プロローグ:こむぎちゃん、友達にお金を貸して失敗する
朝の事務所。こむぎちゃんが腕を組んで難しい顔をしていた。
何か保証を取っておけばよかったんですかね…
不動産の世界でもな、お客さんが業者に手付金を預けたあと、業者が倒産したらお金が戻ってこないいうリスクがある。
だから保全措置いう仕組みがあるんや
そのとき、事務所のドアが開いた。
南向壱星が、いつもの明るい表情で入ってきた。
前回のクーリング・オフの件、先輩に報告できたか?
先輩にすごく感謝されました。
ただその後、先輩に『そもそも手付金って何のお金かわかるか?
あと保全措置って知ってるか?』と聞かれて、答えられなかったんです…
壱星がノートを開いた。
先輩に『保全措置が必要かどうか確認しておけ』と言われました
登記田が頷いた。
セットで覚えるのが鉄則やで。
順番にいこか
相談① 手付の性質の制限|8種制限では必ず「解約手付」になる
登記田が説明した。
- 証約手付:契約が成立した証拠として交付する手付
- 違約手付:契約違反があった場合に没収される手付
- 解約手付:手付を放棄することで契約を解除できる手付
壱星が確認した。
名目に関係なく、8種制限のもとでは手付=解約手付や
登記田が解約手付の仕組みを説明した。
解約手付の仕組み:
- 買主から解除する場合:手付を放棄する(手付金を諦める)
- 売主(業者)から解除する場合:手付の倍額を現実に提供する(受け取った手付+同額を返す)
- ただし、相手方が契約の履行に着手するまでに限る
ただしクーリング・オフの条件を満たしていたから、手付を放棄せずに全額返還を受けられたわけやな
クーリング・オフのほうが買主にとって有利なんですね
あと、買主に不利な特約は無効。
"手付を放棄しても解除できない"とか"倍額ではなく3倍額を支払わないと解除できない"みたいな特約は無効やで
該当する例:宅建業者が売主の売買で、買主が手付を放棄して契約を解除(相手方が履行に着手する前)→ 有効
該当しない例:「手付を放棄しても契約を解除できない」という特約 → 買主に不利な特約のため無効
相談② 手付の額の制限|代金の20%が上限
手付金の上限:代金の10分の2(20%)を超える手付を受領してはならない
壱星が確認した。
もし仮に700万円を受け取ったらどうなるかいうと、超過した100万円の部分だけが無効になる。
600万円までは有効で、契約自体が無効になるわけではない
こむぎちゃんが言った。
超えた部分だけが無効や。
契約全体が無効になるわけではない。
ここ試験でひっかかる人が多いから注意やで
該当する例:代金4,000万円の物件で、手付金800万円(20%)を受領 → 上限ちょうどなので適法
該当しない例:代金4,000万円の物件で、手付金1,000万円(25%)を受領 → 超過分200万円は無効
相談③ 手付金等とは?|保全措置の対象となるお金の範囲
手付金等とは:契約締結の日以後、物件の引渡し前に支払われる金銭で、代金に充当されるもの
手付金、中間金、内金…名前が何であっても、"引渡し前に支払われて、代金に充当される"なら手付金等に該当する
壱星が質問した。
ただし、後で代金に充当されることになったら、その時点で手付金等に含まれる
該当する例:手付金300万円+中間金200万円 → 合計500万円が手付金等
該当しない例:申込証拠金10万円(代金に充当されない)→ 手付金等には該当しない
相談④ 手付金等の保全措置|未完成物件と完成物件で基準が違う
登記田が説明を始めた。
保全措置の目的:物件引渡し前に業者が倒産した場合、買主が支払った手付金等が戻ってこないリスクを防ぐ
壱星が真剣な表情になった。
保全措置が必要になる金額の基準:
| 未完成物件 | 完成物件 | |
|---|---|---|
| 金額基準 | 代金の5%を超える | 代金の10%を超える |
| または | 1,000万円を超える | 1,000万円を超える |
ちょうど5%、ちょうど10%、ちょうど1,000万円なら保全措置は不要や
壱星がノートを見ながら計算した。
完成物件の基準は代金の10%を超えるときだから…
3,000万円×10%=300万円。
手付金500万円は300万円を超えているので…
先輩にそう報告しとき
壱星がホッとした表情を見せた。
保全措置なしで手付金を受け取ったら違反になるところでした
次に保全措置の方法を整理した。
保全措置の方法:
| 未完成物件 | 完成物件 | |
|---|---|---|
| ① 銀行等による保証 | ○ | ○ |
| ② 保険事業者による保証保険 | ○ | ○ |
| ③ 指定保管機関による保管 | × | ○ |
壱星が質問した。
業者が途中で倒産したら、物件そのものが存在しないかもしれん。
だからより確実な保証方法だけに限定しているんや。
指定保管機関の保管は、お金を預かっているだけで保証ではないからな
登記田が補足した。
まず、業者が保全措置を講じなかった場合、買主は手付金等の支払いを拒否できる
こむぎちゃんが言った。
今回は合ってるな。
保全措置は買主を守るための制度やから、講じてない業者に無理にお金を渡す必要はないいうことや
保全措置が不要な場合:
- 手付金等の額が基準以下の場合(未完成:5%以下かつ1,000万円以下、完成:10%以下かつ1,000万円以下)
- 買主が所有権の登記をした場合(登記があれば権利が保護される)
保全措置を講じなくてよいとする特約は認められん
該当する例:完成物件・代金5,000万円・手付金600万円(10%=500万円を超える)→ 保全措置が必要
該当しない例:完成物件・代金5,000万円・手付金400万円(10%=500万円以下)→ 保全措置は不要
エピローグ:壱星、先輩に報告できる
壱星がノートを閉じた。
壱星が指折り確認した。
- 手付の性質:8種制限では必ず解約手付。手付放棄で解除、倍額償還で解除、履行着手まで
- 手付の額:代金の20%が上限。うちのケースは物件価格が3,000万円で手付金が500万円、600万円以下だからOK
- 手付金等:引渡し前に支払われ、代金に充当されるお金の合計で判断
- 保全措置:3,000万円の完成物件で手付金が10%の300万円を超える500万円なので → 保全措置が必要
先輩にそのまま報告したらええで
壱星が力強く頷いた。
あの、登記田さん、8種制限って残りはあといくつですか?
登記田が指を折った。
自己の所有に属しない物件の制限、担保責任の特約の制限、損害賠償額の予定、割賦販売の制限、所有権留保の禁止。
次でまとめて全部やっつけるで
今回までの3つ(クーリング・オフ、手付の制限、保全措置)が8種制限のヤマ場やからな。
壱星くんはもうヤマを越えたで
壱星が嬉しそうに笑った。
また来ます!
こむぎちゃんが小さく手を振って見送った。
壱星がこむぎちゃんの言葉に一瞬振り返り、笑顔で頭を下げてから出て行った。
登記田が静かにコーヒーをすすった。
でもええ成長してるわ
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「手付の額が代金の20%を超えた場合、契約自体が無効になる」 → 契約は有効。超過部分だけが無効。20%までは有効に受領できる。
ひっかけ②「完成物件の保全措置が必要な基準は代金の10%以上」 → 10%を"超える"場合に必要。ちょうど10%は保全措置不要。「以上」ではなく「超える」。
ひっかけ③「未完成物件でも指定保管機関による保管で保全措置を講じることができる」 → 未完成物件では銀行等の保証と保険の2種類のみ。指定保管機関の保管は完成物件のみ使える。
ひっかけ④「手付金300万円を受領後、さらに中間金200万円を受領する場合、保全措置は手付金の300万円で判断する」 → 手付金等は合計額で判断する。300万円+200万円=500万円で判断しなければならない。
ひっかけ⑤「買主が所有権の登記を受けた後でも保全措置は必要」 → 買主が所有権の登記をした場合、保全措置は不要。登記があれば権利が保護されるため。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
ほなこむぎちゃん、教訓を一言でまとめてみ
こむぎちゃんが拳を握った。
今日の教訓は――
友達にお金を貸すときも保全措置を講じるべき!
銀行の保証か、保険をつけてから貸します!
いいか、8種制限では手付は必ず解約手付!
額は代金の20%が上限!
保全措置は未完成5%超・完成10%超または1,000万円超で必要!
未完成は銀行保証と保険の2つ、完成はさらに指定保管機関の3つ!
手付金等は合計額で判断!
友達には"返してね"って直接言いなさい!
今回のまとめ
【手付の性質の制限】
- 8種制限(売主=業者、買主=非業者)では、手付は必ず解約手付として扱われる
- 買主は手付を放棄して解除、売主は倍額を現実に提供して解除
- 相手方が契約の履行に着手するまでに限る
- 買主に不利な特約は無効
【手付の額の制限】
- 代金の20%(10分の2)を超える手付を受領してはならない
- 超過部分のみ無効(契約自体は有効)
【手付金等の定義】
- 契約締結日以後、引渡し前に支払われ、代金に充当される金銭
- 名目を問わない(手付金・中間金・内金等)
- 合計額で判断する
【手付金等の保全措置】
- 保全措置が必要な基準:
| 未完成物件 | 完成物件 | |
|---|---|---|
| 金額基準 | 代金の5%を超える | 代金の10%を超える |
| または | 1,000万円を超える | 1,000万円を超える |
- 保全措置の方法:
| 未完成物件 | 完成物件 | |
|---|---|---|
| 銀行等による保証 | ○ | ○ |
| 保険事業者による保証保険 | ○ | ○ |
| 指定保管機関による保管 | × | ○ |
- 保全措置を講じなければ、買主は支払いを拒否できる
- 保全措置が不要な場合:基準以下の場合、買主が所有権の登記をした場合
- 買主に不利な特約は無効