

壱星さんは、しばらくノートを見つめてから、静かに顔を上げた。

登記田さん。
僕、決めました。
軒高さんの保証人には、ならないことにします。
南向壱星(みなみ いっせい)
騙されたとか、軒高さんが悪いとか、そういうことじゃないんです。
軒高さんはいいやつだし、事業を応援したい気持ちは本当にある。
でも、事業資金1,000万円を、事業のことを何も分かっていない僕が背負うっていうのは──公正証書の関門が用意されてるくらい、それだけ重い決断なんですよね。
法律がわざわざ「本気か、もう一回確かめろ」って関門を置いてるその意味を、僕は軽く飛び越えちゃいけない気がして。
南向壱星(みなみ いっせい)
……ええ判断や。
それは逃げやない。
中身を分かった上で、自分で選んだ「ならない」やからな。
登記田探偵
はい。
だから軒高さんには、正直に「保証人にはなれない」と伝えます。
その代わり、別のやり方を一緒に考えようって。
日本政策金融公庫みたいな保証人のいらない融資もあるって聞きますし、僕、不動産の仕事で資金繰りの相談に乗ってる先輩もいるので、そっちにつなぐこともできる。
友達として手伝える形は、保証人になること以外にもあるはずですから。
南向壱星(みなみ いっせい)
こむぎちゃん
壱星さん、かっこいい……!
ちゃんと断るのって、引き受けるより勇気いりますもんね。
い、いや、そんな……
当たり前のことを言っただけで……。
南向壱星(みなみ いっせい)

壱星さんは急に照れて、ノートを取り落としそうになった。それを慌てて拾い、礼を言って、足取り軽く事務所を出ていった。その背中を見送りながら、登記田がぽつりとつぶやいた。

……保証人になる前に二度も相談に来て、最後は自分の頭で「ならん」と決める。
断る勇気と、友達を見捨てん優しさを、両方持っとる。
壱星さん、ええ営業になるで。
──こむぎちゃんの『未来の自分を守る命綱』っちゅうのは、案外こういうことなんかもしれんな。
登記田探偵

試験のひっかけメモ

  1. 保証契約は事業資金でも賃貸でも書面(電磁的記録を含む)でなければ効力を生じない(民法446条2項3項)。「事業資金は口頭でも有効」「一定の保証は口頭でよい」は誤り。例外なく要式契約
  2. 個人根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2)。ただし極度額が要るのは保証人が個人のときだけ。保証人が法人なら極度額は不要。「個人でも法人でも極度額が必要」は誤り
  3. 賃貸借契約に基づく「一切の債務」の保証は、不特定の債務をまとめて保証する根保証にあたる。家賃滞納・原状回復義務などが含まれ、青天井を防ぐために極度額が要る、という流れを押さえる
  4. 事業のための貸金等債務個人が保証するには、契約締結前1か月以内保証意思宣明公正証書が必要(民法465条の6)。これを欠くと効力を生じない。居住目的の賃貸借の保証は事業性がないので公正証書は不要
  5. 公正証書が不要になる例外=主たる債務者の経営者等(取締役、一定の株主など)。事業の内情を知る者にまで関門は課さない。「すべての個人保証に公正証書が必要」は誤り
  6. 連帯保証人には催告の抗弁・検索の抗弁がない(民法454条)。事業資金か賃貸かは無関係で、連帯保証である以上どちらの保証人も「まず本人へ請求してくれ」とは言えない。「連帯保証人の一方だけが催告の抗弁を使える」は誤り

締め:こむぎちゃんの1行まとめ

さてと、今日の教訓を一言でまとめてみ。
登記田探偵
こむぎちゃん
はいっ!
「保証はサブスクと同じ! だから口で『契約する!』って言った瞬間に課金が始まって、上限を決めなかった人は法人だろうと個人だろうと一生青天井で払い続ける!」
──保証も課金も、天井を決めなきゃ破産まっしぐらってことですね!
なんでやねーん!!
登記田探偵
口で『契約する』言うただけでは保証は始まらん!
保証契約は書面(電磁的記録を含む)でせな効力を生じひん要式契約や、事業資金でも賃貸でも例外なしやで(民法446条2項3項)!
ほんで上限=極度額が要るのは、個人が根保証するときだけ!
法人が保証人なら極度額は要らんのや、そこ混ぜたらアカン(民法465条の2)!
賃貸の『一切の債務』みたいに不特定の債務をまとめて保証するのが根保証、家賃滞納も原状回復もぜんぶ入る!
そんで事業の借金を事業に関係ない個人が保証するなら、契約前1か月以内の保証意思宣明公正証書が要る(民法465条の6)、居住用の賃貸保証には要らん!
保証は、書面・極度額・公正証書っちゅう三つの関門で、軽はずみな保証人を守っとるんや!
ええか、課金の青天井とは別の話やで!
登記田探偵
ちゃんとしなさい!
登記田探偵
こむぎちゃん
…てへっ♪

今回のまとめ

  • 保証契約は、事業資金でも賃貸でも、書面(電磁的記録を含む)でなければ効力を生じない要式契約(民法446条2項3項)。口頭の合意だけでは成立しない
  • 賃貸借に基づく「一切の債務」のように、不特定の債務をまとめて保証するのが根保証。家賃滞納・原状回復義務などが含まれ、放置すると保証人の負担が青天井になりうる
  • 個人根保証契約(保証人が個人の根保証)は、極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2)。極度額は保証人が背負う責任の上限="天井"
  • ただし極度額が必要なのは保証人が個人のときだけ。保証人が法人なら極度額は不要。ここが定番のひっかけ
  • 事業のための貸金等債務個人が保証するには、契約締結前1か月以内保証意思宣明公正証書が必要(民法465条の6)。これを欠くと効力を生じない
  • 公正証書が不要になる例外=主たる債務者の経営者等。居住目的の賃貸借の保証は事業性がないので、そもそも公正証書は不要
  • 根抵当権の極度額(モノを担保に取る上限)と、根保証の極度額(人が背負う上限)は、舞台は違うが"天井を決める"発想がそっくり。セットで記憶すると忘れにくい

保証の「成立」三つの関門

関門 内容 根拠 いつ問題になる
①書面 保証契約は書面(電磁的記録含む)でなければ効力なし 民法446条2項3項 すべての保証で常に
②極度額 個人根保証は極度額を定めなければ効力なし(法人は不要) 民法465条の2 賃貸など不特定債務の個人保証
③公正証書 事業の貸金等債務を個人が保証するには保証意思宣明公正証書が必要 民法465条の6 事業資金の借入れの個人保証

ケース①(事業資金の保証)vs ケース②(賃貸の保証)

ケース①:事業資金1,000万円の保証 ケース②:居住賃貸の一切の債務の保証
保証の種類 普通の保証(特定債務) 根保証(不特定債務)
書面 必要 必要
極度額 不要(特定債務だから) 保証人が個人なら必要/法人なら不要
公正証書 事業に関与しない個人なら必要 不要(事業性なし)

過去問(令和2年10月 問2)各設問の正誤

設問 内容の要点 正誤
設問1 ケース①は口頭でも有効/ケース②は書面必要 ✕(事業資金も書面が必要)
設問2 ケース②は個人でも法人でも極度額が必要 ✕(極度額が要るのは個人のみ)
設問3 両ケース連帯保証の場合、ケース①のCは催告の抗弁を主張できる ✕(連帯保証人にはCもEも催告の抗弁なし/454条)
設問4 事業貸金の個人保証は公正証書なしでは効力を生じない/賃貸は有効 ◯(正解肢

参考書籍:2026年版 史上最強の宅建士テキスト

 

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