プロローグ:こむぎちゃん、衝動買いの後悔
朝の事務所。こむぎちゃんがスマホを見ながらため息をついていた。
返品できないみたいなんです…
レビューが良かったからつい…
通販は自分で考える時間があるからな。
クーリング・オフは不意打ち的な勧誘で冷静な判断ができなかった場合の救済制度なんや
使える場面と使えない場面がある。
不動産の世界にもクーリング・オフがあるんやけど、これがまた条件が細かくてな――
そのとき、事務所のドアがバンッと勢いよく開いた。
南向壱星が、息を切らして飛び込んできた。いつもの落ち着きがない。
うちの会社が売主で、お客さんは一般の方です。
それで今朝、そのお客さんから『やっぱりやめたい』と連絡が来て…
登記田がコーヒーを差し出した。
ちょうどええ機会や。
クーリング・オフの前に、まず"8種制限"の全体像から押さえよか
相談① 8種制限とは?|宅建業者が売主のときの買主保護ルール
登記田がホワイトボードに書いた。
8種制限(自ら売主制限)とは: 宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者でない場合に適用される、買主を守るための8つの特別ルール
- 売主 = 宅建業者
- 買主 = 宅建業者でない者(一般消費者)
プロ同士は自分で身を守れるからな
壱星が頷いた。
まさに8種制限が適用されるケースですね
登記田が8種制限の全体像を示した。
8種制限の一覧:
| No. | 制限の名称 |
|---|---|
| ① | クーリング・オフ ← 今回はこれ! |
| ② | 手付の額の制限 |
| ③ | 手付金等の保全措置 |
| ④ | 自己の所有に属しない物件の売買契約の制限 |
| ⑤ | 担保責任(契約不適合責任)の特約の制限 |
| ⑥ | 損害賠償額の予定等の制限 |
| ⑦ | 割賦販売契約の解除等の制限 |
| ⑧ | 所有権留保等の禁止 |
今日はこの中の①クーリング・オフを詳しくやるで
該当する例:宅建業者Aが売主、一般消費者Bが買主 → 8種制限が適用される
該当しない例:宅建業者Aが売主、宅建業者Bが買主 → 業者間取引のため8種制限は適用されない
相談② クーリング・オフできる「場所」の条件|事務所等の範囲と媒介・代理業者
どこで申込み(または契約)をしたかで、クーリング・オフできるかどうかが決まる
原則:「事務所等以外の場所」で申込みまたは契約をした場合、クーリング・オフが可能
壱星が質問した。
登記田が表を書いた。
事務所等に該当する場所(=クーリング・オフ不可):
| 場所 | 理由 |
|---|---|
| 売主である宅建業者の事務所 | 業務の本拠地 |
| 売主の案内所(土地に定着する建物内+専任宅建士を設置すべきもの) | 整った環境で冷静に判断できる |
| 売主から代理・媒介の依頼を受けた宅建業者の事務所・案内所(上記と同じ条件のもの) | お客さんから見れば同じ「不動産屋の事務所」 |
| 買主が自ら申し出た自宅・勤務先 | 自分から「ここで説明して」と言った=冷静な判断ができる環境 |
壱星が驚いた。
B不動産の事務所で申込みをしたら、クーリング・オフはできない。
お客さんから見たら、売主の事務所でもB不動産の事務所でも"不動産屋の事務所で契約した"ことに変わりはないやろ?
壱星が納得した。
その宅建業者が売主から代理や媒介の依頼を受けていない場合は話が別や
売主から依頼を受けていない宅建業者の事務所(=事務所等に該当しない → クーリング・オフ可能):
でもC社は売主からは代理も媒介も依頼されていない。
この場合、C社の事務所は事務所等に該当しない。
だからクーリング・オフができる
壱星が首をかしげた。
売主から依頼を受けているかどうかがカギやな。
売主から依頼を受けた業者は、売主側の立場で業務をしている。
だからその事務所は売主の事務所と同じ扱いになる。
でも依頼を受けていない業者は、売主側の立場にない。
だから事務所等には含まれんのや
次に、登記田が「事務所等に該当しない場所」を整理した。
事務所等に該当しない場所(=クーリング・オフ可能):
| 場所 | 理由 |
|---|---|
| 喫茶店、ファミレス、ホテルのロビー | 落ち着いて判断できる環境ではない |
| テント張りの案内所 | 土地に定着していない=事務所等に該当しない |
| 業者が持ちかけた場合の買主の自宅 | 不意打ち的な勧誘 |
| 売主から依頼を受けていない宅建業者の事務所 | 売主側の立場にない |
壱星がさらに質問した。
買主が"自分から"自宅に来てくれと申し出た場合は、冷静に判断できる環境を自分で選んだことになるから、事務所等に該当する。
でも業者のほうから"ご自宅に伺いますよ"と持ちかけた場合は、不意打ちに近いから事務所等に該当しない
こむぎちゃんが言った。
じゃあ壱星くんの先輩のケースは、喫茶店で契約したから、契約した場所で判断してクーリング・オフできるってことですね!
登記田が指を振った。
壱星が目を丸くした。
たとえば、事務所で申込みをして、喫茶店で契約した場合。
契約は喫茶店やけど、申込みは事務所やからクーリング・オフはできない。
逆に、喫茶店で申込みをして、事務所で契約した場合。
契約は事務所やけど、申込みは喫茶店やからクーリング・オフできる
壱星がメモしながら確認した。
だからクーリング・オフの場所の条件はクリアやな
該当する例:売主から媒介を依頼された宅建業者Bの事務所で申込み → 事務所等に該当 → クーリング・オフ不可
該当しない例:売主から依頼を受けていない知人の宅建業者Cの事務所で申込み → 事務所等に該当しない → クーリング・オフ可能
相談③ クーリング・オフの「期間」と「方法」|8日間の起算日と発信主義
次は期間やな
クーリング・オフの期間:業者からクーリング・オフについて書面で告げられた日から起算して8日間
口頭で説明されただけではカウントが始まらん。
書面で告げられていない場合は、いつまでもクーリング・オフが可能いうことになる
壱星が確認した。
それが3日前なので…
8日以内やから期間もクリアやな
登記田が続けた。
クーリング・オフは書面で行う。口頭だけではあかん。
そしてここが大事なんやけど、発信した時点で効力が生じる。
いわゆる発信主義や
こむぎちゃんが首をかしげた。
クーリング・オフは買主を守るための制度やから、買主に有利にできとるんや
該当する例:書面で告げられた日から8日目に、クーリング・オフの書面を郵送で発信 → 有効(発信主義)
該当しない例:書面で告げられた日から8日目に、電話で「やめたい」と口頭で伝えた → 書面でないため無効
相談④ クーリング・オフができなくなるのはいつ?|引渡し+全額支払いと買主に不利な特約
クーリング・オフができなくなる2つの場合:
① 書面で告げられた日から8日が経過した場合
これはさっきの通り。8日を過ぎたらクーリング・オフはできなくなる。
② 物件の引渡しを受け、かつ代金の全額を支払った場合
ここで注意。"引渡し"と"全額支払い"の両方を満たしたときに初めてクーリング・オフができなくなる。どちらか一方だけではまだクーリング・オフ可能
壱星が確認した。
両方揃って初めて"もう後戻りできない"いうことになるんや
登記田が補足した。
クーリング・オフの効果:
- 業者は受領した手付金等を速やかに返還しなければならない
- 業者は違約金や損害賠償を請求できない
買主に不利な特約は無効:
- 「クーリング・オフはできません」という特約 → 無効
- 「クーリング・オフの期間は3日間です」という特約 → 無効
- 買主に不利な特約はすべて無効。買主に有利な特約は有効。
こむぎちゃんが言った。
該当する例:引渡しは完了したが代金をまだ半額しか支払っていない → まだクーリング・オフ可能
該当しない例:物件の引渡しを受け、かつ代金全額を支払い済み → クーリング・オフ不可
エピローグ:壱星の先輩のお客さんはクーリング・オフできるのか?
登記田が全体を整理した。
- 売主 = 壱星の会社(宅建業者)、買主 = 一般のお客さん → 8種制限が適用される ✓
- 場所 = 喫茶店(事務所等に該当しない)→ クーリング・オフ可能 ✓
- 期間 = 書面で告げられてから3日後(8日以内)→ 期間内 ✓
- 引渡し・全額支払い = まだどちらもしていない → できなくなる条件を満たしていない ✓
書面でクーリング・オフの意思を伝えてもらえばええ。
先輩にそう報告しとき
壱星がホッとした表情を見せた。
これで先輩に報告できます。
お客さんの手付金も返還されるんですよね
業者は手付金を速やかに返還する義務がある。
違約金も請求できん。
お客さんにも安心してもらいや
壱星が帰りかけて、ふと振り返った。
登記田さん、手付金って、そもそもどういう意味のお金なんですか?
クーリング・オフで返ってくるのはわかったんですけど、普通の場合は…
登記田が笑った。
次は手付の制限と手付金等の保全措置を教えたるわ。
お客さんのお金を守る仕組みの話や
こむぎちゃんが壱星を見送りながら言った。
成長してますよね
壱星が振り返り、少し照れたように笑って頭を下げた。
登記田がつぶやいた。
こむぎちゃんが首をかしげた。
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「クーリング・オフの可否は"契約した場所"で判断する」 → 申込みの場所で判断する。喫茶店で申込み→事務所で契約した場合でも、クーリング・オフ可能。
ひっかけ②「売主から媒介を依頼された宅建業者の事務所で申込み→クーリング・オフ可能」 → 不可。売主から代理・媒介の依頼を受けた宅建業者の事務所は事務所等に該当する。ただし、売主から依頼を受けていない宅建業者の事務所は事務所等に該当しない → クーリング・オフ可能。
ひっかけ③「買主が自ら申し出た自宅での申込みはクーリング・オフ可能」 → 買主が自ら申し出た自宅は事務所等に該当する → クーリング・オフ不可。業者が持ちかけた場合の自宅は事務所等に該当しない → 可能。
ひっかけ④「クーリング・オフの書面は相手に届いた時点で効力が生じる」 → クーリング・オフは発信主義。発信した時点で効力が生じる。届くのが8日後でもOK。
ひっかけ⑤「物件の引渡しを受けたらクーリング・オフはできない」 → 引渡しだけではクーリング・オフは可能。引渡し+代金全額支払いの"両方"を満たしたときにできなくなる。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが目を輝かせた。
今日の教訓は――
衝動買いしても8日以内なら全部返品できる!
私の美顔器も今からクーリング・オフします!
いいか、不動産のクーリング・オフは、売主が業者で買主が非業者の場合に、事務所等以外の場所で申込みした場合に使える!
事務所等には売主だけじゃなく代理・媒介を依頼された業者の事務所も含まれる!
ただし依頼されてない業者の事務所は含まれない!
書面で告げられた日から8日間!
書面で発信!
発信主義!
引渡し+全額支払いで使えなくなる!
買主に不利な特約は無効!
美顔器は自分でメルカリにでも出しなさい!」
3万円もしたんですよ…?
今回のまとめ
【8種制限とは】
- 宅建業者が自ら売主、買主が宅建業者でない場合に適用される買主保護の特別ルール
- 業者間取引には適用されない
- 全8項目(クーリング・オフ、手付の制限、保全措置、自己所有制限、担保責任、損害賠償、割賦販売、所有権留保)
【クーリング・オフの場所の条件】
- 事務所等以外の場所で申込みまたは契約した場合に可能
- 事務所等に該当する場所:
- 売主である宅建業者の事務所・案内所(土地に定着+専任宅建士設置すべきもの)
- 売主から代理・媒介の依頼を受けた宅建業者の事務所・案内所(同上の条件)
- 買主が自ら申し出た自宅・勤務先
- 事務所等に該当しない場所:
- 喫茶店、ファミレス、テント張り案内所、業者が持ちかけた買主の自宅
- 売主から依頼を受けていない宅建業者の事務所
- 可否は**「申込みの場所」で判断**する(契約の場所ではない)
【クーリング・オフの期間と方法】
- 書面で告げられた日から8日間。告げられていない場合はいつまでも可能
- 書面で行う(口頭は不可)
- 発信主義(発信した時点で効力発生)
【クーリング・オフができなくなる場合】
- 書面で告げられた日から8日経過
- 物件の引渡し+代金全額支払いの両方を満たした場合
【クーリング・オフの効果】
- 業者は手付金等を速やかに返還
- 業者は違約金・損害賠償を請求できない
- 買主に不利な特約は無効