第3話:消えた不動産会社と残された免許証(免許証と廃業届出を事件で解く)

プロローグ:こむぎちゃん、閉店セールに弱い

朝の事務所。こむぎちゃんが大きな紙袋を3つ抱えて出勤してきた。

こむぎちゃん
登記田さん、見てください! 駅前の雑貨屋さんが閉店セールやってて、全品70%オフだったんです!
…また散財か
で、その店いつ閉まるん?
登記田探偵
こむぎちゃん
先週の日曜で閉店したんですけど、閉店セールは昨日までやってました
閉店したのにセールはやってた?
それ、店は閉めたけど在庫処分の営業だけ続けてたいうことやな
登記田探偵
こむぎちゃん
あ、確かにそうですね
看板も外されてて、レジだけポツンとありました
実はな、不動産会社でも似たようなことが起きるんよ
会社が廃業しても、途中の取引だけは続けなあかんケースがある
廃業したのに営業してる?
閉めたのに閉めてない?
ここがややこしいんや
登記田探偵
こむぎちゃん
え、そんなことあるんですか?
あるんやな、これが
しかも届出の仕方を間違えたら大問題になる
登記田探偵

そのとき、事務所のドアが勢いよく開いた。

すみません! 登記田探偵事務所はこちらですか!?
雪宮さん

息を切らして飛び込んできたのは、30代の女性だった。

取引していた不動産会社が突然なくなったんです!
雪宮さん

登記田はこむぎちゃんの方を見た。

ほらな、ちょうどその話や
こむぎちゃん、紙袋はそこに置いて
仕事の時間やで
登記田探偵

事件の概要

飛び込んできたのは、中古マンションの購入手続き中だった雪宮さん。話を聞くと、状況はこうだった。

雪宮さんは「花丸プロパティ」という会社を通じてマンションの購入契約を進めていた。ところが先週、突然会社の電話がつながらなくなり、事務所に行ってみるともぬけの殻。看板も外されていた。

契約の途中なんです
手付金も払ってるのに、連絡がつかなくて
私のお金はどうなるんですか?
契約はまだ生きてるんですか?
雪宮さん

こむぎちゃんが雪宮さんに寄り添うように言った。

こむぎちゃん
つまり、夜逃げした不動産会社の社長を見つけ出すってことですね!
探偵の本領発揮です!
どうやったらそうなるねん…
うちは人探しの探偵ちゃうわ
まずは免許と届出のルールから整理して、雪宮さんがどう守られるかを明らかにするんや
登記田探偵

推理①「宅地建物取引業者免許証」とは

雪宮さん、花丸プロパティの事務所に行ったとき、壁に何か掲げてあったのを覚えていますか?
登記田探偵
そういえば、以前行ったときは額に入った免許証みたいなものが壁にかかっていました
でも先週行ったときは、それもなくなっていました
雪宮さん
その額に入っとったのが宅地建物取引業者免許証
登記田探偵

宅建業者は、免許を受けると免許証が交付される。そしてこの免許証には大事なルールがある。

① 事務所への掲示義務

免許証は事務所の見やすい場所に掲示しなければならない

お客さんが「この会社はちゃんと免許を持っている」と確認できるようにするためや

登記田探偵

② 携帯義務はない

ここがポイント!
宅建業者の免許証は持ち歩く必要はない
事務所に掲示しておけばええ
登記田探偵

こむぎちゃんがここで口を挟んだ。

こむぎちゃん
つまり、免許証がなくなってたってことは、もう免許が取り消されたってことですね!
どうやったらそうなるねん
免許証を外しただけで免許が消えるわけないやろ
免許証はあくまで"証明書"であって、免許そのものとは別の話や
ただし、掲示義務に違反してる状態ではあるな
登記田探偵

該当する例:事務所の受付横の壁に免許証を額に入れて掲示 → 適正

該当しない例:免許証を社長のデスクの引き出しにしまっている → 掲示義務違反

雪宮さん、免許証が壁から消えてたいうことは、計画的に撤収した可能性が高いな
次に確認すべきは、免許証の書換えがちゃんとされていたか
登記田探偵

推理②「免許証の書換え」

花丸プロパティについて、もう少し調べてみたで
登記田探偵

登記田は行政の公開情報を確認した結果をこむぎちゃんに伝えた。

花丸プロパティ、実は半年前に代表者が交代しとった
元の社長・花丸さんから、副社長だった高橋さんに代わっとる
登記田探偵

こむぎちゃんが首をかしげた。

こむぎちゃん
つまり、社長が変わったら新しい免許を取り直すってことですね!
どうやったらそうなるねん
社長が変わるたびに免許取り直してたら、不動産会社は何もでけへんわ
登記田探偵

代表者の変更のように、免許証の記載事項に変更があった場合は、免許の取り直しではなく「免許証の書換え」を行う。

書換えが必要なケース:

  • 商号(会社名)の変更
  • 代表者(法人の場合)の変更
  • 主たる事務所の所在地の変更
宅建業者名簿の変更届(30日以内)と混同しやすいんやけど、これは別の手続きや
名簿の変更届を出して、さらに免許証の書換え交付申請も必要
になるケースがあるんや
登記田探偵

整理するとこうなる。

変更内容 名簿の変更届 免許証の書換え
商号・名称の変更 必要 必要
代表者の変更 必要 必要
主たる事務所の移転 必要 必要
役員の追加・退任 必要 不要
専任の宅建士の変更 必要 不要
花丸プロパティの場合、代表者が変わったのに書換え申請をしていなかった可能性がある
これも問題の一つやな
登記田探偵

該当する例:会社名を変更した → 名簿の変更届+免許証の書換え交付申請

該当しない例:役員(代表者以外)が1人退任した → 名簿の変更届は必要だが、免許証の書換えは不要

推理③「廃業等の届出」

さて、いよいよ本題の核心や
花丸プロパティはなぜ、どういう形で消えたのか
登記田探偵

さらに調べた結果、事実が見えてきた。

花丸プロパティの新社長・高橋さんは、代表に就任した後に会社の業績が悪化して、先月末に廃業を決めたらしい
ただし、行政にはまだ届出が出ていない
登記田探偵
「」

こむぎちゃんが眉をひそめた。

こむぎちゃん
つまり、届出を出してないから、まだ正式には廃業してないってことですね!
じゃあ雪宮さんの取引はセーフです!
どうやったらそうなるねん…
届出を出してへんのは義務違反であって、"まだ廃業してない"いう意味とはちゃうで
登記田探偵

ここが試験でも最も出題されるポイント。廃業等の届出について整理しよう。

届出が必要になるケースは主にこの5つ:

ケース 届出義務者 届出期限 免許はいつ失効する?
①死亡(個人業者) 相続人 知った日から30日以内 死亡時点で失効
②合併による消滅 消滅した会社の代表役員 30日以内 合併時点で失効
③破産手続開始の決定 破産管財人 30日以内 届出時点で失効
④解散(合併・破産以外) 清算人 30日以内 届出時点で失効
⑤廃業(自ら宅建業をやめる) 法人:代表役員/個人:本人 30日以内 届出時点で失効
ここで超重要なのが、免許が失効するタイミングがケースによって違ういうことや
登記田探偵

大きく分けると2パターンある。

パターンA:届出に関係なく、その時点で失効するもの → ①死亡(死亡時点)、②合併消滅(合併時点)

パターンB:届出をした時点で失効するもの → ③破産、④解散、⑤廃業

花丸プロパティは⑤の自主廃業のケースや
届出をした時点で免許が失効する
でも、届出を出していないから、形式上は免許がまだ生きているいう宙ぶらりんの状態になっとるんや
登記田探偵
こむぎちゃん
じゃあ、雪宮さんの取引はどうなるんですか?
ここにもう一つ大事なルールがある
廃業等の届出をした場合でも、届出前に締結した契約に基づく取引を完了する目的の範囲内では、なお宅建業者とみなされるんや
登記田探偵

雪宮さんの目に希望の光が戻った。

つまり、私の契約はまだ有効…?
雪宮さん
そういうことや
花丸プロパティが届出を出したとしても、雪宮さんとの取引が完了するまでは宅建業者として責任がある
手付金の問題も含めて、行政と相談すれば対応の道はある
登記田探偵

「届出に関係なく失効する」例:個人の宅建業者が死亡 → 届出の有無に関係なく、死亡した時点で免許失効(相続人が30日以内に届出)

「届出して初めて失効する」例:法人が自主廃業 → 届出をした時点で免許失効。届出前は形式上、免許が存続している状態

事件の結論

登記田はホワイトボードに整理した。

雪宮さん、花丸プロパティの問題を整理するとこうなります
登記田探偵

問題①:免許証の掲示義務違反 事務所から免許証を撤去していた。廃業前の段階では掲示義務がある。

問題②:免許証の書換え未対応 代表者が交代したのに、免許証の書換え交付申請をしていなかった可能性が高い。

問題③:廃業届の未提出 実質的に廃業しているのに、30日以内の届出義務を果たしていない。

ただし、雪宮さんの契約は守られる
廃業届が出された後でも、届出前に締結した契約に基づく取引を完了するまでは宅建業者とみなされる
手付金の問題は行政の窓口に相談してください
登記田探偵

雪宮さんはホッとした表情で頭を下げた。

夜逃げされたかと思って絶望してましたけど、法律で守られてるんですね…
雪宮さん
不動産取引では消費者が泣き寝入りせえへん仕組みがあるんですわ
まずは行政に連絡、それが第一歩です
登記田探偵

試験のひっかけメモ

ひっかけ①「免許証は常に携帯しなければならない」携帯義務はない。事務所への掲示義務のみ。「宅地建物取引士証」の携帯義務と混同させる問題が定番。

ひっかけ②「役員が変わったら免許証の書換えが必要」 → 書換えが必要なのは商号・代表者・主たる事務所の所在地の変更。代表者以外の役員変更は名簿の変更届だけでOK

ひっかけ③「死亡した場合、届出をした時点で免許が失効する」 → 死亡と合併消滅は届出に関係なく、その事実が発生した時点で失効。③破産・④解散・⑤廃業が「届出時点で失効」。

ひっかけ④「廃業届を出したら、途中の取引も全部無効になる」届出前に締結した契約に基づく取引の完了目的の範囲内では、なお宅建業者とみなされる。取引相手は保護される。

締め:こむぎちゃんの1行まとめ

さてと、事件は解決や
ほなこむぎちゃん、今日の教訓を一言でまとめてみ
登記田探偵

こむぎちゃんが腕組みして、自信たっぷりに言った。

こむぎちゃん
はい! 今日の教訓は――不動産会社が夜逃げしたら、閉店セールでお得に物件をゲットしよう!
なんでやねーん!!
登記田探偵

お前は朝の雑貨屋の話を引きずっとるんか!
ええか、今日のポイントはな、免許証は事務所に掲示義務あり!
書換えが必要なのは商号・代表者・主たる事務所の変更!
廃業届は30日以内で、死亡と合併は届出前に失効、破産・解散・廃業は届出時に失効!

閉店セールは1ミリも関係ないやろ!
登記田探偵

こむぎちゃん
あ…確かに、全然違いましたね…
ちゃんとしなさい!
登記田探偵
こむぎちゃん
…てへっ♪

今回のまとめ

  • 宅建業者免許証は事務所の見やすい場所に掲示義務あり(携帯義務はなし)
  • 免許証の書換えが必要なのは「商号」「代表者」「主たる事務所の所在地」の変更時
  • 名簿の変更届(30日以内)と免許証の書換えは別の手続き
  • 廃業等の届出は30日以内。届出義務者はケースによって異なる(相続人、破産管財人、清算人、代表役員、本人)
  • 免許の失効タイミング:死亡・合併消滅は事実発生時破産・解散・廃業は届出時
  • 廃業届が出ても、届出前の契約に基づく取引の完了までは宅建業者とみなされる
  • B!