プロローグ
動画が3つ、音楽が2つ、あと読み放題が1つ!
それで、いくつ整理できたん?
書き出しただけやろ。
そこへドアが開き、南向壱星が顔を見せた。こむぎちゃんが「あ、壱星くん!」と声を上げると、壱星は一瞬ふっと表情が和らいだが、すぐにメモ帳を取り出して気持ちを切り替えた。
それで外構さんにもう一度説明しようと思ったんですけど……
個別の契約がどの分類に入るか、自信がなくて。
私のサブスクと同じですね!
並べただけでは使えへん。
よし、今日は主な契約類型を一つずつ分類していこか。
推理①:売買と贈与──双務と片務のちがいを見抜く
外構さんが棟上さんの土地を3,000万円で買う場面を考えてみ。
外構さんは3,000万円を支払う義務を負う。
お互いに債務を負うから双務契約。
そして土地と代金という経済的対価を出し合うから有償契約や。
「この土地を3,000万で売るわ」「買います」と合意した時点で成立する。
契約書がなくても法律上は成立するんや。
売買は有償契約やから、引き渡された土地に欠陥があったら契約不適合責任を追及できる。
有償で対価を払ってる以上、その対価に見合うものを渡す責任があるっちゅうことやな。
棟上さんが息子の棟上誠也くんに「この土地をあげる」と言って、誠也くんが「もらいます」と承諾した場合。
あげる側の棟上さんだけが引渡し義務を負って、誠也くんには何の義務もない。
片務・無償・諾成契約や。
口約束で成立するのに、何か問題はないんですか?
書面によらない贈与は、各当事者がいつでも撤回できる(民法550条)。
棟上さんが「やっぱりやめた」と言えば撤回できる。
ただしすでに引き渡した部分は撤回できへん。
タダであげる約束は軽い気持ちでできるから、書面がないなら考え直す余地を残してるんやな。
贈与は無償やから、契約不適合責任は原則として適用されへん。
タダでもらっておいて「欠陥がある!」とは言いにくいやろ。
ただし贈与者が欠陥を知りながら告げなかった場合は責任を負う(民法551条1項)。
有償なら対価に見合う責任、無償なら責任は限定的。
この原則は他の契約でも出てくるから、しっかり覚えとき。
該当する例: 外構さんが棟上さんの土地を3,000万円で購入する売買契約。双方が義務を負い対価を出し合うので、双務・有償・諾成契約。契約不適合責任あり。
該当しない例: 棟上さんが息子に土地をあげる贈与契約。「双方が合意している=双務」ではない。義務を負うのはあげる側だけなので片務。無償のため契約不適合責任は原則なし。
推理②:賃貸借と使用貸借──有償と無償で保護が変わる
まず賃貸借契約。
外構さんが建蔽さんの持ってるマンションの一室を月額10万円で借りる場合。
双方が債務を負うから双務契約。
賃料という対価を払うから有償契約。
成立は合意のみやから諾成契約や。
建物の賃貸借には借地借家法が適用されて、貸主からの解約には正当事由が必要になる。
細かい話は別の機会に譲るけど、「有償で対価を払ってる人にはそれなりの保護がある」という構造は覚えとき。
使用貸借契約は、タダで貸す契約。
たとえば外構さんのお父さんが「この家、好きに住んでいいぞ」と息子の外構さんに無償で貸す場合。外構さんには賃料を払う義務がない。
片務・無償・諾成契約や。
2020年4月施行の改正民法で、使用貸借は要物契約から諾成契約に変更された。
旧法では実際に引き渡さないと成立せえへんかったけど、現行法では合意だけで成立する。
試験では「使用貸借は要物契約である」って旧法の知識で引っかけてくるから気をつけや。
もう一つ重要な違いがある。使用貸借は借主が死亡したら終了する(民法597条3項)。
賃貸借やったら借主が亡くなっても相続人が引き継ぐけど、使用貸借はそこで終わりや。
対価を払ってるかどうかで、法律がどこまで守ってくれるかが変わる。
賃貸借と使用貸借はこの点がまるで違う。
同じ「貸し借り」でもな。
該当する例: 外構さんが月額10万円で建蔽さんのマンションを借りる賃貸借。双方に義務があり賃料という対価もあるため、双務・有償・諾成契約。借地借家法の保護あり。
該当しない例: 外構さんが父親の家にタダで住む使用貸借。「物を貸す契約はすべて双務・有償」ではない。賃料がなければ片務・無償であり、借地借家法の保護もなく、借主の死亡で終了する。
推理③:消費貸借──書面の有無で成立が変わる
借りたものを消費して、同じ種類・同じ量のものを返す契約や。
一番わかりやすいのはお金の貸し借りやな。
借りたお金は使ってしまって、後で同額を返す。
返す義務を負うのは外構さんだけやから片務契約。
これは前回もやったな。
利息を付ける約定があれば有償、なければ無償。
友達同士で「利息なしで貸すわ」なら片務・無償。
金融機関のローンみたいに利息がつくなら片務・有償になる。
ここで書面の有無が決定的に効いてくる。
地目さんが「500万円貸すわ」と口頭で約束しても、それだけでは契約は成立せん。
実際にお金を渡して初めて成立する。
2020年の改正で新設された規定や。
書面で「500万円を貸す」「借ります」と合意すれば、まだお金を渡していなくても契約が成立する。
書面でする消費貸借は、借主がお金を受け取るまでは解除できる(民法587条の2第2項)。
ただし、それによって貸主に損害が出たら賠償する必要がある。
たとえば地目さんが外構さんのために500万円を用意する費用がかかっていたら、その分は賠償の対象になり得るんや。
借主保護のバランスが取られてるんやな。
これは試験で狙われそうですね。
「消費貸借は要物契約」と一括りにしたらアウト。
書面の有無で分けて考えるのが鉄則やで。
該当する例: 地目さんが外構さんに口頭で500万円を貸す約束をしたが、まだ渡していない。書面によらない消費貸借は要物契約なので、引渡し前の時点では契約は成立していない。
該当しない例: 地目さんと外構さんが書面で500万円の消費貸借契約を締結した場合。書面でする消費貸借は諾成契約であり、引渡し前でも契約は成立している。「消費貸借はすべて要物契約」は誤り。
事件の結論
これで外構さんにもちゃんと説明できそうです。
ただ、分類はあくまで出発点や。
売買なら契約不適合責任の細かいルール、賃貸借なら借地借家法との関係、消費貸借なら利息の制限……
それぞれ掘り下げていかなあかんことは山ほどある。
まあ、そのうちそういう相談も来るやろ。
壱星がメモ帳をカバンにしまいながら立ち上がった。帰り際にこむぎちゃんのほうを向いて「サブスク、動画は1つに絞ったほうがいいかもしれないですよ」とさりげなく笑いかけた。こむぎちゃんが「えー、でも全部違うジャンルなんですよ〜」と困ったように首をかしげると、壱星は「まあ、無理にとは言いませんけど」と少し名残惜しそうに手を振って出ていった。
登記田は小さく苦笑した。
試験のひっかけメモ
- 「贈与は双方が合意するから双務契約」は誤り。 合意の有無ではなく双方が債務を負うかが基準。贈与は片務契約
- 「使用貸借は要物契約」は旧法の知識。 2020年改正で諾成契約に変更済み。現行法では合意のみで成立する
- 「消費貸借はすべて要物契約」は誤り。 書面によらない消費貸借は要物、書面でする消費貸借は諾成
- 書面でする消費貸借は、借主が目的物を受け取る前であれば解除できる。 ただし貸主に生じた損害は賠償が必要
- 有償契約には契約不適合責任が適用されるが、無償契約には原則として適用されない。 贈与者が欠陥を知りながら告げなかった場合は例外
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり契約はサブスクと同じで、有償のプレミアムプランは手厚いサポートつき、無償のフリープランは自己責任ってことですね!
売買と賃貸借は双務・有償・諾成、贈与と使用貸借は片務・無償・諾成、消費貸借は片務で有償も無償もあって書面の有無で要物か諾成か変わる!
有償なら契約不適合責任あり、無償なら原則なし、使用貸借は改正で要物から諾成に変わった!
5つの契約の分類を正確に押さえなあかんねん!
5つの主な契約類型を3つの分類軸で整理する。 ①売買契約: 双務・有償・諾成。双方が義務を負い対価を出し合う。契約不適合責任あり。 ②贈与契約: 片務・無償・諾成。あげる側だけが義務を負う。書面によらない贈与は撤回可能(民法550条)。契約不適合責任は原則なし。 ③賃貸借契約: 双務・有償・諾成。賃料という対価があるため借地借家法の保護が及ぶ。 ④使用貸借契約: 片務・無償・諾成(2020年改正で要物→諾成に変更)。借地借家法の保護なし。借主の死亡で終了。 ⑤消費貸借契約: 片務。利息ありなら有償、なしなら無償。書面によらない消費貸借は要物、書面でする消費貸借は諾成(民法587条の2)。
今回のまとめ
契約類型
双務/片務
有償/無償
諾成/要物/要式
備考
売買
双務
有償
諾成
契約不適合責任あり
贈与
片務
無償
諾成
書面なき贈与は撤回可(550条)
賃貸借
双務
有償
諾成
借地借家法の保護あり
使用貸借
片務
無償
諾成
改正で要物→諾成。借主死亡で終了
消費貸借
片務
有償or無償
書面なし→要物/書面あり→諾成
引渡前は借主から解除可(587条の2)
