プロローグ
朝の事務所。こむぎちゃんが、スマホを片手にぶつぶつ言いながら入ってきた。
昨日、ネットバンキングにログインしようとしたらパスワード忘れちゃってて。
3回間違えてロックかかったんです。
こむぎちゃん、定期的にやっとるな、それ。
さらに「登録メールアドレスに通知を送るのでそこに表示される番号を読み上げてください」って。
もう本人確認の総力戦ですよ!
銀行も簡単には信じてくれへん。
その間ずっとお金おろせないんですよ?
週末を挟むから実質1週間ですよ!
こむぎちゃん、財布の中身は大丈夫やったんか。
お給料日前だったのが運の尽きで……。
これからはパスワード管理アプリ入れます。
もう絶対忘れない人生を生きていきます!
でも、こむぎちゃんが忘れんかったためしがないからなぁ。
そのとき、事務所のドアが軽くノックされた。
ちょっとご相談に伺いました。
入ってきたのは南向壱星。丸山ハウジング不動産部門の若手営業で、宅建勉強中の青年だ。こむぎちゃんの顔を見た瞬間、表情がふっと緩んだ。
コーヒー淹れますね。
壱星はメモ帳を取り出して、ソファに腰を下ろした。
買主は境界 正(さかい ただし)さん——前にも何度かお話ししたお客さんで、今回も住み替えで土地を購入されるんです。
売主は外構 達也(がいこう たつや)さんという方で、ご自宅の隣の土地を手放したいと。
「登記識別情報通知書、引っ越しの時のドサクサでどこかにやってしまったみたいだ」と言われまして。
当時その土地を取得した時に法務局からもらった、あの目隠しシールが貼ってある書類です。
そのまま外構さんに「司法書士さんに頼めば大丈夫らしいので、登記識別情報の提供はしなくて構いません」って答えてしまったんです。
本当にそうなんでしょうか?
司法書士さんに頼んだら、登記識別情報は出さなくていいんでしょうか。
さっきの私のネットバンキングの話と似てません?
パスワード一個忘れただけで、運転免許証から公共料金の領収書まで総動員してやっと本人確認!
登記識別情報も同じで、なくしたらなくしたで別のちゃんとした手続きが要るってことで、司法書士さんに頼んだら全部チャラ、なんていう便利な話にはならないってことですか!?
今日のこむぎちゃん、すでに核心ついとるな。
第52話で権利登記は登記権利者と登記義務者の共同申請が原則っちゅう話をしたな。
今日は、その共同申請するときに「何を法務局に提供するんか」っちゅう中身の話や。
①申請情報
②登記原因証明情報
③登記識別情報
今日見る令和4年問14は、まさにこの3点セットの中身を細かく問うとる問題や。
壱星さんが外構さんに答えてしもた件も、この問題の中にズバリ含まれとる。
順に潰していこか。
外構さんへの回答は今日中に訂正しないといけないので、しっかり整理させてください。
今日の事件:令和4年 問14
不動産の登記に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
- 所有権の移転の登記の申請をする場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。
- 所有権の移転の登記の申請をする場合において、当該申請を登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってするときは、登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由があるとみなされるため、登記義務者の登記識別情報を提供することを要しない。
- 所有権の移転の登記の申請をする場合において、登記権利者が登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をしたときは、当該登記に係る登記識別情報は通知されない。
- 所有権の移転の登記の申請をする場合において、その登記が完了した際に交付される登記完了証を送付の方法により交付することを求めるときは、その旨及び送付先の住所を申請情報の内容としなければならない。
この4つのうち、1つだけが嘘や。
今日の本丸は設問2——壱星さんが外構さんに答えてしもた「司法書士さんに頼めば登記識別情報なしでOK」のところや。
ここを軸にして、残りの設問は「ついでに整理しとこ」の形で見ていくで。
推理①:権利登記の申請に必要な3点セット——申請情報・登記原因証明情報・登記識別情報
第52話の復習:権利登記は共同申請が原則
これが頭に入っとらんと、今日の話の足場がぐらつくからな。
表題登記とか分筆登記とかな。
売買による所有権移転登記がその典型やな。
登記権利者が買主の境界さんで、登記義務者が売主の外構さん。
で、今日はその次の段階——共同で申請するときに、法務局に何を持って行かなあかんのかっちゅう中身の話や。
申請に必要な3点セット
| 提供するもの | 根拠条文 | 役割 |
|---|---|---|
| ①申請情報 | 不動産登記法18条 | 「こういう登記をしてください」という申請の中身そのもの |
| ②登記原因証明情報 | 不動産登記法61条 | 「なぜその登記をするのか」の理由を証する情報(売買契約書など) |
| ③登記識別情報 | 不動産登記法22条 | 登記義務者が本人であることを確認するパスワード |
①申請情報——「申請書」の中身
不動産登記法18条にある。
不動産登記法18条(申請の方法) 登記の申請は、(中略)次に掲げる方法のいずれかにより、不動産を識別するために必要な事項、申請人の氏名又は名称、登記の目的その他の登記の申請に必要な事項として法令で定める情報(以下「申請情報」という。)を登記所に提供してしなければならない。
電子申請が原則やから「申請情報の提供」っちゅう表現になっとるけど、書面申請やったら「申請書を提出する」イメージでええ。
どんな登記でも申請する以上、申請の中身を伝えな話にならんからな。
②登記原因証明情報——「なぜその登記をするのか」を証する情報
これは権利に関する登記の申請に特有のもんやで。
表示登記では原則として要らん。
不動産登記法61条(登記原因証明情報の提供) 権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。
売買、贈与、相続、抵当権設定、こういう「なぜ」の部分やな。
登記原因証明情報としては売買契約書を提供する。
これがあることで、登記官は「ほな本当に売買があったんやな」と判断できる。
登記官には形式的審査権しかなくて、書類の形式が整っとるかしか見られんから、こうやって裏付けとなる原因情報を出さんと、登記してくれへんっちゅうことや。
「法令に別段の定めがある場合を除き」の例外
これは、登記原因証明情報が要らんパターンもあるっちゅうことや。
試験で出る代表は所有権保存登記やな。
不動産登記法74条1項1号で表題部所有者が申請する場合は、登記原因証明情報は不要や。
設問1の判定
令和4年 問14 設問1 所有権の移転の登記の申請をする場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。
該当する例: 外構達也さんが境界正さんに土地を売却 → 売買契約書を登記原因証明情報として提供(不動産登記法61条)
該当しない例: 表題部所有者が所有権保存登記を申請(不動産登記法74条1項1号)→ 「別段の定めがある場合」にあたり、登記原因証明情報は不要
推理②:登記識別情報という「12桁のパスワード」——設問2の本丸
登記識別情報とは——平成16年改正で登場した本人確認の仕組み
3点セットの3つ目、登記識別情報。
壱星さんが外構さんに答えてしもた件は、まさにここに直結する。
平成16年(2004年)の改正で、それまでの「登記済証(通称:権利証)」に代わって導入された。
登記名義人が「自分は本当に本人ですよ」と証明するためのパスワードみたいなもんやな。
あの中に12桁の英数字が印刷されているんですか。
登記が完了したときに、新しく登記名義人になった人に対して登記官から通知される
。 通知書はシールで目隠しされとって、本人がはがして確認する仕組みになっとる。
古い権利証と新しい登記識別情報通知書は併存しとる。
これは試験のひっかけで出やすいから覚えとき。
不動産登記法21条——登記識別情報の通知
不動産登記法21条(登記識別情報の通知) 登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において、当該登記を完了したときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該申請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない。ただし、当該申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合その他の法務省令で定める場合は、この限りでない。
- 原則:登記が完了したら、新しく登記名義人になる申請人に対して、登記識別情報が通知される
- 例外:あらかじめ「通知を希望しない」と申し出ていた場合は通知されない
パスワードなんだから普通もらいたくないですか?
理由はいくつかあって、たとえば「管理が面倒」「漏洩が怖いから持ちたくない」っちゅう理由で希望せんことがあるんや。
登記識別情報は紙で持っとると盗難・紛失のリスクがある。 最初から持たへんことを選択する人もおる、っちゅうこっちゃ。
設問3の判定
令和4年 問14 設問3 所有権の移転の登記の申請をする場合において、登記権利者が登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をしたときは、当該登記に係る登記識別情報は通知されない。
不動産登記法22条——登記識別情報の提供(設問2の本丸)
不動産登記法22条(登記識別情報の提供) 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合(中略)には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者の登記識別情報を提供しなければならない。ただし、当該登記識別情報が通知されなかった場合その他の正当な理由がある場合は、この限りでない。
これがあって初めて登記官は「ほな確かに本人や」と判断できる。
新しく権利を得る側じゃなく、権利を失う側=今までの登記名義人が本人確認されるんや。
売買やったら売主、抵当権設定やったら所有者が本人確認される側になる。
「正当な理由」とは何か——3つの典型
ここが設問2のキモやで。
具体的な典型はこういうケースや。
- 典型①:通知を希望しない旨の申出をしていた(21条ただし書による不通知)→ そもそも持っとらんから提供しようがない
- 典型②:登記識別情報が失効している(不動産登記規則65条の失効申出をした場合)→ 漏洩が怖くて自分から失効させた場合など
- 典型③:登記識別情報が記載された書面を紛失して、提供したくてもできない
引っ越しの時にどこかにやってしまった。
外構さんは紛失しとるから、22条の「正当な理由」にあたって、登記識別情報の提供は不要や。
ただしや。
それで「提供しなくてええから何もせんでええ」っちゅう話にはならん。
提供できない時の代替ルート——不動産登記法23条
これが不動産登記法23条の世界や。
不動産登記法23条1項(事前通知等) 前条本文の場合において、申請人が登記義務者の登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由があるときは、登記官は、(中略)当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは(中略)法務省令で定める期間内に申し出るべき旨を通知しなければならない。
登記識別情報がないときの第一のルートや。
不動産登記法23条4項1号 司法書士(中略)その他の資格者代理人による申請の場合において、当該資格者代理人が当該申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報を提供し、かつ、登記官がその情報の内容を相当と認めるとき。
司法書士などの資格者代理人が、申請人の本人確認をきっちりやって、その結果を本人確認情報として書面化して登記所に提供する。
これが認められれば、事前通知を省略できる。
正しくは「司法書士による本人確認情報を提供すれば、事前通知の代わりになる」ということだったんですね。
ここがめちゃくちゃ大事やから、もう一回整理するで。
司法書士に頼んだだけでは、依然として登記識別情報の提供義務は残っとる。
- そもそも持っとらん(通知を希望せんかった)
- 失効させた
- 紛失等で提供できへん
——っちゅう「情報そのものについて正当な理由がある場合」だけや。
そして、その場合は事前通知か、資格者代理人による本人確認情報の提供っちゅう代替ルートを使う必要がある。[/st-kaiwa3]
設問2の判定
令和4年 問14 設問2 所有権の移転の登記の申請をする場合において、当該申請を登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってするときは、登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由があるとみなされるため、登記義務者の登記識別情報を提供することを要しない。
「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」っちゅうのは資格者代理人——つまり司法書士などのことやな。
あくまで「登記識別情報そのものについて正当な理由」がある場合に提供が省略されるだけや。
読み手が「あ、そういえば司法書士が関わると何か特別な処理があったような気がする」と思って「正しい」と答えてしまうように作ってある、典型的なひっかけ問題や。
「司法書士さんに頼んでも、登記識別情報の提供義務そのものはなくなりません。
ただし、紛失されているなら、それが22条の正当な理由にあたるので、事前通知か司法書士による本人確認情報の提供で代替できます」と。
壱星さん、よう整理できとる。
該当する例: 外構さんが登記識別情報を紛失 → 22条ただし書の「正当な理由」にあたり提供不要。ただし、事前通知(23条1項)か、司法書士による本人確認情報の提供(23条4項1号)で本人確認を行う
該当しない例: 外構さんが登記識別情報を持っているのに「司法書士さんに頼んだから」という理由で提供を省略 → 「司法書士に頼んだ」ことは正当な理由にあたらず、提供義務は残る
推理③:残り1つの設問——「もしもこういう場合」の補足整理
設問4:登記完了証の送付——「もしも郵送で受け取りたかったら」
これは推理②で見たな。
それとは別に、登記完了証っちゅうもんも交付される。
登記完了証は「こういう登記が完了しましたよ」っちゅう完了通知の書面で、申請人全員(登記権利者・登記義務者の両方)に交付される。
登記識別情報通知書は新しく登記名義人になった人だけに交付される。
役割がちゃう。
郵送を希望する場合は、申請情報の段階で「郵送してください、送り先はここです」と申し出る必要があるんや。
不動産登記規則182条2項 法第18条の規定により申請情報を登記所に提供する方法(中略)により登記の申請をした者が、当該申請に係る登記完了証の交付を送付の方法によりすることを請求するときは、その旨及び送付先の住所を申請情報の内容としなければならない。
郵送で送ってほしいなら、住所を申請情報に書いとかんと、法務局は送りようがない。
令和4年 問14 設問4 所有権の移転の登記の申請をする場合において、その登記が完了した際に交付される登記完了証を送付の方法により交付することを求めるときは、その旨及び送付先の住所を申請情報の内容としなければならない。
設問4は正しい。
該当する例: 登記完了証を郵送で受け取りたい場合 → 申請情報に「送付による交付を希望する旨」と「送付先住所」を記載(不動産登記規則182条2項)
該当しない例: 申請情報に何も書かないと、登記完了証は登記所での交付になる。「申請したから自動的に郵送される」わけではない
推理④:3点セットの全体地図
| 提供するもの | 何を | いつ | 根拠 | 例外・補足 |
|---|---|---|---|---|
| ①申請情報 | 不動産・申請人・登記の目的等 | 申請のとき | 不登法18条 | 表示登記・権利登記の双方に共通 |
| ②登記原因証明情報 | 登記原因を証する情報(売買契約書等) | 申請のとき | 不登法61条 | 所有権保存登記(74条1項1号)など、別段の定めがある場合は不要 |
| ③登記識別情報 | 12桁の英数字(登記義務者のもの) | 申請のとき | 不登法22条 | 正当な理由があるときは不要。代替ルートは事前通知(23条1項)・資格者代理人による本人確認情報(23条4項1号)等 |
| 登記識別情報まわりの整理 | ルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 通知(新規取得時) | 登記が完了したら登記名義人になる申請人に通知 | 不登法21条本文 |
| 通知の例外 | あらかじめ通知を希望しない旨の申出があれば通知しない | 不登法21条ただし書 |
| 提供(次の登記時) | 登記義務者の登記識別情報を提供 | 不登法22条本文 |
| 提供の例外 | 通知されなかった場合その他の正当な理由がある場合は不要 | 不登法22条ただし書 |
| 代替ルート① | 事前通知(登記官から登記義務者へ本人限定受取郵便) | 不登法23条1項 |
| 代替ルート② | 資格者代理人による本人確認情報の提供 | 不登法23条4項1号 |
| 代替ルート③ | 公証人による認証 | 不登法23条4項2号 |
| 失効申出 | 漏洩等のおそれがあるとき、登記識別情報を失効させられる | 不登法規則65条 |
お客さんから「登記識別情報がない」と言われた時、まずこの表で対応を整理できますね。
ポイントは「司法書士が関わる」っちゅう事実そのものは、登記識別情報の提供義務を消す理由にならんっちゅうことや。
あくまで「情報そのものを提供できない正当な理由」があって初めて22条ただし書が発動する。
そこを混同せん限り、設問2のひっかけにはハマらん。
事件の結論
令和4年問14の4つの設問や。
正しい。
正当な理由になるのは、通知を希望しなかった場合、失効させた場合、紛失等で提供できない場合などの「情報そのものについて正当な理由がある場合」だけや。
この設問は誤りで、外構さんの件も、登記識別情報の紛失こそが正当な理由になっとる。
正しい。
正しい。
外構さんには「司法書士に頼むこと自体は登記識別情報の提供を不要にはしないが、紛失されているなら22条の正当な理由にあたるので、事前通知か司法書士による本人確認情報で代替できる」と訂正してお伝えします。
今日中に連絡します。
畝井先輩にも報告しといて、社内でこのひっかけパターンを共有しとき。
先輩、こういう改正前後の話には特に厳しいので、しっかり押さえておかないと。
頑張ってくださいねー。
こむぎちゃんもありがとうございました。
コーヒーごちそうさまでした。
壱星はメモ帳を大事そうにしまうと、こむぎちゃんの方をちらっと見てから、丁寧に頭を下げて事務所を出て行った。
コーヒーは飲み干したのに、なんで毎回名残惜しそうに振り返るんやろうな。
何が分かりやすいんですか?
こむぎちゃんは、そのままでええわ。
試験のひっかけメモ
- 登記済証と登記識別情報の併存: 平成16年改正で登記済証から登記識別情報に変わったが、改正前に交付された登記済証は今でも有効。両者は併存している。「平成16年以降は登記済証は使えない」は誤り
- 22条ただし書の「正当な理由」の中身: 「司法書士が代理する」「忘れている」「面倒くさい」は正当な理由ではない。正当な理由になるのは、①あらかじめ通知を希望しなかった、②失効申出により失効させた、③紛失等で提供できない、といった「情報そのものについて」の事情。設問2のひっかけポイント
- 登記識別情報の代替ルートは3つ: ①事前通知(不登法23条1項、登記官から登記義務者への本人限定受取郵便)、②資格者代理人による本人確認情報の提供(同条4項1号、司法書士などが本人確認を書面化)、③公証人による認証(同項2号)
- 登記識別情報は「登記義務者」のもの: 売買の所有権移転登記やったら、提供するのは**売主(登記義務者)**の登記識別情報。買主のものではない。「新しく権利を得る側じゃなく、権利を失う側が本人確認される」と覚える
- 登記完了証と登記識別情報通知書の違い: 登記完了証は申請人全員に交付される完了通知。登記識別情報通知書は新しく登記名義人になった人だけに交付されるパスワード書面。役割が違う
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
今日の教訓は—— パスワードを忘れたら本人確認の総力戦ってことですよね!
私がネットバンキングのパスワードを忘れた時、運転免許証と保険証と公共料金の領収書を全部送って、その上1週間銀行とにらめっこする羽目になった!
外構さんも全く同じで、登記識別情報をなくしちゃったらなくしちゃったで、ちゃんと別ルートで本人確認しないといけない!
登記識別情報を出すのが正規ルート、出せない時は法務局から郵便を送ってもらう(事前通知)か、司法書士さんに本人確認を書面でしてもらう(本人確認情報)か、しないといけない!
つまり、登記の世界はパスワード社会で、申請情報は「お申込みフォーム」、登記原因証明情報は「申込み理由書」、登記識別情報は「本人パスワード」、登記完了証は「登録完了通知」、で、登録完了通知は郵送希望なら住所をちゃんと書かないと取りに行かされる!
だから私もパスワード管理アプリ入れます!
そして同じパスワードを冷蔵庫に貼っとけば二重で安心ですね!
それ二重に危ないだけや、絶対やめとき!
正確に言うで!!
権利に関する登記の申請には3点セットが要る——
①申請情報(不動産登記法18条)
②登記原因証明情報(61条、別段の定めがある場合は不要)
③登記義務者の登記識別情報(22条、正当な理由があるときは不要)!
登記識別情報は平成16年改正で導入された12桁のパスワードで、登記が完了したときに新しい登記名義人に通知される(21条本文)が、あらかじめ通知を希望しない旨の申出があれば通知されへん(21条ただし書)!
次の登記の時はこの登記識別情報を提供して本人確認するけど、通知されんかった場合や紛失・失効など「情報そのものについて」正当な理由がある場合は提供不要(22条ただし書)!
提供できんときの代替ルートは、事前通知(23条1項)と資格者代理人による本人確認情報の提供(23条4項1号)!
ここで大事なんは、「司法書士が代理した」っちゅう事実そのものは22条ただし書の正当な理由にはあたらん!
あくまで「情報そのもの」を提供できない事情がある場合だけや!
それから登記完了証は申請人全員に交付される完了通知書面で、郵送希望ならその旨と送付先住所を申請情報の内容とせなあかん(不動産登記規則182条2項)!
令和4年問14は設問2が誤りで正解は2!
そして、パスワードは絶対に冷蔵庫に貼ったらアカン!!
今回のまとめ
不動産登記法における権利に関する登記の申請には、原則として3点セット——①申請情報、②登記原因証明情報、③登記識別情報——の提供が必要である。第52話で扱った「共同申請の原則」(不動産登記法60条)が「誰が申請するか」の枠組みであったのに対し、第53話のテーマは「申請する時に何を提供するか」という中身の話。令和4年問14は、この3点セットそれぞれの内容と、特に登記識別情報まわりのひっかけを横断的に問う典型問題であり、最頻出論点である「資格者代理人による申請と登記識別情報の提供義務との関係」が設問2で正面から問われている。
①申請情報(不動産登記法18条): 「どの不動産について、誰が、何の登記を、なぜしたいのか」を法務局に伝える情報。電子申請が原則のため「申請情報の提供」と表現されるが、書面申請における「申請書の提出」のイメージ。表示登記・権利登記の双方に共通する。
②登記原因証明情報(不動産登記法61条): 権利登記の申請に特有の情報で、登記原因(売買、贈与、相続、抵当権設定など)を証する情報。売買であれば売買契約書、相続であれば遺産分割協議書などがこれにあたる。登記官の形式的審査権を補完して登記の真正を担保する役割を持つ。「法令に別段の定めがある場合」、たとえば所有権保存登記(不動産登記法74条1項1号)では不要。
③登記識別情報(不動産登記法22条): 平成16年改正で登記済証に代わって導入された12桁の英数字で、登記名義人本人を確認するパスワードに相当する。通知のルール(21条):登記が完了したとき、新たに登記名義人となる申請人に通知される(本文)。ただし、あらかじめ通知を希望しない旨の申出があれば通知されない(ただし書)。提供のルール(22条):次の登記の時、登記義務者の登記識別情報を提供しなければならない(本文)。ただし、通知されなかった場合その他の正当な理由がある場合は提供を要しない(ただし書)。
④「正当な理由」の中身と最頻出ひっかけ: 22条ただし書の「正当な理由」とは、①そもそも通知を希望しなかった、②失効申出により失効させた(不動産登記規則65条)、③紛失等で提供できない、といった「情報そのものについて」の事情に限られる。「司法書士などの資格者代理人による申請」という事実そのものは正当な理由にあたらない。設問2はこの点を「資格者代理人による本人確認情報の提供」(23条4項1号)とひっかけて問うており、令和4年問14の最頻出ポイントである。
⑤提供できない場合の代替ルート: 登記識別情報を提供できない正当な理由がある場合、本人確認は別ルートで行う。①事前通知(不動産登記法23条1項、登記官から登記義務者への本人限定受取郵便で本人確認)、②資格者代理人による本人確認情報の提供(同条4項1号、司法書士などが本人確認を書面化)、③公証人による認証(同項2号)。
⑥登記完了証と送付(不動産登記規則182条2項): 登記完了証は申請人全員に交付される完了通知書面(登記識別情報通知書とは別物)。郵送による交付を希望する場合は、その旨と送付先住所を申請情報の内容とする必要がある。
⑦実務上の鉄則: 「お客さんが登記識別情報を紛失した」と言われたら、まず22条ただし書の「正当な理由」にあたることを確認し、次に代替ルート(事前通知か司法書士による本人確認情報か)の選択を司法書士と相談する。「司法書士に頼んだから登記識別情報は要らない」と即断してはいけない。
| 権利登記の3点セット | 内容 | 根拠条文 | 例外・補足 |
|---|---|---|---|
| ①申請情報 | 不動産・申請人・登記の目的等 | 不登法18条 | 表示登記・権利登記の双方に共通 |
| ②登記原因証明情報 | 売買契約書・遺産分割協議書等 | 不登法61条 | 別段の定めがある場合は不要(所有権保存登記の74条1項1号申請等) |
| ③登記識別情報 | 登記義務者の12桁英数字 | 不登法22条 | 正当な理由があるときは不要、代替ルートあり |
| 登記識別情報まわりの整理 | ルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 通知(新規取得時) | 登記が完了したら申請人に通知 | 不登法21条本文 |
| 通知の例外 | あらかじめ希望しない旨の申出 | 不登法21条ただし書 |
| 提供(次の登記時) | 登記義務者の登記識別情報を提供 | 不登法22条本文 |
| 提供の例外 | 正当な理由がある場合は不要 | 不登法22条ただし書 |
| 「正当な理由」の典型 | 通知不希望/失効/紛失等 | 解釈 |
| 「正当な理由」にあたらない | 資格者代理人による申請であること | 22条ただし書の解釈 |
| 代替ルート① | 事前通知(本人限定受取郵便) | 不登法23条1項 |
| 代替ルート② | 資格者代理人による本人確認情報 | 不登法23条4項1号 |
| 代替ルート③ | 公証人による認証 | 不登法23条4項2号 |
| 登記識別情報と登記完了証の違い | 登記識別情報通知書 | 登記完了証 |
|---|---|---|
| 交付対象 | 新たに登記名義人となる申請人 | 申請人全員 |
| 役割 | 本人確認のパスワード | 登記完了の通知 |
| 根拠 | 不登法21条 | 不登法規則181条等 |
| 郵送希望時 | 規則で別途定め | 申請情報に送付先住所等を記載(規則182条2項) |
| 令和4年問14 各設問 | 正誤 | 根拠 |
|---|---|---|
| 設問1(登記原因証明情報の提供) | ◯ | 不動産登記法61条 |
| 設問2(資格者代理人と登記識別情報) | ❌ | 「資格者代理人による申請」は22条ただし書の正当な理由にあたらない |
| 設問3(登記識別情報の通知不希望) | ◯ | 不動産登記法21条ただし書 |
| 設問4(登記完了証の送付) | ◯ | 不動産登記規則182条2項 |
| 正解:2(誤り) |
| 第50〜53話の俯瞰(不動産登記法パート) | 第50話 | 第51話 | 第52話 | 第53話 |
|---|---|---|---|---|
| テーマ | 表題登記・所有権保存登記 | 分筆・合筆の登記 | 共同申請の原則・単独申請の例外 | 申請情報・登記原因証明情報・登記識別情報 |
| 区分 | 表示登記+権利登記の入口 | 表示登記 | 権利登記(誰が申請するか) | 権利登記(何を提供するか) |
| 題材過去問 | 平成28年問14 | 令和2年12月問14 | 令和6年問14 | 令和4年問14 |
| キーワード | 1か月以内の申請義務、74条 | 1筆の限界、地目・地番、抵当権付き土地 | 60条、63条3項、69条の2、118条1項 | 18条、61条、22条、23条 |