プロローグ:こむぎちゃん、張り紙にハマる
朝の事務所。こむぎちゃんがせっせと紙を切っている。
壁には手書きの張り紙がベタベタ貼られていた。
『コーヒーはセルフです☆』 『傘の忘れ物注意!』 『こむぎの席に勝手に座らないでください(怒)』
居酒屋のバックヤードとちゃうで
実はな、不動産の世界にも掲示しなければならないものがいろいろあるんや
しかも法律で決まっとる
そのとき、事務所のドアが勢いよく開いた。
こむぎさん!
聞いてください!!
飛び込んできたのは南向壱星。いつもの少しゆるい雰囲気とは違い、目がキラキラしている。
会社が新しく案内所を設置することになって、先輩と僕と、事務の方の3人でそこの物件販売をすることになりました!
と拍手した。壱星は一瞬だけこむぎちゃんの笑顔に目を奪われたが、すぐに視線を戻した。
事務所と案内所って、何が違うんですか?
案内所には案内所のルールがあるのかなと思って
ちょうどこむぎちゃんが張り紙の話をしてたけど、案内所にも貼らなあかんもの、届けなあかんこと、置かなあかん人がある
今日はそのへんを全部教えたるわ
相談①「事務所と案内所、何が違う?」
① 事務所 本店・支店・継続的に業務を行える施設。第2話での話。すべての規制がフルに適用される場所。
② 契約行為等を行う案内所等 分譲マンションの現地販売所など、契約の締結や申込みの受付を行う場所。事務所ほどではないが、かなり厳しい規制がかかる。
③ 契約行為を行わない案内所等 モデルルームの見学だけ、パンフレットの配布だけなど、契約行為はしない場所。規制は最も緩い。
結構しっかりしたルールがかかるで
こむぎちゃんが言った。
契約行為をやる案内所は事務所に近いレベルの規制がかかるんや
ゆるゆるちゃうで
3つの場所の違いを表で整理するとこうなる。
| 規制内容 | ①事務所 | ②契約あり案内所等 | ③契約なし案内所等 |
|---|---|---|---|
| 届出 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 専任の宅建士 | 5人に1人以上 | 1人以上 | 不要 |
| 標識の掲示 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 報酬額の掲示 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 帳簿の備付け | 必要 | 不要 | 不要 |
| 従業者名簿 | 必要 | 不要 | 不要 |
届出も専任の宅建士も不要
逆に、②の契約ありの案内所は届出も専任の宅建士も必要
この違いが試験でよく狙われるで
該当する例:分譲マンションの現地販売所で契約の申込みを受け付ける → ②契約行為等を行う案内所等
該当しない例:週末だけ開くモデルルームで見学のみ対応、契約行為は一切しない → ③契約行為を行わない案内所等
相談②「案内所って届出がいるの?」
届出のルール:
届出先:免許権者と、案内所の所在地を管轄する都道府県知事の両方
たとえば、東京都知事免許の業者が神奈川県に案内所を設置する場合は、東京都知事と神奈川県知事の両方に届出が必要。
届出時期:業務を開始する日の10日前まで
③の契約行為を行わない案内所等は届出不要。標識の掲示だけでええ
ここの違いは試験でよく出るから覚えときや
こむぎちゃんが言った。
10日前までや
翌日からちゃうで
準備期間を設けるためのルールなんやから
該当する例:3月15日に案内所で業務開始予定 → 3月5日までに届出を提出 → 適正
該当しない例:3月15日に業務開始予定だが、3月10日に届出を提出 → 10日前の期限を過ぎている
相談③「宅建士は何人必要?」
専任の宅建士の設置についてや
① 専任の宅建士とは
まず「専任」の意味を押さえておこう。専任とは、その事務所(案内所)に常勤し、専ら宅建業に従事する状態のこと。他の会社と掛け持ちしたり、別の場所に勤務したりしてたら「専任」にはならない。
② 設置人数の基準
場所によって必要な人数が異なる。
- 事務所:業務に従事する者5人に1人以上
- 契約行為等を行う案内所等:1人以上(最低1人いればOK)
- 契約行為を行わない案内所等:設置義務なし
壱星が自分の案内所の状況を確認した。
先輩が宅建士なので、専任の宅建士は1人
契約行為を行う案内所なので1人以上…
セーフですね!
ただし、もし先輩が急に異動や退職になったら大問題やで
③ 人数が不足した場合
専任の宅建士が退職・異動などで不足した場合、2週間以内に補充しなければならない。
だから壱星くん、お前が宅建士の資格を取ることが最大のリスクヘッジなんやで
壱星の目に火がついた。
該当する例:案内所の専任宅建士が退職 → 10日後に新たな宅建士を配置 → 2週間以内でOK
該当しない例:事務所の従事者15人に対し、専任の宅建士が2人 → 5人に1人(3人)必要なので不足
相談④「標識ってどこに貼る?何を書く?」
こむぎちゃんの張り紙の話に近いけど、こっちは法律で決まっとるやつやな
こむぎちゃんが嬉しそうにした。
① 標識の掲示が必要な場所
すべての業務場所に標識の掲示が必要。つまり、
- 事務所 → 必要
- 契約行為等を行う案内所等 → 必要
- 契約行為を行わない案内所等 → 必要
これが唯一、全部の場所に共通するルールや
② 標識の記載事項
- 商号または名称
- 代表者の氏名
- 免許証番号
- 免許の有効期間
- 主たる事務所の所在地
- その案内所で業務を行う場合、当該業務の態様(売主なのか、代理なのか、媒介なのか等)
- 売主の商号・免許証番号(他社の物件を代理・媒介する場合)
こむぎちゃんが言った。
法律で決まった記載事項を全部載せなあかんんや
ロゴを貼るだけちゃうで
見やすい場所に、決められた内容を書いた標識を掲示するのがルールや
該当する例:案内所の入口に、免許番号・商号・代理か媒介かなどを記載した標識を掲示 → 適正
該当しない例:案内所に会社名だけの看板を出して「これが標識です」と主張 → 記載事項が不足しているため不適正
相談⑤「事務所だけの特別ルールってある?」
案内所には不要やけど、事務所では必須のものがあるんや
① 報酬額の掲示
事務所の見やすい場所に、国土交通大臣が定めた報酬額を掲示しなければならない。お客さんに「うちの手数料はこれだけです」と明示するためのもの。
② 業務に関する帳簿
取引のたびに、取引年月日・物件の所在・代金・報酬額などを記載した帳簿を事務所ごとに備え付ける。事業年度末に閉鎖し、閉鎖後5年間保存(宅建業者自らが新築住宅の売主となった場合は10年間)。
③ 従業者名簿
事務所ごとに、従業者の氏名・住所・生年月日・宅建士であるかどうかなどを記載した名簿を備え付ける。最終記載日から10年間保存。取引関係者から請求があった場合は閲覧させなければならない。
④ 従業者証明書の携帯
宅建業者は、従業者に従業者証明書を携帯させなければならない。取引関係者から請求があったら提示する義務がある。
壱星が質問した。
宅建士証は宅建士であることの証明
従業者証明書はその会社の従業者であることの証明
宅建士証を持っていても、従業者証明書の携帯は別途必要やで
壱星くんは宅建士ではないけど、従業者証明書は必ず携帯せなあかんからな
該当する例:事務所に報酬額の掲示+帳簿備付け+従業者名簿+従業者証明書の携帯 → すべて事務所で必要
該当しない例:契約行為を行う案内所に報酬額を掲示した → 義務ではない(事務所だけのルール)
エピローグ:壱星の次の課題
壱星がメモ帳をパタンと閉じた。
案内所では標識の掲示と、専任の宅建士が1人以上
事務所には帳簿や名簿も必要
しっかり先輩にも伝えます!
お前は真面目やから安心や
壱星が帰りかけて、ふと立ち止まった。
もう一つ相談があって…
先輩から案内所で使う広告を作ってくれって頼まれたんです
物件のチラシみたいなやつを
登記田探偵の目が鋭くなった。
適当に作ったら法律違反になりかねん
チラシにもルールがあるんですか!?
誇大広告の禁止、広告開始時期の制限、取引態様の明示…
素人が知らずに作ると、会社ごとペナルティを食らうこともある
壱星が真っ青になった。
作る前に来いよ
絶対来ます!
壱星は何度もお辞儀をして事務所を出て行った。
こむぎちゃんが扉の方を見ながら言った。
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「標識の掲示は事務所と契約行為を行う案内所だけでよい」 → 標識の掲示はすべての業務場所で必要。契約行為を行わない案内所等にも必要。唯一の「全業務場所共通ルール」。
ひっかけ②「契約行為を行う案内所には、5人に1人以上の専任宅建士が必要」 → 5人に1人以上は事務所のルール。契約行為等を行う案内所等は1人以上(最低1人)でOK。
ひっかけ③「従業者証明書は宅建士証があれば不要」 → 宅建士証と従業者証明書は別物。宅建士であっても従業者証明書の携帯は別途必要。
ひっかけ④「業務に関する帳簿の保存期間は10年」 → 帳簿の保存期間は原則5年間。ただし新築住宅の売主の場合は10年間。数字のすり替えに注意。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが自信たっぷりにポーズを決めた。
いいか、標識はすべての業務場所に掲示!
契約ありの案内所には専任宅建士が1人以上!
届出は業務開始の10日前まで!
事務所では報酬額掲示・帳簿・従業者名簿・従業者証明書が必要!
宅建士証と従業者証明書は別物!
アクスタの話はもうええ!
今回のまとめ
- 宅建業の業務場所は①事務所 ②契約行為等を行う案内所等 ③契約行為を行わない案内所等の3種類
- 標識の掲示はすべての場所で必要(唯一の全場所共通ルール)
- 案内所等の届出は免許権者と案内所所在地の知事の両方に、業務開始の10日前まで
- 専任の宅建士:事務所は5人に1人以上、契約ありの案内所は1人以上、契約なしの案内所は不要
- 宅建士が不足したら2週間以内に補充
- 事務所だけの特別ルール:報酬額の掲示、業務に関する帳簿(保存5年、新築売主は10年)、従業者名簿(保存10年)、従業者証明書の携帯
- 宅建士証と従業者証明書は別物。宅建士であっても従業者証明書は別途携帯が必要