事件の概要
「探偵さん、助けてください!」
事務所に飛び込んできたのは、地方で農地を相続したという30代の男性・田中さんだ。
「親から譲り受けた畑を、知人に売ったんです。そうしたら区役所から『宅建業の免許を持っていないのに営業している』と連絡が来て…。でも僕、不動産屋じゃないですよ!畑を売っただけなのに、免許が必要なんですか?」
新人助手のこむぎが目を輝かせた。
「探偵、これは簡単です!畑は『宅地』じゃないから、宅建業じゃないですよね!じゃあ絶対セーフじゃないですか!」
「待て」
私は助手を制した。宅建業法は、初学者が最も誤解しやすい分野だ。一見単純に見えるが、「宅地」「建物」「取引」「業」という4つの要件すべてを満たして初めて「宅建業」になる。そして、免許の例外もある。
「こむぎ、君はいつも一部だけ見て結論を出す。宅建業法で一番危険なのは、そういう"要件の抜け"なんだ」
「田中さん、詳しく事情を聞かせてください。この事件、推理が必要です」
推理①「宅建業とは何か」
私はホワイトボードに大きく書いた。
宅建業 = 「宅地」or「建物」の「取引」を「業」として行うこと
「つまり、この3つの要素を分解して考える必要があります」
- 宅地または建物を対象にしている?
- 取引(売買・交換・賃借の代理・媒介)をしている?
- 業として(反復継続の意思を持って)やっている?
こむぎが首をかしげた。
「じゃあ、全部当てはまらないと宅建業じゃないんですか?」
「そうだ。逆に言えば、1つでも欠けていれば宅建業ではない。だから順番に検証していく」
該当する例:不動産会社が、マンションの売買を継続的に仲介する
該当しない例:個人が自宅を1回だけ売却する(後述の理由による)
推理②「宅地」とは何か
「まず『宅地』の定義です。田中さんが売ったのは農地でしたね」
こむぎが勢いよく手を挙げた。
「だから宅地じゃない!セーフ!田中さん、おめでとうございます!」
「早い」
私はため息をついた。
「こむぎ、君はいつもそうやって一部だけ聞いて結論を出す。宅建業法では、宅地は2種類あります」
宅地の定義(2パターン)
- 現に建物が建っている土地
例:住宅が建っている敷地、店舗の敷地 - 建物を建てる目的で取引される土地
例:農地を宅地として売買、空き地を分譲地として販売
「田中さん、知人はその畑をどうすると言っていましたか?」
「…家を建てるって言ってました」
こむぎが凍りついた。
「つまり、登記上は農地でも、建物を建てる目的で売買した土地は『宅地』扱いになるんです」
「う…嘘…私、完全に勘違いしてました…」
「宅建試験の引っかけは、こういう**"一部だけ見て判断させる"**問題が多い。覚えておけ」
該当する例:農地を宅地として売却する契約
該当しない例:農地を農地として売る、駐車場だけに使う空き地を貸す
推理③「建物」とは何か
「次に『建物』。これは比較的シンプルです」
建物の定義:屋根と壁があり、土地に定着した工作物
「住宅、店舗、マンション、一戸建て…すべて含まれます。ただし建築中の建物も含むのがポイント」
こむぎがメモを取りながら聞く。
「じゃあ、完成前の新築マンションを売るのも宅建業なんですね」
「そうだ。青田売りというやつだ。逆に、建物に該当しないのは…」
該当する例:マンション1室、建築中の注文住宅
該当しない例:立木、石垣、組み立て前のプレハブ
「今回は土地の話だから、建物の要件は関係ありませんね」
推理④「取引」とは何か
「さて、ここが重要です。田中さんは『自分で売った』と言いましたが、正確には?」
「知人に直接売りました。仲介業者は挟んでません」
こむぎがまた反応した。
「つまり仲介じゃないから、宅建業じゃないってことですよね!」
「待て。こむぎ、また早合点だ」
私はホワイトボードに大きく書いた。
取引の3パターン
- 売買・交換 を自分が当事者として行う
- 売買・交換・賃借 の代理をする
- 売買・交換・賃借 の媒介(仲介)をする
「田中さんは自ら売主として売買しました。これは1番の『取引』に該当します」
こむぎが驚いた。
「自分で売るのもダメなんですか!?」
「逆だ。自分で売るのも『取引』に含まれる。ただし…次の『業』の要件が重要になる」
該当する例:業者が自ら売主として複数の土地を販売
該当しない例:自己使用目的で土地を購入する行為
推理⑤「業」とは何か
「最後の砦です。『業』とは何か」
業の定義:不特定多数に対し、反復継続して取引を行う意思があること
「ポイントは2つ。不特定多数と反復継続の意思です」
こむぎが目を見開いた。
「田中さんは1回しか売ってませんよね!?じゃあ絶対セーフじゃないですか!」
「こむぎ…また"絶対"って言ったな」
私は慎重に言葉を選んだ。
「1回でも、反復継続の意思があれば『業』になる。逆に、たまたま1回売っただけなら『業』ではない」
「田中さん、今後も土地を売買する予定はありますか?看板を出したり、広告を打ったりしましたか?」
「いえ、相続した土地を1回売っただけです。もう他に売る土地もありません」
「なら、『業』には該当しません」
こむぎがホッとした表情を浮かべた。
「よかった…でも私、また早合点しかけてました…」
該当する例:転売目的で土地を仕入れ、継続的に販売
該当しない例:相続した自宅を1回だけ知人に売却
推理⑥「免許がなくても営める者」
「念のため、免許の例外も確認しましょう」
こむぎが不思議そうに言った。
「免許なしでも宅建業ができる人がいるんですか?それって困ってる人を助けるためとか…?」
「違う。こむぎ、法律は感情じゃ動かない」
私は冷静に答えた。
「『宅建業』をやるなら必ず免許が必要だ。ただし、特定の行為は宅建業から除外される」
免許不要の代表例
- 国・地方公共団体が行う取引
例:市役所が公有地を売却 - 信託会社・信託銀行が信託業務として行う取引
例:信託財産の不動産を管理・処分
「田中さんは個人ですから、この例外にも該当しません。結論は…」
事件の結論
私はホワイトボードに大きく○を書いた。
「田中さん、免許は不要です」
理由
- 「宅地」を対象にした「取引」ではあるが
- 「業」には該当しない(1回きりの売却、反復継続の意思なし)
「行政の担当者には、今回の経緯を説明すれば大丈夫でしょう。ただし、今後もし複数の土地を転売するようなことがあれば、免許が必要になります」
田中さんは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます!助かりました!」
こむぎが反省の顔で言った。
「宅地かどうかだけで判断しちゃダメなんですね…私、何回も早合点しました…」
「そうだ。4つの要素すべてをチェックする。これが宅建業法の基本だ。こむぎ、君はいつも**"つまり〇〇ってことですよね!"って飛びつくけど、その"つまり"の前に要件を全部確認する**クセをつけろ」
「はい…気をつけます…」
試験のひっかけメモ
- 「農地は宅地じゃない」は×
→ 建物を建てる目的で取引すれば「宅地」扱い - 「自分で売るだけなら宅建業じゃない」は×
→ 自ら売主でも、反復継続すれば「業」に該当 - 「1回だけなら絶対セーフ」も×
→ 1回でも反復継続の意思があれば「業」になる
こむぎの1行メモ
「タ・ク・ト・ギョウ、全部そろって免許証!」
→ 宅地 × 建物 / 取引 / 業 のすべてが揃って初めて宅建業
こむぎの反省メモ:
「"つまり"って言う前に、要件ぜんぶチェック!早合点は試験の敵!」
今回のまとめ
- 宅建業 = 「宅地または建物」の「取引」を「業として」行うこと
- 宅地:建物の敷地 or 建物を建てる目的の土地
- 取引:売買・交換(自ら)、代理、媒介(仲介)
- 業:不特定多数 × 反復継続の意思
- 4要素すべて満たさなければ免許不要
- 国・地方公共団体などは例外として免許不要
次回は「免許制度」の闇に迫ります。無免許営業の罰則、意外と重いんです…。