プロローグ:こむぎちゃん、頼んだ相手がさらに別の人に任せていた件
朝の事務所。こむぎちゃんが少し釈然としない顔をしていた。
帰ってから「受け取っておいたよ」って連絡が来て、取りに行ったら全然知らない人が持ってて
私は「あなたに頼んだ」のに、気づいたら知らない人の家に荷物があって、なんかモヤモヤしちゃって
友達がちゃんと受け取れない事情があったのはわかるんですけど、一言言ってくれればよかったなって
法律の世界でも同じことが起きるで
こむぎちゃんが「へえ〜」と呟いたちょうどそのとき、事務所のドアが明るい音を立てて開いた。
こむぎちゃんも元気かい?
恰幅のいい男性が、手に紙袋を提げて入ってきた。画地宗一郎だ。第21話・第22話に続いての来訪で、こむぎちゃんが顔をほころばせた。
お久しぶりです!
ほれ、こむぎちゃん、今日は栗羊羹のお土産だよ
いつもすみません!
画地がソファに腰を下ろすと、いつものおおらかな顔が少し曇った。
今日は相談があって来たんだよ。
自分のことでね
聞かせてください
「画地宗一郎の代理人として動いてくれ」とね。
ところが地役くんが途中で体調を崩してしまって。
本人から「息子の誠(まこと)くんに引き継いでもらいました」という連絡が来たんだ
これ、法律的に問題ないのかい?
こむぎちゃんがハッと顔を上げた。
頼んだ相手が、別の人に任せてしまった話!
荷物の受け取りと土地の売買では規模が全然違うけど、「頼んだ人がさらに別の人に任せた」という構造は一緒やな。
これを法律の世界では「復代理」と呼ぶ。
ただ、その前に代理の基本から整理しましょか
推理① 代理とは何か?|本人・代理人・相手方の三者関係と顕名のルール
登記田はホワイトボードに三つの丸を描き、矢印でつないだ。
代理の基本構造(民法99条)
本人(画地さん)
↓ 代理権を授与
代理人(地役 弘)
↓ 本人の名で意思表示
相手方(土地の買主)
地役さんが相手方に「画地宗一郎の代理人として売ります」と言って契約すれば、その契約の効果は画地さんに直接帰属する
代理が成立するには3つの要素が必要や
代理が成立する3要素
- 代理権:本人から与えられた(または法律上当然に発生する)権限
- 顕名:「○○の代理人として」と本人のためにすることを示すこと
- 代理行為:代理人が相手方に意思表示をすること
代理人が相手方に「○○の代理人として」と名乗ること。
これがないと、代理人自身の行為とみなされてしまう(民法100条本文)
なお、顕名がなくても相手方が「これは代理人として動いているんだな」と知っていた(悪意)か知ることができた(善意有過失)場合は、本人に効果が帰属します(民法100条ただし書)
私も名乗らずに「代理人です」ってオーラを出せばいいんですね!
該当する例(顕名あり):「画地宗一郎の代理人・地役弘として売買契約を締結します」と相手方に伝えた → 代理として有効。効果は画地さんに帰属。
該当しない例(顕名なし):地役さんが自分の名前で「地役弘として売ります」と契約した → 顕名がないため、地役さん自身の行為とみなされる(相手方が代理と知らない限り)。
推理② 代理行為のトラブルと代理人の行為能力|善意悪意の判断基準は代理人が基準
代理行為における意思の瑕疵(詐欺・強迫・錯誤など)や善意・悪意の判断は、代理人を基準にする(民法101条1項)
代理行為の瑕疵の判断基準(民法101条)
- 代理人が詐欺にあって契約した → 代理人が被詐欺者として、本人は取消しを主張できる
- 代理人が悪意(事情を知っていた)で契約した → 本人が善意でも「悪意」の効果が発生する
- ただし、特定の事情について本人が知っていた(悪意)場合は、本人を基準にする(民法101条2項)
では、地役くんの息子・誠くんはまだ若いようなんだが、代理人として動くのに年齢制限とか資格みたいなものはあるのかい?
代理人は行為能力者でなくてもよいんです(民法102条)。
制限行為能力者でも代理人になれる
未成年でも代理人になれるのかい?
たとえ未成年者が代理人として契約しても、本人はその行為を「制限行為能力者だから」と取り消せない
自分で選んでおいて「制限行為能力者だった」と後から文句を言うのは相手方に不公平やろ。
だから本人は取消しできない
法定代理は本人が選んだわけではないからな
該当する例(代理人の行為能力):17歳の未成年者を代理人に選任して土地の売買を依頼した → 本人は「代理人が未成年だから」と取消し不可(任意代理の場合)。
該当しない例(取消し可):法定代理人(例:親権者)が成年被後見人であった場合 → 一定の場合に取消しできることがある。
推理③ 代理権の種類と消滅原因|法定代理と任意代理の違いを整理する
代理権の2種類
法定代理:法律の規定によって当然に発生する代理権
- 例:親権者(未成年の子の法定代理人)、成年後見人
- 本人の意思ではなく、法律が自動的に代理権を与える
任意代理:本人が代理人に授権行為(委任など)によって与える代理権
- 例:「この土地の売買手続きをあなたに任せます」と委任する
- 今回の画地さんと地役さんの関係はこちら
次に代理権の消滅原因や。
これは試験でよく問われるので整理しておこか(民法111条)
代理権の消滅原因(民法111条)
| 消滅原因 | 法定代理 | 任意代理 |
|---|---|---|
| 本人の死亡 | ○ | ○ |
| 代理人の死亡 | ○ | ○ |
| 代理人が破産手続開始の決定を受けた | ○ | ○ |
| 代理人が後見開始の審判を受けた | ○ | ○ |
| 本人が破産手続開始の決定を受けた | ✕ | ○ |
| 委任の終了 | ✕ | ○ |
法定代理は本人が破産しても消滅しない
本人がどうなっても消えない!
該当する例(任意代理の消滅):委任者(本人)が破産した → 任意代理権は消滅する。
該当しない例(法定代理の消滅なし):親権者が破産した → 子どもに対する法定代理権は消滅しない(民法111条は任意代理のみに「本人の破産」を消滅原因として規定)。
推理④ 復代理とは何か?|代理人がさらに代理人を立てるときのルール
登記田はホワイトボードに新しい図を書いた。
復代理の構造
本人(画地さん)
↓ 代理権を授与
代理人(地役 弘)
↓ 復代理人を選任
復代理人(地役 誠)
↓ 本人の名で意思表示
相手方(土地の買主)
ポイントは復代理人は「代理人の代理人」ではなく、直接本人を代理するという点や
ただし、任意代理人が復代理人を自由に選任できるわけではありません(民法104条)
任意代理人が復代理人を選任できる条件(民法104条)
- 本人の許諾を得たとき
- やむを得ない事由があるとき
この2つのどちらかを満たす場合のみ、任意代理人は復代理人を選任できる。
これが「やむを得ない事由」に当たる可能性が高い
体調不良はやむを得ないということか
法定代理人と任意代理人の復代理比較
| 任意代理人(民法104条) | 法定代理人(民法105条) | |
|---|---|---|
| 復代理人の選任 | 本人の許諾またはやむを得ない事由がある場合のみ | いつでも自由に選任できる |
| 選任・監督の責任 | 原則として本人に対し責任を負う | 選任・監督について本人に責任を負う |
ただし選任・監督に責任を負う
次に復代理人の性質を整理した。
復代理人の性質
- 復代理人の権限は代理人の代理権の範囲内に限られる
- 地役さんが「土地Aの売買のみ」の代理権を持っていれば、誠くんも土地Aの売買のみが権限となる
- 復代理人がした行為の効果は、直接本人(画地さん)に帰属する
そしてその荷物(効果)は私(本人)に届く!
復代理人の行為の効果は本人に直接帰属するというのは正確やで
該当する例(復代理の成立):地役さんが体調不良でやむを得ず息子の誠くんを復代理人に選任した → やむを得ない事由ありとして復代理成立の可能性がある。誠くんの行為の効果は画地さんに帰属。
該当しない例(復代理の不成立):任意代理人が特に理由もなく、本人の許諾も得ずに別の人を選任した → 要件を満たさないため無権代理になる可能性がある。
事件の結論|地役さんが勝手に息子に任せたのは有効か
登記田がホワイトボードを整理した。
ポイント①:任意代理として有効に開始していた
地役さんは「画地宗一郎の代理人として」と顕名して動いていた。画地さんとの委任による任意代理として有効に成立していた。
ポイント②:体調不良は「やむを得ない事由」に当たりうる
任意代理人が復代理人を選任できるのは「本人の許諾」または「やむを得ない事由」がある場合(民法104条)。地役さんの体調不良はやむを得ない事由に該当する可能性が高い。
ポイント③:誠くんの権限は地役さんの代理権の範囲内
復代理人・誠くんの権限は、地役さんが持っていた代理権の範囲を超えることはできない。地役さんが「土地○○番地の売買手続き」の代理権を持っていたなら、誠くんも同じ範囲のみで動ける。
画地さんとしては、誠くんが何をしているかを確認し、範囲を超えた行為をしていないかをチェックすることが大事ですね
画地が大きく頷いた。
体調不良はやむを得ないし、誠くんも地役くんと同じ範囲で動いてると聞いているよ。
それなら一安心だねえ
ありがとう、登記田さん
今日もお茶が美味しかったよ
またいつでも来てください!
画地が帰った後、登記田はコーヒーを飲みながら言った。
でも代理には、代理権がないのに代理したふりをするケースもある。
そっちの方が試験ではよく出るんや
それはどういうことですか?
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「顕名がなければ代理は絶対に成立しない」 → 誤り。顕名がない場合は代理人自身の行為とみなされるのが原則だが、相手方が代理人であることを知っていた(悪意)または知ることができた(善意有過失)場合は、本人に効果が帰属する(民法100条ただし書)。
ひっかけ②「代理人は行為能力者でなければならない」 → 誤り。代理人は行為能力者でなくてよい(民法102条)。制限行為能力者でも代理人になれる。本人が任意代理人として選んだ以上、「制限行為能力者だから」という理由で取消しはできない。
ひっかけ③「本人が破産しても法定代理権は消滅しない」 → 正しい。本人の破産は任意代理の消滅原因だが、法定代理には当てはまらない(民法111条)。代理権の消滅原因として「本人の破産」は任意代理のみと覚えておくこと。
ひっかけ④「任意代理人は自由に復代理人を選任できる」 → 誤り。任意代理人が復代理人を選任できるのは「本人の許諾を得たとき」または「やむを得ない事由があるとき」に限られる(民法104条)。無断で選任すると無権代理になる可能性がある。
ひっかけ⑤「復代理人は代理人の代理人として動く」 → 誤り。復代理人は「代理人の代理人」ではなく、直接本人を代理する。復代理人がした行為の効果は直接本人に帰属する。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが胸を張った。
今日の教訓は――
頼まれた荷物をさらに別の人に頼んでもOK!
だって復代理で有効だから!
これからは友達に頼んで友達の友達に受け取ってもらいます!
いいか、代理は本人・代理人・相手方の三者関係で、代理人が本人の名で行為する!
顕名がなければ代理人自身の行為とみなされる!
代理行為の瑕疵は代理人を基準に判断する!
制限行為能力者でも代理人になれる!
法定代理と任意代理では消滅原因が違う。
本人の破産は任意代理のみ!
復代理人を選任できるのは本人の許諾またはやむを得ない事由のときのみ!
復代理人は直接本人を代理する!
友達への荷物の依頼はあくまで友達間の信頼の話やからな!
今回のまとめ
【代理の基本(民法99条・100条)】
- 代理=代理人が本人の名で意思表示をし、効果が直接本人に帰属する制度
- 代理成立の3要素:代理権・顕名・代理行為
- 顕名なし→代理人自身の行為とみなされる(ただし相手方が知っていた場合は本人に帰属)
【代理行為のトラブル(民法101条・102条)】
- 意思の瑕疵・善意悪意の判断:代理人を基準にする
- ただし本人が知っていた場合は本人を基準にする(民法101条2項)
- 代理人は行為能力者でなくてよい(民法102条)
- 任意代理で選んだ代理人が制限行為能力者でも、本人は取消し不可
【代理権の消滅原因(民法111条)】
| 消滅原因 | 法定代理 | 任意代理 |
|---|---|---|
| 本人の死亡 | ○ | ○ |
| 代理人の死亡 | ○ | ○ |
| 代理人の破産・後見開始 | ○ | ○ |
| 本人の破産 | ✕ | ○ |
| 委任の終了 | ✕ | ○ |
【復代理(民法104条・105条)】
- 復代理=代理人がさらに復代理人を選任すること
- 復代理人は直接本人を代理する(代理人の代理人ではない)
- 復代理人の権限は代理人の代理権の範囲内
| 任意代理人(民法104条) | 法定代理人(民法105条) | |
|---|---|---|
| 選任条件 | 本人の許諾 または やむを得ない事由 | いつでも自由に選任可 |
| 責任 | 原則として本人に対し責任を負う | 選任・監督について責任を負う |
