プロローグ:こむぎちゃん、フリマの実績づくりに失敗する
朝の事務所。こむぎちゃんがスマホを睨んでいた。
フリマアプリのアカウントが凍結されました…
それで形だけ売買を繰り返してたら、アカウント停止になっちゃって…
実態のない取引を繰り返したら、運営に見破られるわ
二人とも納得してたのに、なんでダメなんですか!
当事者同士がいくらOKでも、ルール上はアウトになることがあるんやで
そういうものなんですか…
そんなやり取りをしていると、事務所のドアが開いた。
こむぎちゃん、元気かい?
画地宗一郎が手に紙袋を持って入ってきた。前回(第21話)に続いての来訪だ。
どら焼きのお土産だよ
いつもすみません!
で、実は今日は別の相談があってねえ
画地がソファに座ると、少し眉をひそめた。
ちゃんとお金を払って、正当な売買だと思ってね
「あの土地はもともと自分のもので、息子の陸と示し合わせて名義だけ移しただけだ。
本当に売ったわけじゃない。
だから無効だ。
土地を返してくれ」と
正当な売買だと信じて買っただけなのに、「返せ」と言われて困っている。
わたしに相談してきたんだが、わたしの手には負えなくてね。
登記田さん、境田くんは本当に土地を返さなきゃいけないのかい?
こむぎちゃんが声を上げた。
二人で示し合わせて見せかけの取引をしたって、さっきの私のフリマアプリと同じ構造じゃないですか!
こむぎちゃんのフリマの話と宗一郎さんの友人の話、形だけの取引を二人で示し合わせてやったいう点ではまったく同じ構造や
こむぎちゃんのフリマはアカウント停止で済んだけど、不動産では何も知らない境田さんが巻き込まれとる。
これは民法の重要なテーマや
推理① 虚偽表示(通謀虚偽表示)とは?|二人でグルになったウソの意思表示は無効になる
そこで息子の陸くんと示し合わせて、土地の名義だけを陸くんに移した。
実際には売るつもりもないし、お金のやりとりもない。
形だけの売買や
民法94条に規定されとる
前回の心裡留保は「一人のウソ」やった。宗一郎さんが冗談で「売る」と言うたけど、地番さんは本気にしていた可能性があった。
つまり片方だけがウソをついているケースや
仮登さんも陸くんも、最初からお互いに「これは嘘の売買だ」とわかっている。
ここが決定的に違う
言い方はアレやけど、そういうことや
じゃあ仮登さんの言い分は正しいのかい?
二人とも嘘だとわかってやっとる。
保護する必要がない。
だから無効
画地の表情が曇った。
土地を返さなきゃいけないのかい…?
話はそう単純やない。
ここからが大事なところです
該当する例: 仮登さんと陸くんが示し合わせて土地の名義を移した(仮装売買)→ 当事者間では無効
該当しない例: 仮登さんが一方的に「売ったフリ」をしたが陸くんは本気で買ったと思っていた → これは虚偽表示ではなく心裡留保の問題(二人が「通じて」いないため)
推理② 善意の第三者はなぜ守られる?|民法94条2項が境田さんを救う
境田さんは仮登さんと陸くんの裏事情――
つまり仮装売買だったことをまったく知らない。
正当な売買だと信じてお金を払って土地を買うたんや
虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない
画地がパッと顔を上げた。
境田さんが善意であれば、土地を返す必要はありません
その外観を信じて取引した境田さんに責任はない。
嘘をついた側がリスクを負うのが民法の考え方なんや
境田さんは何も悪くないんだから!
ほんで、ここで一つ大事なポイントがある。
善意であれば足りて、無過失までは要求されない
前回の心裡留保では「善意有過失なら無効」って話でしたよね?
心裡留保では相手方が善意でも、過失があれば(=注意すれば嘘だとわかったはずなら)無効になった。
でも虚偽表示の94条2項では、第三者が善意でありさえすれば保護される。
多少の不注意があっても関係ない
自分で作り出した嘘を信じた人に対して「もっと注意しろよ」とは言えんやろ。
だから善意だけで保護されるんや
騙した側のほうが悪いんだから、境田くんに過失があっても関係ないということかい
該当する例: 境田さんが仮装売買の事情を知らずに土地を購入(善意)→ 仮登さんは境田さんに無効を対抗できない。境田さんは土地を返す必要なし
該当しない例: 境田さんが「この売買は仮装だ」と知りながら土地を購入(悪意)→ 仮登さんは境田さんに無効を対抗できる。境田さんは土地を返さなければならない
推理③ 誰が「第三者」にあたる?転得者はどうなる?|民法94条2項の第三者の範囲
ちゃんと範囲が決まっとる
境田さんは陸くんから土地を買った。
つまり、虚偽表示で作り出された外観を信じて、新たに法律上の利害関係(所有権)を取得した人や。
これは第三者に該当する
登記田が他の具体例も示した。
第三者に該当する例:
- 虚偽の名義人(陸くん)から土地を購入した人(境田さんのケース)
- 虚偽の名義人から抵当権の設定を受けた人(「この土地を担保にお金を貸した」というケース)
第三者に該当しない例:
- 単なる一般債権者(まだ差押えをしていない段階の仮登さんの債権者など)
- 不法占拠者(勝手にその土地に住み着いた人)
ただお金を貸しているだけ(一般債権者)では足りない。
土地を買ったり、抵当権を設定してもらったりして、具体的な権利を取得した人が第三者にあたる
転得者の問題がある
境田さんがその土地をさらに別の人――仮に沿道 裕太(えんどう ゆうた)さんとしましょか――に売ったとする。
この沿道さんが転得者や。
第三者からさらに取得した人のことやな
境田さんが善意の第三者として確定的に権利を取得した時点で、その土地の権利関係は確定するんです。
境田さんが有効に取得した土地を沿道さんに売った場合、沿道さんが悪意であっても沿道さんは保護される
なぜかいうとな、境田さんが善意の時点で、境田さんは有効に所有権を取得しとる。
その境田さんから買った沿道さんは、正当な所有者から買ったわけやから、沿道さん自身が悪意でも問題ありませんのや
もし境田さんが悪意(仮装売買だと知っていた)で、沿道さんが善意やった場合。
この場合も判例では善意の転得者である沿道さんは保護されるとされとる。
途中に悪意の人が挟まっていても、最終的に善意で取得した人は守られるんや
該当する例: 境田さん(善意)→ 沿道さん(悪意)に転売 → 沿道さんは保護される(善意の境田さんの段階で権利が確定しているため)
該当しない例: 境田さん(悪意)→ 沿道さん(悪意)に転売 → 沿道さんは保護されない(どの段階にも善意の者がいないため)
事件の結論|境田さんは土地を返さなくていい
登記田がホワイトボードに整理した。
ポイント①:仮登さんと陸くんの間の売買は無効 仮登さんと陸くんが示し合わせて行った仮装売買は、通謀虚偽表示として当事者間では無効(民法94条1項)。
ポイント②:しかし境田さんには無効を主張できない 境田さんは仮装売買の事情を知らずに土地を購入した善意の第三者。虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できない(民法94条2項)。したがって、境田さんは土地を返す必要がない。
ポイント③:善意であれば無過失は不要 境田さんに多少の不注意があったとしても、善意でありさえすれば保護される。
仮登さんの抗議には法的な根拠がない。
自分でウソの取引を作り出した仮登さんの側にリスクがあるんです
画地が大きく息をついた。
境田くんに伝えたら安心するよ
もし万が一、境田さんが仮装売買の事情を知っていた(悪意だった)場合は話が変わります。その場合は仮登さんの主張が通る可能性がある。
境田さんが本当に何も知らなかったかどうか、事実関係はしっかり確認しておいてくださいね
まず安心させて、それから必要があれば専門家にも相談するよ
画地が立ち上がった。
ありがとう
お茶美味しかったよ
境田さんによろしくお伝えくださいね!
また何かあったら来るねえ
画地が事務所を出て行った後、登記田はコーヒーを飲みながら言った。
前回の心裡留保は「一人のウソ」。
意思表示の問題にもいろいろなパターンがあるんやで
他にもあるんですか?
騙されたり脅されたりして意思表示をさせられるケースもある。
世の中、意思表示のトラブルは尽きんもんやで
試験のひっかけメモ
ひっかけ①「虚偽表示は当事者間でも有効である」 → 誤り。虚偽表示は当事者間では無効(民法94条1項)。二人でグルになった嘘は保護されない。心裡留保(原則有効)との混同に注意。
ひっかけ②「虚偽表示の無効を善意の第三者に対抗するには、第三者に過失があればよい」 → 誤り。94条2項の第三者保護は善意であれば足り、無過失は不要。第三者に過失があっても保護される。
ひっかけ③「虚偽表示の"第三者"には、虚偽表示の当事者の一般債権者も含まれる」 → 誤り。単なる一般債権者(差押えをしていない段階)は第三者に該当しない。第三者とは新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者。
ひっかけ④「善意の第三者から土地を買った転得者が悪意の場合、転得者は保護されない」 → 誤り。善意の第三者が確定的に権利を取得した時点で権利関係は確定する。その後の転得者が悪意であっても保護される。逆に、第三者が悪意でも転得者が善意であれば、善意の転得者は保護される(判例)。
ひっかけ⑤「虚偽表示と心裡留保は、どちらも当事者間で原則有効である」 → 誤り。心裡留保は原則有効だが、虚偽表示は当事者間で常に無効。「誰がウソを知っていたか」が違うため、効果も異なる。
締め:こむぎちゃんの1行まとめ
こむぎちゃんが腕を組んだ。
今日の教訓は――二人で示し合わせた取引は無効!
だから私もフリマのアカウント凍結は無効!
運営に「民法94条です」って言えば解除してもらえます!
いいか、虚偽表示は二人でグルになった嘘の意思表示で、当事者間では無効!
でも善意の第三者には無効を対抗できない!
善意だけでOKで無過失は不要!
第三者は新たに法律上の利害関係を有するに至った者!
善意の第三者が権利を取得したら、その後の転得者が悪意でも保護される!
フリマのアカウントは自分で運営に謝りなさい!
友達と二人で計画したのは認めます…
今回のまとめ
【虚偽表示(通謀虚偽表示)とは(民法94条)】
- 虚偽表示=相手方と通じてした虚偽の意思表示(二人でグルになったウソ)
- 典型例:差押えを逃れるための仮装売買(名義だけ移す)
- 当事者間では無効(民法94条1項)
【善意の第三者の保護(民法94条2項)】
- 虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない
- 善意であれば足り、無過失は要求されない
- 理由:虚偽表示をした当事者が自ら嘘の外観を作り出した以上、その外観を信じた人を保護すべき
【第三者の範囲】
- 第三者=虚偽表示の当事者・包括承継人以外で、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者
- 該当する例:虚偽の名義人から不動産を購入した人、抵当権の設定を受けた人
- 該当しない例:単なる一般債権者(差押え前)、不法占拠者
【転得者の保護】
- 善意の第三者が確定的に権利を取得した場合、その後の転得者が悪意であっても保護される
- 逆に、第三者が悪意でも、転得者が善意であれば善意の転得者は保護される(判例)
- つまり、どこかの段階で善意の者が入れば、それ以降は悪意の者が出ても権利は守られる
【心裡留保との対比表】
| 心裡留保(93条) | 虚偽表示(94条) | |
|---|---|---|
| 誰のウソ? | 表意者一人のウソ | 二人でグルになったウソ |
| 当事者間の効果 | 原則:有効 | 無効 |
| 無効になる条件 | 相手方が悪意or善意有過失 | 常に無効(当事者間) |
| 善意の第三者保護 | あり(93条2項) | あり(94条2項) |
| 第三者の善意に無過失が必要か | 条文上規定なし | 不要(善意だけでOK) |