プロローグ:こむぎちゃん、免許を切らす
朝の事務所。助手のこむぎちゃんが、いつもの元気がない。目の下にクマをつくって出勤してきた。
登記田は大きくため息をついた。
そのとき、事務所の電話が鳴った。
……はい。
……免許のことで行政から指摘を受けた?
……ええ、すぐにお越しください
電話を切って、登記田はニヤリとした。
事件の概要
30分後。事務所に現れたのは、不動産会社「丸山ハウジング」社長の丸山さん(50代)。手には行政からの通知書を握りしめている。
こむぎちゃんが通知書を覗き込んで、こう言った。
丸山さんの話をまとめると、こういうことだった。
- 5年前に東京都知事免許を取得して不動産業を開始
- 事業好調で、最近神奈川県にも営業所を新設した
- 免許の更新時期がもうすぐだが、まだ手続きしていない
推理①「事務所」とは何か
丸山さんが答える。
こむぎちゃんが自信満々に言った。
宅建業法でいう「事務所」は、3つのパターンに分類される。
① 本店(主たる事務所)
会社の登記簿に載っている本店。ここで覚えておいてほしいのは、本店で宅建業をやっていなくても、支店で宅建業を営んでいれば本店も「事務所」になるということ。これ、試験でもよく狙われるポイントや。
② 支店(従たる事務所)
登記簿上の支店で、宅建業を行っているもの。
③ 継続的に業務を行える施設
本店・支店以外でも、独立した区画があって、宅建業の業務を継続的に行っている場所は事務所に該当する。
該当する例:マンションの一室でも、専用区画で宅建業務を継続的に行っている → 事務所
該当しない例:週末だけ開くモデルルーム、一時的に設けた現地案内所 → 事務所ではない(※届出が必要な場合あり)
推理②「免許の種類と申請」
こむぎちゃんがまた口を開いた。
① 都道府県知事免許
1つの都道府県だけに事務所がある場合。その都道府県知事に申請する。
② 国土交通大臣免許
2つ以上の都道府県に事務所がある場合。国土交通大臣に申請する。
具体的にはこうなる。
- 東京にだけ事務所があって、大阪のお客さんと取引する → 東京都知事免許でOK
- 東京と神奈川に事務所がある → 国土交通大臣免許が必要
丸山さんの顔色が変わった。
該当する例:東京と大阪にそれぞれ事務所 → 国土交通大臣免許が必要
該当しない例:東京にだけ事務所、全国のお客さんと取引 → 東京都知事免許でOK
推理③「免許の有効期間と更新」
こむぎちゃんが、ここで自分の運転免許のことを思い出したらしい。珍しく真剣な顔になった。
宅建業の免許の有効期間は5年間。
更新する場合は、有効期間満了日の90日前から30日前までに申請しなければならない。
具体例を出すで。満了日が3月31日の場合、
- 更新申請できる期間:1月1日〜3月1日
- 3月2日以降に申請 → 期限オーバー
ここで重要な補足がある。更新申請が済んでいた場合は、有効期間が過ぎても審査結果が出るまでは旧免許が有効、という救済措置がある。しかし、申請自体をしていなければこの救済は受けられない。
丸山さんが頭を抱えた。こむぎちゃんも他人事じゃない顔をしている。
該当する例:満了60日前に更新申請 → 適正な手続き
該当しない例:有効期間が過ぎてから「更新したい」と申請 → 新規でやり直し
推理④「宅地建物取引業者名簿」
こむぎちゃんが目を丸くした。
名簿の主な記載事項:
- 免許証番号と免許の年月日
- 商号または名称
- 法人なら役員の氏名、個人なら本人の氏名
- 事務所の名称と所在地
- 各事務所に置かれる専任の宅地建物取引士の氏名
- 過去に受けた指示処分や業務停止処分の内容
丸山さんに聞いた。
該当する例(届出必要):役員の交代、専任の宅地建物取引士の変更、事務所の追加・移転
該当しない例(届出不要):一般従業員の入退社(※ただし、専任の宅建士が変わる場合は届出が必要!)
事件の結論
私はホワイトボードに調査結果をまとめた。
問題①:免許の種類の不一致 東京都知事免許のまま神奈川に事務所を開設。国土交通大臣免許への「免許換え」が必要だった。
問題②:更新手続きの遅れ 免許の有効期間満了が目前なのに、申請期限(30日前まで)を過ぎても未申請。
問題③:変更届の未提出 事務所を増やしたのに、宅建業者名簿の変更届を30日以内に出していなかった。
丸山さんは深々と頭を下げた。
試験のひっかけメモ
ひっかけ① 「営業範囲」と「事務所の所在地」のすり替え → 免許の種類は事務所の所在地で決まる。「全国で営業してるから大臣免許」はウソ。知事免許でも全国で取引できる。
ひっかけ② 「本店で宅建業をしていないから事務所ではない」 → 支店で宅建業を営んでいれば、本店も「事務所」扱い。本店が何をしてるかは関係ない。
ひっかけ③ 「更新は60日前から」 → 正しくは90日前から30日前まで。数字をずらして出題されるのが定番。
ひっかけ④ 「従業員が変わったら届出が必要」 → 一般従業員の変更は届出不要。専任の宅地建物取引士が変わったら届出が必要。この線引きがよく出る。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが元気よく立ち上がった。
今回のまとめ
- 事務所の定義は「本店」「支店」「継続的に業務を行える施設」の3パターン
- 本店で宅建業をしていなくても、支店で営業していれば本店も事務所扱い
- 免許の種類は「事務所の所在地」で決まる:1つの都道府県内→知事免許、2つ以上→大臣免許
- 有効期間は5年、更新申請は満了日の90日前〜30日前
- 宅建業者名簿の記載事項に変更があれば30日以内に届出
- 「営業する範囲」ではなく「事務所がどこにあるか」がすべてを決める