プロローグ:こむぎちゃん、部屋探しの失敗談
朝の事務所。こむぎちゃんが雑誌の賃貸特集をパラパラめくっていた。
あと、退去のときに敷金がほとんど返ってこなくてびっくりしたんです
ちゃんと聞いてなかったんやろ
お客さんにちゃんと理解してもらうためにな
そのとき、事務所のドアが開いた。今日は元気な足取りで入ってきたのは南向壱星だ。
今日もお願いします!
登記田が少し驚いた。
前回と全然顔つきが違うな。
えらいシャキッとしとるやないか
壱星が照れくさそうに笑った。
それで、今度は賃貸の重説に同席することになったので、事前に予習しに来ました
登記田が嬉しそうに頷いた。
予習して臨むのはプロの姿勢やで。
ほな、売買との違いを中心に整理していこか
相談①「基本ルールは売買と同じ?」
登記田がホワイトボードに書いた。
賃貸でも同じ基本ルール:
- 宅建士が、契約成立前に、借主に対して説明する
- 宅建士証を提示する
- 35条書面を交付する(宅建士の記名が必要)
- IT重説もOK
ほんで、物件に関する事項も基本は共通。
登記された権利、法令制限、インフラ、災害区域なんかは賃貸でも説明する
壱星が質問した。
賃貸では説明不要な事項(売買のみ):
| 説明事項 | 売買 | 賃貸 |
|---|---|---|
| 私道に関する負担 | 必要 | 不要 |
| 工事完了時の形状・構造 | 必要 | 不要 |
| 手付金等の保全措置 | 必要 | 不要 |
| ローンのあっせん | 必要 | 不要 |
| 割賦販売に関する事項 | 必要 | 不要 |
| 瑕疵担保責任の履行措置 | 必要 | 不要 |
賃貸でローンを組んだり割賦で払ったり手付金を預けたりはしない。
だから説明もいらん。
"買う話特有のお金の仕組み"は賃貸では不要と覚えたらええ
こむぎちゃんが言った。
売買にはない"賃貸特有の説明事項"があるんや。
減るものもあれば増えるものもある。
次でそれを見ていくで
該当する例:賃貸の重説で、ローンあっせんや手付金保全の説明を省略 → 適正(賃貸では不要)
該当しない例:賃貸の重説で、登記された権利の説明を省略 → 説明義務違反(賃貸でも必要)
相談②「賃貸だけの説明事項って何?」
賃貸特有の説明事項を一つずつ見ていくで
壱星がペンを構えた。
借りる人が"入居してから困らないように"説明する事項ばかりや
④ 台所・浴室・便所その他の設備の整備状況
部屋の設備がどうなっているか。エアコン、給湯器、コンロは備え付けか。追い焚き機能はあるか。こういう生活に直結する設備の状況を説明する。
売買では建物全体の構造の話がメインやけど、賃貸は"住む部屋の設備"が重要になるんや
⑤ 契約期間・契約の更新に関する事項
賃貸借契約の期間が何年か、更新はどうなるかを説明する。普通借家なら更新あり、定期借家なら更新なし。
⑥ 定期建物賃貸借(定期借家)の場合はその旨
契約が定期借家(定期建物賃貸借)の場合は、期間満了で契約が終了し、更新がないことを説明する。
壱星が言った。
"更新できると思ってたのに、期間満了で出ていかなきゃいけない"いうトラブルを防ぐために、重説でしっかり説明するんやで
⑦ 用途その他の利用の制限に関する事項
ペット禁止、楽器演奏禁止、事務所利用不可など、物件の利用に関する制限を説明する。
こむぎちゃんが反応した。
こむぎちゃんが重説をちゃんと聞いてたら、契約する前にペット禁止って知れたはずなんやけどな
耳が痛いです…
⑧ 敷金等の精算に関する事項
退去時の敷金の返還ルール。どういう場合に差し引かれるのか、原状回復の範囲はどこまでかなどを説明する。
敷金トラブルは賃貸で一番多い揉めごとの一つやからな。
重説でしっかり説明するのが大事なんや
⑨ 管理の委託先
物件の管理を委託している場合、管理会社の名称と住所を説明する。入居後に設備の故障やトラブルがあったとき、誰に連絡すればいいかを知らせるため。
壱星が頷いた。
借りる人にとっては、困ったときの連絡先がわかるのは大事ですね
大家さんに直接連絡するのか、管理会社に連絡するのかを重説で明示するんや
⑩ 契約終了時の宅地上の建物の取壊しに関する事項
これは少し特殊なケース。借地の上に建っている建物を賃貸している場合、借地契約が終了したら建物を取り壊す必要があるかどうかを説明する。
該当する例:賃貸の重説で、ペット禁止・楽器演奏禁止等の利用制限を説明 → 適正
該当しない例:賃貸の重説で、設備の整備状況(エアコン・給湯器等)を説明しない → 説明義務違反
相談③「お金の話は賃貸でもする?」
⑪ 賃料以外に授受される金銭の額と目的
家賃以外に受け渡しするお金。敷金、礼金、保証金、鍵交換代など。「いくら」「何の目的で」を明示する。
考え方は同じやな
⑫ 契約の解除に関する事項
どういう場合に契約を解除できるか。賃貸では「家賃を○ヶ月滞納した場合」「用途違反があった場合」などが代表例。
⑬ 損害賠償額の予定・違約金に関する事項
契約違反があった場合の損害賠償や違約金について。これも売買と共通の説明事項。
壱星がメモを見返しながら言った。
でもローンや手付金の保全は賃貸にはないと
"買うためのお金の仕組み"は売買だけ、"住むための条件"は賃貸だけ、"基本のお金と解除の話"は共通。
こう整理しておけば試験でも迷わんで
該当する例:賃貸の重説で、敷金・礼金の額と目的、中途解約の条件を説明 → 適正
該当しない例:賃貸の重説で、礼金の存在を説明せずに契約 → 説明義務違反
エピローグ:壱星の手応え
壱星がノートを閉じて、スッキリした表情を見せた。
賃貸特有の事項は借りる人の生活に直結するものばかりなんですね
設備、期間、利用制限、敷金精算、管理会社。
全部"入居してから困らないため"の説明や。
壱星くん、予習してから同席したら、先輩の説明がもっとよくわかるはずやで
壱星が帰りかけて、ふと立ち止まった。
登記田が頷いた。
管理費、修繕積立金、管理規約…。またおいで、全部教えたるわ
壱星は元気よく事務所を出て行った。
こむぎちゃんがつぶやいた。
登記田がコーヒーをすすりながら言った。
ハムスターのためにも
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「賃貸でも私道負担の説明が必要」 → 私道に関する負担は売買のみ。賃貸では説明不要。
ひっかけ②「賃貸では設備の整備状況の説明は不要」 → 逆。台所・浴室・便所等の設備の整備状況は賃貸特有の説明事項。売買にはない。
ひっかけ③「定期借家の場合、更新に関する事項を説明する」 → 定期借家は更新がない。「更新に関する事項」ではなく、「定期建物賃貸借である旨」を説明する。
ひっかけ④「敷金の精算に関する事項は売買でも賃貸でも共通」 → 敷金等の精算に関する事項は賃貸特有。売買では説明事項に含まれない。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
ほなこむぎちゃん、教訓を一言でまとめてみ
こむぎちゃんが胸を張った。
だから説明を聞かなくてもだいたいOK!
いいか、賃貸特有の説明事項は、設備・契約期間・定期借家・利用制限・敷金精算・管理委託先!
売買だけの項目(私道・ローン・手付金保全・割賦・瑕疵担保)は賃貸では不要!
でもお金の基本と契約解除は共通!
"簡単だから聞かなくていい"は絶対あかん!
今回のまとめ
【基本ルールは売買と共通】
- 宅建士が契約成立前に宅建士証を提示して説明、35条書面交付、IT重説も可
- 物件に関する事項(登記・法令制限・インフラ・災害区域等)も基本は共通
【賃貸では説明不要な事項(売買のみ)】
- 私道に関する負担
- 工事完了時の形状・構造
- 手付金等の保全措置
- ローンのあっせん
- 割賦販売に関する事項
- 瑕疵担保責任の履行に関する措置
【賃貸特有の説明事項】
- 台所・浴室・便所その他の設備の整備状況
- 契約期間・契約の更新に関する事項
- **定期建物賃貸借(定期借家)**の場合はその旨
- 用途その他の利用の制限(ペット禁止・事務所利用不可等)
- 敷金等の精算に関する事項
- 管理の委託先(管理会社の名称・住所)
- 契約終了時の宅地上の建物の取壊しに関する事項
【売買でも賃貸でも共通の取引条件】
- 賃料以外に授受される金銭の額と目的(敷金・礼金等)
- 契約の解除に関する事項
- 損害賠償額の予定・違約金に関する事項
【覚え方の整理】
- "買うためのお金の仕組み" → 売買だけ(ローン・手付金保全・割賦・瑕疵担保)
- "住むための条件" → 賃貸だけ(設備・期間・利用制限・敷金精算・管理委託先)
- "基本のお金と解除の話" → 共通(金銭の額と目的・契約解除・損害賠償)