プロローグ
通販でめちゃくちゃ可愛い限定スイーツを予約したんですけど、翌日になって「やっぱりカロリーが気になる」と思って、慌ててキャンセルしたんです!
「やっぱり食べたい!」って思ってもう一度サイトを見たら、もう完売してたんです!
しかもショップに問い合わせたら「キャンセルされた分は次の予約者の方に回しました」って!
でも、キャンセル確定後は別の人に売られちゃったから、もう誰のスイーツでもなくその人のスイーツになってるんです!
同じ商品なのに、タイミングひとつで結末が全然違う!
おかしくないですか!?
決めたらサッと動かなあかん場面はようあるで。
そのとき、事務所のドアが控えめにノックされた。入ってきたのは雪宮さんだった。表情はどこか不安げで、抱えた書類袋を強く握りしめている。
土地のことで、本当に困ってしまっていて。
落ち着いて話してくれたらええよ。
雪宮さんは深く息を吐いてから、ぽつぽつと話し始めた。
郊外の住宅地で、200坪ほどの。
それを用途寅彦さんという方に売却したのですが……どうやら騙されていたみたいなんです。
「この地域は来年、市の都市計画で用途地域が変更になる予定で、地価が大きく下がる」
「今のうちに売らないと損をする」
「自分は事業用地として必要だから、相場よりは少し安いが今すぐ買い取る」とおっしゃって……。
私、不動産のことはよくわからなくて、信じてしまったんです。
相場の6割くらいの価格で売却して、所有権移転登記も済ませてしまいました。
市役所に確認したら、用途地域変更の予定なんてまったく無かったんです。
それどころか、その地域は来年再開発で地価が上がる見込みだと。
完全に騙されました。
買ったのは地役悟さんという方で、登記もすでに地役さんに移っていました。
地役さんっちゅうのはどんな人や?
それでもあえて買い取って、登記も急いで移したと。
私、まだ用途さんに対して正式に「契約を取り消します」とは言っていません。
これからどう動けばいいのか、もう何が何だかわからなくて……。
これってさっきの私のキャンセルの話と似てません!?
取消す前か取消した後かでタイミングが運命を分けるって!
スイーツと土地でスケールがえらい違うけど、タイミングが運命を分けるって話や。
取消し「前」と取消し「後」で、適用される条文も結論もガラッと変わる。
順番に整理していこか。
推理①:詐欺による取消しの基本──民法96条1項・2項
雪宮さんが用途寅彦さんとの契約を取り消せるかどうか。
これは民法96条1項が答えを出してる。
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
シンプルや。
これは典型的な詐欺や。
せやから雪宮さんは、用途さんに対して「契約を取り消します」と意思表示することで、契約を最初からなかったことにできる。
よかった。
それは第三者の詐欺ちゅう別の話になる。
民法96条2項や。
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合には、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
用途さんが何も知らんし知ることもできんかった(善意無過失)なら、用途さんを守るために、雪宮さんは取消しできへん。
改正前は「相手方が知っていたとき」だけやったけど、改正で「知ることができたとき」も追加された。
試験では狙われやすいポイントやから覚えとき。
該当する例: 詐欺による意思表示は取り消すことができる(民法96条1項)。雪宮さんが用途寅彦に騙されて土地を売却した場合、雪宮さんは売買契約を取り消すことができる。
該当しない例: 「詐欺による意思表示は最初から無効である」は誤り。詐欺による意思表示は無効ではなく取消し可能である。取消しの意思表示をしてはじめて、契約は遡って無効になる(民法121条)。
推理②:取消し「前」の第三者──民法96条3項(地役悟は悪意だから保護されない)
雪宮さんはまだ取消しをしてへん。
その取消しをする前の段階で、用途さんが地役悟さんに転売して登記まで移してしもうた。
この地役さんに対して、雪宮さんは土地を取り戻せるか。
前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
雪宮さんが取消しをしたら本来は契約は最初からなかったことになる。
せやけど、その契約を信じて買い取った第三者がおったら、その人がかわいそうやから守ったろう、と。
ただし守られるのは「善意でかつ過失がない」第三者だけや。
善意は「詐欺の事実を知らなかった」、無過失は「知らなかったことに落ち度がなかった」。
両方そろってはじめて保護される。
逆に言うと、悪意(知っていた)か、有過失(知ることができたのに知らなかった)なら、保護されへん。
それでも買ったと。
地役悟さんは悪意やから、96条3項では保護されへん。
雪宮さんは取消しの意思表示をすれば、地役さんに対して土地の返還を請求できる。
地役さんは登記をすでに自分名義にしてるんですよね?
前に勉強した「不動産は登記したもん勝ち」のルールはどうなるんですか?
これが今回の最大のひっかけや。
ここでは登記の有無は関係ない。
前回やった民法177条の「二重譲渡で先に登記した方が勝つ」っていうのは、対抗関係の話。
せやけど取消し前の第三者の問題は、177条の対抗関係やなくて、96条3項の第三者保護の問題なんや。
書いてあるのは「善意でかつ過失がない」だけ。
せやから地役さんが登記を備えていようがいまいが、地役さんが悪意である以上、雪宮さんは取消しを地役さんに対抗できる。
これは令和元年の宅建試験問2でも出題された論点や。
地役さんが善意無過失なら、96条3項で保護される。
雪宮さんは取消しを地役さんに対抗できへん。
土地は地役さんのもののままや。
雪宮さんは用途寅彦さんに対して損害賠償を請求するしかなくなる。
それと、ついでに言うとくと、錯誤の場合も同じ構造や。
民法95条4項にも「錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と書いてある。
詐欺と錯誤は被害者にも多少の落ち度があるという建前やから、第三者の保護要件が「善意無過失」と少し厳しめになっとる。
該当する例: 詐欺取消し前に第三者が現れた場合、その第三者が悪意または有過失であれば、被詐欺者は登記を備えていなくても取消しを対抗できる。
第三者が登記を先に備えていても結論は変わらない(民法96条3項の反対解釈)。
該当しない例: 「詐欺取消し前の第三者が登記を備えていれば、悪意であっても保護される」は誤り。
96条3項は対抗要件の問題ではなく第三者保護の問題なので、登記の有無ではなく第三者の善意無過失の有無で決まる。
推理③:取消し「後」の第三者──民法177条の対抗関係(背信的悪意者でなければ登記の先後で決まる)
雪宮さん、今のあんたはまだ取消しをしてへん段階や。
せやから地役悟さんとの関係は96条3項の話やった。
これは雪宮さんが今後動くときの判断材料にもなる。
雪宮さんが先に用途寅彦さんに「契約を取り消します」と意思表示をしたとしよう。
これで雪宮さんと用途さんの売買契約は最初からなかったことになって、土地の所有権は雪宮さんに戻ってくる。
その間に、用途さんが日影誠司っちゅう別の人に土地を売却して、登記まで移してしもうた。
日影さんは詐欺のことなんか何も知らん善意の人や。
今度は答えがガラッと変わるで。
取消し後の第三者には、もはや96条3項は適用されへん。
代わりに民法177条の対抗関係で処理される。
これは大判昭和17年9月30日の判例で確立された考え方や。
雪宮さんが取消しをすると、土地の所有権が用途さんから雪宮さんに「戻ってくる」。
これを復帰的物権変動と呼ぶ。
一方、用途さんは日影さんにも土地を売っとる。
せやから用途寅彦さんを起点として、雪宮さんと日影さんの二重譲渡類似の関係ができあがる。
前回の事件でやった、二重譲渡の話と同じ構造や。
先に登記を備えた方が勝つ。
日影さんはすでに登記を移しとる。
雪宮さんは取消しをしただけで登記を戻してへん。
せやから日影さんが勝って、雪宮さんは負ける。
これが対抗関係の世界の冷たさや。
取消し後の第三者の善意・悪意は関係ない。
日影さんが詐欺のことを知っていても、登記を先に備えれば勝つのが原則や。
ただし例外がひとつだけある。
それが背信的悪意者や。
雪宮さんが取消しをして登記が戻ってないことをいいことに、雪宮さんを害する目的で割り込んできたような、自由競争の範囲を超えた悪質な相手や。
背信的悪意者は177条の「第三者」から除外されて、登記がなくても雪宮さんが勝てる。
立証も難しい。
せやから実務では取消しをしたら即座に登記を戻すことが鉄則や。
先に登記を備えた方が勝つのが177条の世界やから、雪宮さんが先に登記を戻しとけば、日影さんが何人現れても雪宮さんの勝ちや。
取消し前は96条3項の世界——第三者の善意無過失だけが問題、登記は関係ない。
取消し後は177条の世界——登記の先後だけが問題、善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)。
同じ「第三者」でも、登場するタイミングひとつで適用条文も結論も真逆になる。
該当する例: 詐欺取消し後に第三者が現れて登記を備えた場合、被詐欺者と第三者は対抗関係に立ち、登記を先に備えた方が所有権を取得する。第三者が背信的悪意者でない限り、第三者の善意・悪意は問わない(民法177条、大判昭17.9.30)。
該当しない例: 「詐欺取消し後の第三者が悪意であれば、被詐欺者は登記を備えなくても所有権を主張できる」は誤り。単なる悪意では足りず、背信的悪意者でなければ第三者は保護される。被詐欺者は登記を先に備える必要がある。
事件の結論
地役さんが登記を備えとっても関係ない。
民法96条3項は「善意でかつ過失がない第三者」しか守らんから、悪意の地役さんは保護されへん。
地役さんは「自分は善意無過失や」と主張してくる可能性が高い。
せやから、地役さんが詐欺の事実を知っとった証拠——用途さんとの会話の記録、メール、共通の知人の証言——をしっかり集めとく必要がある。
これは弁護士に相談して動いた方がええ。
用途さんに対して取消しの意思表示をしたら、その瞬間から世界が変わる。
今後さらに別の人に転売されたとき、取消し後やと96条3項やのうて177条の対抗関係になる。
せやから取消しと同時に登記を戻す手続きも進めなあかん。
今回は詐欺の話やったけど、もしこれが詐欺やのうて強迫やったら、話はもっと雪宮さんに有利になる。
民法96条3項は詐欺の場合だけの規定やから、強迫の場合は善意の第三者にも取消しを対抗できる。
被害者の落ち度の重さが違うっちゅうのが立法の建前や。
ただし取消し後の第三者との関係は、強迫でも177条の対抗関係になる点は同じやで。
まずは弁護士の先生に相談して、地役さんが悪意であった証拠を集めながら、用途さんへの取消しの通知と登記の回復手続きを同時並行で進めるんですね。
タイミングと順番が命や。
動くときは一気に動きや。[/st-kaiwa5]
[st-kaiwa5 r]ありがとうございます……。
話を聞いていただいて、心が落ち着きました。
これで前に進めそうです。[/st-kaiwa5]
雪宮さんが帰った後、こむぎちゃんは少し考え込んだ顔で湯のみを見つめていた。
[st-kaiwa1]登記田さん、結局のところ、騙された人が速さで勝負しないといけないって、なんだか切ないですね……。[/st-kaiwa1]
[st-kaiwa3 r]せやな。
法律は被害者を守りつつも、取引の安全のために第三者も守らなあかん。
両立させるためにこういう細かいルールができとるんや。
冷たいように見えて、ちゃんと理屈が通っとる。
試験のひっかけメモ
- 96条3項の第三者は「善意でかつ過失がない」者: 改正前は「善意」だけでよかったが、2020年の改正で「無過失」も必要になった。悪意または有過失の第三者は保護されない。「善意であれば保護される」は古い知識
- 取消し前の第三者との関係は対抗関係ではない: 96条3項の問題なので、登記の有無は関係ない。第三者の善意無過失の有無だけで決まる。「取消し前の第三者が登記を備えていれば保護される」は誤り
- 取消し後の第三者との関係は177条の対抗関係: 登記を先に備えた方が勝つ。第三者の善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)。「取消し後の第三者が悪意なら被詐欺者が勝つ」は誤り
- 強迫には96条3項が適用されない: 強迫の場合、取消し前の善意の第三者にも対抗できる。ただし取消し後の第三者との関係は強迫でも177条の対抗関係になる
- 錯誤も詐欺と同じ構造: 錯誤取消しも、取消し前の善意無過失の第三者には対抗できない(民法95条4項)。取消し後は177条の対抗関係になる
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり、騙されたら速さが命ってことですね!
ということは、これからの私はこうします。
通販で何か買ったら、注文ボタンを押した瞬間にショップに電話して「絶対キャンセルしません!」って宣言して、配送業者にも電話して「絶対他の人に渡さないで!」って念押しして、家のポストの前に三日三晩座り込んで配達員さんを待ち伏せして、商品が届いた瞬間に「私のものです!登記しました!対抗関係でも勝ちました!」って高らかに宣言します!
速さで勝負!
これで二重譲渡されても私の勝ち!
法律は速い人の味方です!
ポストには登記もクソもないわ!
正確に言うで!!
詐欺による意思表示は取り消すことができる(民法96条1項)!
相手方以外の第三者が詐欺をした場合は、相手方が悪意または善意有過失のときに限って取消しできる(民法96条2項)!
取消し前の第三者には民法96条3項——善意でかつ過失がない第三者にだけ取消しを対抗できへん。悪意または有過失なら登記があっても勝てへん!これは対抗関係やないから登記の有無は関係ない!一方取消し後の第三者とは民法177条の対抗関係になる——登記を先に備えた方が勝つ!第三者の善意悪意は関係ない(背信的悪意者を除く)!せやから取消しをしたら即座に登記を戻すべし!強迫の場合は96条3項は適用されんから善意の第三者にも対抗できる、ただし取消し後は強迫でも177条の対抗関係や!錯誤も同じ構造で95条4項が適用される!
今回のまとめ
詐欺による意思表示は取り消すことができる(民法96条1項)。第三者が詐欺を行った場合、相手方が悪意または有過失であるときに限って取消しできる(民法96条2項)。詐欺取消しと第三者との関係は、第三者が登場したタイミングによって適用条文と判断基準がまったく異なる。取消し前に登場した第三者については民法96条3項が適用され、第三者が善意でかつ過失がない場合に限り保護される(登記の有無は関係ない)。取消し後に登場した第三者については民法177条の対抗関係になり、登記を先に備えた方が所有権を取得する(第三者の善意悪意は関係なく、背信的悪意者のみ例外)。
①民法96条1項(取消しの基本): 詐欺による意思表示は取り消すことができる。
②民法96条2項(第三者の詐欺): 第三者が詐欺を行った場合、相手方が悪意または善意有過失であるときに限り取消しできる。
③民法96条3項(取消し前の第三者): 詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。悪意または有過失の第三者には対抗できる。登記の有無は関係ない。
④民法177条(取消し後の第三者): 取消し後の第三者との関係は対抗関係に立つ(大判昭17.9.30)。登記を先に備えた方が所有権を取得する。第三者の善意悪意は関係ない。
⑤背信的悪意者の例外: 取消し後の第三者でも、自由競争の範囲を超えた背信的悪意者は177条の「第三者」から除外され、登記なしでも被詐欺者が勝つ。
⑥強迫との違い: 96条3項は詐欺だけの規定で、強迫には適用されない。強迫の場合、取消し前の善意の第三者にも対抗できる。ただし取消し後の第三者との関係は強迫でも177条の対抗関係になる。
⑦錯誤の場合: 錯誤取消しも詐欺と同じ構造で、取消し前の善意無過失の第三者には対抗できない(民法95条4項)。取消し後は177条の対抗関係。
⑧実務上の鉄則: 取消しの意思表示をしたら即座に登記を戻す。タイミングを逃すと、後から現れた第三者に登記で先を越されて負ける可能性がある。
| 項目 | 取消し前の第三者 | 取消し後の第三者 |
|---|---|---|
| 適用条文 | 民法96条3項 | 民法177条 |
| 判断基準 | 第三者の善意無過失 | 登記の先後 |
| 登記の要否 | 関係ない | 必要 |
| 第三者の善意悪意 | 重要(悪意なら保護されない) | 関係ない(背信的悪意者を除く) |
| 関係性 | 第三者保護の問題 | 対抗関係 |
| 取消原因 | 取消し前の第三者 | 取消し後の第三者 |
|---|---|---|
| 詐欺 | 善意無過失なら保護(96条3項) | 対抗関係(177条) |
| 強迫 | 第三者は保護されない | 対抗関係(177条) |
| 錯誤 | 善意無過失なら保護(95条4項) | 対抗関係(177条) |
| ケース | 結論 |
|---|---|
| 取消し前の悪意の第三者(登記あり) | 被詐欺者が勝つ(96条3項の反対解釈) |
| 取消し前の善意無過失の第三者 | 第三者が勝つ(96条3項) |
| 取消し後の善意の第三者(登記あり) | 第三者が勝つ(177条) |
| 取消し後の悪意の第三者(登記あり、背信的悪意者でない) | 第三者が勝つ(177条) |
| 取消し後の背信的悪意者(登記あり) | 被詐欺者が勝つ(177条の例外) |