プロローグ
昨日スーパーで卵を買ったんですけど、帰って開けたら1個割れてたんですよ。
これってお店に言ったら交換してもらえるんですかね?
レシートあるんか?
でも考えたんです。
もしかして「この卵は最初から割れていたので契約は無効です!」って言ったほうがカッコよくないですか?
普通に交換してもらい。
そんなやり取りをしているところへ、事務所のドアが開いた。
急ぎでご相談したいことがあるんですが……
息を切らして飛び込んできたのは、独立開業を準備中の不動産業者・敷地倫太郎だった。
まあ座り。
どないしたんや
推理① 公序良俗違反は「取消し」? ── 無効と取消しの分かれ道
敷地は深呼吸してから語り始めた。
自分だけでは正確な判断ができなくて、先生のお力を借りたいんです
話の内容はこうだった。
路線(ろせん)という不動産ブローカーが原野さんに近づき、「近々新幹線の新駅が開通する計画がある。この土地は別荘地として将来確実に値上がりする」と熱心に説明した。原野さんはその話を信じ、退職金の大半をつぎ込んで2,000万円で山奥の土地を購入する契約を結んだ。
ところが後日調べてみると、新幹線の延伸計画など一切存在しなかった。その土地は時価わずか20万円程度の原野。いわゆる原野商法にまんまと引っかかってしまったのだ。
「こんなひどい契約は公序良俗に反するから取り消せるんじゃないか。
ついでに路線に損害賠償も請求したい」と。
……これ、合ってるんですかね?
「無効」って言葉を使うべき場面なのに「取消し」って言っちゃってる……!
構造はまさにそこや。整理していこか
登記田がホワイトボードにマーカーを走らせた。
民法90条にそう書いてある。
「無効」いうんは、最初から法律上の効力が発生してへんいうことやな
公序良俗違反なら「無効を主張する」が正しい言い回しになる。
「取消し」とは法律上の意味がちゃうんや
せやから損害賠償の請求はできる。
この点は原野さんの認識で合っとるで
該当する例: 時価20万円の土地を「新幹線が通る」と嘘をついて2,000万円で売りつける行為 → 公序良俗違反で無効 + 不法行為で損害賠償請求可能
該当しない例: 時価2,000万円の土地を1,800万円に値引きして売った → 通常の商取引であり公序良俗違反ではない
ポイント
- 公序良俗違反 → 無効(「取消し」ではない)
- 路線の行為 → 不法行為(民法709条)として損害賠償請求は可能
推理② 錯誤は「無過失限定」? ── 重過失がカギ
敷地がスマホのメモを確認しながら続けた。
無過失じゃないと錯誤で取消しできないんですか?
登記田がボードに「95条」と書いた。
これが民法95条1項の原則や。
ただし例外がある
これが95条3項や。
ここがミソでな――「過失があったらダメ」やなくて、「重大な過失」があったらダメなんや
「無過失のときに限り」は条件が厳しすぎる。
キーワードは「重過失」、これだけ覚えとき
該当する例: 原野さんが路線の説明を鵜呑みにして多少の確認を怠った(軽過失) → 重過失とまでは言えないので取消し可能
該当しない例: 契約書の金額欄を一切見ずにサインして、桁が一つ違っていた → 重大な過失として取消し不可になる可能性が高い
ポイント
- 錯誤による意思表示 → 取消し可能(民法95条1項)
- ただし重大な過失があると取消し不可(95条3項)
- 「無過失限定」ではない → 軽過失ならセーフ
推理③ 詐欺取消しの期間制限と、被保佐人の「無効」主張
原野さんは詐欺で取り消すという方法も考えているんですが、時間の制限はありますか?
契約からまだ日は浅いですが、将来のことも気になるそうで
登記田の声のトーンが少し変わった。
路線が新幹線計画をでっち上げて原野さんを騙した――これは明らかに詐欺による意思表示や。
民法96条1項により、取消しができる
民法126条にこう定められとる。
取消権は、①追認をすることができる時から5年間行使しないとき、または②行為の時から20年を経過したときに消滅する
原野さんはまだ契約から日が浅いんやったら今のうちに動くべきやな。
時間は味方やない、そう伝えといてくれ
該当する例: 原野さんが詐欺に気づいてから3年後に取消しを主張 → 追認できる時から5年以内なので取消し可能
該当しない例: 原野さんが詐欺に気づかないまま25年放置し、その後取消しを主張 → 行為の時から20年経過で取消権は消滅
ポイント
- 詐欺による意思表示 → 取消し可能(民法96条1項)
- 取消権の消滅:追認できる時から5年 or 行為の時から20年(民法126条)
敷地がメモを確認しながら、最後の質問に移った。
実は原野さんの弟さんも路線から似た土地を買わされていて。
弟さんは被保佐人なんです。
保佐人であるお父さんが「同意していないから無効だ」と主張しているそうなんですが、これは正しいんでしょうか
登記田がボードに「無効? 取消し?」と大きく書いた。
根拠は民法13条1項3号と4項や
けど法律的には正しくない。
「取り消せる」のであって「無効」やないんや
今日の質問、四つとも全部同じ急所に収束してますね
法律の世界では似た言葉でも効果がまったく違う。
「無効」と「取消し」は試験でも実務でも一番引っかけられやすいポイントの一つや
該当する例: 被保佐人の弟さんが保佐人の同意なく2,000万円の土地を購入 → 保佐人は取消しを主張できる
該当しない例: 被保佐人が日用品を購入 → 日常生活に関する行為は保佐人の同意不要。取消しの対象にならない
ポイント
- 被保佐人が保佐人の同意なく不動産売買 → 取消し可能(民法13条)
- 「無効」ではなく「取消し」が正しい
事件の結論 ── 「無効」と「取消し」、どちらで攻めるか
登記田が四つの質問をボードに並べて整理したところで、敷地が核心を突く質問を投げかけた。
ただ実際のところ、原野さんは公序良俗違反で「無効」を主張するのと、詐欺で「取消し」を主張するのと、どちらで攻めるのが得策なんでしょうか
実はそこが一番実践的に大事なとこや
登記田がボードを二つに分けて書き始めた。
効果としては強力や――最初から契約がなかったことになるからな。
せやけど問題は立証のハードルや。
公序良俗違反が認められるには、単に「騙された」だけやなくて、契約内容そのものが社会的に見て許されないレベルやと示さなあかん
ただ裁判所に「これは暴利行為や」と認めてもらうには、相手の暴利性とこちらの窮迫・軽率・無経験といった事情を総合的に証明せなあかん。
ケースバイケースやけど、ハードルは決して低くない
こっちは「路線が嘘をついた」→「それを信じて契約した」という因果関係を示せればええ。
新幹線計画が存在せんことは客観的に証明できるし、原野さんがそれを信じて買ったのも明らかや。
つまり立証の筋道がはっきりしとる
詐欺の方が攻めやすいということですか
ただし、さっき話した通り取消権には期間制限があるから、早めに動くことが条件や。
それと大事なんは、どちらか一方だけを選ぶ必要はないいうことやな
公序良俗違反で「無効」を主張しつつ、予備的に詐欺で「取消し」も主張する。
実務ではこういう二段構えはよくある話や。
さらに不法行為(民法709条)で損害賠償も請求できる。
原野さんには、メインは詐欺取消しで攻めつつ、公序良俗違反の無効も併せて主張する形で、専門家に相談するよう伝えたってくれ
敷地が大きく頷いた。
……正直、自分自身も「無効」と「取消し」をなんとなくで使い分けていた部分がありました。
今日ではっきり整理できました
なんとなくで済ませてきた区別を一度きっちり線引きしておく。
それが実務でも試験でも一番の武器になるで
敷地は深く頭を下げて事務所を出ていった。
試験のひっかけメモ
ひっかけ注意!
- 公序良俗違反を「取消し」と書いてある選択肢 → ✗ 正しくは「無効」(民法90条)
- 錯誤取消しを「無過失に限る」とする選択肢 → ✗ 正しくは「重過失がなければOK」(民法95条3項)
- 詐欺取消しの期間制限を「10年」とする選択肢 → ✗ 正しくは追認できる時から5年 or 行為の時から20年(民法126条)
- 制限行為能力者の同意なき契約を「無効」とする選択肢 → ✗ 正しくは「取消し」(民法13条4項)
- 公序良俗違反だと損害賠償請求もできないとする選択肢 → ✗ 無効とは別に不法行為に基づく損害賠償は可能(民法709条)
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
つまり――卵が割れてたら「無効」、自分で落として割ったら「取消し」、20年放置したら賞味期限切れで食べられないってことですね!
公序良俗違反は無効!
錯誤・詐欺・制限行為能力者の同意なき行為は取消し!
取消権には期間制限があって追認できる時から5年、行為の時から20年!
卵の話はどこにもかすっとらんわ!
今回のまとめ
無効と取消しの比較
| 場面 | 結論 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 公序良俗違反の法律行為 | 無効 | 民法90条 |
| 錯誤による意思表示 | 取消し可能(重過失なければ) | 民法95条 |
| 詐欺による意思表示 | 取消し可能(期間制限あり) | 民法96条・126条 |
| 被保佐人が同意なく契約 | 取消し可能 | 民法13条 |
正解肢の確認