プロローグ
午後の事務所。こむぎちゃんが、頬を膨らませながら入ってきた。
昨日、お気に入りのマグカップを割っちゃったんです……。
落として割ったんか?
それでですね、慰めるつもりで友達のあかねちゃんが「こむぎが好きそうな食器、ペアで揃えて送るね」って言ってくれて、すっごく嬉しくて!
昨日届いた箱を開けたら、カップ・ソーサー・小皿・ティースプーンが全部セットになってて。
お皿の柄が全部同じ模様で揃ってるんです。
ソーサーとか小皿とかは、使わないから別の戸棚にしまっちゃおうかなって。
そしたらあかねちゃんに「セットで届いたの写真送って〜」って言われたので、カップだけ机に出して写真を送ったら「えっ、カップだけ使うの? あれ"セット"だよ、バラしたら意味ないよ」って怒られちゃって。
"セットで一つ"っちゅう考え方は、贈り物の世界では大事や。
カップだけ使ってソーサーは別の用途でもいいと思うんですけど……。
たとえばその食器セットやと、カップが主で、ソーサーは従や。
主物と従物は、原則として一緒に動く。 バラバラに扱うと、本来の価値が落ちることがあるんや。
じゃあ、せっかくだから一緒に使ってみます。
でも、カップとソーサー、サイズが微妙に合ってないんですよね……。
そのとき、事務所のドアがコンコンとノックされた。
ご相談に伺いました。
入ってきたのは南向壱星。丸山ハウジング不動産部門の若手営業で、宅建勉強中の青年だ。こむぎちゃんの顔を見た瞬間、表情がふっと柔らかくなった。
壱星はメモ帳を取り出して、ソファに腰を下ろした。
今日の事件:抵当株真司さんの住宅ローンの謎
3年前にうちの会社で建売住宅を購入されて、その時に銀行から2,500万円の住宅ローンを組まれました。
当然、ご自宅に銀行の抵当権が設定されています。
質問②「先日、銀行から手紙が来て、『あなたの住宅ローンの債権を別の会社に譲渡しました』って書いてあったんです。抵当権はどうなるんですか?」
質問③「ボーナスでローンの半分を一気に返しました。家の半分は抵当権から解放されるんですか?」
質問④「もし火事で家が燃えちゃったら、抵当権はどうなるんですか?」
売買の話なら一通り答えられるんですが、抵当権はちょっと自信がないんです。
今日は抵当権の基礎から性質まで、まとめて教えていただきたくて。
さっきの私のセット食器の話と同じじゃないですか?
「メインのもの」と「それに付き従うもの」がセットで動く。
カップが主で、ソーサーが従。 住宅ローンも、借金が主で、抵当権はそれにくっついてるものってことですよね!
構造としてはまさにその通りや。
今日は抵当権の世界観から入って、4つの性質を一気に整理しよか。
抵当株さんの4つの質問は、ちょうど4つの性質を順に問うとる形になっとる。
順に潰していくで。
推理①:抵当権とは何か——被担保債権あっての抵当権
抵当権の定義(民法369条1項)
民法369条1項に書いてある。
民法369条1項(抵当権の内容) 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
このとき、銀行は「もし返してもらえへんかったら、ご自宅を競売にかけて、その売却代金から優先的に回収させてもらいますよ」っちゅう約束を取り付ける。
これが抵当権や。
- 占有を移転しない:抵当権を設定しても、抵当株さんは家にそのまま住み続けられる。質権みたいに物を渡さんでええ
- 不動産が対象:原則として土地や建物などの不動産。地上権や永小作権も対象になるが、賃借権には設定できへん
- 優先弁済:他の債権者に先立って、競売代金から優先的に回収できる
抵当権の登場人物
抵当権の世界には、ちょっと専門用語が並ぶで。
| 用語 | 抵当株さんのケース | 内容 |
|---|---|---|
| 抵当権者 | 銀行 | お金を貸した側。抵当権を持っとる |
| 抵当権設定者 | 抵当株さん | 自分の不動産に抵当権を設定した側 |
| 債務者 | 抵当株さん | お金を借りとる側 |
| 被担保債権 | 住宅ローン2,500万円 | 抵当権で担保されとる債権そのもの |
| 抵当不動産 | 抵当株さんの自宅 | 抵当権が設定されとる不動産 |
自分でお金を借りて、自分の不動産に抵当権を設定したから。
ただし、抵当権設定者と債務者は別人でもええ。
たとえば、息子が住宅ローンを組むのに、父親が自分の土地に抵当権を設定してあげる——っちゅう場合や。
このとき、お金を借りた息子は「債務者」、土地を提供した父親は「物上保証人」と呼ばれる。
叔父さんの借金のために、自分の土地に抵当権を設定した人。
そう、第29話で物上保証人の話をしたな。
今日はその時に触れた「付従性」の話も含めて、抵当権の性質を全部整理するで。
被担保債権あっての抵当権
抵当権は、被担保債権が存在するから存在する——っちゅう関係や。
これから話す4つの性質は、全部この「被担保債権との関係」から導かれるんや。
| 4つの性質 | 一言で言うと |
|---|---|
| 付従性 | 被担保債権がなければ抵当権もない |
| 随伴性 | 被担保債権が動けば抵当権もついていく |
| 不可分性 | 被担保債権の全部を回収するまで抵当権は全部に効く |
| 物上代位性 | 抵当目的物が形を変えても、その価値に抵当権が及ぶ |
推理②:付従性——債権が消えれば抵当権も消える
抵当株さんの質問①
質問①「ローンを全額返し終わったら、抵当権って自動で消えるんですか?」
付従性とは
付従性っちゅうのは——
言い換えると、被担保債権が消滅したら、抵当権も自動的に消滅する、っちゅう性質や。
食器の場合は「セット崩れ」やけど、抵当権の場合は完全に消滅する。
カップがなくなったらソーサーも自動で消えてなくなる、くらい強い関係や。
【ケース】抵当株さんが2,500万円を完済した場合
- 銀行が持っとる債権(2,500万円)が消える
- 同時に、銀行の抵当権も自動的に消滅する
- 抵当権設定登記は残るが、これは実体のない登記になる
- 抵当株さんは銀行に対して、抵当権の抹消登記を請求できる
完済すると抵当権は自動で消えるけど、登記は自動では消えないということですか?
これが付従性や。
ただし、登記は「実体」と「表示」が別物で、登記簿には抵当権の記録が残ったまま。
せやから、抹消登記の手続きを別途せなあかん。
これは第52話で扱った権利登記の話やな。
付従性は「成立」「存続」「消滅」の3場面で働く
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 成立における付従性 | そもそも被担保債権が存在しなければ、抵当権も成立しない(無効な借金契約のための抵当権は無効) |
| 存続における付従性 | 被担保債権が存続する間は、抵当権も存続する |
| 消滅における付従性 | 被担保債権が消滅すれば、抵当権も消滅する |
叔父さんの借金が消滅時効で消えたら、竣工さんの土地の抵当権も自動で消える——これは「消滅における付従性」や。
あの時の「借金が消えれば担保も消える」って話、付従性って名前がついてたんですね。
名前を知っとくと整理が早くなるな。
該当する例: 抵当株さんがローンを完済 → 被担保債権が消滅 → 抵当権も自動で消滅(民法解釈による付従性)
該当しない例: 抵当株さんがまだローンを返済中 → 被担保債権が存在 → 抵当権も存続
推理③:随伴性——債権が動けば抵当権もついていく
抵当株さんの質問②
質問②「先日、銀行から手紙が来て、『あなたの住宅ローンの債権を別の会社に譲渡しました』って書いてあったんです。抵当権はどうなるんですか?」
随伴性とは
随伴っちゅうのは「ついていく」っちゅう意味や。
【ケース】銀行が住宅ローン債権を「貸付管理サービス株式会社」に譲渡した場合
- 譲渡前:債権者は銀行、抵当権者も銀行
- 譲渡後:債権者は貸付管理サービス株式会社、抵当権者も貸付管理サービス株式会社
債権が動いたら、抵当権も一緒についていく。これが随伴性や。
けど、抵当株さんの支払い義務そのものは変わらへん。
返す金額も期日も同じや。
返す相手が変わるだけや。
債権と抵当権を分離できるか
抵当権だけを切り離して、別の人に譲渡できるかっちゅう問題がある。
被担保債権と抵当権はセットで動くから、抵当権だけを切り離して他人に渡しても、その抵当権は意味を持たへん。
転抵当とか、抵当権の譲渡とか。
抵当権者が、他の債権者のために自分の抵当権を譲渡・放棄する制度があるんやけど、これも厳密には「被担保債権との関係」を前提にした処分でな。
ちょっと複雑な話やから、それはまた今度ゆっくりやろか。
今日のところは「債権と抵当権はセット」っちゅう感覚を押さえてくれたらええ。
該当する例: 銀行が住宅ローン債権を別会社に譲渡 → 抵当権も一緒に別会社に移転(随伴性)
該当しない例: 銀行が住宅ローン債権はそのまま持ったまま、抵当権だけを別会社に譲渡 → これはできない(抵当権だけの分離譲渡は無効)
推理④:不可分性——一部弁済では一部解除にならない
抵当株さんの質問③
質問③「ボーナスでローンの半分を一気に返しました。家の半分は抵当権から解放されるんですか?」
不可分性とは
抵当権は、被担保債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部にその効力が及ぶっちゅう性質や。
民法296条(留置権の不可分性) 留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。
民法372条(留置権等の規定の準用) 第296条……の規定は、抵当権について準用する。
【ケース】抵当株さんが2,500万円のうち1,250万円を一括返済した場合
- 残債務:1,250万円
- 抵当権の効力:依然として家全体に及ぶ
- 「家の半分が抵当権から解放される」という発想は誤り
「半分返したら半分解放」って、直感的にはそう思いますよね。
不可分性は、債権者(抵当権者)を保護するための性質やと考えるとわかりやすい。
もし「半分返したら家の半分が解放」っちゅうルールやったら、半分だけ返した時点で銀行は半分の担保を失う。
残りの1,250万円を回収できる保証が弱くなる。
せやから、全額返してもらうまでは家全体を担保にしとくっちゅう設計になっとるんや。
食器セットやと「何個か失われても残りで使える」けど、抵当権は「1円でも残っとる限り、目的物の全部に効力が及ぶ」っちゅう極端な強さや。
不可分性は債権者保護のルール
不可分性は、債権の一部弁済では抵当目的物の一部解除にはならないっちゅうルール。
あくまで「全額返済」が、抵当権消滅の条件や。
当事者間の合意で「一部弁済で一部解除する」っちゅう特約を結ぶことは可能や。
たとえば、複数筆の土地に共同抵当が設定されとる場合に、一部返済で一筆だけ抵当権を外す、みたいな運用は実務でもある。
ただ、宅建試験では原則ルールを押さえとけば十分や。
該当する例: 抵当株さんが半額1,250万円を返済 → 抵当権は依然として家全体に及ぶ(民法372条による民法296条の準用)
該当しない例: 抵当株さんが2,500万円全額を完済 → 被担保債権が全部消滅 → 付従性により抵当権が消滅
推理⑤:物上代位性——目的物が形を変えても効力は及ぶ
抵当株さんの質問④
質問④「もし火事で家が燃えちゃったら、抵当権はどうなるんですか?」
物上代位性とは
今日のなかで一番ややこしい性質やから、丁寧に整理するで。
民法372条(留置権等の規定の準用) 第296条、第304条……の規定は、抵当権について準用する。
民法304条1項(物上代位) 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
抵当株さんの家が火事で焼けた場合
【ケース】抵当株さんの家が火事で全焼した場合
- 抵当目的物(家)が滅失してしまった
- 通常なら、抵当権の対象がなくなって、銀行は担保を失うはず
- ところが——抵当株さんは火災保険に入っていたとする
- 保険会社から抵当株さんに火災保険金請求権が発生
- 銀行は、この火災保険金請求権に対して物上代位できる
- つまり、銀行は保険金から優先的に弁済を受けられる
家が燃えても、保険金から回収できるんだから。
ただし重要な条件がある。 「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」っちゅう条文の但し書きや。
銀行は、保険金が抵当株さんに渡る前に、保険金請求権を差し押さえる必要がある。
これが物上代位を実行するための手続要件や。
物上代位の対象になるもの
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 売却代金 | 抵当不動産が売却された場合の代金 |
| 賃料 | 抵当不動産が賃貸された場合の賃料債権 |
| 保険金(賠償金) | 抵当不動産が火災等で滅失した場合の火災保険金請求権 |
| 損害賠償請求権 | 抵当不動産が他人の不法行為で損傷した場合の賠償請求権 |
売却代金にも物上代位できるんですか?
売っちゃったら、買った人のものになるから関係ないんじゃ……?
抵当権付き不動産が売却された場合、買主は抵当権付きのまま取得することになる(抵当権の追及効)。
せやから、買主の不動産そのものに抵当権が及ぶ。 それに加えて、売却代金にも物上代位できる、っちゅう設計や。
ただ、実務上は不動産自体に追及する方が一般的で、売却代金への物上代位は限定的や。
これはまた今度深掘りしよ。
今は「そういう制度がある」っちゅう感覚だけ持っといたらええ。
該当する例: 抵当株さんの家が全焼 → 火災保険金請求権が発生 → 銀行が保険金請求権を差し押さえて物上代位(民法372条による民法304条の準用)
該当しない例: 抵当株さんが保険金をすでに受け取ってしまった後 → 物上代位の差押えはできない
推理⑥:4つの性質の全体地図
4つの性質を一枚に整理
これが抵当権の世界の見取り図や。
| 性質 | 一言で言うと | 抵当株さんの例 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 付従性 | 債権が消えれば抵当権も消える | 完済したら抵当権が消える | 解釈(民法369条の趣旨) |
| 随伴性 | 債権が動けば抵当権もついていく | 銀行が債権を譲渡したら抵当権も移転 | 解釈 |
| 不可分性 | 債権の全部の弁済まで目的物の全部に効力 | 半額返しても家全体に抵当権 | 民法372条による民法296条の準用 |
| 物上代位性 | 目的物が形を変えてもその価値に効力 | 火事で焼けたら保険金に物上代位 | 民法372条による民法304条の準用 |
すべては「被担保債権との関係」から導かれる
最初にこむぎちゃんが言うた「借金が主で、抵当権はそれにくっついてるもの」っちゅう感覚、忘れんように。
4つの性質はそれぞれ深い世界を持つ
- 物上代位性——賃料への物上代位、不法占拠者への対応、火災保険金への物上代位の手続きとか、実務でめっちゃ重要な論点がたくさんある
- 不可分性——「抵当権の効力はどこまで及ぶか」っちゅう論点に発展する。付加一体物・従物・果実、敷地賃借権への波及などや
- 付従性——抵当権消滅請求や代価弁済の論点に繋がる。第三取得者がどう抵当権を消すかの話や
- 被担保債権の範囲——「利息はどこまで担保されるか」っちゅう論点もある
事件の結論
抵当株さんの4つの質問への回答や。
ただし抵当権設定登記は自動では消えないため、抹消登記の手続きを別途行う必要がある。
抵当株さんの支払い義務の中身は変わらず、債権者(返済先)が変わるだけ。
半額返済では家の一部解放にはならない(民法372条による民法296条の準用)。
ただし、銀行は保険金の払渡し前に差押えをする必要がある(民法372条による民法304条1項の準用)。
抵当株さんへの回答は、抵当権の4つの性質を順に説明すれば、全部きれいに整理できますね。
付従性・随伴性・不可分性・物上代位性——この4つを軸に説明します。
壱星さん、今日もよう理解した。
先輩は「抵当権はローン案件で必ず出てくるから、性質から押さえとけ」っていつも仰ってましたので。
頑張ってくださいね。
こむぎちゃん、コーヒーごちそうさまでした。
今日も……いつもおいしいです。
壱星はメモ帳を大事そうにしまうと、こむぎちゃんの方をちらっと見てから、丁寧に頭を下げて事務所を出て行った。
今日は前回より一拍置いてから「いつもおいしいです」やったぞ。
ちょっと進化しとる。
普通のお礼ですよね?
壱星さんの想いっちゅう"債権"があっても、こむぎちゃんっちゅう"担保"は反応してへん。
何の話ですか?
そのままでええわ。
試験のひっかけメモ
- 付従性は「成立・存続・消滅」の3場面で働く:被担保債権が無効なら抵当権も無効、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅。完済による抵当権消滅は「自動」だが、登記の抹消は別手続が必要
- 随伴性により債権譲渡=抵当権も移転:被担保債権を譲渡したら抵当権もついていく。「債権だけ譲渡して抵当権は残す」「抵当権だけ分離譲渡」はいずれも原則できない
- 不可分性は債権者保護のルール:一部弁済では一部解除にはならない。「半額返したから半分解放」は誤り。全額弁済まで目的物全体に効力
- 物上代位は「差押えが必要」:民法304条1項但書による。抵当不動産が滅失して保険金請求権が発生しても、債務者が保険金を受け取った後では差押えできない。「払渡し前の差押え」が手続要件
- 抵当権は占有移転を伴わない:質権との大きな違い。抵当株さんは家に住み続けたまま抵当権を設定できる
- 「不動産・地上権・永小作権」が対象:賃借権には抵当権を設定できない(民法369条2項)
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
今日の教訓は—— カップとソーサーは絶対バラしちゃダメってことですよね!
食器セットの友達への返事と同じで、メインのものに付き従うものは絶対セットで動かす!
抵当権も住宅ローンも食器セットも、主と従はバラせない!
そして、半分返しても半分しか解放されないなんて、不可分性は本当にひどい!
燃えても保険金から取れるなんて、銀行は抜け目ない!
だから私、あかねちゃんにカップとソーサーをセットで使う宣言して、写真を撮り直して送ります!
そして割れたマグカップも保険金請求権を物上代位して、新しいの買ってもらえるか聞いてみます!
家庭の食器に物上代位できるかい!
あと銀行は抜け目ないとちゃう、ちゃんと法律に則って権利を守っとるだけや!
正確に言うで!!
抵当権は、債務者または第三者が占有を移転せずに債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利や(民法369条1項)!
4つの性質を順に言うで!
付従性は、被担保債権がなければ抵当権もなく、債権が消滅すれば抵当権も消滅!
随伴性は、債権が譲渡されれば抵当権も一緒に移転!
不可分性は、被担保債権の全部の弁済を受けるまで、抵当権は目的物の全部に効力が及ぶ(民法372条による民法296条の準用)!
物上代位性は、抵当目的物が滅失・売却・賃貸等で形を変えた場合、その代わりに発生した金銭にも抵当権の効力が及ぶ(民法372条による民法304条の準用)!
ただし物上代位には払渡し前の差押えが必要!
そして、マグカップは火災保険じゃなくて、自分の不注意やから自腹で買い直し!!
今回のまとめ
抵当権は、債務者または第三者(物上保証人)が占有を移転せずに債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利である(民法369条1項)。約定担保物権の代表格であり、住宅ローンをはじめとする実務上もっとも広く使われる担保制度である。第54話までの不動産登記法シリーズで「権利登記の手続的側面」を扱ったのに対し、第55話以降の抵当権シリーズは「権利そのものの実体的内容」を扱うことになる。
抵当権を理解する出発点は、「被担保債権との関係」である。抵当権はそれ単独では存在せず、必ず被担保債権の担保として存在する。この「被担保債権と抵当権の関係」から、抵当権の4つの性質——付従性・随伴性・不可分性・物上代位性——がすべて導かれる。
①付従性: 被担保債権が存在しなければ抵当権も存在しない(成立における付従性)、被担保債権が存続する間は抵当権も存続する(存続における付従性)、被担保債権が消滅すれば抵当権も自動的に消滅する(消滅における付従性)。住宅ローンを完済すれば、抵当権は法律上自動的に消滅する。ただし登記簿上の抵当権設定登記は自動では消えず、別途抹消登記の手続きが必要となる。第29話で扱った消滅時効と物上保証人の論点は、まさに「消滅における付従性」の典型例である。
②随伴性: 被担保債権が譲渡されれば、抵当権もそれに伴って譲受人に移転する。住宅ローンの債権を銀行が他の会社に譲渡した場合、抵当権も自動的に譲受人のものとなる。被担保債権と抵当権はセットで動くため、抵当権だけを分離して譲渡することは原則としてできない。
③不可分性: 抵当権者は、被担保債権の全部の弁済を受けるまでは、抵当目的物の全部についてその権利を行使することができる(民法372条による民法296条の準用)。半額返済では家の半分が解放されることはなく、全額完済までは家全体に抵当権の効力が及ぶ。これは債権者(抵当権者)を保護するためのルールであり、共同抵当等の特殊な場合を除き、当事者間の特約がない限り原則として変更できない。
④物上代位性: 抵当目的物が滅失・売却・賃貸等で形を変えた場合、その代わりに発生した金銭(保険金請求権・売却代金・賃料債権・損害賠償請求権等)に対しても、抵当権の効力が及ぶ(民法372条による民法304条の準用)。ただし、物上代位を実行するには、目的物の払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(民法304条1項但書)。差押えの時期を逃すと物上代位できなくなる点は、試験でも頻出のひっかけポイントである。
⑤抵当権の実体と登記の二段構造: 抵当権の発生・存続・消滅は、被担保債権との関係で実体的に決まる。これに対して、抵当権設定登記・抹消登記は登記簿上の「表示」の問題であり、両者は別物である。実体的に抵当権が消滅していても登記が残っていれば、第三者から見れば抵当権付きのまま見える。第三者対抗のためには登記が必要であり、消滅後の抹消登記もまた重要な手続きとなる。
⑥シリーズ全体への接続: 4つの性質はそれぞれ後続記事で深掘りされる。物上代位性は次回、妨害排除請求権とあわせて深掘りする。不可分性は「抵当権の効力の及ぶ範囲」(付加一体物・従物・果実・敷地賃借権への波及)の論点に発展する。付従性は「抵当不動産の第三取得者の保護」(代価弁済・抵当権消滅請求)の論点に繋がる。第55話で押さえた4つの性質を、抵当権の世界を歩く際の地図として常に意識すること。
| 抵当権の基礎 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 定義 | 占有を移転せず不動産を担保とし優先弁済を受ける権利 | 民法369条1項 |
| 対象 | 不動産・地上権・永小作権(賃借権はNG) | 民法369条1・2項 |
| 抵当権者 | お金を貸した側 | — |
| 抵当権設定者 | 自分の不動産に抵当権を設定した側 | — |
| 物上保証人 | 他人の債務のために自分の不動産を担保提供する者 | — |
| 被担保債権 | 抵当権で担保されている債権 | — |
| 抵当不動産 | 抵当権の目的となる不動産 | — |
| 4つの性質 一覧 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 付従性 | 被担保債権がなければ抵当権もない/債権が消えれば抵当権も消える | 解釈(民法369条の趣旨) |
| 随伴性 | 被担保債権が譲渡されれば抵当権もついていく | 解釈 |
| 不可分性 | 被担保債権の全部の弁済を受けるまで、抵当目的物の全部に効力が及ぶ | 民法372条による民法296条の準用 |
| 物上代位性 | 抵当目的物が形を変えても、その代わりに発生した金銭に効力が及ぶ | 民法372条による民法304条の準用 |
| 抵当株さんの4つの質問と答え | 質問 | 性質 | 答え |
|---|---|---|---|
| 質問① | 完済したら抵当権はどうなる? | 付従性 | 自動で消滅(ただし抹消登記は別途必要) |
| 質問② | 債権譲渡されたら抵当権はどうなる? | 随伴性 | 抵当権も譲受人に移転 |
| 質問③ | 半額返済で家の半分は解放される? | 不可分性 | されない、全額完済まで家全体に効力 |
| 質問④ | 火事で焼失したら抵当権はどうなる? | 物上代位性 | 火災保険金請求権に物上代位可(差押え必要) |
| 物上代位の対象 | 内容 |
|---|---|
| 売却代金 | 抵当不動産が売却された場合の代金 |
| 賃料 | 抵当不動産が賃貸された場合の賃料債権 |
| 保険金請求権 | 抵当不動産が火災等で滅失した場合の火災保険金請求権 |
| 損害賠償請求権 | 抵当不動産が他人の不法行為で損傷した場合の賠償請求権 |
| 抵当権 vs 質権 | 抵当権 | 質権 |
|---|---|---|
| 占有移転 | 不要 | 必要 |
| 主な対象 | 不動産 | 動産・債権 |
| 第三者対抗要件 | 登記 | 占有の継続 |
| 用途 | 住宅ローン等 | 動産担保 |
| 第55〜64話の俯瞰(抵当権パート) | 第55話 | 第56話 | 第57話 | 第58話 | 第59話 |
|---|---|---|---|---|---|
| テーマ | 抵当権の基礎と性質 | 物上代位性と妨害排除請求権 | 効力の及ぶ範囲 | 被担保債権の範囲 | 抵当権の順位 |
| 区分 | 総論 | 効力の貫徹 | 範囲(物) | 範囲(債権) | 複数抵当権の関係 |
| キーワード | 民法369条、372条、付従性・随伴性・不可分性・物上代位性 | 物上代位、妨害排除請求権 | 付加一体物、従物、果実 | 利息2年分の制限 | 順位変更 |