プロローグ
夕方の宅建探偵事務所。こむぎちゃんが、スマホを見ながら「うーん」と唸っていた。
来週、町内会のリレー大会があるんですけど。
仲良しのみどりちゃんが、急に足を捻挫しちゃって走れなくなって。
それで「こむぎ、わたしの代わりにアンカー走って!」って頼まれたんです。
ほんで、引き受けたんか。
わたしが代わりに走ることになりました。
でもよく考えたら、これってみどりちゃんが本来やるはずだった役目を、わたしが肩代わりしてるってことですよね。
みどりちゃんが走れないときに、代わりにわたしが責任を引き受ける、っていう。
本人が走られへんから、代わりに引き受ける。
律儀なこっちゃ。
あくまでみどりちゃんが走れないときの「控え」なんですよ。
なんだか、いるようでいないような、不思議な立場だなあって。
なるほどな。
そこへ、丸山ハウジングの若手営業・南向壱星が、書類の束を抱えて入ってきた。こむぎちゃんに迎えられると、壱星の表情がふっと和らいだ。
今日は契約案件じゃなくて、僕自身のことで相談に来ました。
実は知人から、保証人になってくれって頼まれていて……。
今日の事件:軒高さんに頼まれた「保証人」という役目
彼が事業の運転資金を借りるのに、保証人がいるって言うんです。
僕、二つ返事で「いいよ」って言いそうになったんですが、待てよ、保証人って一体なにを引き受けることになるんだ?
と急に怖くなって。
壱星が抱えていた不安は、ひとつではなかった。順に挙げていくと、こうなる。
②保証人になるのに、口約束でなっちゃうものなんですか。
③軒高の借金が減ったり、逆に後から増えたりしたら、僕の責任も一緒に動くんですか。
④もし僕が代わりに払ったら、その分を軒高に返してもらえるんですか。
⑤もし保証人が僕の他にもう一人いたら、二人で分けられるんですか。
⑥……これがいちばん怖いんですけど、「連帯保証人」だと話が変わるって聞きました。
普通の保証と何が違うんですか。
保証とは違うものなんですよね?
もう、言葉が似ていて頭がこんがらがってます。
本人が走れないときに代わりに引き受ける、って。
保証人さんも、本人が払えないときに代わりに払う「控え」なんじゃないですか?
構造は同じや。
保証っちゅうのは、まさに「本人の代わりに引き受ける関係」のことや。
壱星、今日はいっぺんに細かい数字まで全部やろうとしたら、頭がパンクするで。
まずは保証の世界の「地図」を、ざっと一望するとこから始めよか。
細かい内容は、また今度ゆっくり攻めたらええ。
これまで抵当権やら根抵当権やら、「モノを担保に取る」話を散々やってきたやろ。
今日からは「人を担保に取る」話や。担保の世界の、もう半分の地図やと思いや。
推理①:保証の三者関係と「人的担保」──保証人は“控え”の立場
そこからあやふやで。
登記田はホワイトボードに三人の名前を書いた。お金を借りる本人=主たる債務者(今回なら軒高さん)。お金を貸す側=債権者(銀行など)。そして、本人が払えないときに代わって払う人=保証人(今回なら壱星)。この三者の関係が、保証のすべての土台になる。
これまでやってきた抵当権は、土地や建物っちゅう「モノ」を担保に取っとった。
これを物的担保っちゅう。
今日からの保証は、人の信用を担保に取る。
こっちは人的担保や。
借金を確実に回収するための仕掛けっちゅう点では同じやけど、担保にするのがモノか人かで、まるごと別の世界なんや。
そして保証人の立場で決定的に大事なのが、補充性だ。やさしく言えば、保証人は「控え」である。本人がちゃんと払っているうちは出番がない。本人が払えなくなって初めて、代わりに引き受ける。
あれと同じですね。
せやから、普通の保証人には「順番が違うやろ」と言い返す権利が用意されとる。
まず本人に催促してくれ、と言える催告の抗弁。
本人に財産があって取り立てが簡単なら、先にそっちから取ってくれ、と言える検索の抗弁。
どっちも「自分は控えなんやから、先に本人へ行ってくれ」っちゅう主張や。
──ただし、ここが後で大事になるんやけど、連帯保証人にはこの抗弁がない。
そこは追って詳しくやろ。
該当する例: 主たる債務者の軒高さんが返済できるうちは、保証人の壱星に出番はない。軒高さんが払えなくなって初めて、壱星が代わって責任を負う(補充性)。
該当しない例: 連帯保証人の場合。「控え」ではなく本人とほぼ同列に扱われ、本人に先に請求してくれという主張(催告の抗弁・検索の抗弁)ができない。同じ保証でも立場の重さが違う。
推理②:保証債務まわりの地図──成立・付従性・随伴性・範囲・求償・分別の利益
壱星の質問の二つめから五つめまで、まとめて見渡そか。
まず成立から。 保証契約は、債権者と保証人の間の契約だ。本人(主たる債務者)の意思に反していても成立する。そしてここが重要──保証契約は、書面(電磁的記録を含む)でしなければ効力を生じない(民法446条2項・3項)。
軽い気持ちの口約束で人生狂わせんように、わざわざ書面を必須にしとるんや。
これは要式契約っちゅうて、保証の基本中の基本やから、ここだけは今日しっかり覚えとき。[/st-kaiwa6]
[st-kaiwa6 r]じゃあ、二つ返事で口で言ってただけなら、まだ保証人にはなってなかったんですね。
少し安心しました。[/st-kaiwa6]
次に付従性と随伴性。 保証債務は、本人の債務(主たる債務)にくっついて運命を共にする。本人の借金が消えれば保証も消える、本人の借金より重くはならない──これが付従性。本人の借金が他人に譲渡されれば、保証もくっついて一緒に移る──これが随伴性だ。
[st-kaiwa3 r]ここ、ちょうどええ対比があるねん。
直前にやった根抵当権な、あれは「元本が確定するまでは付従性も随伴性もない」のが特徴やった。
保証はその逆で、付従性も随伴性も“ある”側や。
本人にぴったり寄り添う影みたいなもんや。
範囲は。 保証人が負うのは、元本だけやない。利息や違約金、損害賠償といった、主たる債務にくっつく従たるものにも及ぶ(民法447条)。ただし付従性があるから、本人より重くなることはない。
求償は。 保証人が本人の代わりに払ったら、その分を本人に「返してくれ」と請求できる。これが求償権だ。ただし、本人から頼まれて(委託を受けて)保証人になったのか、頼まれてもいないのに勝手になったのかで、求償できる範囲や条件が変わってくる。
中身はまた今度や。
分別の利益は。 もし保証人が複数いたら、原則として頭数で割った分だけを負担すればいい(民法456条・427条)。これを分別の利益という。二人なら半分ずつ、というイメージだ。
けど──連帯保証人には、この分別の利益がない。
何人おっても、それぞれが全額背負う。
ここも連帯保証の怖いとこや。追ってやるで。
該当する例: 軒高さんの借金が一部返済されて減れば、付従性によって壱星の保証債務もその分減る。本人に寄り添って動く。
該当しない例: 保証契約を口約束だけで済ませたケース。書面(電磁的記録を含む)がなければ効力を生じず、そもそも保証債務は成立していない(民法446条2項)。
推理③:“連帯”まわりの地図──連帯保証・連帯債務・相対効と絶対効
連帯保証と連帯債務、何がどう違うんですか。
似た言葉が三つ四つ出てくるさかい、ゆっくりいくで。
まず連帯保証。 これも保証の一種だが、「控え」という立場の弱さがない。連帯保証人には、催告の抗弁・検索の抗弁・分別の利益のいずれもない(民法454条ほか)。つまり「先に本人へ行ってくれ」とも「他の保証人と分けてくれ」とも言えず、債権者から全額を請求されたら応じるしかない。
控えやのうて、本人と並んで最前列に立たされとるようなもんや。
世間で「連帯保証だけはやめとけ」と言われるんは、この重さのことやで。
次に連帯債務。 これは保証とは別物だ。複数の人が、それぞれ全額の債務を負う。債権者は、そのうちの誰に対しても、好きなように全額を請求できる。たとえば軒高さんと別の友人が二人で連帯債務として借りたら、銀行はどちらか一人に全額を請求してもいい。
連帯債務は「最初からみんなが本人」みたいな感じですか。
連帯債務は全員が本人。
誰かが払いすぎたら、後で仲間内で負担部分に応じて精算する(求償する)。そこが保証とは違うとこや。
そして、保証・連帯債務パート最大の山場が、相対効と絶対効だ。
複数の人が関わると、「一人に起きたことが、他の人にも影響するのか?」という問題が出てくる。たとえば連帯債務者の一人が債権者から請求を受けたとき、その効果は他の連帯債務者にも及ぶのか。一人が債務を免除されたら、他の人の負担も減るのか。
あとは「その人だけの話」ってことですか?
「伝わるのは例外の四つだけ、あとは伝わらん」
──この感覚さえ持って帰ってくれたら、今日は大成功や。
ここは法律が改正されて、昔と答えがひっくり返ったとこやから、古い知識のまま覚えとると痛い目に遭う。いっちゃん大事なとこやで。
該当する例(絶対効): 連帯債務者の一人が借金を全額弁済した。弁済は絶対効なので、他の連帯債務者の債務も消える。みんなに伝わる。
該当しない例(相対効): 債権者が連帯債務者の一人の債務を免除した。免除は原則相対効なので、他の連帯債務者の負担は減らない。その一人だけの話で終わる。
事件の結論
疑問1「保証人ってどういう立場?」──主たる債務者(本人)・債権者・保証人の三者関係。保証人は、人の信用を担保にする人的担保で、本人が払えないときに代わって払う「控え」(補充性)。
疑問2「口約束で保証人になっちゃう?」──ならない。保証契約は書面(電磁的記録を含む)でしなければ効力を生じない(民法446条2項3項)。口約束だけなら成立していない。
疑問3「本人の借金が動いたら、僕の責任も動く?」──動く。付従性により、本人の借金が減れば保証も減り、本人より重くもならない。随伴性により、本人の借金が譲渡されれば保証も一緒に移る。
疑問4「代わりに払ったら本人に請求できる?」──できる(求償権)。ただし本人から頼まれて保証人になったか否かで、求償の範囲や条件が変わる。
疑問5「保証人が二人なら分けられる?」──普通の保証人なら、頭数で分けられる(分別の利益)。ただし連帯保証人にはこれがない。
疑問6「連帯保証は普通の保証と何が違う?」──連帯保証人には催告の抗弁・検索の抗弁・分別の利益がない。本人とほぼ同列の重さになる。
おまけ「連帯債務とは?」──保証とは別物。複数人が全員それぞれ全額の債務を負い、債権者は誰にでも全額請求できる。そして関わる人が複数になると、一人に起きたことが他に伝わるか(絶対効)伝わらないか(相対効)が問題になり、伝わる絶対効は弁済・相殺・更改・混同の四つだけ。
まず軒高には、口約束の段階ではまだ保証人になっていないこと、書面を交わす前にもう一度よく考えたいことを伝えます。
それと、連帯保証だけは本当に重いみたいなので、そこは慎重に判断します。
今日のは全部「地図」や。
一個ずつの細かい道は、これからじっくり歩いていったらええ。
担保は、モノで取る抵当権と、人で取る保証。
この二本立てで頭を整理しとくんやで。
壱星はノートに三者関係の図を描き写すと、礼を言って事務所を出ていった。その背中を見送りながら、登記田がぽつりとつぶやいた。
……こむぎちゃんのリレーの控えより、よっぽど頼りになるかもしれんな。
試験のひっかけメモ
- 保証契約は書面(電磁的記録を含む)でなければ効力を生じない(民法446条2項3項)。口頭の合意だけでは成立しない要式契約。「口頭でも有効」は誤り
- 普通の保証人には催告の抗弁・検索の抗弁があるが、連帯保証人にはどちらもない(民法454条)。さらに連帯保証人には分別の利益もない。三点セットでないことを押さえる
- 改正後の連帯債務は、原則すべて相対効(民法441条)。絶対効になるのは弁済・相殺・更改・混同の四つだけ(民法438〜440条)。請求・免除・時効の完成は原則相対効。改正前の知識のまま解くと失点する最重要ポイント
- 連帯保証と連帯債務は別物。連帯保証は「本人+その保証人」の関係、連帯債務は「全員が本人」の関係。言葉が似ているので必ず区別する
- 保証債務には付従性・随伴性がある(本人に寄り添う)。直前に学んだ根抵当権は「確定前は付従性・随伴性がない」点で逆。混同しないこと
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
「保証人はリレーの控え選手! だから口で『走るね!』って言えばその場で保証人になれて、わたしが転んだら他の走者みんなも一緒に転ぶ!」
──保証も連帯も、ぜんぶ仲良く一蓮托生ってことですね!
保証契約は書面(電磁的記録を含む)でせな効力を生じひん、要式契約や(民法446条2項3項)!
ほんで「みんな一緒に転ぶ」もちゃうわ!
関わる人が複数おっても、一人に起きたことが他に伝わるのは例外の四つ=弁済・相殺・更改・混同だけ(民法438〜440条)!
あとは原則ぜんぶ相対効、その人だけの話や(民法441条)!
ええか、保証は本人が払えんときに代わる「控え」=補充性、本人に寄り添う付従性・随伴性あり!
普通の保証人には催告の抗弁・検索の抗弁・分別の利益があるけど、連帯保証人にはこの三つが全部ない! 連
帯保証と連帯債務は別物で、連帯債務は全員が本人! 担保は、モノで取る抵当権と、人で取る保証の二本立て! 今日はこの地図を丸ごと頭に入れて帰るんやで!
今回のまとめ
- 保証は「人の信用を担保にする」人的担保で、土地・建物といったモノを担保にする抵当権(物的担保)と対になる。担保の世界のもう半分
- 登場人物は三人。主たる債務者(本人)・債権者・保証人。保証人は本人が払えないとき代わって払う「控え」(補充性)
- 保証契約は書面(電磁的記録を含む)でなければ効力を生じない要式契約(民法446条2項3項)。本人の意思に反しても成立する
- 保証債務には付従性(本人の債務が消えれば消え、本人より重くならない)と随伴性(本人の債務が移れば一緒に移る)がある
- 保証人が肩代わりすれば本人に求償でき、保証人が複数なら原則頭数で分ける分別の利益がある(民法456条・427条)
- 連帯保証人には催告の抗弁・検索の抗弁・分別の利益がなく、本人とほぼ同列に重い(民法454条)
- 連帯債務は保証とは別物で、全員がそれぞれ全額の債務を負い、債権者は誰にでも全額請求できる
- 改正後は原則すべて相対効(民法441条)。一人に起きたことが他に伝わる絶対効は弁済・相殺・更改・混同の四つだけ(民法438〜440条)。この分野最大の山場
保証・連帯債務パートの全体地図
| 論点 | 一言でいうと | キーワード |
|---|---|---|
| 保証と保証人 | 本人が払えないとき代わる「控え」。人的担保 | 三者関係・補充性 |
| 保証債務の成立 | 書面(電磁的記録含む)でなければ効力なし | 要式契約・民法446条 |
| 保証債務の性質 | 本人に寄り添って動く | 付従性・随伴性 |
| 保証債務の範囲 | 元本+利息・違約金・損害賠償。本人より重くならない | 民法447条 |
| 求償権 | 肩代わりしたら本人に請求できる | 委託の有無で違う |
| 分別の利益 | 保証人が複数なら頭数で分ける | 民法456条・427条 |
| 連帯保証 | 抗弁も分別の利益もなく本人並みに重い | 催告・検索・分別なし |
| 連帯債務 | 全員が本人。誰にでも全額請求可 | 負担部分・求償 |
| 相対効(原則) | 一人に起きたことは伝わらない | 民法441条 |
| 絶対効(例外) | 伝わるのは弁済・相殺・更改・混同の四つだけ | 民法438〜440条 |
モノの担保 vs 人の担保
| 物的担保 | 人的担保 | |
|---|---|---|
| 担保にするもの | 土地・建物などのモノ | 人の信用 |
| 代表例 | 抵当権・根抵当権 | 保証・連帯保証・連帯債務 |
| 取り立ての相手 | 担保物(競売など) | 保証人・連帯債務者本人 |
| 関係する直前の学習 | 抵当権パート(〜根抵当権) | 本パートで深掘り |