プロローグ:こむぎちゃん、分割払いでトラブる
朝の事務所。こむぎちゃんが眉をひそめてスマホを見ていた。
ひどくないですか?
ちゃんと猶予期間を設けて催告してからやないと、解除できない仕組みになっとる
今日その話もするで――
そのとき、事務所のドアが開いた。
今日で8種制限、完全制覇します!
南向壱星が、ノートを高く掲げて入ってきた。目が輝いている。
登記田が笑った。
ほな今日はテンポよくいくで。
残り5つ、まとめて全部やっつけよか
相談① 自ら売主制限の全体像をおさらい|8種制限の適用条件
登記田がホワイトボードに一覧を書いた。
| No. | 制限の名称 | 状況 |
|---|---|---|
| ① | クーリング・オフ | 第14話で済み ✓ |
| ② | 手付の額の制限 | 第15話で済み ✓ |
| ③ | 手付金等の保全措置 | 第15話で済み ✓ |
| ④ | 損害賠償額の予定等の制限 | ← 今回! |
| ⑤ | 自己所有でない物件の制限 | ← 今回! |
| ⑥ | 契約不適合責任の特約の制限 | ← 今回! |
| ⑦ | 割賦販売契約の解除等の制限 | ← 今回! |
| ⑧ | 所有権留保等の禁止 | ← 今回! |
壱星が即答した。
業者間取引には適用されない。
媒介の場合も、売主が業者でなければ適用されない
ほないくで
相談② 損害賠償額の予定等の制限|代金の20%が上限
壱星が切り出した。
先輩に聞いたら『それ、昔のフォーマットで直し忘れてるやつだ。まずい』って言ってたんですけど…
8種制限では、損害賠償額の予定と違約金を合算して、代金の10分の2(20%)を超えてはならない
登記田が解説した。
当事者が自由に決められる。
でも8種制限が適用される場合は、買主を守るために20%の上限があるんや
壱星が質問した。
20%までは有効や。
契約自体が無効になるわけやないで
壱星がハッとした。
同じ数字ですけど、関係あるんですか?
手付の額の制限は"受け取れる手付金の上限"。
損害賠償額の予定の制限は"違反があったときに請求できる額の上限"。
対象が違う。
たまたま同じ20%やけど、混同しないようにな
登記田が補足した。
予定額の定めがない場合は、民法の規定に従って実際の損害額を請求する。
"定めがなければ損害賠償を請求できない"わけではないで
該当する例:代金5,000万円の物件で、損害賠償額の予定を800万円(16%)、違約金を200万円(4%)と定めた場合 → 合計20%で適法
該当しない例:代金5,000万円の物件で、違約金を1,500万円(30%)と定めた場合 → 超過分の500万円(10%分)は無効
相談③ 自己所有でない物件の契約締結制限|他人物売買の原則と例外
壱星が次のエピソードを話し始めた。
そしたら上司に『まだ取得の契約をしてないだろ、それは他人物売買だぞ』と止められたと
宅建業者が自ら売主の場合、自分が所有していない物件を売る契約は原則として禁止されとる
壱星が首をかしげた。
なぜ宅建業法では禁止なんですか?
プロである業者が"たぶん手に入る"いう見込みだけで一般消費者に売るのは危険やろ
じゃあ、絶対に他人の物件は売れないんですか?
登記田が整理した。
他人物売買の例外(売買契約を締結できるケース):
- 他人(所有者)との間で、その物件を取得する契約(予約を含む)を締結している場合 → OK
- 未完成物件については、手付金等の保全措置を講じている場合 → OK
壱星が驚いた。
"取得する契約"には予約も含まれる。
ただし"買うつもりです"いう口頭の意向だけではダメ。
正式な予約契約が必要やで
該当する例:宅建業者Aが土地所有者Bと売買予約を締結済み → Aは一般消費者Cにその土地を売る契約を締結できる
該当しない例:宅建業者Aが土地所有者Bと「今後売ってもらう予定」という口約束だけ → Aは一般消費者Cにその土地を売る契約を締結できない
相談④ 契約不適合責任の特約制限|「引渡しから2年以上」の特約だけ有効
壱星が実務の疑問をぶつけた。
なぜ2年なんですか?
それには民法と宅建業法の関係を知る必要がある
登記田が説明した。
買った物件に欠陥(契約不適合)があった場合、買主が不適合を知った時から1年以内に通知すれば、売主に対して権利を行使できる
8種制限では、契約不適合責任について民法より買主に不利な特約は無効。
ただし、"引渡しの日から2年以上"とする特約だけは有効と認められとる
壱星が頷いた。
宅建業法で認められるギリギリの最低ラインだから
具体例で整理するで
| 特約の内容 | 有効?無効? |
|---|---|
| 「契約不適合責任を一切負わない」 | 無効 |
| 「引渡しから1年」 | 無効(2年未満) |
| 「引渡しから2年」 | 有効(ちょうど2年はOK) |
| 「引渡しから3年」 | 有効(2年以上) |
こむぎちゃんが目を輝かせた。
"一切負わない"は買主に最も不利な特約やから真っ先に無効や。
特約が無効になった場合は、民法の規定がそのまま適用される。
つまり"知ってから1年以内に通知"いう民法の原則に戻るんや
壱星が確認した。
該当する例:「契約不適合責任の期間は引渡しの日から2年とする」という特約 → 有効
該当しない例:「売主は契約不適合責任を一切負わない」という特約 → 無効(民法の規定が適用される)
相談⑤ 割賦販売契約の解除と所有権留保の禁止|30日以上の催告と30%ルール
こむぎちゃんが最初の話を蒸し返した。
不動産だったら"いきなり解除"はダメなんですよね?
まず割賦販売の定義から確認しよか
割賦販売とは:代金を2回以上に分割して受け取る販売方法
ローンは金融機関と買主の間の話であって、売主が分割で受け取っているわけやないからな
登記田がこむぎちゃんの話に答えた。
買主が賦払金(分割の支払い)を滞納した場合、業者は30日以上の相当の期間を定めて書面で催告しなければならん。
その期間内に支払いがなければ、初めて契約の解除や残金の一括請求ができる
壱星が言った。
こむぎさんの友達のケースとは違うんですね
1回滞納しただけでいきなり家を取り上げられたら、買主の生活が壊れてしまう。
だから猶予期間が義務づけられとるんや
こむぎちゃんが感心した。
友達にも教えてあげたいです
壱星が質問した。
車の分割払いなんかでよくある。
代金を全額払い終わるまで、名義は売主のまま。
でも8種制限では、原則として所有権留保は禁止されとる
所有権留保の禁止ルール:
- 代金の10分の3(30%)を超える額を受領した場合、売主は所有権を買主に移転しなければならない
壱星が計算した。
900万円を超えたら所有権を移転しなきゃいけないんですね
ただし例外もある。
30%以下しか支払っていない場合や、買主がローンを申し込んだがまだ承認されていない場合は、所有権留保が認められる。
ローンが通るかわからん段階で所有権を渡すのはリスクがあるからな
壱星がメモしながらまとめた。
どっちも30がキーワードですね!
割賦は30日、留保は30%。
セットで覚えとき
該当する例:買主が賦払金を滞納 → 業者が30日以上の期間を定めて書面で催告 → 期間内に支払いなし → 契約解除 → 適正
該当しない例:買主が賦払金を1回滞納 → 業者が催告なしにいきなり契約を解除 → 違反
エピローグ:壱星、8種制限を完全制覇
壱星がノートを閉じて、大きく息をついた。
壱星が指折りで確認した。
…全部言えます!
登記田が嬉しそうに頷いた。
3回に分けてやったけど、全部ちゃんと頭に入っとるな。
先輩に胸張って報告できるで
一人で契約業務を任せてもらえるように頑張ります!
壱星がふと真剣な顔になった。
これで宅建業法は全部ですか?
最後にもう1つ、住宅瑕疵担保履行法いう法律がある。
新築住宅を買う人を守るための仕上げの法律や。
これを押さえたら宅建業法は完成やで
必ず来ます!
壱星は力強く事務所を出て行った。
こむぎちゃんが拍手しながら言った。
最初は先輩の重説が呪文に聞こえてたのに
壱星が振り返って、照れくさそうに笑った。
こむぎちゃんが一瞬きょとんとして、嬉しそうに笑った。
登記田が窓の外を見ながらつぶやいた。
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「損害賠償額の予定が代金の20%を超えたら契約は無効」 → 契約は有効。超過部分だけが無効。20%までは有効に定められる。
ひっかけ②「他人物売買は、取得できる見込みがあれば契約できる」 → 見込みだけではダメ。他人との間で取得する契約(予約を含む)を締結していることが必要。
ひっかけ③「契約不適合責任の期間を"引渡しから1年"とする特約は有効」 → 無効。有効なのは**"引渡しの日から2年以上"**とする特約のみ。1年は2年未満のため無効。
ひっかけ④「割賦販売で買主が滞納した場合、書面で催告すれば直ちに解除できる」 → 直ちに解除はできない。30日以上の相当の期間を定めて催告し、その期間内に支払いがなければ解除できる。
ひっかけ⑤「所有権留保は、代金全額の支払いまで認められる」 → 8種制限では原則として所有権留保は禁止。代金の30%を超える額を受領したら、所有権を移転しなければならない。
ひっかけ⑥「損害賠償額の予定の定めがなければ、損害賠償を請求できない」 → 定めがなくても、民法の規定に従い実際の損害額を請求できる。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
ほなこむぎちゃん、教訓を一言でまとめてみ
こむぎちゃんが腕を組んだ。
今日の教訓は――
不動産のルールは買主に優しい!
だから私も不動産を分割払いで買って、滞納しても30日は許してもらえるし、"責任負いません"って書いても無効になるから安心!
いいか、損害賠償額の予定は20%が上限!
他人物売買は取得契約がなければ禁止!
契約不適合責任は"引渡しから2年以上"の特約だけ有効!
割賦販売の解除は30日以上の催告が必要!
所有権留保は30%超で移転義務!
ルールは買主を"守る"ためのものであって、"悪用する"ためのものやないんや!
30日の猶予があるのは優しいですよね…?
今回のまとめ
【損害賠償額の予定等の制限】
- 損害賠償額の予定と違約金を合算して代金の20%が上限
- 超過部分のみ無効(契約は有効)
- 定めがなければ民法に従い実損額を請求できる
【自己所有でない物件の契約締結制限】
- 自己の所有に属しない物件の売買契約は原則禁止
- 例外①:所有者との間で取得する契約(予約を含む)を締結済み
- 例外②:未完成物件で手付金等の保全措置を講じている場合
【契約不適合責任の特約制限】
- 民法より買主に不利な特約は無効
- ただし「引渡しの日から2年以上」とする特約は有効
- 無効になった場合は民法の規定が適用される
【割賦販売契約の解除等の制限】
- 割賦販売=代金を2回以上に分割(住宅ローンは含まない)
- 滞納時は30日以上の相当の期間を定めて書面で催告してから解除
- いきなり解除は不可
【所有権留保等の禁止】
- 代金の30%を超える額を受領したら所有権を移転しなければならない
- 例外:30%以下しか支払っていない場合、ローン未承認の場合
【覚え方の数字整理】
- 手付の額の上限 → 代金の20%
- 損害賠償額の予定 → 代金の20%(手付とは別の制限)
- 割賦販売の催告 → 30日以上
- 所有権留保の移転義務 → 代金の30%超
- 契約不適合責任の特約 → 引渡しから2年以上