プロローグ
うちの実家から段ボール一箱、みかんが届いたんです。
和歌山の親戚が送ってくれた立派なやつ!
冬の段ボールみかんは、ええもんや。
母が「これは家族みんなのものよ」って言って、父が「いや、箱代を払ったのは俺だ」って主張して、姉が「私が一番先に冷蔵庫に入れたから私の管理下にある」って言い出して、弟まで「俺が箱を開けたんだから所有者は俺だ」って!
そしたらどうなったと思います?
母が「ご近所におすそ分けしないと」って勝手に半分配っちゃって、姉と弟が残り半分の取り合いをして、気がついたら私の取り分、ゼロですよ!
黙ってた人が一番損するんですよ!
早い者勝ちと、声の大きい者勝ち。
世の中の縮図や。
そのとき、事務所のドアが軽く叩かれた。入ってきたのは南向壱星さんだった。手にはいつもの分厚い手帳と、お土産らしい紙袋を持っている。
今日はうちの会社で抱えてる案件で、整理がつかないところがありまして。
今日もメモ帳分厚いですね!
壱星さんの表情が一瞬ゆるんだ。手帳を握る手にちょっと力が入ったが、すぐにいつもの真面目な顔に戻る。
一つは、いったん解除されたマンションを別のお客さんに紹介したら、後から元の売主さんが「あれは解除した物件だから戻してくれ」って言ってきて。
もう一つは、共同相続の土地で、相続人のうちのお兄さんだけが単独相続した登記をしてて、うちのお客さんがその土地全部を買おうとしてるんです。
それって、さっきのうちのみかんの話と似てません!?
もとは一つのものだったのに、いつの間にか他の人のところに渡ってて、後から取り戻せるかどうかって話じゃないですか!
スケールはみかんと不動産でえらい違うけど、いったん権利が動いた後に、誰が最終的にそれを持てるんかっちゅう話や。
前にやった詐欺取消し(第23話)と時効完成(第47話)と並べて、登記が必要な場面とそうでない場面の見分け方をきちんと固めとこ。
これは平成19年の宅建試験 問6で出題された頻出論点や。
順番に整理していこう。
畝井先輩にも後で報告したいので、しっかりメモ取らせていただきます。
推理①:解除「前」と「後」で扱いが真逆になる──民法545条1項ただし書 vs 177条
土地は東部市の郊外にあるマンション一室、もとの所有者が筆界達也(ひっかい たつや)さん。
これを戸建真司(とだて しんじ)さんに売却して、戸建さんに所有権移転登記までされた。
契約違反や。
筆界さんは「もう堪忍ならん」と債務不履行を理由に契約を解除した。
さて、ここに隣地茂(りんち しげる)さんっちゅう第三者が登場する。
隣地さんは戸建さんからこのマンションを買い受けたんや。
隣地さんが戸建さんから買ったのが、筆界さんの解除より前なのか、後なのかで結論がガラッと変わる。
考え方の柱は同じや。
順番にいこか。
解除「前」の第三者──545条1項ただし書で保護されるが登記が必要
民法545条1項(解除の効果) 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
やさしく言うと、解除する前にすでに登場していた人の権利は、後から解除しても奪えないっちゅう規定や。
試験用語では解除前の第三者の保護規定と呼ぶ。
②戸建さん→隣地さんに売却・登記移転
③筆界さんが解除
せやから545条1項ただし書で保護される。
「ただし書」で守られるんですよね?
ここがひっかけポイントや。
判例は、解除前の第三者であっても、保護されるためには登記が必要やと解しとる(大判大正10年5月17日、最判昭和33年6月14日)。
これを権利保護要件としての登記と呼ぶ。
条文の素直な読み方を裏切る部分やから、試験で狙われやすい。
これも詐欺取消しの96条3項とは違うところや。
詐欺取消し前の第三者は「善意・無過失」が要件やったけど、解除前の第三者は善意悪意を問わず、登記だけが要件や。
解除「後」の第三者──177条の対抗関係になる
②筆界さんが解除(戸建さんの債務不履行を理由に)
③戸建さん→隣地さんに売却・登記移転
さて、筆界さんと隣地さん、どっちがこのマンションの所有者か。
じゃあ筆界さんが勝つんじゃないですか?
せやけど、ここがまさに対抗関係の世界の落とし穴や。
判例の考え方はこうや。
解除によってマンションの所有権は戸建さんから筆界さんへと復帰的に移転する。
一方、戸建さんは隣地さんに売却して、こっちも所有権が移転する。
これは何や?[/st-kaiwa6]
[st-kaiwa6 r]……二重譲渡類似の関係、ですね。[/st-kaiwa6]
[st-kaiwa3 r]そういうこっちゃ。
第47話の時効完成後の第三者と同じ構造や。
民法177条の対抗関係になる。
先に登記を備えた方が勝つ。
これが最判昭和35年11月29日で確立された判例や。
筆界さんは解除しただけで、復帰的物権変動の登記はまだしてへん。
せやからこの場面では隣地さんの勝ち、筆界さんの負けや。
平成19年 問6 肢2 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に、売主が当該契約を適法に解除した場合、売主は、その旨の登記をしなければ、当該契約の解除後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。
売主が筆界さん、買主が戸建さん、第三者が隣地さん。
復帰的物権変動の登記をしなければ、解除後の第三者には対抗できない。
この肢は正しい。
済ませる前にうちのお客さんが買って登記したら、お客さんが勝つ。
解除した瞬間、登記を取り戻す手続きを急がんと、その間に第三者が登場して負ける。
詐欺取消し後の話と同じ構造や。
「解除=即・登記回復」これを覚えとき。
該当する例: 解除後に第三者が登場して登記を備えた場合、売主は復帰的物権変動の登記がなければ第三者に対抗できない(最判昭35.11.29)。第三者の善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)。
該当しない例: 「解除前の第三者は545条1項ただし書で保護されるから登記不要」は誤り。判例は権利保護要件としての登記を要求している(大判大10.5.17)。
推理②:共同相続と登記──無権利者からの取得は無権利
今度は相続の話や。
亡くなったお父さんが**公図政夫(こうず まさお)さん。
土地は東部市の住宅地、150坪。
共同相続人は息子二人で、お兄さんが公図雄介(こうず ゆうすけ)さん、弟が公図涼太(こうず りょうた)さん。
法定相続分は各2分の1ずつや。
同じ苗字やけど親戚やない。
たまたまや。
お兄さんの雄介さんが、弟の涼太さんに断りなく、自分が単独で相続した旨の所有権移転登記をしたんや。
さらに雄介さんは「これは俺の土地や」と言って、土地全部を道幅健次(みちはば けんじ)さんに売ろうとしとる。
道幅さんが壱星さんとこのお客さんやな?
道幅さんは「登記簿を見たら雄介さんの単独所有になってるし大丈夫だろう」って言うんですが、畝井先輩が「それは危ないかもしれん」と。
でも単独所有の登記してるなら、雄介さんが所有者じゃないんですか?
登記が一番強いって、前に習いました!
ここが今日の最大のポイントや。
順番に整理するで。
ステップ1:共同相続の基本
「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」
お父さんが亡くなった瞬間、土地は雄介さんと涼太さんの共有になる。
各自2分の1の持分や。
涼太さんの持分について、雄介さんは無権利者や。
ステップ2:登記には公信力がない
登記には公信力がないっちゅう原則や。
試験用語では公信力の否定と呼ぶ。
道幅さんは涼太さんの持分について所有権を取得できへん。
ステップ3:弟は登記なくして対抗できる
最判昭和38年2月22日は、こう判示した。
共同相続の場合、他の共同相続人は自己の持分について、登記なくして第三者に対抗できる。
無権利者は民法177条の「第三者」に該当せえへん。
対抗関係は「お互いに正当な権利を主張できる者同士」の間でしか成立せえへんからや。
雄介さんの持分2分の1については、雄介さんは適法な所有者やから、道幅さんは有効に取得できる。
せやけど涼太さんの持分2分の1については、道幅さんは何も取得できへん。
涼太さんは登記がなくても、自分の持分を道幅さんに堂々と主張できる。
登記したもん勝ちじゃないんですか!
今回は雄介さんが涼太さんの持分について最初から無権利者やから、登記の先後で勝負する以前の問題や。
平成19年問6 肢3を見てみる
平成19年 問6 肢3 甲不動産につき兄と弟が各自2分の1の共有持分で共同相続した後に、兄が弟に断ることなく単独で所有権を相続取得した旨の登記をした場合、弟は、その共同相続の登記をしなければ、共同相続後に甲不動産を兄から取得して所有権移転登記を経た第三者に自己の持分権を対抗できない。
問題文は「弟は登記をしなければ第三者に対抗できない」と言うとるが、判例の結論は逆や。
弟は登記なくして自己の持分を対抗できる(最判昭38.2.22)。
せやからこの肢は誤りや。
単独相続登記がある土地を扱うときは、必ず戸籍を取り寄せて、相続人が本当に一人だけなのかを確認しないといけない。
登記簿だけ信じたらあかん。
戸籍で本当の相続人を全員確認する。
そして共同相続なら、相続人全員と契約せんと土地全部の権利は取れへん。
該当する例: 共同相続人の一人が単独相続登記をして第三者に売却しても、他の共同相続人は自己の法定相続分まで、登記なくして第三者に対抗できる(最判昭38.2.22)。第三者は登記を信じても、無権利者から買った部分については保護されない。
該当しない例: 「登記には公信力があるから、単独相続登記を信じた第三者は全部の権利を取得できる」は誤り。日本の不動産登記には公信力がない。
推理③:相続放棄と遺産分割──登記の要否は場面で変わる
相続放棄と遺産分割や。
これも対抗関係で迷いやすい論点や。
実は道幅さんの隣地で、建蔽一也(けんぺい かずや)さんという方が相続放棄をしたという話も小耳に挟んでまして。
先に相続放棄からいこか。
相続放棄は絶対効──登記なくして何人にも対抗できる
民法939条(相続の放棄の効力) 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をすると、最初からその人は相続人やなかったことになる。
建蔽一也さんが相続放棄したら、建蔽さんは無権利者や。
建蔽さんが相続放棄したのに、建蔽さんの債権者が「建蔽にも法定相続分があるはずや」と勝手に代位で法定相続分の登記をして、その持分を差し押さえた。
これは有効か?
せやけど中身がない。
建蔽さんは放棄しとるから、最初から持分なんかあらへん。
相続放棄の効力は絶対的で、何人に対しても登記なくして対抗できる。
せやから債権者の差押え登記は無効や。
遺産分割「前」の第三者──909条ただし書で保護
民法909条(遺産の分割の効力) 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
本文で遡及効を認めて、ただし書で第三者保護や。
雄介さんと涼太さんが共同相続した後、まだ遺産分割協議をする前に、雄介さんが自分の持分2分の1を第三者の道幅さんに売却した。
その後で雄介さんと涼太さんが遺産分割協議をして、「土地全部は涼太さんが取得する」と決めた。
さて、道幅さんが雄介さんから買った2分の1の持分はどうなるか?
すると道幅さんは無権利者から買ったことになって、何も取得できない、ということになりそうですが……。
せやから909条ただし書が遺産分割前の第三者を保護しとる。
道幅さんは2分の1の持分を保持できる。
涼太さんは道幅さんの持分を取り戻せへん。
遺産分割「後」の第三者──民法899条の2で登記が必要に
これが平成30年の相続法改正で大きく変わった論点やから、特に注意して聞いてや。
雄介さんと涼太さんが遺産分割協議をして、「土地全部は涼太さんが取得する」と決めた。
せやけど涼太さんは登記をすぐに備えへんかった。
その後、雄介さんが「俺にも法定相続分があるやろ」と勝手に2分の1の持分について第三者の道幅さんに売却して、道幅さんが登記を備えた。
せやから涼太さんは、自分の法定相続分2分の1は対抗できるけど、雄介さんから取得した2分の1の超過部分については登記がなければ対抗できへん。
問題は「相続させる旨の遺言」の場合や。
せやけどこれが取引の安全を害するっちゅう批判が強くてな。
条文を見るで。
民法899条の2第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
遺産分割でも、遺贈でも、「相続させる旨の遺言」(特定財産承継遺言)でも、法定相続分を超える部分は全部、登記がなければ第三者に対抗できへん。
受験対策では改正後ルールが基準やから、必ず押さえとき。
条文に「相続分を超える部分について」とハッキリ書いてあるからな。
相続放棄と遺産分割で扱いが違う理由
同じ「相続まわり」なのに違いすぎません?
理屈はこうや。
相続放棄は「最初から相続人でなかった」と扱う強い効果や。
そもそも放棄者は権利を持ったことすらない。
せやから債権者が代位登記しようが何しようが、空っぽの権利を奪い合っとるだけで、無効。
共有の段階ではみんなが法定相続分を持っとる。
そのあと分割で誰かに集中させる。
第三者から見たら、共有から再分配される段階で、新たな物権変動が起きとるように見える。
せやから取引の安全のために登記を要求するんや。
該当する例(相続放棄): 相続放棄をした者の債権者が代位で法定相続分の登記をして差押えても、放棄は絶対効なので無効。他の相続人は登記なくして対抗できる(最判昭42.1.20、民939条)。
該当しない例(遺産分割): 「遺産分割で取得した不動産はすべて登記なくして対抗できる」は誤り。法定相続分を超える部分は登記が必要(民899条の2)。
事件の結論
今日の話を平成19年問6の4つの肢でまとめるで。
取消後の第三者は177条の対抗関係。
登記が必要(大判昭17.9.30)。
正しい。
解除後の第三者は177条の対抗関係。
売主は復帰的物権変動の登記がなければ対抗できない(最判昭35.11.29)。
正しい。
共同相続の場合、他の共同相続人は登記なくして自己の持分を対抗できる(最判昭38.2.22)。
問題文は「対抗できない」と言うとるから誤りや。
時効完成後の第三者は177条の対抗関係。
登記が必要(最判昭33.8.28)。
正しい。
畝井先輩にもしっかり報告できます。
実務的な整理もできました。
解除されたマンションについては、元の売主さんが復帰的物権変動の登記を済ませてるかを確認します。
共同相続の土地については、戸籍で相続人を全員確認したうえで、雄介さんだけやなく涼太さんとも交渉する必要がありますね。
お客さんに「全部の権利は取れません、半分です」と説明するんは気が重いかもしれんが、後で揉めるよりずっとマシや。[/st-kaiwa6]
[st-kaiwa6 r]はい、畝井先輩と一緒に最後まで丁寧にやります。[/st-kaiwa6]
壱星さんは深く一礼して、手帳を大事そうに胸ポケットにしまった。帰り際、こむぎちゃんに「またお邪魔します」と言うとき、ほんのわずかに間が空いた。
[st-kaiwa3 r]……ええ先輩についとるみたいやな。
畝井さんっちゅう人にも一度会うてみたいわ。
手帳がどんどん分厚くなってますし。
登記田は窓の外を見ながら、小さく苦笑した。
試験のひっかけメモ
- 解除前の第三者は登記が必要: 545条1項ただし書で保護されるが、判例上は権利保護要件としての登記が必要(大判大10.5.17)。「ただし書で保護されるから登記不要」は誤り。第三者の善意悪意は関係ない(詐欺取消し前の善意・無過失と区別)
- 解除後の第三者は177条の対抗関係: 買主を起点とした二重譲渡類似の関係で、登記を先に備えた方が勝つ(最判昭35.11.29)。第三者の善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)
- 共同相続と登記には公信力なし: 共同相続人の一人が単独相続登記をして第三者に売却しても、他の共同相続人は登記なくして自己の持分(法定相続分まで)を対抗できる(最判昭38.2.22)。「単独相続登記を信じた第三者は保護される」は誤り
- 相続放棄は絶対効: 何人に対しても登記なくして対抗できる(最判昭42.1.20、民939条)。放棄者の債権者が代位で法定相続分の登記をしても無効
- 遺産分割と民法899条の2: 平成30年改正で、遺産分割・遺贈・特定財産承継遺言いずれも、法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できない。改正前の「相続させる旨の遺言は登記不要」(最判平14.6.10)は実質的に変更された
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり、家族でモメたら全部自分のものにする裏技があるってことですね!
実家のみかんを取り戻すために私はこうします。
まず家族会議の前にこっそりみかん一個一個に自分の名前を書いて登記します!
もし姉や弟が先に食べちゃっても、それは解除後の第三者ですから、登記してた私が177条で勝ちます!
しかも母が勝手にご近所におすそ分けしちゃっても、母はみかんについては無権利者なので、ご近所さんは無権利者から受け取っただけ、私は登記なくして全部取り戻せます!
父が「箱代払ったから全部俺のもの」とか言ってきたら、法定相続分を超える部分は民法899条の2で登記が必要だから、父は登記してないので私の勝ち!
万が一私が不利になりそうなら、その場で相続放棄したことにすれば絶対効で何人に対しても登記なくして対抗できます!
世界中のみかんを登記して回ります!
登記して勝つ!
相続放棄もみかんに対してできるかい!
正確に言うで!!
解除と相続の対抗関係は、場面ごとに登記が要るか要らんか真逆になる!
解除「前」の第三者は545条1項ただし書で保護されるけど、判例は権利保護要件としての登記を要求しとる(大判大10.5.17)!
解除「後」の第三者は民法177条の対抗関係——買主を起点とした二重譲渡類似の関係や——登記を先に備えた方が勝つ(最判昭35.11.29)!
共同相続で、相続人の一人が単独相続登記をして第三者に売っても、他の共同相続人は登記なくして自己の持分を対抗できる(最判昭38.2.22)!
登記には公信力がないから、無権利者から買ったやつも無権利者や!
相続放棄は民939条で絶対効——何人に対しても登記なくして対抗できる(最判昭42.1.20)!
遺産分割は平成30年改正の民法899条の2で、法定相続分を超える部分は登記が必要になった!
平成19年問6は肢3が誤りで正解は3!
今回のまとめ
解除と相続の対抗関係は、場面ごとに登記の要否がまったく違う。基本構造は「遡及効を認めつつ第三者保護をどう図るか」という共通の悩みに対して、それぞれ違う答えを出している。解除前の第三者は545条1項ただし書で保護されるが判例は権利保護要件としての登記を要求する(大判大10.5.17)。解除後の第三者は177条の対抗関係になり登記の先後で勝負する(最判昭35.11.29)。共同相続では他の共同相続人は登記なくして自己の持分を対抗できる(最判昭38.2.22、登記に公信力なし)。相続放棄は絶対効で何人に対しても登記なくして対抗できる(最判昭42.1.20、民939条)。遺産分割では平成30年改正の民法899条の2により、法定相続分を超える部分について登記が必要となる。
①民法545条1項ただし書(解除と第三者): 解除しても第三者の権利を害することはできない。判例は解除前の第三者にも権利保護要件としての登記を要求する。第三者の善意悪意は関係ない。
②解除後の第三者: 民法177条の対抗関係になる。売主と第三者は二重譲渡類似の関係に立ち、登記を先に備えた方が所有権を取得する(最判昭35.11.29)。
③共同相続と登記: 相続財産は共同相続人の共有(民898条)。共同相続人の一人が単独相続登記をして第三者に売却しても、他の共同相続人は自己の法定相続分まで、登記なくして対抗できる(最判昭38.2.22)。日本の不動産登記には公信力がない。
④相続放棄の絶対効: 相続放棄をした者は最初から相続人でなかったとみなされる(民939条)。放棄の効力は絶対的で、何人に対しても登記なくして対抗できる(最判昭42.1.20)。
⑤遺産分割前の第三者: 民法909条ただし書で保護される。共有持分の処分は有効に第三者に承継される。
⑥遺産分割後の第三者: 平成30年改正で新設された民法899条の2により、遺産分割・遺贈・特定財産承継遺言いずれも、法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できない(令和元年7月1日施行)。改正前の最判平14.6.10は実質的に変更された。
⑦実務上の鉄則: 解除されたら即座に登記を取り戻す。共同相続の土地を扱うときは戸籍で相続人を全員確認する。遺産分割協議書がある場合も、法定相続分を超える部分は登記が前提であることを必ず説明する。
| 場面 | 登記の要否 | 根拠 |
|---|---|---|
| 解除「前」の第三者 | 必要(権利保護要件) | 545条1項ただし書、大判大10.5.17 |
| 解除「後」の第三者 | 必要(対抗要件) | 177条、最判昭35.11.29 |
| 共同相続(無権利者からの取得) | 不要 | 最判昭38.2.22 |
| 相続放棄 | 不要(絶対効) | 939条、最判昭42.1.20 |
| 遺産分割「前」の第三者 | 持分について処分有効 | 909条ただし書 |
| 遺産分割「後」(法定相続分超過部分) | 必要 | 899条の2(改正後) |
| 「177条で登記必要」一覧(既習+今回) | 主要判例・条文 |
|---|---|
| 詐欺・強迫の取消し後の第三者(第23話) | 大判昭17.9.30 |
| 解除後の第三者(今回) | 最判昭35.11.29 |
| 時効完成後の第三者(第47話) | 最判昭33.8.28 |
| 遺産分割後の法定相続分超過部分(今回) | 民法899条の2 |
| 平成19年問6 各肢 | 正誤 | 根拠 |
|---|---|---|
| 肢1(詐欺取消し後の第三者) | ◯ | 大判昭17.9.30 |
| 肢2(解除後の第三者) | ◯ | 最判昭35.11.29 |
| 肢3(共同相続と単独所有登記) | ❌ | 最判昭38.2.22(登記なくして対抗可) |
| 肢4(時効完成後の第三者) | ◯ | 最判昭33.8.28 |
| 正解:3(誤り) |