プロローグ
午後の事務所。こむぎちゃんが、ぶつぶつ言いながら入ってきた。
私のお気に入りのカフェ、あるじゃないですか。
窓際のいっちばん端っこの席、私の特等席なんですけど、最近ずーっと座れないんですよ。
マナーの悪い常連さんがいて、朝から晩までその席に居座って、ノートパソコンでカタカタ作業してるんです。
コーヒー1杯で何時間も粘っちゃって、私が行くといつもその人がいるんですよ。
店員さんも、お客さん相手だから強く言えないみたいで、見て見ぬふりなんです。
あの席が本来持ってる「ゆったり過ごせる価値」が、あの人のせいで全部台無しなんですよ〜。
予約できるわけでもなし、こむぎちゃんがどうこう言える立場でもないやろ。
邪魔な人が居座ってるだけで、こっちは何にもできないなんて。
そのとき、事務所のドアがノックされた。
敷地です。 今日はちょっと込み入った相談がありまして。
入ってきたのは敷地倫太郎さん。第49話で測量さんからアパートを買って独立した、投資物件も持つ不動産業者だ。
今日は冷たい麦茶お出ししますね。
助かります。
敷地さんはソファに腰を下ろすと、少し困った表情で切り出した。
今日の事件:平成25年 問5
そのアパートを担保に、銀行から融資を受けているんです。
ところが、最近トラブルが起きまして。
不法占拠ってやつですね。
僕としては早く出ていってほしいんですが、相手がのらりくらりで埒が明かなくて。
担当者が定期的にやっている担保物件の現況確認で、その一室に契約外の人が住んでいることに気づいたらしくて。
「抵当権者である当行が、お客様の物件にいる他人の不法占拠者に対して、直接『出ていけ』と言えるのかどうか……これは当行内でも意見が分かれていまして」と。
抵当権を持っている銀行が、所有者でもないのに不法占拠者を追い出せるのか。
それとも、所有者である僕が動くしかないのか。
ここがどうにも整理できていないんです。
それ、実は宅建試験でもよう問われる論点や。
平成25年の問5に、ちょうど不法占拠と抵当権の選択肢があってな。
他の設問も含めて、それを一緒に潰しながら、敷地さんの悩みにも答えていこか。
【平成25年 問5】抵当権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 債権者が抵当権の実行として担保不動産の競売手続をする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要があるが、対象不動産に関して発生した賃料債権に対して物上代位をしようとする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要はない。
- 抵当権の対象不動産が借地上の建物であった場合、特段の事情がない限り、抵当権の効力は当該建物のみならず借地権についても及ぶ。
- 対象不動産について第三者が不法に占有している場合、抵当権は、抵当権設定者から抵当権者に対して占有を移転させるものではないので、事情にかかわらず抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることはできない。
- 抵当権について登記がされた後は、抵当権の順位を変更することはできない。
抵当権者が、不法占拠者に出ていけって言えるかどうか。
これ、さっきの私のカフェの居座り客の話と似てません?
邪魔な人が居座って、本来の価値が損なわれてるっていう。
私の特等席の価値が下がるのと、敷地さんのアパートの担保価値が下がるの、なんか同じ構造じゃないですか?
「他人が不当に居座って、本来あるべき価値を下げとる。それを誰がどうやって排除できるか」っちゅう話やな。
そこが今日の肝や。
敷地さんの不法占拠案件を軸に、平成25年問5の4つの設問を順に潰していくで。
推理①:抵当権は「非占有担保」——なぜ妨害排除が問題になるのか
まずは抵当権の性格を押さえる
こむぎちゃん、抵当権って、銀行が建物を取り上げて占有するものやと思うか?
抵当権って、建物に住んだまま借りられるんですよね。
銀行が住み込むわけじゃない。
抵当権は「非占有担保」っちゅうてな。
質権みたいに物を取り上げて預かるんやのうて、所有者に使わせたまま、その物の「価値」だけを把握する担保や。
敷地さんはアパートを所有して人に貸し続けてええ。
銀行が把握しとるのは、いざというときに競売にかけて売れば回収できる「交換価値」だけや。
だから原則、利用には口を出せない
抵当権者は、抵当不動産の「利用」には原則として干渉できない。
誰を住まわせるか、どう使うかは、所有者である敷地さんの自由や。
だから銀行も「自分が口を出していいものか」と迷っていたわけですね。
抵当権者は普段、物件の使い方に関わらない立場だから。
設問3が「抵当権は、抵当権設定者から抵当権者に対して占有を移転させるものではない」と言うとるのは、まさにこの非占有担保の性格を指しとる。
これ自体は正しい説明や。
設問3(再掲):対象不動産について第三者が不法に占有している場合、抵当権は、抵当権設定者から抵当権者に対して占有を移転させるものではないので、事情にかかわらず抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることはできない。
「占有を移転させるものではないから、事情にかかわらず妨害排除請求はできない」と言い切っとる。
ここが正しいかどうか——それが今日の最重要論点や。
でも「事情にかかわらず一切できない」って、なんか言い過ぎな気がします。
だって、それじゃ敷地さん、泣き寝入りじゃないですか。
そこを次で詰めていくで。
推理②:不法占拠者への妨害排除——「価値が下がる事情」があれば請求できる
設問3の核心
ほな、不法占拠者が居座って競売価格が下がりそうなときでも、銀行は黙って見とくしかないんか。
答えは「いや、できることがある」や。
登場人物はこうや。
【ケース】敷地さんのアパートに不法占拠者
- 銀行:抵当権者
- 敷地さん:アパートの所有者(抵当権設定者)
- 占居 居夫(せんきょ いお)さん:契約関係なくアパートに住み着いた不法占拠者
こういう「価値が下がる事情」があるときは、抵当権者は手を打てる。
方法その1:所有者の妨害排除請求権を「代位行使」する
判例(最判平11.11.24)はこう言うとる。
ところが敷地さんがそれを行使せんと放置しとると、抵当権の価値が守られへん。
これを「債権者代位権」(民法423条)の転用っちゅう。
民法423条1項(債権者代位権) 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(被代位権利)を行使することができる。
銀行が自分の名前で直接「出ていけ」って言うんじゃなくて、敷地さんの「出ていけ」っていう権利を借りて行使するんですね。
敷地さんがやらないから、代わりにやってあげる、と。
所有者が動かんなら、抵当権者が所有者の権利を肩代わりして動く。
これが代位行使や。
方法その2:抵当権に基づいて「直接」妨害排除する
判例(最判平17.3.10)は、一歩踏み込んでこう言うた。
所有者である僕の権利を代わりに使う「代位行使」と、銀行自身の抵当権を直接ぶつける「直接請求」と。
どっちにせよ、「不法占拠で担保価値が下がる」っちゅう事情があれば、抵当権者は妨害排除を請求できるっちゅうことや。
設問3の正誤判定
設問3:「……事情にかかわらず抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることはできない」
確かに抵当権は非占有担保で、普段は利用に干渉できへん。
そこまでは正しい。
けど「事情にかかわらず一切できない」が言い過ぎや。
担保価値が下がる事情があれば、代位行使でも直接請求でも、妨害排除はできる。
「事情にかかわらず」っていう言い切りが怪しかったんですよ。
試験では「事情にかかわらず」「一切」「常に」みたいな全否定・全肯定の言い切りは、たいてい誤りのサインや。
該当する例: 占居さんの不法占拠で競売価格が下がる事情がある → 銀行は代位行使または抵当権に基づく直接請求で妨害排除できる
該当しない例: 敷地さんが適法に貸している賃借人がいるだけ(不法占拠でなく、価値を下げる事情もない)→ 抵当権者は利用に干渉できず、妨害排除はできない
推理③:物上代位と競売実行——どちらも「弁済期の到来」が必要
設問1の検討
これは前回扱った物上代位の続きみたいな話やから、整理しとこか。
設問1: 債権者が抵当権の実行として担保不動産の競売手続をする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要があるが、対象不動産に関して発生した賃料債権に対して物上代位をしようとする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要はない。
【ケース】敷地さんが返済を滞納した場合
- 銀行:抵当権者(敷地さんに融資した被担保債権を持つ)
- 敷地さん:アパート所有者、賃貸人
- 敷地さんはアパートを賃貸して家賃収入を得とる
1つめ、「競売するには被担保債権の弁済期が来とる必要がある」——これは正しい。
返済期限も来てへんのに、いきなり競売にはかけられへん。
家賃債権を差し押さえて取り立てるには、やっぱり被担保債権の弁済期が来とらなあかん。
弁済期も来てへんのに、敷地さんの家賃を銀行が取り立てられたら、敷地さんはたまらんやろ。
まだ返す期限も来てないのに、家賃を横取りされたら困りますもん。
せやから設問1は、後半の「弁済期が到来している必要はない」が誤り。
正しくは「物上代位にも弁済期の到来が必要」や。
設問1の正誤判定
競売も物上代位も、どちらも被担保債権の弁済期到来が前提や。
該当する例: 敷地さんが返済を滞納し弁済期が経過 → 銀行は競売も賃料への物上代位もできる
該当しない例: まだ弁済期が来ていない → 競売も物上代位もできない(物上代位だけ例外的に先にできる、ということはない)
推理④:借地上の建物の抵当権——効力は借地権にも及ぶ
設問2の検討(これが正解肢)
土地は地主の軒高 守(のきだか まもる)さんから借りていて、その借地の上に僕がアパートを所有しているんです。
建物だけが僕のもので、土地は賃借権なんですよ。
設問2: 抵当権の対象不動産が借地上の建物であった場合、特段の事情がない限り、抵当権の効力は当該建物のみならず借地権についても及ぶ。
【ケース】借地上のアパートに抵当権
- 軒高さん:土地の地主(土地賃貸人)
- 敷地さん:軒高さんから土地を借り、その上にアパートを所有(建物所有者=借地権者)
- 銀行:敷地さんのアパート(建物)に抵当権を設定
銀行が抵当権を実行して、アパートを競売で誰かに売ったとする。
ところが、その建物が建っとる土地を使う権利(借地権)が一緒についてこんかったら、どうなる?
建物だけポツンとあっても意味ないです。
建物の価値は、その下の土地を使える権利(借地権)とセットで初めて意味を持つ。
せやから判例も、借地上の建物に抵当権を設定したら、特段の事情がない限り、抵当権の効力は借地権にも及ぶとしとる。
そうやないと、抵当権の意味がのうなってまうからな。
だからこそ、ちゃんとした担保価値が保たれる、と。
設問2の正誤判定
借地上の建物の抵当権は、特段の事情がない限り借地権にも及ぶ。 これが本問の正解肢や。
該当する例: 借地上のアパートに抵当権 → 効力は建物と借地権の両方に及ぶ → 競売の買受人は借地権も取得
該当しない例: 特段の事情があるケース(例外的場面)→ 借地権に及ばないこともあるが、原則は及ぶ
推理⑤:抵当権の順位変更——登記後でも変更できる
設問4の検討
これは妨害排除とは別系統の話やけど、サクッと潰しとこ。
設問4: 抵当権について登記がされた後は、抵当権の順位を変更することはできない。
1番抵当・2番抵当っちゅうやつや。
この順位は、後から関係者の合意で入れ替えることができる。
これを「抵当権の順位変更」っちゅう。
利害関係を持つ人がおるときは、その人の承諾が必要や。
順位が下がる抵当権者は損するからな。
そして順位変更は登記しなければ効力を生じひん。
登記後でも、利害関係人の承諾を得て順位変更はできる。[/st-kaiwa1] [st-kaiwa1]順位って、一回決めたら固定じゃないんですね。
入れ替えできるんだ。[/st-kaiwa1] [st-kaiwa3 r]できる。
ただ、この順位の話は奥が深うてな。 順位の譲渡やら放棄やら、似た制度がいくつもあるんや。
それは「抵当権の順位」っちゅうまとまった論点やから、そのうちまた一緒に整理しよか。
今日のところは「登記後でも順位変更はできる」っちゅうことだけ押さえてくれたらええ。
そこは別の機会にじっくり、ですね。
設問4の正誤判定
登記後でも、利害関係人の承諾を得れば順位変更はできる。
該当する例: 1番抵当と2番抵当の順位を、利害関係人の承諾を得て入れ替える → 登記すれば有効
該当しない例: 承諾なしに勝手に順位を変える → できない(が、これは「登記後だからできない」のではなく「承諾がないからできない」)
推理⑥:抵当権の保全手段を一枚に整理
特に今日の主役、妨害排除の2つの方法を対比しとこ。
不法占拠者への妨害排除——2つの方法
| 方法 | 仕組み | 根拠・判例 |
|---|---|---|
| ①代位行使 | 所有者が持つ妨害排除請求権を、抵当権者が代わりに行使 | 民法423条/最判平11.11.24 |
| ②直接請求 | 抵当権そのものに基づき、抵当権者が直接妨害排除を請求(一定の場合は自己への明渡しも) | 最判平17.3.10 |
ただ占有しとるだけで価値が下がってへんなら、抵当権者は手を出せん。
抵当権の保全手段の対比(物上代位との違い)
| 物上代位 | 妨害排除請求権 | |
|---|---|---|
| 目的 | 価値の追及(形を変えた金銭への効力) | 物としての保全(目的物の価値維持) |
| 対象 | 売却代金・賃料・保険金等の金銭 | 抵当目的物そのもの(占有の排除) |
| 行使方法 | 差押え(弁済期到来が必要) | 代位行使または抵当権に基づく直接請求 |
| 根拠 | 民法372条・304条 | 民法423条/解釈(最判平11.11.24、最判平17.3.10) |
非占有担保やからこそ、価値が脅かされたときの保全手段が用意されとる、っちゅうことやな。
事件の結論
物上代位にも被担保債権の弁済期到来が必要や。
建物の価値は借地権とセットやから、効力は借地権にも及ぶ。これが正解。
価値が下がる事情があれば、代位行使(最判平11.11.24)でも抵当権に基づく直接請求(最判平17.3.10)でも妨害排除できる。
利害関係人の承諾を得れば、登記後でも順位変更はできる。
敷地さんへの回答
銀行への回答もまとめさせてください。
しかし、占居さんの不法占拠によって、売却時に買い手がつきにくくなったり競売価格が下がったりと、担保価値が脅かされる事情がある場合には、銀行は妨害排除を請求できる。
方法は2つ。
1つは、所有者である僕が持つ妨害排除請求権を、銀行が代位行使する方法。
もう1つは、銀行が抵当権に基づいて直接妨害排除を請求する方法——とお伝えします。
ついでに、まずは所有者である敷地さん自身が、占居さんに対して明渡しを求めるのが筋や、っちゅうことも添えとくとええ。
銀行の代位行使は、あくまで「所有者が動かんとき」の話やからな。
敷地さんが自分で動けるなら、それが一番早い。
まずは僕が所有者として、占居さんにきちんと退去を求めます。
それでも動かない場合の銀行の対応も整理できたので、助かりました。
不法占拠の人、早く出ていってくれるといいですね。
こむぎちゃんのカフェの居座り客も、早く窓際を空けてくれるといいですね。
私も代位行使したいくらいです!
敷地さんは麦茶を飲み干すと、丁寧に礼を言って事務所を出て行った。
試験のひっかけメモ
- 「事情にかかわらず妨害排除できない」は誤り:抵当権は非占有担保だが、不法占拠で交換価値の実現が妨げられる事情があれば妨害排除できる。「事情にかかわらず」「一切」「常に」など全否定の言い切りは誤りのサイン
- 妨害排除には2つのルートがある:①所有者の妨害排除請求権の代位行使(最判平11.11.24)、②抵当権に基づく直接請求(最判平17.3.10)。直接請求では一定の場合に抵当権者自身への明渡しも認められうる
- 物上代位にも「弁済期の到来」が必要:競売だけでなく賃料への物上代位も、被担保債権の弁済期到来が前提。「物上代位は弁済期前でもできる」は誤り
- 借地上の建物の抵当権は借地権にも及ぶ:特段の事情がない限り。建物の価値は借地権とセットだから。競売の買受人は借地権も取得する
- 抵当権の順位は登記後も変更できる:利害関係人の承諾を得れば順位変更が可能。「登記後は変更できない」は誤り
- 妨害排除の大前提は「価値が下がる事情」:単に占有されているだけでは足りず、交換価値の実現が妨げられていることが必要
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
今日の教訓は—— カフェの居座り客は、妨害排除請求で追い出せる! ってことですよね!
あの常連さんが私の特等席の「交換価値」を下げてるんだから、私、明日あの人に言ってきます!
あなた、私の特等席の交換価値の実現を妨げてます!
ただちに明け渡してください!って!
それでもダメなら、店員さんの「出ていけって言う権利」を代位行使して、私が代わりに追い出します!
そして来月から、窓際の席を抵当権に基づいて直接占有する人生を送ろうと思います!
そもそもこむぎちゃんは抵当権者ちゃうし、特等席に抵当権なんか設定しとらんやろ!
あと店員さんの「出ていけって言う権利」を代位行使て、こむぎちゃんは店に何の債権も持っとらん!
正確に言うで!!
抵当権は非占有担保やから、抵当権者は原則として抵当不動産の利用に干渉できへん!
けど、不法占拠によって交換価値の実現が妨げられ、優先弁済請求権の行使が困難になる事情があるときは、妨害排除を請求できる!
方法は2つ——所有者の妨害排除請求権を代位行使する方法(民法423条・最判平11.11.24)と、抵当権に基づいて直接妨害排除を請求する方法(最判平17.3.10)や!
借地上の建物の抵当権は、特段の事情がない限り借地権にも及ぶ!
物上代位も競売も、被担保債権の弁済期の到来が必要や!
抵当権の順位は、登記後でも利害関係人の承諾を得れば変更できる!
そして、こむぎちゃんはカフェの席は早い者勝ちやから、早めに行って自分で座りなさい!
居座り客を追い出す権利なんか、こむぎちゃんには無い!
今回のまとめ
抵当権の妨害排除請求権は、抵当権という「非占有担保」の性格を理解することから始まる。抵当権者は抵当不動産を占有せず、その「交換価値」だけを把握する。したがって、抵当権者は原則として抵当不動産の利用に干渉できない。しかし、その価値が不当に脅かされる場合には、価値を守るための保全手段が認められる。
①抵当権は非占有担保: 抵当権者は目的物を占有せず、所有者に使わせたまま交換価値だけを把握する。そのため、抵当権設定者から抵当権者へ占有が移転するわけではなく、抵当権者は原則として利用関係に干渉できない。
②不法占拠への妨害排除は「事情があれば」できる: 第三者の不法占拠により、競売手続が妨害されたり競売価格が下落するなど、抵当権の交換価値の実現が妨げられ優先弁済請求権の行使が困難になる事情があるときは、抵当権者は妨害排除を請求できる。「事情にかかわらず一切できない」とする命題は誤りである。
③妨害排除の2つのルート: 第一に、所有者(抵当権設定者)が不法占拠者に対して有する妨害排除請求権を、抵当権者が債権者代位権(民法423条)によって代位行使する方法(最判平11.11.24)。第二に、抵当権者が抵当権そのものに基づいて直接妨害排除を請求する方法(最判平17.3.10)であり、所有者による適切な維持管理が期待できない場合には、抵当権者自身への明渡しを求めることも認められうる。
④物上代位にも弁済期の到来が必要: 抵当権の実行としての競売には被担保債権の弁済期到来が必要だが、これは賃料債権への物上代位についても同様である。物上代位だけが弁済期前に行使できるということはない。
⑤借地上の建物の抵当権は借地権にも及ぶ: 抵当権の対象が借地上の建物である場合、特段の事情がない限り、抵当権の効力は建物のみならず借地権(土地賃借権)にも及ぶ。建物の価値は敷地利用権とセットで成り立つため、競売の買受人は建物とともに借地権を取得する。
⑥抵当権の順位は登記後も変更可能: 抵当権の順位変更は、各抵当権者の合意と、利害関係を有する者の承諾を得て行うことができ、登記によって効力を生じる。「登記後は順位を変更できない」は誤りである。
⑦実務的含意: 抵当不動産に不法占拠者が現れた場合、まずは所有者自身が明渡しを求めるのが基本だが、所有者が動かない、あるいは担保価値の毀損が深刻な場合には、抵当権者が代位行使または直接請求で介入できる。投資物件を担保に融資を受ける際は、占有関係の健全性が担保価値に直結することを意識する必要がある。
| 平成25年問5・正誤判定 | 設問 | 正誤 | 判定の根拠 |
|---|---|---|---|
| 設問1 | 物上代位には弁済期到来が不要 | 誤り | 物上代位にも被担保債権の弁済期到来が必要 |
| 設問2 | 借地上の建物の抵当権は借地権にも及ぶ | 正しい | 建物の価値は借地権とセット(特段の事情なき限り) |
| 設問3 | 事情にかかわらず妨害排除できない | 誤り | 価値毀損の事情があれば妨害排除可(最判平11.11.24、最判平17.3.10) |
| 設問4 | 登記後は順位変更できない | 誤り | 利害関係人の承諾を得れば登記後も順位変更可 |
| 正解 | 「正しいもの」は設問2 | — | — |
| 妨害排除の方法 | 仕組み | 根拠・判例 |
|---|---|---|
| 代位行使 | 所有者の妨害排除請求権を抵当権者が代位行使 | 民法423条/最判平11.11.24 |
| 直接請求 | 抵当権に基づき抵当権者が直接請求(一定の場合は自己への明渡しも) | 最判平17.3.10 |
| 共通の前提 | 交換価値の実現が妨げられる事情があること | — |
| 抵当権の保全手段の対比 | 物上代位 | 妨害排除請求権 |
|---|---|---|
| 目的 | 価値の追及(金銭への効力) | 物としての保全(目的物の価値維持) |
| 対象 | 売却代金・賃料・保険金等の金銭 | 抵当目的物そのもの(占有の排除) |
| 行使方法 | 差押え(弁済期到来が必要) | 代位行使または抵当権に基づく直接請求 |
| 根拠 | 民法372条・304条 | 民法423条/解釈(最判平11.11.24、最判平17.3.10) |
| 敷地さんの不法占拠案件への回答 | 内容 |
|---|---|
| 抵当権者の原則的立場 | 非占有担保のため、普段は利用に干渉できない |
| 妨害排除の可否 | 担保価値が下がる事情があれば妨害排除できる |
| 第一の方法 | 所有者の妨害排除請求権を銀行が代位行使 |
| 第二の方法 | 銀行が抵当権に基づき直接請求 |
| 実務的な順序 | まずは所有者自身が明渡しを求めるのが筋 |
