「1ヶ月後」はいつ?期間の計算と初日不参入の落とし穴|宅建探偵 第35話

プロローグ

こむぎちゃん
登記田さん、聞いてください!
昨日、友達と遊園地に行ったんですよ!
ほう、楽しそうやな。
登記田探偵
こむぎちゃん
人気のアトラクションに行ったら「現在の待ち時間:60分」って看板が出てて。
じゃあ60分後に来ればいいじゃないですか!
だから一回りして60分後に戻ったら、係員の人に「今並んでいただくと60分お待ちいただきます」って言われて……!
それはな、「今並んだら60分かかる」っていう意味やで。
60分後に来たら乗れるっていう案内とちゃうわ。
登記田探偵
こむぎちゃん
えっ、そうだったんですか!?
じゃあ私が60分後に戻ってきたとき、列はさらに伸びてて……。
結局何分待ったんや。
登記田探偵
こむぎちゃん
120分です……。
合計180分やないか。
ご苦労さん。
登記田探偵

そのとき、事務所のドアをそっとノックする音がした。入ってきたのは、雪宮さんだった。いつもより少し表情が固い。

こんにちは。
突然お邪魔してしまってすみません。
少し相談に乗っていただけますか?
雪宮さん
こむぎちゃん
雪宮さん!
どうぞどうぞ、こちらへ!
いつでも歓迎やで。
どんなご相談ですか。
登記田探偵

雪宮さんは椅子に腰を下ろして、少し言いにくそうに口を開いた。

実は私の友人のことなんですが……。
友人がお金を借りていて、「1ヶ月後に返せばいい」という約束で金銭消費貸借契約を結んだそうなんです。
それで「具体的に、何月何日までに返せばいいんだろう」ってわからなくなってしまって、私に聞いてきたんですけど、私もわからなくて。
雪宮さん
なるほど。
「1ヶ月後」というのが具体的にいつになるのかという話やな。
契約日はわかりますか?
登記田探偵
はい。
8月31日の午前10時に契約書を交わしたそうです。
弁済期限は「契約締結日から1ヶ月後」と書いてあるって。
雪宮さん
こむぎちゃん
あっ!
これ、さっきの遊園地の話と似てますね!
どこをスタートにして数えるかで、全然違う日になっちゃう……!
構造は同じやな。
「どこから数え始めるか」と「どこで終わりとするか」。
この二つを正確に押さえれば、期間の計算は怖くない。
順番に整理していこか。
登記田探偵

推理①:起算日はどこか——初日不参入の原則(民法140条)

まず最初の問題。
8月31日の午前10時に契約したとして、「1ヶ月」を数え始めるのは8月31日からか、それとも9月1日からか。
登記田探偵
普通に考えると……8月31日からですよね?
契約した日ですから。
雪宮さん
そう思うのが自然やな。
でも民法は違うルールを定めとる。
民法140条にこう書いてある。
「日、週、月または年によって期間を定めたときは、期間の初日は算入しない。ただし、その期間が午前0時から始まるときは、この限りでない」
登記田探偵
これを初日不参入の原則という。
期間の最初の日は、原則として数に入れへんというルールや。
登記田探偵
え、なぜそんなルールがあるんですか?
雪宮さん
考えてみ。
8月31日の午前10時に契約した。
その時点で、8月31日のうちすでに10時間が過ぎとる。
残りは14時間しかない。
その「端数の14時間」を「1日」として数えるのは不公平やろ。
だから、時間の途中から始まる日は「なかったことにして」、翌日から丸々カウントしようというわけや。
登記田探偵
こむぎちゃん
なるほど!
半端な日はノーカンにするんですね!
せやな。
ただし例外がある。
条文にもある通り、「その期間が午前0時から始まるとき」は初日を算入する。
午前0時ちょうどから始まるなら、その日は丸々1日あるから端数にならへん。
でも今回は午前10時スタートやから、例外には当たらへん。
登記田探偵
というわけで、友人さんの場合。
契約日の8月31日は算入しない。
起算日(数え始める日)は翌9月1日ということになる。
登記田探偵
8月31日ではなく9月1日からカウントする、ということですね。
雪宮さん

該当する例: 8月31日午前10時に契約→午前0時からではないため初日不参入→起算日は9月1日。

該当しない例: 「契約した日が8月31日だから8月31日が起算日」は誤り。午前0時から始まる場合のみ初日算入が認められる。


推理②:「1ヶ月後」の終わりはどこか——暦による計算と応当日(民法143条)

次の問題。
起算日は9月1日とわかった。
では9月1日から「1ヶ月」を計算したとき、満了日はどこになるか。
登記田探偵
9月は30日まであるので……9月1日から30日で計算すると、10月1日でしょうか?
雪宮さん
こむぎちゃん
あ、私は「1ヶ月=30日」と思ってたんですが、10月は31日あるし……8月は31日あるし……毎月日数が違うから困りますよね!
そこが大事なポイントや。
民法143条1項にこう書いてある。
「週、月または年によって期間を定めたときは、その期間は暦に従って計算する」
登記田探偵
「暦に従って計算する」というのは、日数で数えるんやなくて、カレンダーの上で「1ヶ月後」を探すということや。
9月1日の1ヶ月後は——カレンダーをめくって——10月1日。
これが応当日(おうとうび)と呼ばれるもの。
月が変わっても、日付が同じになる日のことや。
登記田探偵
応当日は10月1日、ですね。
ではその日が弁済期限ということですか?
雪宮さん
もう一歩。
民法143条2項を見てみ。
「週、月または年の初めから期間を起算しないときは、その期間は最後の週、月または年において、その起算日に応当する日の前日に満了する」
登記田探偵
今回、9月1日は「9月の初め(1日)」から起算しとるやないかと思うかもしれへんけど、ここで言う「月の初めから起算する」というのは1日が起算日という意味とちゃう。
月の「初め(最初の日)」から期間が始まるという特別な場合のことで、今回は初日不参入の結果として9月1日になっただけやから、「月の初めから起算しないとき」に該当する。
登記田探偵
つまり満了するのは、応当日(10月1日)の前日
9月30日ということになる。
登記田探偵
10月1日が応当日で、その前日の9月30日が満了日……!
雪宮さん
こむぎちゃん
「1ヶ月後の前日」って、なんか直感と違いますね……。
わかりやすく言うとな、「9月1日から1ヶ月間」というのは、9月1日が起算日の1日目で、10月1日が「1ヶ月経ったその日」や。
でも期間の中にあるのは9月1日から9月30日まで。
10月1日は「1ヶ月が終わった翌日」やから、期間の外に出とるんや。だから満了日は9月30日になる。
登記田探偵

該当する例: 起算日9月1日→暦に従って1ヶ月後の応当日は10月1日→その前日の9月30日が満了日。

該当しない例: 「1ヶ月=30日」として計算し「9月1日+30日=10月1日が弁済期限」とするのは誤り。暦による計算を用いるため日数で数えてはいけない。


推理③:「9月30日の終了」とはいつか——満了の時刻と応当日がない場合

最後の問題。
「9月30日が満了日」とわかったとして、友人さんは9月30日の何時までに返せばいいんやろ。
登記田探偵
契約したのが午前10時だから……9月30日の午前10時まで、でしょうか?
雪宮さん
これも違う。
民法141条にこう書いてある。
「期間は、その末日の終了をもって満了する」
末日の「終了」、つまり9月30日の午後12時(真夜中)をもって期間が満了するんや。
登記田探偵
契約を結んだ時刻が午前10時でも、満了は末日の終わりまる丸。
9月30日中に返済すれば、何時であっても期限内ということや。
登記田探偵
じゃあ9月30日の夕方に振り込んでも大丈夫なんですね。
少し安心しました。
雪宮さん
そういうことや。
ただし、ここで一つ大事な派生論点を押さえとこか。
応当日がそもそも存在しない月の場合はどうなるか。
登記田探偵
こむぎちゃん
えっ、応当日がない場合なんてあるんですか?
たとえば1月31日を起算日として1ヶ月計算したとする。
1ヶ月後の応当日は「2月31日」——でも2月にそんな日は存在せえへん。
この場合について、民法143条2項のただし書きにこう書いてある。
「その月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する」
登記田探偵
つまり「2月31日は存在しないから、2月の末日(うるう年でなければ2月28日)が満了日」ということになる。
今回の友人さんの計算では応当日の10月1日はちゃんと存在するから、このただし書きは使わへん。
でも試験には頻繁に出る論点やから覚えておいて損はない。
登記田探偵
応当日がない月のときは末日……了解しました。
しっかりメモしておきます。
雪宮さん

該当する例: 9月30日の「終了」(午後12時)が満了点。9月30日中であれば何時に弁済しても期限内。

該当しない例: 「契約時刻が午前10時だから満了も午前10時」は誤り。期間の満了は末日の終了をもってとする(民法141条)。


事件の結論

まとめるで。
友人さんの状況を3ステップで整理したら、答えははっきりする。
登記田探偵
まずステップ1
契約日は8月31日の午前10時。
午前0時からではないから初日不参入(民法140条)。
起算日は翌9月1日
登記田探偵
次にステップ2
9月1日から1ヶ月を暦に従って計算(民法143条1項)。
応当日は10月1日
その前日が満了日(民法143条2項)だから、満了日は9月30日
登記田探偵
最後にステップ3
満了は末日の終了(民法141条)、つまり9月30日の午後12時
9月30日中に返済すれば期限内や。
登記田探偵
よかった。
友人に「9月30日中に返せばいい」と伝えられます。
本当にありがとうございました。
雪宮さん
それだけやなくて、もし心配なら余裕をもって早めに返すよう伝えてあげ。
ギリギリに動くと振込のタイミングとかで思わぬトラブルが起きることもあるからな。
登記田探偵
はい、そうします。
細かいことまで気にかけていただいてありがとうございます。
雪宮さん

雪宮さんは安堵した表情で事務所を後にした。


試験のひっかけメモ

  • 初日不参入が原則(民法140条): 期間の初日は算入しない。ただし午前0時から始まる場合は例外で初日を算入する
  • 「1ヶ月=30日」で計算するのは誤り: 月による期間は暦に従って計算する(民法143条1項)。月によって日数が異なっても「応当日の前日」というルールは変わらない
  • 満了日は応当日そのものではなく「応当日の前日」: 9月1日から1ヶ月→応当日10月1日→満了日は9月30日(民法143条2項)。「応当日が弁済期限」とするのは誤り
  • 応当日が存在しない月は末日が満了日: 例・1月31日起算で1ヶ月→「2月31日」は存在しない→その月の末日(2月28日等)が満了日(民法143条2項ただし書き)
  • 満了の時刻は末日の終了(午後12時): 契約の時刻(例・午前10時)は満了時刻に影響しない(民法141条)。末日の午後12時までに弁済すれば期限内

締め:こむぎちゃんの1行まとめ

さてと、今日の教訓を一言でまとめてみ。
登記田探偵
こむぎちゃん
はい!
つまり、「どこから数えるか」が大事ってことですね!
そう考えると、私が遊園地で60分後に並んだのも……「待ち時間が始まる起点」をどこにするかの問題で、初日不参入を適用すれば60分後から並び直せば間違ってなかった……!
なんでやねーん!!

遊園地の待ち時間に民法を持ち込むな!
初日不参入は日・週・月・年によって期間を定めたときのルールや!
60分の待ち時間に適用されへん!
正確に言うで!!
8月31日午前10時に契約したら初日不参入で起算日は翌9月1日(民法140条)!
9月1日から1ヶ月を暦に従って計算したら応当日は10月1日(民法143条1項)!
応当日の前日が満了日やから9月30日が弁済期限(民法143条2項)!
満了は末日の終了つまり9月30日の午後12時(民法141条)!
応当日がない月はその月の末日が満了日(民法143条2項ただし書き)!
ちゃんとしなさい!

登記田探偵
こむぎちゃん
…てへっ♪

今回のまとめ

金銭消費貸借契約で「契約締結日から1ヶ月後」が弁済期限とされた場合、期間の計算は3つのステップで行う。

①初日不参入(民法140条): 期間の初日は算入しない。午前0時から始まる場合のみ例外的に初日を算入する。8月31日午前10時の契約では、初日(8月31日)は不算入となり、起算日は9月1日。

②暦による計算と応当日・満了日(民法143条): 月による期間は暦に従って計算する。起算日の1ヶ月後の同じ日(応当日)を求め、その前日が満了日となる。9月1日の応当日は10月1日、その前日の9月30日が満了日。なお応当日が存在しない月(例:2月31日)はその月の末日が満了日。

③期間の満了時刻(民法141条): 期間は末日の終了(午後12時)をもって満了する。契約の締結時刻は満了時刻に影響しない。

ステップ 適用条文 内容 今回の結果
起算日の確定 民法140条 初日不参入(午前0時開始の場合のみ例外) 8月31日→不算入、起算日は9月1日
満了日の確定 民法143条1項・2項 暦に従って計算、応当日の前日が満了日 応当日10月1日→満了日は9月30日
満了時刻の確定 民法141条 末日の終了(午後12時)をもって満了 9月30日の午後12時
応当日なし 民法143条2項ただし書き 応当日がない月はその月の末日が満了日 今回は該当なし(参考論点)

参考書籍:2026年版 史上最強の宅建士テキスト

  • B!