プロローグ
朝の事務所。こむぎちゃんが郵便物を片手にぶつぶつ言っていた。
昨日、ジムの解約手続きに行ったんですけど、私のサインだけで解約できたんです。
スタッフさんに「あ、お一人様で大丈夫ですよー」って言われて、その場でハイ終わり。
全然行っとらんかったもんな。
今日、別件で携帯のキャリア変更に行ったんですよ。
そしたら今度は「ご家族の連絡先と、現在ご利用中の回線契約者様のサインが必要です」って言われて、家族と一緒じゃないと進まないって追い返されたんです!
当然や。
一人でサクッと終わる手続きと、関係者がそろわないと進まない手続きがあるんですよ。
昨日と今日で正反対!
自分のことだけで完結するもんは一人でできる。
他人の利害が絡むもんは関係者を巻き込む。
そういう仕分けや。
じゃあ私の人生も、できるだけ一人で完結する手続きだけで生きていきたいです!
そのとき、事務所のドアが軽くノックされた。
ちょっとご相談がありまして。
入ってきたのは敷地倫太郎。第49話で独立開業を果たし、自身の不動産事業を軌道に乗せつつあるところだ。手にはクリアファイルを抱えている。
事務所の方はどうや?
今日はそのお客さんから預かった、ちょっと厄介な相談で。
敷地はこむぎちゃんからコーヒーを受け取ると、ソファに腰を下ろし、クリアファイルを開いた。
公正証書遺言で、遺言執行者もきちんと指定されています。
あくまで仲のよかった友人で。
笠木さんは「自分が遺贈を受けたんだから、登記は自分一人で申請できるんですよね?」と言われるんですが、僕、答えに詰まってしまって。
さっきの私の話と似てません?
一人でできるやつと、誰かと一緒じゃないとできないやつ。
遺言で土地をもらった人も、一人で登記できる場合と、誰かと一緒に申請しないとできない場合があるってことですか!?
ええ嗅覚しとるやないか、こむぎちゃん。
これまで第50話で建物の登記、第51話で土地の分筆・合筆を見てきたな。
あれは全部「表示に関する登記」の話やった。
今日からは「権利に関する登記」の手続きの話に切り替わる。
登記権利者と登記義務者が共同で申請する――これが共同申請の原則や。
せやけど世の中そう単純やない。
「相手方がそもそもおらん」「相手方が協力できへん」――こういう時のために、単独で申請してええ例外がいくつも用意されとる。
笠木さんの遺贈の話を軸にして、共同申請と単独申請の全体像を整理していこか。
笠木さんの件は明後日にはご回答する約束をしていまして、絶対に間違えたくないんです。
今日の事件:令和6年 問14
不動産の登記に関する次の記述のうち、不動産登記法の規定によれば、誤っているものはどれか。
- 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
- 不動産の収用による所有権の移転の登記は、起業者が単独で申請することができる。
- 相続人ではない者に対する遺贈による所有権の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
- 登記名義人の住所についての変更の登記は、登記名義人が単独で申請することができる。
この4つのうち、1つだけが嘘や。
今日の本丸は設問3――まさに笠木さんの件と直結する相続人以外への遺贈の登記や。
ここを軸にして、残りの設問は「ついでに整理しとこ」の形で見ていくで。
推理①:共同申請の原則とは——不動産登記法60条の大原則
表示に関する登記と権利に関する登記
前回までの繰り返しになるけど、ここが頭に入ってへんと今日の話がボヤけるからな。
表題部に記録される。
表題登記、滅失登記、分筆登記、合筆登記なんかや。
原則として申請義務があって、表題部所有者や所有権の登記名義人が単独で申請する。
権利部に記録される。
所有権保存登記、所有権移転登記、抵当権設定登記、賃借権設定登記なんかや。
原則として申請義務はないけど、申請するときは登記権利者と登記義務者の共同申請が原則や。
今日のテーマは権利登記の方ですね。
不動産登記法60条——共同申請の原則
不動産登記法60条(共同申請) 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
土地の売買で例えるで。
画地さんが自分の土地を抵当 仁志(ていとう ひとし)さんっちゅう知人に売却したとする。
このとき、買主の抵当さんは「登記権利者」、売主の画地さんは「登記義務者」。
二人セットで法務局に申請しに行く、っちゅうのが共同申請や。
- 登記権利者:その登記により、登記上、直接に利益を受ける登記名義人になる者(買主、抵当権者、地上権者など)
- 登記義務者:その登記により、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人(売主、抵当権設定者、所有権を失う者など)
なぜ共同申請なのか——虚偽登記を防ぐ知恵
売る人と買う人で売買契約を結んどけば、登記はどっちか一人で行けばよさそうじゃないですか。
理由は大きく2つある。
登記官には形式的審査権しかなくて、書類が形式的に揃っとるかは見られるけど、実体的に売買が本当にあったかを調査する権限はない。
せやから、不利益を受ける側(売主=登記義務者)が「うん、これでええです」と申請に関与することで、「ほな本当に売買があったんやな」と推定できる仕組みになっとるんや。
登記簿に名前が載っとる人を関与させることで、「他人が勝手に登記をいじる」っちゅう事態を防ぐ。
仮に買主の抵当さんが一人で勝手に申請できる仕組みやったら、知らんうちに他人の土地が自分のもんとして登記されてしまう、っちゅう不正が起きかねん。
売主の関与は不可欠ということですか。
共同申請は地味やけど、不動産取引の安全の根幹を支えとる仕組みや。
該当する例: 画地さんが抵当仁志さんに土地を売却し、二人で法務局に行って所有権移転登記を申請 → 共同申請の原則どおり
該当しない例: 抵当仁志さんが画地さんに無断で「自分が買ったことにして」一人で所有権移転登記を申請 → 共同申請の原則に反するため受理されない
共同申請の原則から外れるパターン——3つの理屈で整理
これがクセモンや。
この「別段の定め」が結構な数あるんやな。
試験対策としては、3つの理屈で整理すると覚えやすい。
これらは「ペアにする相手がそもそも存在せんから、必然的に単独」っちゅうパターン。
これは「立法政策として、ペアにする必要がそれほどない場面で省略を認めた」パターンや。
相手がそもそも要らない/相手が来られない/特別ルールでOK!
笠木さんの遺贈の件は、この理屈③に関わる話やで。
推理②:笠木受次さんの遺贈——「相続人かどうか」で結論が真逆
改正前:遺贈は全部共同申請だった
まず遺贈っちゅうのは、遺言によって財産を譲ることや(民法964条)。
遺贈には2つのパターンがある。
- 受遺者が相続人である場合:例えば父親が子どもに「この土地はおまえに遺贈する」と遺言を残したケース。受遺者(子)はもともと相続人でもある。
- 受遺者が相続人でない場合:今回の笠木さんのケース。亡くなった旧友の相続人ではないけど、遺言で土地をもらった。
受遺者(登記権利者)と、遺言執行者または相続人全員(登記義務者)が共同で申請する。
これは60条の原則どおりの扱いやな。
令和5年改正:相続人への遺贈だけが単独申請に
ここが今日の最重要ポイントや。
不動産登記法63条3項 遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権の移転の登記は、第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
相続人に対する遺贈は、登記権利者(受遺者)の単独申請でええ。
なんでかっちゅうと、相続人への遺贈は、相続による所有権移転登記と性質がよう似とる。
相続登記は63条2項で前から単独申請OKやから、それと足並みを揃えた、っちゅうことや。
これは典型的な相続人への遺贈や。
画地さんが亡くなった後、息子の良太さんは一人で所有権移転登記を申請できる。
笠木受次さんのケース:相続人ではない友人への遺贈
笠木さんは亡くなった旧友の相続人ではない。
あくまで仲のいい友人やった。
この場合、63条3項の括弧書きで除外されとるから、原則どおり共同申請のままや。
「相続人への遺贈」は単独でOK、「相続人以外への遺贈」は共同申請のまま――この区別を絶対に押さえとかなあかん。
相続人以外への遺贈も単独でええんやないですか?
相続人への遺贈は、相続による移転とほぼ同じ実体や。
「親の財産を子に渡す」っちゅう構造は、遺言があろうがなかろうが似たような流れになる。
せやから手続きも揃えた。
相続人にとっては「自分のもんになるはずやったのに、横取りされた」っちゅう不満が生じる可能性がある。
せやから、相続人側(登記義務者)の関与を残して、安易に他人名義の登記がされんようにしとるんや。
設問3の判定
令和6年 問14 設問3 相続人ではない者に対する遺贈による所有権の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
「相続人ではない者」への遺贈は、63条3項の対象外やから、原則どおり共同申請になる。
受遺者単独では申請できへん。 設問3は誤りで、これが令和6年問14の正解や。
亡くなった旧友の遺言執行者と一緒に共同申請の手続きを進めましょう」とご説明します。
遺言執行者がきちんと指定されているのは不幸中の幸いですね。
もし遺言執行者が指定されてへんかったら、相続人全員と共同申請せなあかんからな。
遺言執行者がおれば、その人と笠木さん二人で申請できる。
段取りはそっちの方がだいぶラクや。
該当する例: 画地さんが息子の画地良太さんに土地を遺贈 → 相続人への遺贈だから、息子の良太さんが単独で所有権移転登記を申請できる(不動産登記法63条3項、令和5年改正)
該当しない例: 画地さんが旧友の笠木受次さんに土地を遺贈 → 相続人以外への遺贈だから、63条3項の対象外。受遺者の笠木さんと遺言執行者の共同申請が必要
推理③:残り3つの設問——「もしもこういう場合」の補足整理
令和6年問14の他の3つの設問も見ておくで。
笠木さんの遺贈とは別パターンの単独申請の例外やから、敷地さんも開業後に出くわす可能性は十分ある。
設問1:買戻特約抹消の10年経過——「もしも古い買戻特約が残っとったら」
笠木さんとは別のお客さんで、15年前に地方公共団体から土地を買った人がおったとする。
売買契約に買戻しの特約が付いとった――「指定期間内に住宅を建てなかったら、地方公共団体が買い戻せる」っちゅう条件や。
せやけど登記簿には買戻特約が残ったまま。 これを消したい。 誰と一緒に申請する必要があるか?
売主が買主の払った代金と契約費用を返せば、売買契約が解除されて、所有権が売主に戻る、っちゅう仕組みや。
買戻しの期間は最長10年と決まっとる。
10年を超える特約はできへん。
せやから、契約から10年経ったら、買戻しの権利はもう絶対に行使できへん――完全に死んどるっちゅうことや。
売却するときにネックになりそうです。
これが所有者不明土地問題の一因にもなっとる。
買戻権者が誰か分からん、生きとるか分からん、共同申請のしようがない。
せやから令和3年改正で不動産登記法69条の2が新設された。
不動産登記法69条の2(買戻しの特約に関する登記の抹消) 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
買戻権者がもう権利を行使できんことが法律上確定しとるから、関与してもらう意味がない。
令和6年 問14 設問1 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
この設問は正しい。
該当する例: 買戻特約付き売買から10年経過 → 登記権利者(買主)が単独で抹消申請可能(不動産登記法69条の2)
該当しない例: 「10年経過していないと買戻特約はそもそも消えないから、10年未満でも単独申請できる」は誤り。あくまで10年経過が要件
設問2:収用による所有権移転登記——「もしも公共事業で土地が取られたら」
これも笠木さんとは別の話やけど、敷地さんが扱う物件で道路拡幅事業が絡んできたら関係する可能性がある。
道路、鉄道、河川、空港、こういう公共事業のために、土地を強制的に取得する手続きや。
憲法29条で「公共の福祉のために、正当な補償の下に、私有財産を公共のために用いることができる」と決められとる。
まさにそこが論点や。
収用が成立すると、所有権は強制的に起業者に移る。
所有権移転登記の話で言うたら、本来は売買と同じように共同申請が原則になりそうやけど、元の所有者は「俺は売りたくなかった」「強制取得は気に入らん」っちゅう気持ちが残っとるケースが多い。
共同申請を強制したら登記が進まん。
不動産登記法118条1項(収用による登記等) 土地収用法(中略)による収用又は使用による権利の取得又は消滅の登記は、第60条の規定にかかわらず、起業者が単独で申請することができる。
これも理屈②「相手方が協力できへん/する必要がない」型やな。
土地収用法の手続き自体で実体的な真正は担保されとるから、登記でもう一度元の所有者の同意を求める意味がない。
令和6年 問14 設問2 不動産の収用による所有権の移転の登記は、起業者が単独で申請することができる。
設問2は正しい。
該当する例: 道路拡幅事業のための収用 → 起業者(事業者)が単独で所有権移転登記を申請可能(不動産登記法118条1項)
該当しない例: 「収用でも元の所有者と共同申請が必要」は誤り。収用は強制取得なので、起業者単独で完結する
設問4:登記名義人の住所変更登記——「もしも引っ越しただけだったら」
こむぎちゃん、考えてみ。
登記名義人が引っ越して住所が変わっただけ、っちゅう場面で、誰と一緒に申請する必要があると思う?
ペアになる相手が、そもそも……いない?
これが理屈①「相手方がそもそもおらん」型の典型や。 不動産登記法64条1項を見るで。
不動産登記法64条1項 登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、第60条の規定にかかわらず、登記名義人が単独で申請することができる。
自分の表示が変わっただけで、不利益を受ける相手方がいないから、共同申請する相手がそもそも存在しない。
ちなみに住所変更登記は、令和8年4月から義務化されているという話を聞いた気がします。
不動産登記法76条の5や。 令和3年改正のパッケージで決まったもんで、相続登記の義務化(令和6年4月施行)と並んで、所有者不明土地問題への対策の柱になっとる。 住所変更から2年以内に申請せんと過料の対象になる。
令和6年 問14 設問4 登記名義人の住所についての変更の登記は、登記名義人が単独で申請することができる。
設問4は正しい。
該当する例: 引っ越しによる住所変更、結婚・離婚による氏名変更、法人の名称変更などの登記名義人表示変更 → 登記名義人の単独申請(不動産登記法64条1項)
該当しない例: 「住所変更登記には共同申請の相手方が必要」は誤り。そもそも相手方が存在しない
推理④:単独申請が認められる例外パターンの全体地図
| 単独申請が認められる場合 | 根拠条文 | 理屈の分類 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 所有権保存登記 | 不登法74条 | ①相手方おらん | 最初の所有権登記、義務者が存在しない |
| 区分建物の取得者による保存登記 | 不登法74条2項 | ③政策的 | 第50話で扱った特則 |
| 相続・合併による権利移転 | 不登法63条2項 | ②協力不能 | 被相続人・消滅法人は協力できない |
| 相続人への遺贈の移転登記 | 不登法63条3項 | ③政策的 | 令和5年改正で新設 |
| 判決による登記 | 不登法63条1項 | ②意思擬制 | 給付判決のみ。確認判決・形成判決は不可 |
| 収用による所有権移転登記 | 不登法118条1項 | ②協力不能 | 起業者が申請 |
| 買戻特約抹消(10年経過) | 不登法69条の2 | ②協力不能 | 令和3年改正で新設、所有者不明土地対策 |
| 登記名義人氏名・住所変更 | 不登法64条1項 | ①相手方おらん | 自分の表示が変わっただけ |
| 仮登記(義務者承諾・処分あり) | 不登法107条1項 | ②意思擬制 | 義務者の意思が証明できる場合 |
| 信託の登記 | 不登法98条2項 | ③政策的 | 受託者が単独申請 |
| 所有権登記の抹消(移転登記なし) | 不登法77条 | ①相手方おらん | 保存登記のみの場合、義務者が存在しない |
試験でひっかけに使われる定番や。
- 売買・贈与・交換による所有権移転登記
- 抵当権・質権・地上権・地役権・賃借権の設定登記
- 抵当権・地役権・賃借権の抹消登記(一般原則として)
- 相続人以外への遺贈による所有権移転登記(※63条3項の括弧書きで除外)
- 所有権移転登記が存在する場合の所有権抹消登記
- 判決のうち確認判決・形成判決による登記(給付判決でないと単独申請にならない)
お客さんに「この登記、自分一人で申請できますか?」と聞かれた時に、まずこの分類で確認できますね。
試験は単独申請の例外を「○○の登記は単独で申請できる」と並べてくる。
受験生は「いかにも例外っぽく見えるけど実は原則どおり」っちゅう肢に騙されんかったらええ。
今日の設問3がまさにそのパターンや。
事件の結論
令和6年問14の4つの設問や。
正しい。
正しい。
この設問は誤り。
笠木さんは遺言執行者と一緒に共同申請せなあかん。
正しい。
笠木さんへの回答が固まりました。
明後日、遺言執行者の連絡先も含めて段取りをご説明します。
開業して間もない今こそ、丁寧に説明して信頼を積み上げていくのが大事やで。
笠木さんは画地さんからの紹介でもあるので、しっかり対応します。
最近お見えにならないですけど、お元気ですか?
先日もお会いしたら「登記田さんとこのこむぎちゃんに、また何か持っていかなあかんなあ」と仰ってました。
敷地はクリアファイルを閉じて立ち上がり、こむぎちゃんと登記田に丁寧に頭を下げて事務所を出て行った。
独立してまだ間もないのに、もうお客さんから信頼されとる。
画地さんもきっと応援してるんでしょうね。
こうやって紹介の連鎖でお客さんが増えていくっちゅうのは、不動産屋として一番ええ広がり方や。
そう言いながら、登記田はコーヒーを淹れ直そうとカウンターに立った。
試験のひっかけメモ
- 共同申請の原則(不動産登記法60条): 権利に関する登記は登記権利者と登記義務者の共同申請が原則。これを覆す例外は「法令に別段の定めがある場合」に限られる
- 遺贈の登記の改正点(令和5年改正・不動産登記法63条3項): 相続人に対する遺贈の所有権移転登記は受遺者の単独申請OK。ただし**「相続人に対する遺贈に限る」の括弧書きで相続人以外への遺贈は除外**。原則どおり共同申請のまま。ここが最頻出ひっかけ
- 買戻特約抹消の特則(令和3年改正・不動産登記法69条の2): 契約の日から10年経過で、登記権利者の単独抹消申請が可能。所有者不明土地対策として新設
- 判決による登記の落とし穴: 63条1項の単独申請が認められるのは「給付判決」のみ。確認判決・形成判決では単独申請できない
- 所有権登記の抹消(不登法77条): 単独申請できるのは「所有権移転登記が存在しない場合」、つまり保存登記しかない場合のみ。移転登記があると共同申請になる
- 信託の登記(不登法98条2項): 受託者が単独申請できる。なお、信託の登記は権利の移転登記等と同時申請が必要(98条1項)
- 登記名義人氏名・住所変更(不登法64条1項): 単独申請。令和8年4月から住所変更登記の義務化が施行され、住所変更から2年以内の申請義務がある
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
今日の教訓は―― 人生は手続きとの戦いってことですよね!
ジムの解約は一人でできるけど携帯のキャリア変更は家族のサインがいる!
つまり、自分のことだけなら一人で完結するけど、他人の利害が絡むと関係者の関与がいる!
だから笠木さんも、亡くなった旧友の遺族と一緒に窓口に行かないといけないんですね!
ついでに買戻特約は10年放置したら自動解約されるサブスクと同じで、収用は強制プランで起業者が一人で乗り換え可能、住所変更はマイページから一人で更新OKなんです!
私もこれからは家族の同意がいる契約は全部やめて、一人でできる手続きだけで生きていきます!
収用が強制プランの乗り換えって、土地を取られる話をなんでそんな軽く言うんや!
正確に言うで!!
権利に関する登記は、登記権利者と登記義務者が共同で申請するのが原則や(不動産登記法60条)!
例外として単独で申請できるんは、
①そもそも相手方がおらん場合(所有権保存登記=74条、登記名義人氏名・住所変更=64条1項、所有権登記の抹消で移転登記がない場合=77条)、
②相手方が協力できへん・する必要がない場合(相続・合併による移転=63条2項、判決による登記=63条1項、収用による所有権移転=118条1項、買戻特約抹消の10年経過=69条の2)、
③政策的に簡略化されとる場合(相続人に対する遺贈の所有権移転=63条3項、信託の登記=98条2項)、この3パターンや!
特に令和3年改正で買戻特約10年経過の単独抹消(69条の2)が新設されて、令和5年改正で相続人への遺贈の単独申請(63条3項)が新設された!
せやけど相続人以外への遺贈は63条3項の括弧書きで除外されとるから、原則どおり共同申請のままや!
令和6年問14は設問3が誤りで正解は3!
今回のまとめ
不動産登記法における権利に関する登記の申請手続は、共同申請の原則(登記権利者と登記義務者の共同申請、不動産登記法60条)を基本としつつ、「法令に別段の定めがある場合」に単独申請が認められる構造になっている。第50話・第51話で扱った「表示に関する登記」は原則として単独申請であったが、権利登記では逆に共同申請が原則となるため、まずこの違いを押さえることが重要である。令和6年問14は、共同申請の原則と、そこから外れる例外(買戻特約抹消・収用・遺贈・登記名義人住所変更)を横断的に問う典型問題であり、特に**令和3年改正(買戻特約の10年経過抹消)と令和5年改正(相続人に対する遺贈)**という最新の改正点が直撃で問われている。
①共同申請の原則(不動産登記法60条): 権利に関する登記は、登記権利者(登記により直接利益を受ける者)と登記義務者(直接不利益を受ける登記名義人)の共同申請が原則。理由は、虚偽登記の防止と登記の真正の担保。登記官は形式的審査権しか持たないため、不利益を受ける側の関与で実体的な真正を推定する仕組み。
②単独申請が認められる3類型: ①相手方がそもそも存在しない(所有権保存登記、登記名義人氏名・住所変更、所有権抹消で移転登記がない場合)、②相手方が協力できない・する必要がない(相続・合併、判決、収用、買戻特約10年経過)、③政策的に簡略化されている(相続人に対する遺贈、信託の登記)。
③遺贈の所有権移転登記の改正点(不動産登記法63条3項、令和5年改正): 相続人に対する遺贈に限り、受遺者(登記権利者)の単独申請が認められる。相続による移転と性質が近いため簡略化された。相続人以外への遺贈は除外されており、原則どおり共同申請となる点が頻出ひっかけ。家族内の財産承継は簡略化、他人に流れる財産は相続人の関与を残すという立法政策。
④買戻特約抹消の特則(不動産登記法69条の2、令和3年改正): 買戻特約の登記がある場合、契約の日から10年を経過したときは、登記権利者が単独で抹消申請できる。買戻期間の上限は民法580条で10年と定められており、10年経過後は買戻権が確実に消滅しているため。所有者不明土地問題への対策として新設。
⑤収用による所有権移転登記(不動産登記法118条1項): 起業者が単独申請できる。元の所有者の協力が得られにくいことと、公益事業の円滑化が理由。
⑥登記名義人の氏名・住所変更登記(不動産登記法64条1項): 登記名義人の単独申請。そもそも相手方がいないため。令和8年4月施行で住所変更登記の義務化(76条の5、変更から2年以内に申請義務)が始まっている。
⑦実務上の鉄則: 「単独で申請できるか?」を問われたら、まず権利登記か表示登記かを区別。権利登記なら原則は共同申請。例外を主張するには根拠条文を示せるかどうか。特に遺贈は「相続人かどうか」で結論が真逆になるため、依頼者の身分関係を必ず確認。
| 権利登記の申請手続 | 原則 | 例外(単独申請) |
|---|---|---|
| 申請方法 | 登記権利者・登記義務者の共同申請 | 法令に別段の定めがある場合 |
| 根拠 | 不動産登記法60条 | 各規定(63条・64条・69条の2・74条・77条・98条・107条・118条等) |
| 理由 | 虚偽登記の防止、登記の真正担保 | ①相手方なし、②協力不能、③政策的簡略化 |
| 単独申請が認められる代表的なパターン | 根拠条文 | 理屈 |
|---|---|---|
| 所有権保存登記 | 不登法74条 | ①相手方なし |
| 区分建物取得者による保存登記 | 不登法74条2項 | ③政策的 |
| 相続・合併による権利移転登記 | 不登法63条2項 | ②協力不能 |
| 相続人への遺贈の移転登記 | 不登法63条3項 | ③政策的(令和5年改正) |
| 判決(給付判決)による登記 | 不登法63条1項 | ②意思擬制 |
| 収用による所有権移転登記 | 不登法118条1項 | ②協力不能 |
| 買戻特約抹消(10年経過) | 不登法69条の2 | ②協力不能(令和3年改正) |
| 登記名義人氏名・住所変更登記 | 不登法64条1項 | ①相手方なし |
| 仮登記(義務者承諾・処分) | 不登法107条1項 | ②意思擬制 |
| 信託の登記(受託者) | 不登法98条2項 | ③政策的 |
| 所有権登記の抹消(移転登記なし) | 不登法77条 | ①相手方なし |
| 遺贈の所有権移転登記の整理 | 相続人への遺贈 | 相続人以外への遺贈 |
|---|---|---|
| 申請方法 | 受遺者の単独申請OK | 原則どおり共同申請 |
| 根拠 | 不登法63条3項(令和5年改正) | 不登法60条(原則) |
| 共同申請の場合の相手方 | ― | 遺言執行者または相続人全員 |
| 趣旨 | 相続による移転と性質が近い | 相続人の利益保護のため関与を残す |
| 令和6年問14 各設問 | 正誤 | 根拠 |
|---|---|---|
| 設問1(買戻特約抹消、10年経過) | ◯ | 不動産登記法69条の2(令和3年改正) |
| 設問2(収用による所有権移転) | ◯ | 不動産登記法118条1項 |
| 設問3(相続人以外への遺贈) | ❌ | 63条3項の単独申請は「相続人への遺贈に限る」 |
| 設問4(登記名義人住所変更) | ◯ | 不動産登記法64条1項 |
| 正解:3(誤り) |
| 表示登記と権利登記の申請手続(第50〜52話の俯瞰) | 表示に関する登記 | 権利に関する登記 |
|---|---|---|
| 申請の主体 | 表題部所有者・所有権の登記名義人 | 登記権利者・登記義務者 |
| 原則 | 単独申請 | 共同申請(不登法60条) |
| 申請義務 | あり(多くの登記で1か月以内) | 原則なし(相続登記は令和6年4月から義務化) |
| 例外的な単独申請 | ― | 11以上のパターンあり(63条・64条・69条の2・74条・77条・98条・107条・118条等) |
| 代表例 | 表題登記、滅失登記、分筆・合筆登記 | 所有権移転登記、抵当権設定登記、遺贈による移転登記 |
| 関連回 | 第50話(建物の登記)、第51話(分筆・合筆) | 第52話(今回) |