プロローグ:こむぎちゃん、定義に悩む
ここは登記田探偵事務所。不動産にまつわるトラブルや疑問を、関西弁の探偵・登記田(ときた)が鮮やかに解決する――はずなのだが、今日も助手のこむぎちゃんが朝から妙なことを言い出した。
そしたら『これ料理じゃなくてただ切っただけじゃん』って言われて…
キュウリを切ってお皿に並べたんですけど、これは料理ですか?
料理じゃないですか?
何をもって"料理"と呼ぶかは、人によって意見が分かれるやろ
法律の世界では定義があいまいだと大変なことになる
特に不動産の世界ではな――
こむぎちゃんも元気かい?
事務所のドアが開いて、恰幅のいい男性が入ってきた。手には紙袋。
画地宗一郎(65歳)。地元では名の知れた資産家で、先祖代々の土地を複数保有し、賃貸アパートやマンションも経営している地主だ。登記田探偵とは長い付き合いで、不動産がらみの困りごとがあるたびに相談に来る顔なじみである。
お久しぶりですね
今日はどうされたんですか?
おせんべいのお土産だよ
いつもすみません!
画地はソファに座ると、少し困った顔をした。陽気なこの人にしては珍しい。
ちょっと困ったことになっちゃってねえ
画地が頭をかいた。
こむぎちゃんが目を輝かせた。
推理①「宅建業とは何か」
登記田はホワイトボードに大きく書いた。
宅建業 = 「宅地」or「建物」の「取引」を「業」として行うこと
チェックポイント:
- 宅地または建物を対象にしている?
- 取引(売買・交換・代理・媒介)をしている?
- 業として(反復継続の意思を持って)やっている?
該当する例:不動産会社が、マンションの売買を継続的に仲介する → 宅建業
該当しない例:個人が自宅を1回だけ売却する → 宅建業ではない(後述の理由)
推理②「宅地とは何か」
こむぎちゃんが勢いよく手を挙げた。
登記田はため息をついた。
宅地の定義(2パターン):
パターン①:現に建物が建っている土地 住宅が建っている敷地、店舗の敷地など。
パターン②:建物を建てる目的で取引される土地 登記上の地目が農地であっても、建物を建てる目的で売買された土地は"宅地"扱いになる。
こむぎちゃんが凍りついた。
画地が驚いた。
該当する例:農地を「家を建てる目的」で売却 → 宅地に該当
該当しない例:農地を農地のまま売却する(耕作目的)→ 宅地に該当しない
推理③「建物とは何か」
建物の定義:屋根と壁があり、土地に定着した工作物
住宅、店舗、マンション、一戸建て…すべて含まれる。建築中の建物も含むのがポイント。
こむぎちゃんがメモを取りながら聞く。
該当する例:マンション1室、建築中の注文住宅 → 建物に該当
該当しない例:立木、石垣、組み立て前のプレハブ → 建物に該当しない
推理④「取引とは何か」
こむぎちゃんがまた反応した。
私はホワイトボードに書いた。
取引の3パターン:
① 自ら当事者として売買・交換を行う ② 売買・交換・賃借の代理をする ③ 売買・交換・賃借の媒介(仲介)をする
こむぎちゃんが驚いた。
画地が反応した。
該当する例:地主が自ら売主として複数の土地を販売 → 取引に該当
該当しない例:大家が自分のアパートを人に貸す → 取引に該当しない(自ら賃借は取引に含まれない)
推理⑤「業とは何か」
「業」の定義:不特定多数に対し、反復継続して取引を行う意思があること
こむぎちゃんが目を見開いた。
登記田は慎重に言葉を選んだ。
こむぎちゃんがホッとした表情を浮かべた。
該当する例:転売目的で土地を仕入れ、継続的に販売 → 「業」に該当
該当しない例:知人に頼まれて保有する土地を1回だけ売却、今後の予定なし → 「業」に該当しない
推理⑥「免許がなくてもできる者」
こむぎちゃんが不思議そうに言った。
免許不要の代表例:
① 国・地方公共団体 例:市役所が公有地を売却する → 免許不要
② 信託会社・信託銀行(信託業務として行う場合) 例:信託財産の不動産を管理・処分する → 免許不要(ただし届出は必要)
該当する例:県が県有地を分譲する → 宅建業に該当するが免許不要
該当しない例:個人が「国の仕事に似ているから」と主張しても免許免除にはならない
事件の結論
私はホワイトボードに大きく○を書いた。
理由:
- 「宅地」には該当する(建物を建てる目的の農地)→ ✓
- 「取引」にも該当する(自ら売主として売買)→ ✓
- しかし「業」には該当しない(1回きりの売却、反復継続の意思なし)→ ✗
- → 3要件がすべて揃っていないため、宅建業に該当しない → 免許不要
画地が大きく頷いた。
画地が立ち上がった。
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「農地は宅地ではない」 → 建物を建てる目的で取引すれば、農地でも"宅地"扱いになる。地目ではなく取引の目的で判断。
ひっかけ②「自分で売るだけなら宅建業ではない」 → 自ら売主として売買する行為も"取引"に該当する。反復継続すれば「業」になり免許が必要。
ひっかけ③「1回だけなら絶対セーフ」 → 1回でも反復継続の意思があれば"業"に該当する。回数だけでは判断できない。
ひっかけ④「自分のアパートを貸すのも宅建業」 → 自ら賃貸する行為は"取引"に含まれない。大家業に免許は不要。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが胸を張った。
今回のまとめ
- 宅建業 =「宅地または建物」の「取引」を「業として」行うこと。3要件すべて揃って初めて宅建業
- 宅地の定義:①現に建物が建っている土地 ②建物を建てる目的で取引される土地。農地でも目的次第で宅地になる
- 建物の定義:屋根と壁があり土地に定着した工作物。建築中の建物も含む
- 取引の3パターン:①自ら売買・交換 ②代理 ③媒介。自ら賃貸は取引に含まれない
- 「業」の定義:不特定多数に対し、反復継続して取引を行う意思があること。1回でも意思があれば該当
- 免許不要の例外:国・地方公共団体、信託会社・信託銀行(信託業務として行う場合)
- 3要件が1つでも欠ければ宅建業に該当しない → 免許不要