プロローグ
昨日、友達と遊園地に行ったんですよ!
じゃあ60分後に来ればいいじゃないですか!
だから一回りして60分後に戻ったら、係員の人に「今並んでいただくと60分お待ちいただきます」って言われて……!
60分後に来たら乗れるっていう案内とちゃうわ。
じゃあ私が60分後に戻ってきたとき、列はさらに伸びてて……。
ご苦労さん。
そのとき、事務所のドアをそっとノックする音がした。入ってきたのは、雪宮さんだった。いつもより少し表情が固い。
突然お邪魔してしまってすみません。
少し相談に乗っていただけますか?
どうぞどうぞ、こちらへ!
どんなご相談ですか。
雪宮さんは椅子に腰を下ろして、少し言いにくそうに口を開いた。
友人がお金を借りていて、「1ヶ月後に返せばいい」という約束で金銭消費貸借契約を結んだそうなんです。
それで「具体的に、何月何日までに返せばいいんだろう」ってわからなくなってしまって、私に聞いてきたんですけど、私もわからなくて。
「1ヶ月後」というのが具体的にいつになるのかという話やな。
契約日はわかりますか?
8月31日の午前10時に契約書を交わしたそうです。
弁済期限は「契約締結日から1ヶ月後」と書いてあるって。
これ、さっきの遊園地の話と似てますね!
どこをスタートにして数えるかで、全然違う日になっちゃう……!
「どこから数え始めるか」と「どこで終わりとするか」。
この二つを正確に押さえれば、期間の計算は怖くない。
順番に整理していこか。
推理①:起算日はどこか——初日不参入の原則(民法140条)
8月31日の午前10時に契約したとして、「1ヶ月」を数え始めるのは8月31日からか、それとも9月1日からか。
契約した日ですから。
でも民法は違うルールを定めとる。
民法140条にこう書いてある。
「日、週、月または年によって期間を定めたときは、期間の初日は算入しない。ただし、その期間が午前0時から始まるときは、この限りでない」。
期間の最初の日は、原則として数に入れへんというルールや。
8月31日の午前10時に契約した。
その時点で、8月31日のうちすでに10時間が過ぎとる。
残りは14時間しかない。
その「端数の14時間」を「1日」として数えるのは不公平やろ。
だから、時間の途中から始まる日は「なかったことにして」、翌日から丸々カウントしようというわけや。
半端な日はノーカンにするんですね!
ただし例外がある。
条文にもある通り、「その期間が午前0時から始まるとき」は初日を算入する。
午前0時ちょうどから始まるなら、その日は丸々1日あるから端数にならへん。
でも今回は午前10時スタートやから、例外には当たらへん。
契約日の8月31日は算入しない。
起算日(数え始める日)は翌9月1日ということになる。
該当する例: 8月31日午前10時に契約→午前0時からではないため初日不参入→起算日は9月1日。
該当しない例: 「契約した日が8月31日だから8月31日が起算日」は誤り。午前0時から始まる場合のみ初日算入が認められる。
推理②:「1ヶ月後」の終わりはどこか——暦による計算と応当日(民法143条)
起算日は9月1日とわかった。
では9月1日から「1ヶ月」を計算したとき、満了日はどこになるか。
民法143条1項にこう書いてある。
「週、月または年によって期間を定めたときは、その期間は暦に従って計算する」
9月1日の1ヶ月後は——カレンダーをめくって——10月1日。
これが応当日(おうとうび)と呼ばれるもの。
月が変わっても、日付が同じになる日のことや。
ではその日が弁済期限ということですか?
民法143条2項を見てみ。
「週、月または年の初めから期間を起算しないときは、その期間は最後の週、月または年において、その起算日に応当する日の前日に満了する」。
月の「初め(最初の日)」から期間が始まるという特別な場合のことで、今回は初日不参入の結果として9月1日になっただけやから、「月の初めから起算しないとき」に該当する。
9月30日ということになる。
でも期間の中にあるのは9月1日から9月30日まで。
10月1日は「1ヶ月が終わった翌日」やから、期間の外に出とるんや。だから満了日は9月30日になる。
該当する例: 起算日9月1日→暦に従って1ヶ月後の応当日は10月1日→その前日の9月30日が満了日。
該当しない例: 「1ヶ月=30日」として計算し「9月1日+30日=10月1日が弁済期限」とするのは誤り。暦による計算を用いるため日数で数えてはいけない。
推理③:「9月30日の終了」とはいつか——満了の時刻と応当日がない場合
「9月30日が満了日」とわかったとして、友人さんは9月30日の何時までに返せばいいんやろ。
民法141条にこう書いてある。
「期間は、その末日の終了をもって満了する」。
末日の「終了」、つまり9月30日の午後12時(真夜中)をもって期間が満了するんや。
9月30日中に返済すれば、何時であっても期限内ということや。
少し安心しました。
ただし、ここで一つ大事な派生論点を押さえとこか。
応当日がそもそも存在しない月の場合はどうなるか。
1ヶ月後の応当日は「2月31日」——でも2月にそんな日は存在せえへん。
この場合について、民法143条2項のただし書きにこう書いてある。
「その月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する」。
今回の友人さんの計算では応当日の10月1日はちゃんと存在するから、このただし書きは使わへん。
でも試験には頻繁に出る論点やから覚えておいて損はない。
しっかりメモしておきます。
該当する例: 9月30日の「終了」(午後12時)が満了点。9月30日中であれば何時に弁済しても期限内。
該当しない例: 「契約時刻が午前10時だから満了も午前10時」は誤り。期間の満了は末日の終了をもってとする(民法141条)。
事件の結論
友人さんの状況を3ステップで整理したら、答えははっきりする。
契約日は8月31日の午前10時。
午前0時からではないから初日不参入(民法140条)。
起算日は翌9月1日。
9月1日から1ヶ月を暦に従って計算(民法143条1項)。
応当日は10月1日。
その前日が満了日(民法143条2項)だから、満了日は9月30日。
満了は末日の終了(民法141条)、つまり9月30日の午後12時。
9月30日中に返済すれば期限内や。
友人に「9月30日中に返せばいい」と伝えられます。
本当にありがとうございました。
ギリギリに動くと振込のタイミングとかで思わぬトラブルが起きることもあるからな。
細かいことまで気にかけていただいてありがとうございます。
雪宮さんは安堵した表情で事務所を後にした。
試験のひっかけメモ
- 初日不参入が原則(民法140条): 期間の初日は算入しない。ただし午前0時から始まる場合は例外で初日を算入する
- 「1ヶ月=30日」で計算するのは誤り: 月による期間は暦に従って計算する(民法143条1項)。月によって日数が異なっても「応当日の前日」というルールは変わらない
- 満了日は応当日そのものではなく「応当日の前日」: 9月1日から1ヶ月→応当日10月1日→満了日は9月30日(民法143条2項)。「応当日が弁済期限」とするのは誤り
- 応当日が存在しない月は末日が満了日: 例・1月31日起算で1ヶ月→「2月31日」は存在しない→その月の末日(2月28日等)が満了日(民法143条2項ただし書き)
- 満了の時刻は末日の終了(午後12時): 契約の時刻(例・午前10時)は満了時刻に影響しない(民法141条)。末日の午後12時までに弁済すれば期限内
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり、「どこから数えるか」が大事ってことですね!
そう考えると、私が遊園地で60分後に並んだのも……「待ち時間が始まる起点」をどこにするかの問題で、初日不参入を適用すれば60分後から並び直せば間違ってなかった……!
遊園地の待ち時間に民法を持ち込むな!
初日不参入は日・週・月・年によって期間を定めたときのルールや!
60分の待ち時間に適用されへん!
正確に言うで!!
8月31日午前10時に契約したら初日不参入で起算日は翌9月1日(民法140条)!
9月1日から1ヶ月を暦に従って計算したら応当日は10月1日(民法143条1項)!
応当日の前日が満了日やから9月30日が弁済期限(民法143条2項)!
満了は末日の終了つまり9月30日の午後12時(民法141条)!
応当日がない月はその月の末日が満了日(民法143条2項ただし書き)!
ちゃんとしなさい!
今回のまとめ
金銭消費貸借契約で「契約締結日から1ヶ月後」が弁済期限とされた場合、期間の計算は3つのステップで行う。
①初日不参入(民法140条): 期間の初日は算入しない。午前0時から始まる場合のみ例外的に初日を算入する。8月31日午前10時の契約では、初日(8月31日)は不算入となり、起算日は9月1日。
②暦による計算と応当日・満了日(民法143条): 月による期間は暦に従って計算する。起算日の1ヶ月後の同じ日(応当日)を求め、その前日が満了日となる。9月1日の応当日は10月1日、その前日の9月30日が満了日。なお応当日が存在しない月(例:2月31日)はその月の末日が満了日。
③期間の満了時刻(民法141条): 期間は末日の終了(午後12時)をもって満了する。契約の締結時刻は満了時刻に影響しない。
| ステップ | 適用条文 | 内容 | 今回の結果 |
|---|---|---|---|
| 起算日の確定 | 民法140条 | 初日不参入(午前0時開始の場合のみ例外) | 8月31日→不算入、起算日は9月1日 |
| 満了日の確定 | 民法143条1項・2項 | 暦に従って計算、応当日の前日が満了日 | 応当日10月1日→満了日は9月30日 |
| 満了時刻の確定 | 民法141条 | 末日の終了(午後12時)をもって満了 | 9月30日の午後12時 |
| 応当日なし | 民法143条2項ただし書き | 応当日がない月はその月の末日が満了日 | 今回は該当なし(参考論点) |