プロローグ:こむぎちゃん、お母さんのありがた迷惑
朝の事務所。こむぎちゃんがぷんぷんしていた。
先週、実家のお母さんに「部屋のクローゼットを整理しておいて」って頼んだんです。
帰省したときに片づけようと思って
帰ったら、クローゼットだけじゃなくて部屋中を模様替えされてたんです!
机の位置は変わってるし、カーテンは新しくなってるし、しかも大事にしてた推しのポスターが全部剥がされてて…!
気持ちはありがたいんですけど、頼んだのはクローゼットの整理だけであって、部屋全体の模様替えなんてお願いしてないんです!
頼んだ範囲を超えて勝手にやられる、いうのは困るわな
ありがた迷惑です!
そんなやり取りをしていると、事務所のドアが開いた。
すみません、ちょっと相談があって…
南向壱星が、いつもの明るさを少し欠いた表情で入ってきた。手にはノートとペン。
どうしたんですか、元気ないですね?
壱星がほんの一瞬だけ表情を緩めたが、すぐに真剣な顔に戻った。
壱星がノートを開いて説明し始めた。
境界さんは土地の購入を検討していて、売主の地番 宏(じばん ひろし)さんが所有する土地に興味を持っていました
地番さんからは「交渉をお任せする」とだけ言われていたらしいのに、越権さんが売買価格の決定まで勝手に進めていたことがわかったんです
さらにですね、越権さんは買主の境界さんの代理も同時にやろうとしていたことがわかったんです。
売主側と買主側の両方を一人で代理するのって、法律的にまずいんじゃないかと…。
境界さんから「これは大丈夫なのか?」と相談されまして
こむぎちゃんがハッとした。
頼んでいない範囲のことを勝手にやったって、さっきの私のお母さんの話と似てますね!
こむぎちゃんのお母さんはクローゼットの整理だけ頼まれたのに部屋全体を模様替えした。
越権さんは交渉だけ任されたのに価格の決定まで勝手に進めた。
頼まれた範囲を超えて行動したいう構造は同じや
順番に整理していこか
推理① 無権代理とは何か?|代理権なしの行為は本人に効力が及ばない
民法113条に規定されとる
つまり価格の決定は代理権の範囲外だったということですよね
無権代理人がした行為は、原則として本人に効力が及ばない(民法113条1項)
追認は契約時に遡って効力を生じるんや(民法116条本文)。
ただし、第三者の権利を害することはできない(民法116条ただし書)
ほんで、追認するかどうかわからない間、相手方(境界さん)は宙ぶらりんの状態になるやろ。
だから民法は相手方を守るための手段も用意しとる
相手方の保護①:催告権(民法114条)
期間内に確答がなければ、追認を拒絶したものとみなされる
あれ、前に「確答がなければ追認とみなす」って話もありませんでしたっけ?
制限行為能力者のときは確答なし→追認とみなす。
でも無権代理のときは確答なし→拒絶とみなす。逆や。
ここは試験で頻出のひっかけやから注意やで
相手方の保護②:取消権(民法115条)
ただし、境界さんが契約時に無権代理であることを知っていた(悪意)場合は取消しできない
無権代理人の責任(民法117条)
相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負うんや。
ただし、相手方が悪意や有過失の場合、または無権代理人が制限行為能力者の場合は免責される
壱星がメモを取りながら頷いた。
境界さんにもこのことを伝えておきます
該当する例: 越権さんが地番さんから「交渉を任せる」とだけ言われたのに、価格の決定まで行った → 価格決定の部分は無権代理。地番さんが追認しなければ本人に効力は及ばない
該当しない例: 越権さんが地番さんから「価格の決定を含めてすべてお任せする」と言われていた場合 → 代理権の範囲内であり無権代理にはならない
推理② 自己契約・双方代理と代理権の濫用|原則として無権代理とみなされる行為
これは双方代理いうて、法律で明確にルールが定められとる
自己契約とは
代理人が本人との間で、自分が相手方になって契約することや。
たとえば、地番さんの代理人である越権さんが、「自分が買主になって地番さんの土地を買う」という契約をするケースやな
双方代理とは
これが越権さんのケースに近い。
同じ人が売主側と買主側の両方の代理人を兼ねることや。
越権さんが地番さんの代理人でもあり、境界さんの代理人でもある、いう状態やな
だから民法108条1項は、自己契約も双方代理も原則として無権代理とみなすと定めとるんや
例外:無権代理とならない場合(民法108条)
例外①:本人があらかじめ許諾した行為 → 地番さんと境界さんの両方が「越権さんに任せていいよ」と事前に許諾していれば、双方代理でもOK
例外②:債務の履行 → すでに決まった義務を実行するだけの行為(例:すでに合意した代金を支払う手続き)は、双方代理でもOK
越権さんがやろうとしていたことは、法律的にはアウトやったんやな
代理権の濫用(民法107条)
代理権の濫用や
この場合、相手方が代理人の目的を知っていた(悪意)または知ることができた(有過失)場合、その行為は無権代理とみなされる(民法107条)。
逆に、相手方が善意無過失なら有効や
該当する例: 越権さんが地番さんの代理人として、同時に境界さんの代理人も兼ねて契約を進めた → 両本人の許諾がなければ双方代理=無権代理(民法108条)
該当しない例: すでに地番さんと境界さんの間で売買価格も条件も合意済みで、越権さんが代金の受け渡し手続きだけを双方の代理で行う → 債務の履行であり無権代理にならない(民法108条ただし書)
推理③ 無権代理と相続|相続した立場によって結論が180度変わる
壱星がテキストを開いた。
教えていただけますか?
ここは試験でもよく狙われるところや。
具体例で説明するで
ケース①:無権代理人が本人を相続した場合
息子の公簿 太郎(こうぼ たろう)が、父親である公簿 一郎(こうぼ いちろう)の土地を、代理権もないのに勝手に売ってしまった。
その後、一郎さんが亡くなって太郎が相続したとする
この場合、太郎の中に本人の立場(追認拒絶できる立場)と無権代理人の立場(自分が勝手に契約した立場)が同居することになる。
ここで太郎が「あれは無権代理だったから無効だ」と追認を拒絶できるか?
判例では、無権代理行為は当然に有効になるとされとる。
自分で勝手に契約しておいて、相続したら「やっぱり拒絶します」は信義則に反するからな
ケース②:本人が無権代理人を相続した場合
今度は一郎さん(本人)が生きていて、無権代理人の太郎が先に亡くなった。
一郎さんが太郎を相続したとする
判例でもそう判断されとる
なんで?
一郎さんはもともと追認を拒絶できる立場にあった。
息子の太郎を相続したからといって、その立場が変わるわけやない。
一郎さんは自分で勝手にやったわけやないからな
壱星がメモを取りながらまとめた。
もともと被害者だった人が相続した場合は拒絶できる。
信義則で考えると筋が通りますね
該当する例: 無権代理人の太郎が本人の一郎を相続 → 無権代理行為は当然に有効になる(追認拒絶は信義則に反する)
該当しない例: 本人の一郎が無権代理人の太郎を相続 → 一郎は追認を拒絶できる(もともと拒絶できる立場は相続で変わらない)
推理④ 表見代理の3種類|代理権がなくても有効になるケースとは
表見代理には3種類ある。
一つずつ見ていくで
①代理権授与表示による表見代理(民法109条)
たとえば地番さんが境界さんに「越権さんにすべて任せてあります」と伝えていたのに、実際には交渉だけしか任せていなかったケース。
境界さんが善意無過失なら表見代理が成立し、本人である地番さんが責任を負う
②権限外の行為による表見代理(民法110条)
代理人が与えられた代理権の範囲を超えて行動した場合や。
越権さんは「交渉を任せる」という権限はあった。
でも「価格の決定」まではいとめられてへんかった
「正当な理由」いうのは、善意かつ無過失いうことやな
そういう状況なら「信ずべき正当な理由がある」と判断されやすい。
表見代理が成立すれば、越権さんがした契約は完全に有効な代理として扱われる。
本人の地番さんに効果が帰属するんや
③代理権消滅後の表見代理(民法112条)
たとえば、地番さんが越権さんの代理権を取り消した後も、越権さんが「まだ代理人です」と言って取引を続けていたような場合や
表見代理の効果
本人に効果が帰属するんや。つまり無権代理やけど、相手方が善意無過失なら本人が責任を負わなあかん。
本人に「代理権があるような外観を作り出した責任」があるからや
該当する例: 越権さんが「交渉を任せる」という代理権だけ持っていたが、価格決定まで行った。境界さんが越権さんに全権があると信じ、そう信じたことに正当な理由があった → 権限外の行為による表見代理が成立(民法110条)。地番さんに効果が帰属
該当しない例: 境界さんが「越権さんには価格決定の権限はないだろう」と薄々気づいていた(有過失)→ 表見代理は成立しない。無権代理のまま
事件の結論|越権さんの行為は法的にどう整理されるか
登記田がホワイトボードに整理した。
問題①:価格決定まで勝手に進めた → 「交渉を任せる」という代理権の範囲を超えた行為 = 権限外の無権代理 → 地番さんが追認すれば有効。追認しなければ本人に効力は及ばない → ただし、境界さんが越権さんに全権があると信じ、そう信じたことに正当な理由があれば権限外の行為による表見代理(民法110条)が成立し、地番さんに効果が帰属する可能性がある
問題②:売主・買主双方の代理を兼ねようとした → 双方代理 = 原則として無権代理とみなす(民法108条1項) → 地番さん・境界さんの双方があらかじめ許諾していなければ、無権代理として無効
越権さんの行為に法律的な問題があることと、境界さんにはどんな保護手段があるかをきちんと伝えてあげてくれ
壱星がノートを閉じて、力強く頷いた。
境界さんにきちんと説明して、地番さん側にも適切に対応します!
代理のルールは実務でもめちゃくちゃ大事やからな。
今日学んだことは必ず活きるで
壱星が帰り支度を始めた。
でも今日は会社に戻って早く境界さんに連絡しないと…
壱星は少しだけ名残惜しそうな顔をして、事務所を出て行った。
登記田がコーヒーをすすりながらつぶやいた。
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「無権代理の催告に対して確答がなければ、追認したとみなされる」 → 誤り。無権代理の催告で確答がなければ追認を拒絶したとみなす(民法114条)。制限行為能力者の催告(確答なし→追認とみなす)と逆なので要注意。
ひっかけ②「相手方が無権代理であることを知っていた(悪意)場合でも、契約を取り消せる」 → 誤り。相手方が悪意の場合は取消権を行使できない(民法115条)。
ひっかけ③「自己契約・双方代理は、いかなる場合も無権代理になる」 → 誤り。本人があらかじめ許諾した行為や債務の履行は、自己契約・双方代理でも無権代理にならない(民法108条ただし書)。
ひっかけ④「本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為は当然に有効になる」 → 誤り。当然に有効になるのは無権代理人が本人を相続した場合。本人が無権代理人を相続した場合は追認を拒絶できる。相続の方向で結論が逆転する。
ひっかけ⑤「表見代理が成立するには、相手方が善意であれば足りる」 → 誤り。表見代理の成立には、相手方が善意かつ無過失であること(または「信ずべき正当な理由」があること)が必要。善意だけでは不十分。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが腕を組んだ。
頼んでいないことを勝手にやったらダメ!
だからお母さんが勝手にやった模様替えも無権代理で無効!
民法113条により元に戻してもらいます!
いいか、無権代理は代理権なしの行為で、原則として本人に効力が及ばない!
本人が追認すれば有効!
催告の確答なしは追認拒絶とみなす(制限行為能力者と逆)!
自己契約・双方代理は原則として無権代理!
無権代理人が本人を相続したら当然に有効、逆なら追認拒絶できる!
表見代理は3種類で、成立したら完全に有効!
お母さんには「ありがとう、でも次はクローゼットだけにしてね」って言いなさい!
今回のまとめ
【無権代理(民法113条)】
- 無権代理=代理権を持たない者が代理人として行動すること
- 原則として本人に効力が及ばない
- 本人が追認すれば有効になる(追認は契約時に遡る=遡及効。民法116条)
- 相手方の保護:催告権(確答なし→追認拒絶とみなす。民法114条)、取消権(悪意なら不可。民法115条)
- 無権代理人の責任:履行または損害賠償(民法117条)
【自己契約・双方代理(民法108条)】
- 自己契約=代理人が自ら相手方となって契約すること
- 双方代理=同一人が売主・買主双方の代理人を兼ねること
- 原則として無権代理とみなす
- 例外:本人の許諾がある行為、債務の履行
【代理権の濫用(民法107条)】
- 代理権の範囲内だが、自己や第三者の利益のために行動すること
- 相手方が悪意または有過失の場合 → 無権代理とみなす
【無権代理と相続】
| ケース | 結論 | 理由 |
|---|---|---|
| 無権代理人が本人を相続 | 無権代理行為は当然に有効 | 自分で勝手にやった者が拒絶するのは信義則に反する |
| 本人が無権代理人を相続 | 本人は追認を拒絶できる | もともと拒絶できる立場は相続で変わらない |
【表見代理の3種類】
| 種類 | 条文 | 内容 | 相手方の要件 |
|---|---|---|---|
| 代理権授与表示 | 民法109条 | 本人が「代理権を与えた」と表示した | 善意・無過失 |
| 権限外の行為 | 民法110条 | 代理権の範囲を超えて行動した | 信ずべき正当な理由(善意・無過失) |
| 代理権消滅後 | 民法112条 | 代理権が消滅した後に行動した | 善意・無過失 |
- 表見代理が成立すると完全に有効な代理として扱われる(本人に効果が帰属する)
- 本人に「代理権があるような外観を作り出した責任(帰責性)」があることが前提
