プロローグ:こむぎちゃん、年齢確認で複雑な気持ちになる
朝の事務所。こむぎちゃんがスマホを見ながら少し得意げな顔をしていた。
若く見られてる気がして
若く見られとるわけやないで
でも年齢って大事ですよね。
できることとできないことが変わりますし
特に法律の世界では年齢によって権利や義務がガラッと変わることがある
こむぎちゃんが「そうですよね〜」と返したとき、事務所のドアがノックされた。
入ってきたのは南向壱星だ。いつもの真面目な顔だが、今日は少し焦りの色が見える。こむぎちゃんと目が合った瞬間、ほんの少しだけ表情が緩んだが、すぐに引き締まった。
営業の現場でちょっと困ったことがあって、相談させてください
どうぞどうぞ、座ってください!
壱星はノートを取り出しながら椅子に座り、状況を説明し始めた。
物件も気に入ってもらえて、申し込みをしようとしたんですが…
親御さんが来ていなかったんです。
その場で契約を進めていいのかどうかがわからなくて、一度保留にしてしまいました。
地権 陸くんというお客さんで、4月から大学に進学予定なんですが
こむぎちゃんがパッと顔を上げた。
さっきの私の話と繋がりますね。
年齢によってできることが変わるって、まさにこのことですか?
壱星くんの判断は正しかったで。
ほな、なぜ17歳だと問題になるのか、順番に整理していきましょか
推理① 意思能力と制限行為能力者の制度とは?|なぜ17歳だと契約できないのか
「なぜ17歳だと一人で契約ができないのか」という話や
登記田はホワイトボードに「意思能力」と書いた。
意思能力とは、自分のした行為の結果を判断できる能力のことや(民法3条の2)
たとえば幼い子どもや、泥酔して前後不覚の状態でした契約は無効や
17歳でも意思能力はある。
でも「意思能力がなかった」ことを個別に証明するのは難しい。
そこで民法は、判断能力が不十分な人を保護するための別の仕組みを用意しとる。
それが制限行為能力者の制度や(民法4条〜21条)
登記田がホワイトボードに4種類を書き出した。
制限行為能力者の4種類
| 種類 | 対象となる人 |
|---|---|
| 未成年者 | 18歳未満の者 |
| 成年被後見人 | 精神上の障害で判断能力を常に欠く者 |
| 被保佐人 | 精神上の障害で判断能力が著しく不十分な者 |
| 被補助人 | 精神上の障害で判断能力が不十分な者 |
意思能力の有無を個別に証明しなくてよいから、保護が受けやすいんや
ほな未成年者のルールを詳しく見ていこか
該当する例:17歳の地権くんが一人で賃貸契約をしようとした → 未成年者に当たるためルールの確認が必要。
該当しない例:18歳の大学1年生が一人で賃貸契約をした → 成年のため制限行為能力者に当たらない(2022年4月改正民法により成年年齢は18歳)。
推理② 未成年者のルール詳細|法定代理人の同意・代理・追認でどうすれば契約できるか
地権くんは17歳やから未成年者に該当する
そして同意なしに単独でした法律行為は、取り消すことができる(民法5条2項)
だから壱星くんの会社側としても、その場で契約を進めてしまうとリスクがある。
後から取り消されたら、契約がなかったことになってしまうからな
登記田は3つの方法をホワイトボードに書いた。
契約を成立させるための3つの方法
① 法定代理人が事前に同意する 親権者が「この物件で契約していいよ」と事前に同意する。その同意を得た上で地権くんが契約する。
② 法定代理人が代理して契約する 親権者が地権くんの代わりに(代理人として)契約する。最も確実な方法。
③ 法定代理人が事後に追認する 地権くんが先に契約して、後から親権者が「それでいい」と承認(追認)する。追認があれば、契約は最初から有効だったものとして扱われる。
もう一つ押さえておきたいのが、未成年者が単独でできる行為や。
これは取消しができない
未成年者が単独でできる行為(取消し不可)
- 単に権利を得、または義務を免れる行為(例:贈与を受ける、借金を免除してもらう)
- 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産の処分(例:「この5万円は自由に使っていい」と許可されたお小遣いの範囲内での支出)
- 法定代理人が許可した営業に関する行為
- 年齢相応の日用品購入など社会的に認められる行為
でも賃貸契約みたいな大きな話は親の同意が必要ってことですね!
だから私も17歳のとき勝手に…
該当する例:地権くんが親権者の同意を得て賃貸契約をした → 有効に成立。
該当しない例:地権くんが親権者の同意なしに賃貸契約をした → 取り消すことができる(親権者または地権くん本人が取消し可能)。
推理③ 追認の催告|相手方から「どうするの?」と確認できる制度
「追認するのか取り消すのか、ハッキリしてください」と相手方から確認を求める権利のことや
これを追認の催告という
つまり、黙っていたら「認めた」扱いになるということや
登記田が催告の整理表を書いた。
催告のまとめ表(試験頻出)
| 催告先 | 確答なしの場合 |
|---|---|
| 法定代理人・保佐人・補助人へ催告 | 追認とみなす |
| 被保佐人・被補助人の本人へ催告 | 追認とみなす |
| 能力者となった本人へ催告(成年後など) | 追認とみなす |
相手方としては、いつまでも「取り消されるかもしれない」という不安定な状態に置かれないよう、催告で決着をつけられる仕組みや
これ、友達への連絡にも使えそうです!
これは法律上の契約の話やで
該当する例:地権くんが申込みをした後、会社が親権者に催告した → 一定期間内に確答がなければ追認とみなされる。
該当しない例:会社が地権くん本人(17歳のうち)に直接催告した → 未成年のままでは有効な催告先ではない。能力者(18歳)になってから本人に催告する必要がある。
推理④ 成年被後見人・被保佐人・被補助人|4種類の制限行為能力者を比較する
壱星がノートにメモを取りながら聞いた。
成年被後見人・被保佐人・被補助人はどう違うんですか?
比較表で一気に整理しましょか
制限行為能力者 4種類の比較表
| 未成年者 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 18歳未満 | 判断能力を常に欠く | 判断能力が著しく不十分 | 判断能力が不十分 |
| 開始の要件 | 年齢のみ | 家裁の審判 | 家裁の審判 | 家裁の審判+本人の申立orの同意 |
| 保護者 | 法定代理人(親権者等) | 後見人 | 保佐人 | 補助人 |
| 単独でできる行為 | 日用品購入・お小遣い範囲内等 | 日常生活に関する行為のみ | 日常的な行為全般 | 審判で定めた行為以外 |
| 同意が必要な重要行為 | 原則すべて | なし(代理のみ) | 民法13条1項各号 | 審判で定めた特定行為 |
ポイント①:成年被後見人は「同意」ではなく「代理」で保護する
成年被後見人は判断能力を常に欠くため、同意を得ても意味がない。後見人が代わりに契約する(代理)形で保護する。単独でできるのは日常生活に関する行為のみ。
ポイント②:被保佐人は「重要な行為だけ」同意が必要
不動産の売買・借金・訴訟行為など民法13条1項各号に定める重要な行為は保佐人の同意が必要。同意なしにした場合は取り消せる。日常的な行為は単独でできる。
ポイント③:被補助人の開始審判は「本人の同意」が必要
未成年者・成年被後見人・被保佐人は本人の同意なしに開始できるが、被補助人だけは本人の申立てまたは同意がなければ開始できない(民法15条2項)。判断能力の低下が軽度であるため、本人の意思が尊重される。
未成年者は年齢だけで決まるから少し別枠、ってことですね!
その通りや
こむぎちゃんが少し得意げな顔をした。壱星がノートに「こむぎさんまとめ:判断能力低→保護厚」と書き込んでいた。
該当する例(被保佐人):被保佐人が保佐人の同意なしに不動産を売買した → 取り消すことができる(民法13条1項2号)。
該当しない例(被保佐人):被保佐人が日用品をコンビニで購入した → 日常的な行為のため単独でできる。取消し不可。
事件の結論|地権くんの賃貸契約を成立させるには
登記田がホワイトボードを整理した。
ポイント①:17歳は未成年者。単独での賃貸契約は取り消せる状態
地権くんが親権者の同意なしに単独で契約しても、後から取り消される可能性がある(民法5条2項)。壱星くんが保留にしたのは正しい判断。
ポイント②:契約を成立させるための方法は3つ
- 親権者が事前に同意した上で地権くんが契約する
- 親権者が代理して契約する
- 地権くんが先に申込みをして、後から親権者が追認する
ポイント③:既に申込みをしていた場合は催告も使える
会社側から親権者に催告(確認の連絡)を行うことができる。一定期間内に返答がなければ追認とみなされる。
壱星が大きく頷いた。
すぐに地権くんに連絡して、親御さんと一緒に来てもらえるようにお願いします!
壱星が立ち上がり、帰り支度をしていると、こむぎちゃんが声をかけた。
また何かあったら来てください!
また来ます
壱星は少し名残惜しそうに一礼して事務所を出て行った。こむぎちゃんはすでに次の書類に目を向けている。
登記田は小さく苦笑した。
何か言いましたか?
誰かの代わりに行動する人間のルール、これも権利関係の重要テーマやで
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「未成年者がした法律行為はすべて無効である」 → 誤り。未成年者がした法律行為は「無効」ではなく「取り消すことができる」(民法5条2項)。取り消されるまでは一応有効。無効と取消しの違いは重要。
ひっかけ②「未成年者は一切の法律行為を単独でできない」 → 誤り。単に権利を得る行為(贈与を受けるなど)や、法定代理人が許可した財産の処分などは単独でできる(民法5条1項ただし書)。
ひっかけ③「成年被後見人は後見人の同意を得れば単独で契約できる」 → 誤り。成年被後見人は判断能力を常に欠くため、同意を得ても単独ではできない。後見人が代理するのが原則(日常生活に関する行為を除く)。
ひっかけ④「催告に対して確答がない場合、取り消したとみなされる」 → 誤り。確答がない場合は「追認したものとみなされる」(民法20条1項)。取消しではなく追認。
ひっかけ⑤「被補助人の開始審判は本人の同意なしに行える」 → 誤り。被補助人だけは、開始審判に本人の申立てまたは同意が必要(民法15条2項)。未成年者・成年被後見人・被保佐人とは異なる重要な違い。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが胸を張った。
今日の教訓は――コンビニの年齢確認タッチパネルは17歳でも押せる!
だから17歳でも賃貸契約も自分でできます!
いいか、未成年者は18歳未満で単独の法律行為は取り消すことができる!
法定代理人の同意・代理・追認のいずれかがあれば契約は成立する!
単に権利を得る行為やお小遣いの範囲はOK!
成年被後見人はほぼすべて取消し可で後見人が代理!
被保佐人は重要行為に同意が必要!
被補助人だけ開始審判に本人の同意が必要!
催告に確答なしは追認とみなされる!
タッチパネルと制限行為能力者は何の関係もない!
今回のまとめ
【意思能力と制限行為能力者の制度】
- 意思能力なしの法律行為は無効(民法3条の2)
- 意思能力の有無の証明は難しいため、制限行為能力者制度が設けられている
- 制限行為能力者の行為は取り消すことができる(証明不要で保護が受けやすい)
【未成年者のルール(民法4条・5条)】
- 未成年者=18歳未満の者(2022年4月改正で成年年齢が18歳に引き下げ)
- 原則:法定代理人の同意が必要
- 同意なしの法律行為 → 取り消すことができる(取消権者:本人・法定代理人)
- 単独でできる行為:単に権利を得る行為・許可されたお小遣いの範囲内・日用品購入等
- 契約を成立させる方法:①事前同意 ②代理 ③事後追認
【追認の催告(民法20条)】
- 相手方から制限行為能力者側(法定代理人等)に確認を求める権利
- 催告に対して確答なし → 追認とみなされる(どのパターンも同じ)
【制限行為能力者 4種類の比較表】
| 未成年者 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
|---|---|---|---|---|
| 開始要件 | 年齢のみ | 家裁の審判 | 家裁の審判 | 家裁の審判+本人の申立or同意 |
| 保護者 | 法定代理人 | 後見人 | 保佐人 | 補助人 |
| 単独でできる行為 | 日用品・許可財産等 | 日常生活のみ | 日常的行為全般 | 審判外の行為 |
| 保護の強さ | 強 | 最強 | 中 | 弱 |
